休職や後遺症など、もしもの時に使う公的支援制度~治療と仕事を両立させるために知っておきたい公的支援制度2~
こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
今回は「休職や後遺症など、もしもの時に使う公的支援制度」についてご紹介します。
病気やケガによって休職を余儀なくされたり、後遺症によりこれまでの仕事をこなせなくなったりするなど、もしもの時に私たちを支えてくれる公的支援制度は、自分で申請しなければいけないことはあまり知られていません。
ファイナンシャルプランナーで、乳がんの経験者である、黒田尚子さんに公的支援制度について解説していただくシリーズの2回目は、休職や後遺症など、もしもの時に使う公的支援制度についてです。治療と仕事を両立する従業員の方々へ、ぜひ情報をご提供ください。
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≪目次≫
◆病気やケガで働けない時に受け取れる「傷病手当金」
◆内臓の病気でも申請できる場合がある「障害者手帳」
◆病気やケガによる障害で仕事などが制限された場合に請求できる「障害年金」
◆生活に困った時に資金を借りられる「生活福祉資金貸付制度」
◆働きたい意思があるにもかかわらず働けない時に生活を支えてくれる「雇用保険の基本手当」
シリーズ1:医療費負担を軽減できる公的支援制度
(以下、黒田尚子さん執筆)
病気やケガで働けない時に受け取れる「傷病手当金」
「傷病手当金」とは、健康保険などに加入している被保険者本人が受給できる所得補償の公的制度です。
入院せずに在宅療養であっても、病気やケガが原因で働けない状態であれば給付が受け取れます。ただし、国民健康保険に加入する自営業・自由業にはこの制度はありません。
傷病手当金の受給要件は次の通りです。
①(業務上や通勤途中以外での)病気やケガにより療養中であること
②働けない状態(労務不能)であること
③4日以上会社などを休んでいること(連続して3日間 休み、その後も休んでいる)
④休業中の給与(報酬)の支払いがないこと、あるいは傷病手当金の金額より給与などが少額であること(給与などが減額支給されている場合、傷病手当金はその差額分のみ支給)
受給額は、1日につき標準報酬日額のおおむね2/3です。ただし、療養中ずっともらえるわけではなく、受給期間は、1つの傷病につき最長1年6ヵ月までです。
なお、健康保険組合の中には、金額の上乗せや受給期間の延長などの付加給付が受けられる場合もあります。
また、傷病手当金の受給中に退職した場合、一定の要件を満たしていれば引き続き受給できる場合があります(「資格喪失後の継続給付」)。
申請の手続き先は、加入先の健康保険組合などの担当窓口です。
内臓の病気でも申請できる場合がある「障害者手帳」
「障害者手帳」と聞くと、重度の手足の障害や目が見えない、耳が聞こえないなどの障害を思い浮かべる方も少なくないでしょう。しかし、心臓やじん臓など内臓の病気でも、障害者手帳が交付される場合があります。
障害者手帳は、都道府県知事、指定都市市長または中核市市長が、身体上の障害があり、要件を満たした場合に公布され、様々な支援を受けることができます。
障害者手帳には、「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「療育手帳」の3つがあり、それぞれ根拠となる法律や目的が定められています。こちらでは、「身体障害者手帳」と「精神障害者保健福祉手帳」についてお伝えします。
【身体障害者手帳】
身体障害者手帳の交付は、「身体障害者福祉法」に基づき、身体障害者福祉法別表に掲げられている身体上の障害がある人が対象です。1級~6級までの等級があり、7級の障害は、2つ以上重複すると対象になるなど組み合わせで認められる場合もあります。
対象となる障害は、視覚・聴覚・平衡機能・音声機能・言語機能・そしゃく(食べ物をかみ砕くこと)機能の障害、肢体(手や腕、足、体幹)不自由、心臓・じん臓・呼吸器・ぼうこう・直腸・小腸・免疫(ヒト免疫不全ウイルスによる)・肝臓の機能障害など。
【精神障害者保健福祉手帳】
精神障害者保健福祉手帳は、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に基づき、社会生活・日常生活を送る際に制約がある人の支援や自立の目的で交付されます。1級~3級まであり、2年おきに更新する必要があります(更新時は診断書の提出が必要)。
