健康・予防・両立支援
仕事と治療の両立 2026/03/04

【両立支援に影響】2026年8月~ 高額療養費制度の見直しについて概要・経緯を解説

【両立支援に影響】2026年8月~ 高額療養費制度の見直しについて概要・経緯を解説

こんにちは。企業の健康経営(R)を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

高額療養費制度は、保険適用の医療費の自己負担額に上限を設ける制度です。2025年12月、政府は厚生労働省の高額療養費制度の見直し案に基づく予算措置を新年度予算案に計上することを閣議決定しました。この見直し案は、前政権で策定された見直し案の内容が患者団体などの反対によって予算に計上されず、厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会に新たに設置された「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(以下「専門委員会」)が取りまとめたものです。新年度予算が成立すれば、2026年夏以降に段階的に見直し案の内容に沿った高額療養費制度の施行が始まる予定です。

以下、厚生労働省の資料を基に今回の見直し案を紹介します。特に現役世代の方でこの制度を利用することになった場合、今回の制度見直しは従業員の「治療と仕事の両立」に影響を及ぼす可能性があります。人事・労務のご担当者様は今一度、現行制度と見直し案のポイントを本記事でご確認ください。

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≪目次≫
Ⅰ 高額療養費制度の概要
 1.現行制度
 2.多数回該当の仕組み
 3.外来特例

Ⅱ 高額療養費制度見直し案の概要
 1.やり直しの見直し案
 2.見直し案の概要
 3.見直しのポイント
  【1】長期療養者への配慮
  【2】低所得者への配慮
 4.高額療養費制度の見直しによる患者負担の変化

Ⅲ まとめ

Ⅰ 高額療養費制度の概要

1.現行制度

高額療養費制度は、医療費がかさんでも所得に応じた上限額が適用され、予期せぬ高額医療費による家計破綻を防ぎ、必要な医療へのアクセスを確保するための経済的セーフティネットとして機能しています。医療機関の窓口において医療費の自己負担分を支払った後、月ごとの自己負担限度額を超える部分について、事後的に保険者から償還払いされる制度として1973年に創設されました。その後、医療機関の窓口で「限度額適用認定証」を提示すれば、支払いを自己負担限度額までにとどめられる仕組み(現物給付化)などさまざまな改正が加えられ、現在では自己負担限度額が被保険者の所得に応じて設定される図表1のような制度となっています。

図表1 患者負担割合及び高額療養費自己負担限度額(現行)

図表1 患者負担割合及び高額療養費自己負担限度額(現行)

※1 義務教育就学前の者については2割。
※2 収入の合計額が520万円未満(1人世帯の場合は383万円未満)の場合も含む。
※3 旧ただし書所得の合計額が210万円以下の場合も含む。
※4 課税所得が28万円以上かつ年金収入+その他の合計所得金額が200万円以上(複数世帯の場合は 320万円以上)の者については2割。
※5 1年間のうち一般区分又は住民税非課税区分であった月の外来の自己負担額の合計額について、14.4万円の上限を設ける。
【出典】厚生労働省保険局 令和7年12月25日「第209回社会保障審議会医療保険部会 第9回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」参考資料2 高額療養費制度について(参考資料)P4
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621877.pdf

図表2は、図表1の「70歳未満・年収約370万円~約770万円の場合(3割負担)」のケースの医療費・高額療養費・自己負担限度額を図式化したものです。
なお、図表1中の「標報」は標準報酬月額の略称で、健康保険(協会けんぽ・組合健保)で使われる保険料や高額療養費の所得区分を決めるための基準となる、報酬月額を一定の幅ごとに区切った等級です。「旧ただし書き所得」は、国民健康保険(国保)で高額療養費の所得区分を判定するために使われてきた“旧方式の所得”を指す専門用語で、総所得金額等-基礎控除(33万円)で計算される所得のことです。基礎控除は現在43万円に引き上げられていますが、高額療養費制度では当面の措置として旧方式が維持されています。

図表2 70歳未満・年収約370万円~約770万円の場合(3割負担)

図表2 70歳未満・年収約370万円~約770万円の場合(3割負担)

【出典】厚生労働省保険局 令和7年12月25日「第209回社会保障審議会医療保険部会 第9回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」参考資料2 高額療養費制度について(参考資料)P3
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621877.pdf

2.多数回該当の仕組み

高額療養費制度では、同一世帯で直近12か月間に高額療養費が支給された月が3か月以上になった場合、4か月目から自己負担限度額が軽減されて定額となる多数該当の仕組みがあります。これは、保険証の単位(国保=世帯、健保=被保険者+被扶養者)と医療費負担の実態(家計単位)に合わせて、世帯全体の負担累積を軽減するために設計されたものです。

図表3 高額療養費の多数該当の仕組み

図表3 高額療養費の多数該当の仕組み

【出典】厚生労働省保険局 令和7年12月25日「第209回社会保障審議会医療保険部会 第9回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」参考資料2 高額療養費制度について(参考資料)P5
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621877.pdf

3.外来特例

70歳以上については、外来(通院)の自己負担額に「個人ごとの月額上限」を設ける特別ルールがあります。1983年の老人保健制度の創設により、それまでの70歳以上の医療費原則無料が1割負担に改正された際、外来受診の多い高齢者の負担増を考慮して設けられた特例です。現行制度では、図表1の赤枠で囲んだ部分が、外来特例を示しています。
高額療養費制度は、世帯ごとで上限額が算定されるのが原則です。70歳未満では外来・入院を合算した「世帯単位」で限度額が算定されます。それに対して、外来特例の対象となる70歳以上の高齢者(年収370万円未満)は、外来で個人ごとの上限額(例えば18,000円)があり、さらに世帯全体の上限額(例えば57,600円)も適用されます。

