職場でのメンタルヘルスケア方法と推進方法を解説【医師監修】
こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
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メンタルヘルス対策は従業員自身のセルフケアや管理職によるラインケアなど多岐にわたるため、目的や対象者に合った方法を実施することが重要です。この記事では職場でのメンタルヘルスケア方法や、セルフケアの方法、企業として施策を推進するための取り組みなどについてまとめました。前半ではメンタルヘルスケアの基礎知識、後半では具体的な方法を紹介します。メンタルヘルスケアの重要性は理解しているものの、どのように実施すべきか具体的な方法がわからない担当者の方、従業員の方はぜひ参考にしてください。以下、医師監修による記事です。
<目次>
◆ステップ(1)メンタルヘルスケアとは何か知る
◆ステップ(2)メンタルヘルス対策の重要性を会社全体で認識する
◆ステップ(3)メンタルヘルスケアの3つの予防段階を知る
◆ステップ(4)企業に求められる4つのメンタルヘルスケア対策とその効果を知る
◆職場におけるメンタルヘルスケアの推進に有効な取り組み
└ストレスチェックの活用
└メンタルヘルス研修の実施
└コミュニケーションが増える仕組みづくり
◆テレワークにおけるメンタルヘルスケアの課題と有効な施策
└ビジネスチャットツールの導入
└定期的なミーティングの実施
└勤怠管理や健康管理アプリの活用
└ストレスなく働ける環境の整備
◆【自宅・職場で実践できる】従業員が自分で行うメンタルケアの方法
◆メンタルヘルスケアの重要性と職場における推進方法についてのまとめ
ステップ(1)メンタルヘルスケアとは何か知る
メンタルヘルスは、こころの健康状態を指す言葉です。
たとえば、今日は気分が明るい・軽い、やる気が出てくる、穏やかでゆったりとした感覚といった状態なら、こころの面は健康的といえるでしょう。一方、ストレスが溜まっていてやる気も出ない、落ち込んでいる、趣味を楽しめないといった場合は、メンタルヘルスという点で不調をきたしているといえます。
■メンタルヘルス不調を招く主な原因を知る
メンタルヘルス対策では、メンタルヘルス不調を招く原因を取り除くことが求められるため、原因を理解しておく必要があります。メンタルヘルス不調を招く原因はさまざまです。
中でもストレスは大きな要因になりますが、ストレス発生源も多岐にわたります。たとえば、職場においては以下のようなケースがメンタルヘルス不調の原因になりやすいです。
【メンタルヘルス不調を招く主な原因】
●上司や部下、同僚との人間関係の不和
●パワハラやセクハラなどのハラスメント
●長時間労働や過剰な業務量による身体的・精神的な疲労
●昇進や昇格、異動などによる環境の変化
●思ったように仕事の成果が出ないことへの焦り
など
職場以外の人間関係や自身を含む家族の病気や問題なども影響します。またストレスの感じ方には個人差があることも忘れてはなりません。必ずしもはっきりと認識できるような原因があるとは限りませんが、可能性のある原因を特定して、早い段階で適切に対処することが重要です。
■メンタルヘルス不調によって起こる症状を知る
メンタルヘルス不調の症状や兆候を知っていれば、部下や自身の変化にも気づきやすくなり、早い段階でのケアが可能となります。
メンタルヘルス不調は不安感や集中力の低下など、さまざまな症状を引き起こします。たとえば、以下のようなものが初期症状として挙げられます。
【メンタルヘルス不調によって起こる主な初期症状】
●気持ちの落ち込み
●焦燥感や不安感
●物事への興味関心の低下
●寝つきが悪くなる、何度も目が覚める
●食欲の減退
●倦怠感
初期症状の放置は不眠症などの睡眠障害やうつ病などの精神疾患につながる恐れもあるため、小さな不調であっても油断してはいけません。厚生労働省の令和5年度「過労死等の労災補償状況」(※1)によれば、精神障害の労災補償状況での請求件数は3,575件と一昨年度や前年度よりも増加しています。メンタルヘルス不調は誰にでも起こり得るものなので、それぞれがメンタルヘルスについて理解し、社会全体でサポートしていけるよう協力することが大切です。
ステップ(2)メンタルヘルス対策の重要性を会社全体で認識する
厚生労働省によると、事業場におけるメンタルヘルスケアとは、労働者のこころの健康を保持増進させる方法のことを指します。働く人のメンタルヘルスに不調が起きない仕組みづくりや、こころの状態に合わせたサポートなどを推進、準備していく取り組みです。
