がん宣告を退職の引き金にしてはいけない~がん経験者が語る「がん治療と仕事の両立」Vol.2~
こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
今回は「がん経験者が語る、がん宣告から治療に臨むまでの日々」についてご紹介します。
がん宣告を受け、退職を選択する従業員も少なくありません。がん宣告を受けた従業員は、その現状について会社の理解を得たいと思っていても、会社への報告をとまどい、ためらってしまうと言われています。そして会社もまた、従業員の病気について情報を得たくても、その術が従業員の意思に委ねられています。
ティーペック社員の花木は、当時38歳で「のどに、5段階中4段階目のレベル感で、悪性と疑われる腫瘍が見つかりました。」と医師に告げられ、混乱しながらも上司へ報告しました。第2話では、がん宣告後の溢れる不安と恐怖、そして治療へ臨む準備についてお伝えします。(以下、本人による執筆記事です。)
宣告翌日 ~不安定な1週目。
2017年11月、宣告翌日。仕事を半休で切り上げ、午後に妻に病院で聞いたことをすべて話した。
帰宅後、二人で向き合うと、子どもたちのいないダイニングテーブルにこれまで感じたことのない緊張感が走る。きっと妻は知りたい気持ちと知りたくない気持ちとで心が乱れているだろうと思い、自分としては冷静に話したものの、やはり妻は動揺を隠せない。特に、「がん」という言葉に、溢れるものを抑えきれなくなっていた。
それはそうだろう。私にしても、会社に両立支援の制度や情報などがなかったら、こうは冷静でいられない。とにかく会社や周囲の支援を受けながら、自分たちでも頑張って色々調べて、最も回復の可能性を高めるのに最適な選択ができるよう準備を進めよう。一緒に頑張っていこう。
不安でいっぱいの中、二人でそんな話をした。
並行して、親や業務上どうしても連絡しなければならない人たちに優先的に連絡を取る。努めて冷静に。相手にできるだけ心配をかけずに。こんなときでも相手の心配をしてしまう自分が、少し嬉しくも感じた。
宣告~2週目 ~遠隔転移の恐怖~
11月27日(月)、上司に自分の意思を伝えた。
治療に専念すべく、今の仕事を少し早めに整理すること。気持ちをリセットすべく、これまでやってきた業務を、ひとつ残らずメンバーに託すこと。
最終的な結論は上司に委ねたものの、自分の意思は伝えきったつもりだ。
これで、自分としては思い残すことなく、仕事から手を引ける。
そして、とにかく明日が、進行状態を調べるための精密検査だ。怖いし、不安だが、まずはスタートラインに立つしかない。怖いけど。
宣告~3週目 ~確定診断を乗り越えて
12月5日(火)、いよいよ確定診断の日。遠隔転移はあるのか。まさかの余命宣告をされてしまうのか。
俳優の村野武範さんは、2年前、私と同じ咽頭がんで、しかも診断時は余命幾ばくかと言われたという。
結果的には、先進医療の「陽子線治療(放射線治療のひとつ)」という方法を用いて、奇跡の復活をされ、今も元気でいらっしゃるそうだが、自分も最悪その診断結果を突きつけられるかもしれないのだ。
最悪の事態は想定しつつも、そうならないよう祈るばかり。
前日は、用意していた睡眠剤を初めて飲んだ。眠りは問題ない。
今は、14時16分。あと1時間ちょっと。すでに体にあるものが何か、その事実を知らされるだけ。気づくのが遅ければもっと大変になるのだから、悪いことは何もないはずなのに、「知りたくない」という相反する想いも拭えない。
こんなことが、あと何年も続くのかと思うと、今から辟易する。でも、仕方がない。事実から目をそらさず、前を向くしかない。
遠隔転移、どうかありませんように……。
◆
1時間後…。
命拾いした。遠隔転移はなかった…。ステージ3は叶わなかったが、頸部転移2個でなんとか食い止めることができた。
[PET/CTの画像]咽頭に1個、頸部リンパ節に2個黒い影が見える。
診察のときは、PCの画面を見られないくらいビクビクしていた。先生の歯切れの悪さが、最悪のケースを予想させた。
遠隔転移、ステージ4(の悪い方)、末期、余命宣告という最悪の展開を想像していたので、それを考えれば、まだ余裕のある内容だ。(診察室を出て、付き添ってくれた妻にそのことを伝えたら、こらえていたものが溢れてしまい、申し訳ないことをした…)
これなら、抗がん剤と放射線の治療の組み合わせで恐らく治せるのではないかとのこと(もちろん病院の先生なので、「絶対」とは言ってくれない。言ってほしいけど)。
実家の母にも即連絡を入れた。事前に一度電話で、「どうやらがんになってしまったらしい」ということは伝えていた。
距離的に遠いので、詳細は電話かメールで報告することにしていたが、やはり母の一番の気がかりも遠隔転移だった。
ステージ4という響きにはやはり落ち込んでいたものの、最悪のストーリーを回避できたことで、ひと安心。
帰り際、妻と喫茶店に入り、スイーツで乾杯。
また、この日は奇しくも付き合い始めた記念日ということで、クリスマスも近いことから、急遽その足でプレゼントを買いに行った。
