職場におけるメンタルヘルス対策とは?~「令和5年度過労死等の労災補償状況」と「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」の結果から考える~
こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
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厚生労働省は、令和6年6月28日に「令和5年度過労死等の労災補償状況」を、同年7月25日に「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」を公開しました。これらの調査結果によると、現在の仕事や職業生活に強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は82.7%(令和4年調査82.2%)と、多くの社員・従業員が強いストレスを感じている実態が明らかとなりました。また、精神障害による労災請求件数は3,575件(前年度より892件の増加)と大幅な増加となり、支給決定件数、請求件数ともに過去最多を更新しています。
本記事では、これらの各種調査結果をもとに、職場におけるメンタルヘルス対策について解説いたします。
<目次>
◆社員・従業員の多くがメンタルヘルスに不調を感じている
◆個人調査では、82.7%がストレスを感じている
◆精神障害の労災認定が過去最多を更新
◆労災申請は「医療、福祉」「製造業」に多い
◆国もメンタルヘルス対策を重要視
◆ストレスチェック実施は企業の義務
◆ストレスチェックの結果の集計・分析で、高ストレス環境の改善を
社員・従業員の多くがメンタルヘルスに不調を感じている
社員・従業員が健やかに生き生きと働くためにも、企業が元気に存続していくためにも、メンタルヘルス対策の重要度は増しています。なぜならば、メンタルヘルスの不調を感じている社員・従業員が増えているからです。
厚生労働省の「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、「事業所調査」では、過去1年間にメンタルヘルス不調により、連続して1か月以上休業した労働者がいた事業所の割合は10.4%(令和4年調査10.6%)、退職した労働者がいた事業所の割合は6.4%(同5.9%)でした。また、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者の割合は0.6%(同0.6%)、退職した労働者の割合は0.2%(同0.2%)となっています。
では、どのくらいの事業所がメンタルヘルス対策に取り組んでいるのでしょうか。
同調査によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は63.8%(同63.4%)でした。事業所規模別に見ると、労働者50人以上の事業所で91.3%(同91.1%)、労働者数30~49人の事業所で71.8%(同73.1%)、労働者数10~29人の事業所で56.6%(同55.7%)となっており、中小規模の事業所の場合、メンタルヘルス対策への対応の遅れが目立ちます。
個人調査では、82.7%がストレスを感じている
同調査の「個人調査」では、現在の仕事や職業生活に強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は82.7%(令和4年調査82.2%)となっています。
その内容は「仕事の失敗、責任の発生等」が39.7%(同35.9%)と最も多く、次いで「仕事の量」が39.4%(同36.3%)、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」が29.6%(同26.2%)です。
精神障害の労災認定が過去最多を更新
このように、社員・従業員の多くが強いストレスを感じているため、仕事のストレスに起因する精神障害の労災請求・認定件数も年々増えています。
厚生労働省の「令和5年度過労死等の労災補償状況」によると、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害が労災認定され、支給決定された件数は883件で、前年度の710件より173件増加しました。精神障害による労災請求件数は3,575件で、前年度より892件の大幅な増加となりました。支給決定件数、請求件数ともに過去最多を更新しています。そのため、職場のメンタルヘルス対策は、社員・従業員のためにも、企業のためにも最重要課題となっています。
労災申請は「医療、福祉」「製造業」に多い
精神障害による労災の請求件数を業種別に見ると、「医療、福祉」887件、「製造業」499件、「卸売業、小売業」491件の順で多くなっています。また、支給決定件数は「医療、福祉」219件、「製造業」121件、「卸売業、小売業」103件となっています。
出来事別の支給決定件数を見ると、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が157件、「業務に関連し、悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」が111件、「セクシュアルハラスメントを受けた」が103件でした。
国もメンタルヘルス対策を重要視
国も労働者のメンタルヘルスの重要性を認識し、さまざまな対策を講じています。健康経営の奨励も、その施策の一つと言えます。
また、メンタルヘルスの不調を未然に防止するため、労働安全衛生法を改正し、2015年12月1日からは、ストレスチェックの実施を事業者に義務付けています。
ストレスチェックは、定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知するものです。その目的の第一は、自らのストレスの状況について気付いてもらうことです。その結果、個人でメンタルヘルス不調のリスクを低減させる行動を取ってもらうことが次の狙いとなります。