職場におけるメンタルヘルスケアは、従業員のこころの健康増進に加えて、事業のリスクマネジメントや生産性という観点でも欠かせない取り組みです。法令による定めだけでなく、企業の価値や競争力を向上させるという意味でも非常に重要になります。こうした重要性を会社全体で認識し、管理監督者・従業員問わず意識して取り組める環境を目指しましょう。
■労働者の安全確保は法律で定められている企業の義務
企業には安全配慮義務があります。安全配慮義務とは「労働者が安全かつ健康に働けるように配慮すべき使用者の義務」のことです。この「安全や健康」には、精神的なもの(メンタルヘルス)も含まれています。
十分な配慮が行われなかったことが原因で労災事故やハラスメントが発生すれば、労働者などから損害賠償請求を受けるケースもあります。また、メディアに取り上げられることで「企業の社会的評価が低下する」といったリスクも考えられるでしょう。労働者のメンタルヘルスケアは、従業員一人ひとりの問題ではなく、企業にも責任があるという認識をもつことが大切です。
■労働者のメンタルケアに企業が積極的に取り組むメリット
繰り返しになりますが、労働者のメンタルヘルスケアは法律によって求められる企業の義務です。しかし、職場全体で労働者のメンタルケアに取り組むことは、企業にとってもよい影響が期待できます。
【企業にとっての労働者のメンタルヘルスケアを行うメリット】
●労働者の意欲・パフォーマンスを向上させ、企業としての生産性を上げる
●集中力を維持して、業務上のミスや不注意による事故を防ぐ
●休職者や離職者を減らし、経営を安定させる
●働きやすい環境を整備することで、採用力の強化につながる
●社内外のサポート体制を構築することで管理職にかかる負担を軽減する
たとえば従業員のメンタルヘルス不調によって、今まで効率的に進んでいた業務に時間がかかるようになったり、注意力低下などでミスを招いたりといったリスクが出てくる可能性もあります。また、不調が長期化してしまうと離職につながるおそれもあり、生産性の低下だけでなく人材不足といった問題も招きかねません。
メンタルヘルスケアの体制を確立させておけば、メンタルヘルス不調の早期発見や休養などによって生産性低下などのリスクを防ぐことにつながります。
またメンタルヘルスケアの体制を整える過程で職場環境が改善されれば、従業員のモチベーションアップや生産性向上も期待できます。
不調の早期発見および早期対処がスムーズにできるようになっていれば、業務中の事故や不適切な対応による企業のイメージダウン、訴訟などのリスクを回避することが可能です。このように、事業者にとってもメンタルヘルスケアは非常に重要な要素です。
ステップ(3)メンタルヘルスケアの3つの予防段階を知る
労働者に必要なメンタルヘルスケアを取りこぼさないようにするためには、全体像と取り組みの目的を把握しておく必要があります。
メンタルヘルスケアには3つの予防段階があり、それぞれ目的が異なります。予防と聞くと「メンタルヘルス不調を防ぐための対策」をイメージするかもしれませんが、悪化させないための対応や、職場に復帰するための支援も含みます。
一次予防から三次予防を円滑に進められるよう、従業員向けに情報提供や共有を推進したり教育研修を実施したりしながら、組織全体で取り組める体制を整えていきましょう。
それでは事業者が取り組むべき3つの予防段階について、一次予防〜三次予防に分けて解説していきます。
■一次予防:不調の未然防止
メンタルヘルスケアの一次予防とは、不調を未然に防ぐことを目的とした対策です。具体的には、一般従業員や管理職向けに研修を行ったり、ストレスなく働けるような環境を整備したりすることが一次予防に該当します。
また、2015年に従業員が50人以上いる事業場に対して実施が義務化された、ストレスチェック制度も一次予防のひとつです。従業員の現状を確認し、職場環境の改善につなげる目的があります。労働者にとっても、自分自身のストレス状態を知る重要なきっかけになります。
■二次予防:早期発見と適切な対応
メンタルヘルスケアの二次予防とは、「不調の早期発見」および「不調に対する適切な対応」を目的としています。上司や産業医などの専門家と相談しやすい環境を整え、メンタルヘルス不調をきたした従業員を早期に見つけ、適切なケアを施せるようサポートする仕組みづくりが二次予防の対策です。
メンタルヘルス不調の悪化を防止するためには、上司や同僚が従業員の変化を見逃さないようにする必要があります。メンタルヘルス不調をきたしていたり、ストレスの原因になるようなトラブルを抱えていたりする場合、普段と異なる行動を取ることもしばしば見られます。たとえば、以下のような行動・状態はメンタルヘルス不調の兆候の可能性があります。
【職場におけるメンタルヘルス不調のサイン】
●遅刻や早退の増加
●無断欠勤の発生
●身だしなみの乱れ
●業務上の報告や相談、同僚との会話の減少
●仕事の生産性低下