対象となる障害は、精神疾患(統合失調症、うつ病・そううつ病などの気分障害)、てんかん、薬物やアルコールによる急性中毒又はその依存症、高次脳機能障害、発達障害、その他の精神疾患(ストレス関連障害など)などです。
これらの障害状態に該当すると認められた場合、申請から1~2ヵ月程度でそれぞれの手帳が交付されます。お住まいの地域や障害の程度に応じて違いはありますが、障害福祉サービスを受けられるほか、公共料金や交通機関の運賃、公共施設の利用料金が割引されたり、各種税金が減免されたりといった支援が受けられます(図表1-①②参照)。
手続き先は、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口です。
病気やケガによる障害で仕事などが制限された場合に請求できる「障害年金」
「障害年金」は、厚生年金、国民年金などの公的年金加入中の病気やケガによって、生活や仕事などが制限されるようになった場合に請求できる公的年金制度の一つです。
障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があります。病気などで初めて医師の診療を受けたとき(初診日)に国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」が請求できます。
また、障害厚生年金に該当する状態よりも軽い障害が残ったときは、障害手当金(一時金)を受け取ることも可能です。
障害年金を受給するためには、次の3つの要件を満たす必要があります。
①初診日要件…障害の原因となった傷病の初診日が、国民年金または厚生年金の被保険者期間中であること(20歳前または日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満の方で年金制度に加入していない期間に初診日がある場合を除く)。
②保険料納付要件…初診日の前日において初診日のある月の前々月までについて、次のいずれかを満たしていること。
・加入期間のうち、2/3以上の期間において保険料が納付または免除されていること
・初診日において65歳未満であり、直近1年間に保険料の未納がないこと
③障害状態該当要件…障害認定日(初診日から1年6ヵ月を経過した日または1年6ヵ月以内に治癒した日など)に障害等級表の1~3級(国民年金は1級または2級)に該当していること。
障害基礎年金は定額で、2級を基準として1級は2級の1.25倍です。2級の額は、老齢基礎年金の満額と同額で、一定の要件を満たす子どもがいれば1級・2級それぞれ加算がつきます。
障害厚生年金は、厚生年金の加入期間や給与の額(負担していた保険料の額)などで年金額が異なります。
手続き先は、自治体の保険年金課あるいは年金事務所、年金相談センターなどです。
生活に困った時に資金を借りられる「生活福祉資金貸付制度」
「生活福祉資金貸付制度」は、生活再建に必要な資金(治療費や療養中の生活資金)などを無利子もしくは低金利で借りられる貸付制度です。
対象となるのは以下の通りです。
・低所得世帯…必要な資金を他から借り受けることが困難な世帯(市町村民税非課税程度)
・障害者世帯…身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者(現に障害者総合支援法によるサービスを利用しているなど、これと同程度と認められる者を含む)の属する世帯
・高齢者世帯…65歳以上の高齢者の属する世帯(日常生活上療養または介護を要する高齢者など)
貸付資金は、総合支援資金、福祉資金、教育支援資金、不動産担保型生活資金の4種類です。それぞれの世帯の状況と必要に合わせて資金の貸付が行われます(図表2-①~④参照)。
なお生活福祉資金貸付制度では、新型コロナウイルス感染症の影響で生活困窮者が増加したことを受け、特例貸付を実施されています。主に休業された方向けの「緊急小口資金」と主に失業された方など向けの「総合支援資金」が実施され、従来よりも手厚くなっています。
手続き先は、市区町村を管轄する社会福祉協議会です。
出典:厚生労働省HP「生活福祉資金貸付条件等一覧(※新型コロナウイルス感染症の特例貸付の内容ではありません)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatsu-fukushi-shikin1/kashitsukejoken.html