目的の第二は、検査結果を集団的に分析し、職場環境の改善につなげることです。その結果、労働者のメンタルヘルス不調を改善すること、または未然に防ぐことを意図しています。
さらに、国は「第14次労働災害防止計画(2023年~2028年)」において、メンタルヘルス対策に取り組む事業場を増やすことを目標に掲げています。
具体的な数字として、「労働者の健康確保対策の推進」のために「メンタルヘルス対策に取り組む事業場を80%以上とする」、「50人未満の小規模事業場のストレスチェック実施の割合を50%以上にする」、「自分の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスがあるとする労働者を50%未満とする(2027年まで)」等の目標値を出しています。
ストレスチェック実施は企業の義務
ストレスチェックは、職場におけるメンタルヘルス対策、過重労働対策として実施されるものです。労働者が50人以上いる事業場では、毎年1回、この検査をすべての労働者*に対して実施することが義務付けられています。
*契約期間が1年未満の労働者や、労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3未満の短時間労働者は義務の対象外
ストレスチェックの実施は企業の義務**ですが、社員・従業員に受ける義務はありません。しかし、心も体も良好な状態を保ち続けるためには、定期的なチェックが大切です。企業は、その必要性、重要性を社員・従業員に周知する努力をし、できるだけ多くの人に受けてもらうようにすることが望ましいと言えます。
社員・従業員がうつ病などのメンタルヘルス疾患となり、それが安全配慮義務違反と判定された場合、企業は療養のために必要な費用や休業補償などを社員・従業員に支払わなければなりません(※ただし、労災が認定されて労災保険で治療費が補償された場合には、その部分については補償の責めを免れます)。医療費などの問題だけでなく、健康な社員・従業員を失うということは、企業にとって大きな損失となります。ストレスチェックは、メンタルヘルスの不調を未然に防止するための有効な制度なので、上手に活用するといいでしょう。
**労働者が50人未満の事業場では義務ではなく、努力義務となります。
ストレスチェックの結果の集計・分析で、高ストレス環境の改善を
職場でのストレスチェックの活用法として、データの集計・分析があります。
例えば、ストレスチェックの結果を職場や部署単位で集計・分析することにより、高ストレスの労働者が多い部署が明らかになります。この結果を、当該部署の業務内容や労働時間など他の情報と合わせて評価すると、問題点が浮かび上がります。事業場や部署として仕事の量的・質的負担が大きい、周囲からの社会的支援が低い、職場の健康リスクが高いなどの問題点がわかった場合は、職場環境等の改善が必要になります。
このように、集団ごとの集計・分析およびその結果に基づく対応は、事業者の努力義務とされていますが、職場のストレスを低減させるためにもぜひ実施することが望まれます。
また、職場でのストレスの軽減には、職場環境の改善が有効と言われています。
職場環境等の改善とは、職場の物理的レイアウト、労働時間、作業方法、組織、人間関係などの職場環境を改善することで、労働者のストレスを軽減しメンタルヘルス不調を予防するための方法です。
米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、職場環境等の改善を通じたストレス対策のポイントとして、以下の点を挙げています。
1.過大あるいは過小な仕事量を避け、仕事量に合わせた作業ペースの調整ができること
2.労働者の社会生活に合わせて勤務形態の配慮がなされていること
3.仕事の役割や責任が明確であること
4.仕事の将来や昇進・昇級の機会が明確であること
5.職場でよい人間関係が保たれていること
6.仕事の意義が明確にされ、やる気を刺激し、労働者の技術を活用するようにデザインされること
7.職場での意志決定への参加の機会があること
厚生労働省の「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳」ホームページには、職場環境改善ツールがたくさん掲載されています。それらを活用して、職場環境の改善に向けた活動を行うことも重要です。
事業者はストレスチェックの結果を活用し、高ストレス環境の改善策を実施することで、メンタルへルス不調者の数を減らすことができます。ぜひ、ストレスチェックを有効活用してください。
「ストレスチェックの集団分析とは?評価方法とメリットを解説」の記事を読む >>
原稿・社会保険研究所 Copyright
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【出典】
・厚生労働省「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)の概要
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r05-46-50_gaikyo.pdf
・厚生労働省「令和5年度過労死等の労災補償状況を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40975.html
・厚生労働省「第14次労働災害防止計画の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001116306.pdf
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※当記事は、2024年8月に作成されたものです。
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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