従業員自身が、こうした不調を自覚できないケースもあります。そのため、会社全体でメンタルヘルスケアに関する意識を高めて「気づける環境」をつくることが重要です。そのうえで社内外の保健スタッフや産業医と連携して、スムーズに相談窓口に繋ぐ構築を目指しましょう。
■三次予防:職場復帰支援
メンタルヘルスケアの三次予防とは、休職していた従業員の職場復帰サポートを目的とした対策のことです。休職中の治療支援や復職後のフォロー、再発防止策の実施などの取り組みが含まれます。
メンタルヘルス不調の回復には時間がかかるケースも多々あります。焦って職場復帰しても、再発しては意味がありません。無理な職場復帰は離職リスクを高めることにもなるので、本人の気持ちを尊重しつつ、医師の判断を仰ぐことになります。メンタルヘルス不調からの職場復帰支援については、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」などが参考になります。
ステップ(4)企業に求められる4つのメンタルヘルスケア対策とその効果を知る
企業に求められるメンタルヘルスケアの方法は主に4つに分類されます。それぞれのケアと関連する取り組みを含めて「心の健康づくり計画」(※2)と呼びます。
事業者には、4つのケアに関するこころの健康づくりに向けた計画の策定、事業場での方針に関する説明や情報共有、教育研修の機会を提供したり事業場外資源(地域の医療機関など)とのネットワークをつくったりする役割が求められます。
以下では企業のメンタルヘルスケアにおける4つのケアの役割と具体的な方法・対策を紹介していきます。
■ラインケア
メンタルヘルスケアにおけるラインケアは、管理監督者(経営者と一体的な立場にある者)が主導となって、職場の環境改善や従業員のメンタルヘルス管理を行うことを指します。
たとえば従業員の言動、勤怠状況などからこころの不調が起きていないかチェックするほか、従業員からの相談に対応することや、産業医・カウンセラーへの相談を促すことなども含まれます。
また、温度や明るさ、騒音、席のレイアウトなどの職場環境がストレスの要因になっているケースもあります。ヒアリングなどを実施しながら、要因の特定と改善を行っていくこともラインケアのひとつです。
管理監督者が職場環境の改善を進めるとき、次のようなフローで管理作業が発生します。
1.職場環境を評価する(改善の必要性を見積もる)
2.環境改善計画の策定と実施
3.改善計画にともなう職場の責任者への協力依頼
4.改善計画を実施した結果の測定・効果の分析
最も現場に近い位置で行われるメンタルヘルスケア対策ですが、適切なケアのためには正しい知識を身につけておく必要があります。管理監督者の判断や力量にすべてを任せるのではなく、企業としても積極的に研修の機会を提供して、担当者が対応しやすいような仕組みをつくりましょう。
■セルフケア
事業者は、従業員に対してセルフケアを実施できるよう教育研修の機会をつくったり情報提供を行ったりする必要があります。また、管理監督者自身のメンタルヘルスも大切なので、従業員と同様にセルフケアが行えるよう支援していきましょう。
自分自身でメンタルヘルス不調に対処できる体制をつくるには、ストレスチェック制度を通じてストレスやメンタルヘルス不調があるか従業員自身に気づいてもらう取り組みや、その対策としての情報提供などが必要です。
【従業員のセルフケアを促す方法】
●一般従業員や管理監督者向けにセルフケアの研修を実施する
●ストレスチェックなどで自分自身の変化に気づく機会を提供する
●メンタルヘルスケアやストレスケアについての情報発信を行う
●各種サポートや相談窓口に関する案内を定期的に行う
メンタルヘルスケアにおいてセルフケアは重要ですが、強制するとかえって従業員のストレスになる可能性があります。企業としては、従業員にセルフケアについて学ぶ機会を提供しつつ、日常生活の中で自発的に取り組めるようにサポートすることが望ましいです。具体的なセルフケアの方法は記事の後半で紹介しているので、詳しくはそちらも参考にしてください。
■事業場内産業保健スタッフ等によるケア
企業におけるメンタルヘルスケア対策の中枢を担うのが産業医を中心とした産業保健スタッフです。職場環境の改善やメンタルヘルスケア対策の計画を立てるのが産業保健スタッフであり、人事労務部や管理監督者たちに具体的なアドバイスを行います。たとえば、以下のようなものが「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」に該当します。
【事業場内産業保健スタッフ等によるケアの具体例】
●セルフケアやラインケアに関する研修を企画・実施する
●専門家や専門機関に相談するための窓口をつくる
●従業員の状態を把握し、必要に応じて産業医面談の調整を行う