Ⅱ 高額療養費制度見直し案の概要

1.やり直しの見直し案

2026年度予算案に組み込まれる高額療養費制度見直し案は、2025年度予算案の国会審議途中に見送られた石破政権下の見直し案に代わるものとして、高市政権下で再提出されたものです。
以下、この経緯を概観しながら、見直し案のポイントをおさえていきます。

石破政権下で高額療養費制度の見直しが行われた理由は、高齢化の進展や医療の高度化等により増大する医療費への対応として医療保険制度全体の改革が進められる中の一項目として位置づけられていたからです。
石破政権下の見直し案は、所得ごとの負担限度額を全体的に引き上げる内容でした。しかし、この見直し案に対して患者団体などから批判が噴出し、予算案の国会審議中の2025年3月時点で、「今年8月からの負担限度額の引き上げを行うとした当初の政府方針」が見送られるという異例の事態に至ったのでした。
その後、2025年5月に保険者や労使団体、学識経験者に加え、患者団体などの参画を得た専門委員会が設置され、計8回にわたる多様な議論の結果、12月に見直し案が取りまとめられました。この見直し案は厚生労働省内の調整を経て、2026年度政府予算案に社会保障関係費の予算措置として組み込まれ、その政府予算案が閣議決定されました。2026年2月現在は国会審議を経て予算成立するのを待っている段階です。

2.見直し案の概要

専門委員会の議論は2025年5月から12月にかけて行われ、患者団体等が専門委員会に参画したことにより、限度額引き上げの方向性は弱まったといえます。図表4は、取りまとめられた見直し案の全体像です。

図表4 高額療養費制度の見直しについて

図表4 高額療養費制度の見直しについて

※1 「~約200万円(標報:~15万円)」区分に該当することが確認できた者は、年間上限41万円を適用し、令和9年8月以降に償還払い。
※2 外来特例の対象年齢については、「「強い経済」を実現する総合経済対策」(令和7年11月21日閣議決定)において、「医療費窓口負担に関する年齢によらない真に公平な応能負担の実現」について、「令和7年度中に具体的な骨子について合意し、令和8年度中に具体的な制度設計を行い、順次実施する」とされていることも踏まえ、高齢者の窓口負担の見直しと併せて具体案を検討し、一定の結論を得る。
【出典】厚生労働省保険局 令和7年12月25日「第209回社会保障審議会医療保険部会 第9回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」資料1-2 高額療養費制度の見直しについて P11
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621874.pdf

3.見直しのポイント

高額療養費制度の見直しのポイントは、制度のセーフティネット機能に鑑み、長期療養者や低所得者の経済的負担の在り方に配慮した見直しを行ったことです。

【1】長期療養者への配慮
  (1)多数回該当の金額を据え置き…長期に継続して治療を受けられている方の経済的負担を増加させない。
  (2)「年間上限」の導入…多数回該当に該当しない長期療養者の経済的負担にも配慮する観点から、新たに「年間上限」を導入。これにより、月単位の「限度額」に到達しない方であっても、「年間上限」に達した場合には、当該年においてそれ以上の負担は不要となる。

【2】低所得者への配慮
  (1)住民税非課税ラインを若干上回る年収層である「年収200万円未満」の方の多数回該当の金額を引き下げる。
  (2)外来特例の限度額引き上げの際、「住民税非課税区分」に外来年間上限を導入し、年間の最大自己負担額(12ヶ月限度額を負担される方の負担額)を現在よりも増加させない。

4.高額療養費制度の見直しによる患者負担の変化

医療保険制度全体の改革は必須であり、今回の見直し案では、引き上げられた部分、据え置き、負担減になった部分が混在しつつ、全体としては石破政権下で見送りになった見直し案よりは患者団体の意見が反映されているといえます。専門委員会は、図表5のように具体的に患者負担がどのように変化するかをいくつかのパターンでシミュレートしています。

図表5 高額療養費制度の見直しによる患者負担の変化

図表5 高額療養費制度の見直しによる患者負担の変化

【出典】厚生労働省保険局 令和7年12月25日「第209回社会保障審議会医療保険部会 第9回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」資料1-2 高額療養費制度の見直しについて P21
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621874.pdf

Ⅲ まとめ

今回の高額療養費制度の見直しは、患者団体の意見に配慮しながら、一昨年の見送りになった見直し案より、引き上げ幅が抑えられています。所得区分を細かに設定し直し、年間上限を新設し、施行時期を二段階にすることにより、変化の実態を見ながら、引き上げによる負担を軽減することを指向しています。予算が成立すれば、おおむね見直し案の内容に沿った高額療養費制度が施行されていくと見られます。


原稿 社会保険研究所Copyright


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<出典・参考文献>
・厚生労働省保険局 令和7年12月25日「第209回社会保障審議会医療保険部会 第9回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」参考資料2 高額療養費制度について(参考資料)
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621877.pdf


・厚生労働省保険局 令和7年12月25日「第209回社会保障審議会医療保険部会 第9回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」資料1-2 高額療養費制度の見直しについて
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001621874.pdf
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※当記事は2026年2月時点で作成したものです。
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

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