働きたい意思があるにもかかわらず働けない時に生活を支えてくれる「雇用保険の基本手当」
「基本手当」とは、いわゆる失業手当のことを言います。雇用保険の被保険者が離職した場合、失業中の生活を支援して再就職を促すための手当が支給される公的制度です。
65歳未満の雇用保険の被保険者のうち、次の受給要件を満たせば受給できます。
①失業していること
②離職日以前の2年間に、賃金の支払いの基礎となった日が11日以上または、賃金の支払の基礎となった時間数が80時間以上ある月(被保険者期間)が通算して12ヵ月以上あること。ただし、解雇や倒産など会社都合により離職した「特定受給資格者」や、正当な理由がある離職と認められた「特定理由離職者」の場合は、離職日以前1年間に被保険者期間が通算して6ヵ月以上あること。
基本手当を受給するためには、受給者の住所あるいは居所を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)で、離職票を提出し、求職の申し込みなど所定の手続きをしなければなりません。
ただし、手続き後すぐに受給が開始されるわけではなく、受給資格決定日(離職票の提出と求職の申し込みを行った日)から7日間は「待期期間」として、離職理由を問わず、すべての人が基本手当を受給できない仕組みです。
これに加えて、正当な理由がない自己都合により退職した場合は、給付制限期間が設けられていますが、2020年10月1日以降に離職された方は、5年間のうち2回までは給付制限期間が2ヵ月(従来は3ヵ月)に緩和されています。
受給額は、原則として離職前6ヵ月に支払われた給与総額(賞与などは除く)を180で除した額の45%~80%(離職日の年齢に応じた上限あり)です。
受給日数は、離職理由や被保険者期間、年齢などに応じて、次の通りになっています。
・一般の離職者90日~150日
・就職困難者(障害者など)150日~360日
・特定受給資格者・特定理由離職者90日~330日
基本手当の受給期間は、原則として離職日の翌日から1年です。
ただし、病気などの治療で継続して30日以上働くことができなかった場合は、受給期間の延長ができます。申請は、働けなくなった日の翌日以降、延長後の受給最終日までできます(延長できる期間は、最長で退職日の翌日から4年以内まで)。
病気やケガで治療が必要になると、治療費だけではなく、生活するための費用も必要です。病気やケガの程度や後遺症などにより、心身ともに大変な状況の中、自分や家族がこれらの制度を利用するための手続きをしなければいけません。
今回解説した制度は、名称から重篤な障害の方が受ける支援だと思われがちなものもあります。実際に利用することはないかもしれませんが、今一度その要件などを確認しておくことで、もしもの時に役立つ情報になると思います。
シリーズ1:医療費負担を軽減できる公的支援制度
<事務局より>以下より、従業員の休職・復職対応に必要な対策について解説している資料をダウンロードいただけます。ぜひご活用ください。
執筆者
黒田 尚子
CFP (R)1級ファイナンシャルプランニング技能士
CNJ認定乳がん体験者コーディネーター
消費生活専門相談員資格
1969年富山県出身。千葉県在住。
立命館大学法学部修了後、1992年(株)日本総合研究所に入社。在職中に、自己啓発の目的でFP資格を取得後に同社退社。1998年、独立系FPとして転身を図る。2009年12月の乳がん告知を受け、2011年3月に乳がん体験者コーディネーター資格を取得するなど、自らの実体験をもとに、がんをはじめとした病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行う。
著書に「がんとお金の本」「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実」(セールス手帖社)など。
聖路加国際病院のがん経験者向け「おさいふリング」のファシリテーター、NPO法人キャンサーネットジャパン・アドバイザリーボード(外部評価委員会)メンバーなどを務める。
黒田尚子FPオフィス
http://www.naoko-kuroda.com/
※当記事は2021年3月時点で作成されたものです。(2022年4月更新 ※記事内の一部文言修正しました。)
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