●休職者のための職場復帰支援プログラムを作成する
●従業員の意見を聞き、健康管理について話し合う場(衛生委員会)を設ける
メンタルヘルスケア対策を推進する業務の一環として、各従業員に関する健康情報の取扱い、具体的なケアの提案、職場復帰の支援、必要に応じて事業場外資源とのつながりをつくるといった役割を求められる立場です。産業保健スタッフには、産業医や保健師だけでなく、事業場のメンタルヘルスケア推進の担当者や、衛生管理者なども含まれます。事業場が小規模で、産業医や保健師がいない場合は、人事労務の従業員が産業保健スタッフを担当するケースも多いです。こうしたケースでは産業保健スタッフが、職場におけるメンタルヘルスケアの企画・実行をし、ときには事業場外の産業医や保健師などの専門家を紹介する窓口にもなります。
◇産業医面談
産業医は、企業と従業員の間に立って、従業員の心身の健康状態や、職場環境に関するさまざまな問題をチェック・指導してくれる重要な存在です。
特に、産業医面談によって、従業員のメンタルヘルスやそのほかの不調を早期に発見し、対応することができます。しかし、産業医面談は、従業員側からの希望がないと実施できません。守秘義務があり、面談内容は外部にもれることがないことや、産業医面談を受けるメリットを周知したりなど、企業側からの働きかけも必要です。
『従業員のメンタルヘルス不調を防ぐ!産業医の役割と産業医面談について解説【医師監修】』の記事を読む>>
■事業場外資源によるケア
前段でも触れた事業場外資源とは、地域の医療機関や保険機関、産業カウンセラーなどメンタルヘルスケアを提供する機関全般を指します。従業員のケアから産業保健スタッフの教育などを任せる外部リソースです。事業外資源とのネットワークを形成すれば、事業場内ではカバーが難しいより専門的な領域の支援サービスを活用したり、情報提供や助言を受けたりできます。
具体的には、従業員の治療が必要になったときに備えてクリニックと提携したり、事業場外で提供されているメンタルヘルスケアの研修に参加したりすることも含まれます。
事業場の規模によっては、産業保健スタッフを十分に確保できないこともあります。こうした資源を活用することで、それほど大きい規模ではない事業場でも、メンタルヘルスケアの対策を効率的に進めることができるでしょう。
また、企業の抱えるメンタルヘルスケアに関する課題を社内で解決するのが難しいときは、外部EAP(Employee Assistance Program)を導入するという選択肢もあります。EAPは従業員支援プログラムのことで、メンタルヘルスに関する不調を抱える人向けにさまざまなサービスを提供しています。社内にカウンセラーなどを常駐させる内部EAPに対して、外部EAPには「会社の外でカウンセリングを受けられるので相談しやすい」「スタッフを常駐させる必要がないので、コストを抑えやすい」などのメリットがあります。
◇相談
窓口の設置
ティーペックが2023年7月に行った、18~25歳の入社3年未満の若手社員1,000名を対象にした「若手社員のメンタルヘルスに関する調査」では、相談相手が社内にいる方が、いない場合よりも仕事を辞めたいと感じにくい傾向があることがわかりました。
上司等との人間関係がデリケートである場合は社内相談が難しいこと、若手社員の年代ならではの悩み・多様な人生観をもつ若手世代への適切な対応が求められることを考慮すると、専門家が対応する社外の相談窓口が効果的であると考えられます。
『約半数は社内に相談相手がいない?!入社3年未満の若手社員に聞いた!若手社員のメンタルヘルスに関する調査』 資料をダウンロードする>>
また、2022年4月から2023年3月までの、1年間のティーペックのカウンセリングデータを分析した調査では、従業員の悩みの要因は職場内の問題だけでなく、プライベートな要因も多いことがわかりました。
プライベートな悩みも安心して相談してもらうためにも、やはり社内ではなく外部の専門家による相談窓口を設ける必要があると考えられます。外部という気軽さから『悩み込む前に相談する』といった早期対応にもつながります。
職場におけるメンタルヘルスケアの推進に有効な取り組み
ストレスチェックの活用
ストレスチェックは従業員のセルフケアを推進することにもなります。メンタルヘルス不調を我慢してしまう人や、自覚がない人はストレスチェックを受けることで、自身の状態を認識し、健康や働き方を見直すきっかけになるからです。
またストレスチェックを活用すれば、職場の問題点を見つけ、労働環境の改善につなげることも期待できます。