迷惑かけてるし、これからもそうなるし、ということで、少しでも妻が元気になればと。
店から流れてくるクリスマスソングと、子どものいない二人での空間。
今日から「ステージ4のがん患者」になってしまったが、少しばかり人並みの幸せを感じることができた一日だった。
休職準備
12月6日(水)、会社で、上司や経営陣に対して確定診断の報告と、メンバーに対して引き継ぎの本格実施、セカンドオピニオン担当の方への手配依頼(自社サービスを福利厚生で使える)と、人事担当の方との休職申請の打ち合わせ、その上、通常の業務と慌ただしい一日だった。
それでも、転移の不安が和らいだ分、気持ち的にはかなり楽だったし、久しぶりにちょっと残業もした。
明日はいよいよ休職前最終日だ。最後までやりきるのが自分のスタイルだとするなら、明日も一日最後まで頑張ろうと思う。
体は大事だけど、それと同じくらい、これまでやってきたことも大事。
いよいよ明日から休職へ
12月7日(木)、仕事に一区切りをつけ、翌日から休職(厳密には、翌日はがん治療休暇)に入る。
幸い、医療関連の職場ということもあり、情報は豊富かつ、治療と就労の両立支援サポートも充実していて、大勢の人から「早期復帰を!」と声をかけてもらった。
こうした安心感のある環境に、どれほど助けられたことか。
とあるデータによると、就労期間中にがんになる人は、今や3人に1人いるというのに、その中で「がん宣告=退職」という判断をしてしまう人が、なんと3割以上もいるそうだ。でも、職場に支援体制があり、本人ができるだけ冷静に判断すれば、そういった損失は未然に防げる。自分がそういうモデルになれればとも思う。
最後には、全社向けに病名を公表し、一旦は休職に入る。
事前に個別に伝えていなかった人は、もしかしたら少なからずショックを受けたかもしれないが、数百人の社員一人一人に個別に連絡するだけの時間が私には残されていなかった。
でも、悪いことをしているわけではないし、オープンにして、堂々と治療に入りたかった。
それにしても、待っててくれる人がいる職場があるというのは本当に有り難い。それがモチベーションとなり、治療に取り組むことができる。逆に、先行きが不透明だったらどうだろう。自暴自棄になってしまっていたかもしれない。
自分は恵まれていたんだな。病気になってみて改めて感じたことだ。
【がん経験者が語る~がん治療と仕事の両立~】
・Vol.1 がんとの出会いと会社への告白
https://t-pec.jp/work-work/article/143
・Vol.3 制度だけじゃない、待っててくれる人がいる職場
https://t-pec.jp/work-work/article/145
・Vol.4 社内制度活用で安心して治療を受ける
https://t-pec.jp/work-work/article/146
・Vol.5 8ヶ月にわたる治療と療養
https://t-pec.jp/work-work/article/147
・Vol.6 がん治療の最終収支報告
https://t-pec.jp/work-work/article/148
・Vol.7 がん再発の不安を和らげてくれる職場環境
https://t-pec.jp/work-work/article/149
花木 裕介
ティーペック株式会社 サービス企画室 マネージャー。産業カウンセラー。
2017年12月、中咽頭がん告知を受け、標準治療(抗がん剤、放射線)を開始。翌8月に病巣が画像上消滅し、9月より復職。がん判明後より、ブログ『38歳2児の父、まさかの中咽頭がんステージ4体験記! 〜がんチャレンジャーとしての日々〜』を開始し、現在も執筆中。
著書に、『心折れそうな自分を応援する方法 〜現役子育てパパでも夢を諦めない』(セルバ出版)、『青臭さのすすめ ~未来の息子たちへの贈り物~』(はるかぜ書房)など。
国家プロジェクトである「がん対策推進企業アクション」(厚生労働省の委託事業)の認定講師としても活動中。
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提供元:
T-PEC Channel
【ティーペックサービスを使い倒して生還した、ある30代がん罹患社員の記録2】まさかのがん宣告とティーペックという環境(2)
https://t-pec.jp/ch/article/293
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※当記事は2019年6月時点のT-PEC Channel(https://t-pec.jp/ch/article/293)で作成されたものを元に、データやイラストのみ一部修正したものです。(2022年4月更新 ※記事内の一部文言修正しました。)
※法制度については作成当時のものを参考に作成しており、最新の制度は変更となっている可能性があります。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事が全てのケースにおいて当てはまるわけではありません。