ストレス要因を特定して、職場環境の改善につなげるためには多くの従業員に正しく回答してもらうよう努めなければなりません。厚生労働省によれば、労働者の受検率に関しては、対象者の80%以上がストレスチェックを受けた事業場が7割超です(※3)。ストレスチェックの受検を呼びかけるだけでなく、検査の目的や活用方法を説明したり、実施時期に配慮したりすることなども重要です。
◇定期的に相談窓口に関する情報提供を行う
企業にとっても、労働者にとっても「ストレスチェックを受けただけで終わり」にするのは良くありません。検査結果の確認後、労働者が相談したいと思ったときに、適切な相談窓口を見つけられるように定期的に情報提供をするようにしましょう。
また、検査によって高ストレス者に該当するとわかっても、そこから実際に面接指導の申し出を行う人の割合は多くありません。検査結果をしっかりと受け止めて、早期に適切な対応を取ってもらうためには、「医師による面接指導を受けることのメリット」や「プライバシーが守られ、相談者に不利益が生じないこと」などの周知も重要になります。
◇集団分析結果に基づいて職場環境を改善する
ストレスチェック検査の結果は本人のみに通知されますが、特定の集団単位で結果を分析することは可能です。ストレスの要因や傾向を把握でき、職場環境の改善などに役立てることができます。このような労働者個人ではなく、職場全体の問題を分析するための手法を「集団分析」と呼びます。
ストレスチェックの目的は、従業員自身に自己のストレスについての気づきとケアを促すことです。しかし、データを活かして「集団分析」することも大切です。役職や部署・課ごとのストレスの特徴や傾向などをつかみましょう。
集団分析の結果に基づく職場環境の改善事例としては、具体的には以下のようなものがあります。
【集団分析結果の活用事例】
●メンタルヘルスの相談に抵抗のある属性(年齢や性別など)を把握し、より頻繁に相談窓口の案内を行った
●管理職の対応に課題のあるグループを見つけ、ラインケアなどに関する研修を実施した
●人手不足がストレス要因になっている部署を特定し、業務の効率化や人員補充を行った
●上司・先輩からの叱責が若手社員にとってのストレス要因になっていたため、部下・後輩への指導方法に関する研修を実施した
●仕事の量的負担の多い部署があったため、会社全体で働き方改革を進め、集団の残業時間や有給休暇の取得状況などの見える化を行った
「集団分析」は、法律上、努力義務とされており、実施しなくても罰則はありません。しかし、ストレスチェックを「やりっぱなし」にせず、結果をしっかりと活用し、職場環境の改善につなげていくことが重要です。
◇必要に応じて就業上の措置を実施する
ストレスチェックを受けた労働者個人への対応として、必要に応じて「就業上の措置(後述)」を実施することも重要です。メンタルヘルス不調を悪化させないためにも、産業医・医師による面接指導の実施後は、速やかに適切な措置を講じてください。
【就業上の措置の具体例】
●労働時間を短縮する
●業務内容を変更する
●就業場所の変更を行う
●夜勤の頻度を減少させる
●出張の機会を制限する
ときには療養を目的とした休暇取得や、休職の措置も必要になります。ただし、就業上の措置を実施する場合も、本人の意思を尊重することが大切です。産業医などの見解を確認しつつ、労働者とすり合わせていきましょう。
メンタルヘルス研修の実施
従業員一人ひとりがメンタルヘルスケアの重要性を理解し、会社全体で意識向上を図ることも重要です。従業員のヘルスリテラシーが向上することで、従業員の身体の不調や疾病、メンタルヘルス不調などに対する一次予防、二次予防、三次予防それぞれに大きな役割を果たします。
メンタルヘルスに関するリテラシーを向上させるには、自社が抱える課題を整理したうえで、研修プログラムを実施するようにしましょう。たとえば、「不調を訴える人の多い時期に新入社員・異動者向けのセルフケア研修を行う」「リモートワークに特化した内容の研修を行う」「新人管理職向けにラインケアの研修を行う」など目的を明確化させることが重要です。
弊社ティーペックでは以下のような研修プログラムをご用意しています。
【研修テーマ例】
・ラインケア研修
・セルフケア研修
・職場改善ワークショップ など
さまざまなテーマの研修プログラムが用意されており、ニーズに合わせた内容のカスタマイズも可能です。興味のある方は、ぜひ専用フォームからお問い合わせください。
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コミュニケーションが増える仕組みづくり
職場におけるメンタルヘルスケアの促進には、コミュニケーションが増える仕組みづくりも有効です。「仕事の相談ができる相手がいる」「雑談できる相手がいる」というだけでもストレスケアになり、生産性向上や情報共有促進が期待できます。たとえば、以下のような工夫がコミュニケーションを促進する仕組みとして考えられます。
【コミュニケーションが増える仕組みの例】
●シャッフルランチで普段関わりの薄い人との交流を増やす
●複数人での会話が苦手な人でも話しやすい1on1ミーティングを行う
●雑談可能な休憩スペースを用意する
●健康増進に関連した社内イベントを開催する
●従業員の趣味に沿った社内サークルをつくる
●自由に席を決められるフリーアドレス制を採用する
●リモートワーカーも参加しやすいバーチャルオフィスを導入する
ただし、コミュニケーションを強いることはストレスになる人もいるため注意してください。新たな仕組みを導入しただけで満足することなく、「実際にコミュニケーションは活性化されたか」「休職率や離職率などの数値に変化はあったか」などを確認し、適宜運用を見直しましょう。
テレワークにおけるメンタルヘルスケアの課題と有効な施策
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにテレワークを導入する企業は増えました。実際、総務省の「令和5年通信利用動向調査」(※4)によれば、49.9%の企業がテレワークを導入していると回答しています。
テレワークは労働者のメンタルヘルスにとって、メリット・デメリットの両方が存在します。たとえば、「通勤時間がなくなり、家族と過ごす時間が増える」という点はメリットです。その一方で、「同僚とのコミュニケーションが不足しやすい」などはデメリットになります。そのほかにも以下のような点が、メンタルヘルスに影響を与える問題として挙げられています。
【テレワークで発生しやすい問題】
・仕事の相談ができずに、生産性が低下する
・仕事と私生活のメリハリがつけにくく、長時間労働になりやすい
・やりがいや達成感が見えにくい
・部下や同僚が抱えるトラブルの発見が遅れる
・リモートハラスメント(チャットやビデオ会議など、オンラインコミュニケーションを可能とするツールを使用した嫌がらせ)が発生する
特に新入社員や異動したばかりの人は、テレワーク下でコミュニケーションに関する問題を抱えやすいので注意が必要です。「テレワークを導入したが、うまくいっているのかわからない」という場合は、アンケートやヒアリングを実施して、現状を把握するようにしましょう。以下では、テレワークにおけるメンタルヘルスケアの課題を解消するための方法を紹介していきます。
ビジネスチャットツールの導入
コミュニケーションの取りにくいテレワークは、孤独感・孤立感を覚えやすくなります。通常のオフィスワークでも重要なことですが、仕事におけるコミュニケーションを促進するようにしましょう。たとえばビジネスチャットツールなどを活用するとよいでしょう。
・ビデオチャットで顔を合わせて話す機会を増やす
・雑談可能なチャットルームを作成する
・業務に関して気軽に質問できるチャットルームをつくる
などは、コミュニケーションの活性化に有効です。また、すでに社内で利用しているチャットツールがある場合は、よりコミュニケーションを取りやすいようなルールづくりの工夫も行いましょう。
【コミュニケーションを円滑にするルール例】
・チャットを確認・返信する時間を決める
・絵文字によるリアクションを許可する(威圧感のあるメッセージになりにくい)
・利用目的に応じたルーム・スレッドを作成する
定期的なミーティングの実施
コミュニケーションの希薄化への対策としては、ビデオチャットを活用した定期的なミーティングも有効です。テレワークによって労働者の抱える問題が見えにくくなるので、定期的にミーティングを行って健康状態の変化を確認しつつ、コミュニケーションを取りましょう。朝礼だけは必ず全員参加でビデオ会議を行うなど、定例化するとよいでしょう。
また1on1ミーティングなら従業員一人ひとりの状態を確認しやすく、テレワークの孤独感や不安の解消にもつながります。
業務時間と休憩時間・プライベートの区別はしっかりとすべきですが、ランチミーティングやオンライン飲み会などもコミュニケーションを活性化するきっかけになります。オフィスワークに比べてテレワークは、どうしてもコミュニケーション不足になりやすいので、目的に応じて定期的なミーティングを実施してみてください。
勤怠管理や健康管理アプリの活用
テレワークを行うデメリットとしては「勤怠管理の難しさ」や「労働者の運動不足」なども挙げられます。テレワークでは労働者の勤務状況や健康状態が把握しづらくなるため、必要に応じて勤怠管理や健康管理のアプリを活用しましょう。
勤怠管理は長時間労働を防止したり、従業員のコンディションを確認したりするのが目的です。過度な監視はストレスになり、生産性の低下やメンタルヘルスへの悪影響を招くため注意してください。
テレワークに関しては、厚生労働省が導入・推進のための指針(「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」)を発表しています。今後、テレワークの導入や改善を検討している場合は、厚生労働省のガイドラインも参考にしてください。
ストレスなく働ける環境の整備
テレワークを導入するうえで、ストレスなく働ける労働環境を整備することも重要です。
たとえば、「私物のパソコンではスペックが足りない」「ビデオ会議の話し声で隣人からクレームがあった」といった問題があると、自宅に快適な作業環境を構築すること自体が難しくなります。
必要に応じてサテライトオフィス・シェアオフィスを活用したり、環境整備のための手当・機器の支給を行ったりしてください。テレワークの導入によって労働者の負担が増えることは好ましくありません。労働者をサポートしつつ、必要に応じて就業規則なども見直しましょう。
【自宅・職場で実践できる】従業員が自分で行うメンタルケアの方法
自分自身のこころの健康を守るうえで、セルフケアの知識や方法を身につけることは非常に重要です。正しいセルフケアの知識をもっていれば自身の変化にも気づきやすく、小さな不調が悪化する前に自分でケアすることもできます。自宅や職場などで実践しやすいメンタルケアの方法を紹介します。
■適度な運動やストレッチを行う
デスクワークの場合、労働時間の多くを座って過ごすことになります。長時間の同じ姿勢は筋肉を緊張させるため、適度にストレッチを行いましょう。
筋肉の緊張を和らげることでリラックスできますし、ストレッチは肩こりや腰痛などの予防にもなります。たとえば、「ゆっくりと首を回す」「組んだ両手の甲を前に伸ばしながら、腹部を覗き込むように背中を丸める」「イスの座面をつかんで、胸を前に広げる」などのストレッチは座ったままでも行えます。
また、ストレスを発散して、寝つきを良くするには適度な運動も効果的です。負担の大きすぎる運動は逆効果になることもあります。無理なく続けられるウォーキングなどの運動を習慣にしましょう。
テレワーク下においても実践しやすいエクササイズについては、以下の記事で解説しています。「肩こりに悩んでいる」「ストレッチ方法を知りたい」という方は、こちらも参考にしてください。
『健康経営には欠かせない、プレゼンティーイズムの改善に!テレワークでも簡単にできるエクササイズ~肩こり編~』の記事を読む>>
■リラックスするために深呼吸する
緊張状態が続くと呼吸は無意識に浅くなります。そのため、仕事中も意識的に深く呼吸するようにしましょう。深呼吸によって副交感神経は優位になり、リラックスした状態になります。
【正しい深呼吸の方法】
負担の少ない姿勢で座り、背筋を伸ばしたら、鼻からたくさんの空気を吸いましょう。そして、口からゆっくりと吐きます。鼻から吸うときの2倍程度の時間をかけて、口からゆっくりと吐くのが深呼吸のポイントです。
呼吸が浅い場合、胸式呼吸になっていることもあります。リラックスしたいときには腹式呼吸が向いているので、腹部に両手を重ねて、呼吸に合わせて横隔膜の辺りが動いていることを確認してみてください。
■不規則な生活を改善して、十分な睡眠時間を確保する
メンタルケアには日々の睡眠も非常に重要です。ストレスは睡眠に悪影響を与え、不眠などの症状もまたストレスの一因になります。ストレスと睡眠障害は悪循環に陥りやすいため特に注意してください。
ヒトの体内時計の周期は約25時間です。1日と1時間ほどのずれがありますが、朝日を浴びることなどで体内時計は早まり、そのずれが自動的に調節されるようになっています。
しかし、不規則な生活リズムによって、体内時計が上手く調節されないこともあります。「夜になっても眠くならない」「日中に強い眠気を感じる」という場合は、生活リズムを見直しましょう。できるだけ決まった時間に起床・就寝するようにして、十分な睡眠時間を確保しましょう。メンタルヘルスと睡眠の関係性については以下の記事で解説しているので、詳しくはそちらも確認してください。
『メンタルヘルスと睡眠の関係とは?睡眠がこころの健康に与える影響と睡眠改善のポイント【医師監修】』の記事を読む>>
■楽しめる趣味をつくる
ストレスを感じる原因が仕事や職場の人間関係にある場合、仕事について考えない時間をつくることも大切です。
・好きな音楽を聴く
・本を読む
・スポーツをする
・カラオケへ行く
・映画を見る
などの仕事の悩みを忘れて、楽しめるような趣味の時間をつくりましょう。ただし、喫煙や暴飲暴食、ギャンブルなどはおすすめできません。美味しいご飯を食べたり、適度に飲酒したりする分には問題ありませんが、気晴らしが逆効果にならないよう気をつけましょう。
■気軽に話せる友人や相談相手を見つける
原因自体を解決することはできなくても、「他人に悩みを話す」「他人に悩みを聞いてもらう」のはストレスの解消につながるので、気軽に話せる友人や相談相手を見つけましょう。
友人と話すだけでも気が紛れますし、笑うのもストレスケアに有効です。笑うことはリラックス効果もあります。過度なストレスによって交感神経優位の状態になりますが、笑うことで副交感神経優位な状態になり、自律神経のバランスが整いやすくなります。
メンタルヘルスケアの重要性と職場における推進方法についてのまとめ
メンタルヘルスケアは、こころの健康状態を健やかに保つための大切な取り組みです。中でも職場におけるメンタルヘルスケアは、従業員が健やかに働くうえで非常に重要です。
主な方法は4つで、セルフケアを行えるようにするための支援、ラインケアの実施、産業保健スタッフによるケア、事業場外資源からサポートを受けられる体制の構築に分類されます。企業は、メンタルヘルスケアの方法と重要性を理解したうえで、取り組みを始めていきましょう。
<事務局より>以下より、従業員のメンタルヘルスの実態について解説している資料をダウンロードいただけます。ぜひご活用ください。
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【出典】
※1
厚生労働省「精神障害に関する事案の労災補償状況」
https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/001276199.pdf
※2 厚生労働省 「心の健康づくり計画」
https://jsite.mhlw.go.jp/iwate-roudoukyoku/content/contents/0405mentalhealthplan03.pdf
※3
厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」
https://www.mhlw.go.jp/content/000917294.pdf
※4
総務省「令和5年通信利用動向調査の結果」
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin02_02000169.html
【参考】
厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策について」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000188314.pdf
厚生労働省「ストレスチェック制度導入マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150709-1.pdf
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf
厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」
https://www.mhlw.go.jp/content/000917251.pdf
厚生労働省「テレワークにおけるメンタルヘルス対策のための手引き」
https://www.mhlw.go.jp/content/000917259.pdf
厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/000759469.pdf
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html
厚生労働省 e-ヘルスネット「快眠と生活習慣」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-004.html
日本医師会「深呼吸をしましょう」
https://www.med.or.jp/komichi/holiday/sports_02.html
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◆監修者プロフィール
●名前
大西良佳
●科目
産業医、公衆衛生、ペインマネジメント、麻酔科、漢方内科、美容皮膚科
●所属学会・資格
公認心理師
産業医
麻酔科専門医
ペインクリニック専門医
公衆衛生修士
温泉療法医
緩和ケア研修修了
ICLSプロバイダー
●メディア出演実績
テレビ朝日「林修のレッスン!今でしょ」
宝島社
東京スポーツ新聞
小学館
※当記事は、2023年12月に作成されたものです。(2024年8月更新)
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※本記事内で紹介されているサービスに関して、記事監修の医師は関与しておらず、またサービスの監修もしていません。
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