従業員のメンタルヘルス不調を防ぐ!産業医の役割と産業医面談について解説【医師監修】
こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
産業医は、メンタルヘルスをはじめとした労働者の健康管理などを担っている医者です。メンタルヘルスの不調は、従業員やその家族の幸せ、自社の企業価値や生産性にもかかわる問題といえます。この記事では、従業員の健康管理を担っている産業医の役割や、産業医面談の内容と重要性について紹介します。産業医面談の重要性やメンタルヘルス対策を本記事で学びましょう。 以下、医師監修による記事です。
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<目次>
◆産業医の役割とは
└産業医とは
└産業医の選任のポイント
└産業医の資格要件
└産業医の職務
◆従業員のメンタルヘルスケアとは
└職場のメンタル不調者の増加
└企業が実施すべきメンタルヘルス対策
◆産業医による面談の重要性と効果
└産業医面談の目的と対象者、面談の内容
└従業員が面談を拒否した時の対処法
└産業医面談の効果
◆産業医の活動と企業への効果
└活動事例1_メンタルヘルスの情報提供により組織の意識向上へ
└活動事例2_産業医面談の周知とイベント企画の提言により早期発見と予防が可能な環境へ
└健康経営による企業価値向上
◆企業における産業医の役割とその重要性のまとめ
産業医の役割とは
産業医とは
産業医は、労働者に対する衛生教育や健康管理のほか、医学的な観点からの職場環境改善やストレスチェックに関する提言などを行っています。
従業員50名以上の事業場がある場合、事業者側で産業医の選任が義務付けられています。50名未満の場合は、努力義務として医師などによる健康管理が求められています。
なお、従業員1,000名以上の事業場を抱えている企業については、専属産業医を選任する必要があります。
産業医の選任のポイント
産業医の選任に関する主な要件は、労働安全衛生規則第13条によって定められています。
厚生労働省の「産業医の関係法令」によると、内容は以下のとおりです。(※1)
●産業医を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任すること。
●常時1,000人以上の労働者を使用する事業場または次に掲げる業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場にあっては、その事業場に専属の者を選任すること。
●常時3,000人を超える労働者を使用する事業場にあっては、2人以上の産業医を選任すること。
(※1)厚生労働省「産業医の関係法令」(https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000qmvh-att/2r9852000000rytu.pdf)より作成
産業医の選任期間は、事業場の従業員50名以上など選任の義務が課せられる状況になった日から14日以内とされています。さらに、事業場の従業員数に応じて専属産業医の選任義務や人数についても定められるようになるため、各ポイントに関して見落とさないようにする必要もあります。
産業医の資格要件
産業医として業務に従事できるのは、医師の中でも労働者の健康管理に関する医学的な知識のほか、厚生労働省令に定められている要件を満たした医師のみとされています。
厚生労働省令に定められている要件は、労働安全衛生規則第14条に記載されています。以下に内容をまとめます。(※1)
●労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が実施したものを修了した者
●産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であって厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であって、その大学が行う実習を履修した者
●労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生である者
●学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師(常時勤務する者に限る。)の職にあり、又はあった者
●前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者
(※1)厚生労働省「産業医の関係法令」(https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000qmvh-att/2r9852000000rytu.pdf)より作成
このように産業医は、従業員の健康管理に関する医学的な専門知識を有しているのが特徴です。
また、日本医師会認定産業医制度にはメンタルヘルス対策が含まれており、同制度の認定を受けた産業医は、メンタルヘルスケアに関する専門的知識も取得しています。ほかにも、メンタルヘルス法務主任者といった法務にかかわる専門知識を補完する資格を持った産業医なども存在していて、関連対策に関してもサポートしてもらえます。
なお実際の選任においては、産業医の紹介サービスや地域の医師会から、要件を満たした産業医を紹介してもらうことが可能です。
産業医の職務
産業医の職務は、労働安全衛生規則第14条によって定められています。わかりやすく説明すると、従業員向けに健康診断を実施したり、診断結果に基づいた措置を実施したりします。ほかには、以下のような健康管理に関する業務に従事しています。(※2)
●ストレスチェックの実施や高ストレス者および長時間労働者に向けた面接指導
●作業環境の維持管理
●作業管理
●上記や健康診断の場面以外における労働者の健康管理
●健康相談や健康教育、労働者の健康の保持増進
●衛生教育
●健康障害の原因調査や再発防止に向けた措置
産業医は、健康診断やストレスチェックなどの結果などから従業員の健康リスクや状態を判断し、適切な指示や措置をアドバイスします。事業者は、産業医から従業員の健康状態に関する確認、提案などをしてもらい、各従業員の働き方や職場環境の改善に努めることが大切です。
(※2)厚生労働省 「独立行政法人 労働者健康安全機構『中小事業者の為に産業医ができること』」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/content/000501079.pdf )より作成
従業員のメンタルヘルスケアとは
ここからは、従業員のメンタルヘルスケアについて、その必要性と方法を紹介します。
職場のメンタル不調者の増加
職場が原因によるメンタル不調を訴える方は、増加傾向といえます。厚生労働省の「令和4年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」によると、仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は、令和4年度で82.2%と令和3年度53.3%を大幅に超えている状況です。(※3)
メンタル不調の理由には、仕事量や質、仕事でのミスや責任の重さといった業務に関する内容のほか、ハラスメントといった対人関係の問題も含まれています。
また、厚生労働省の「令和4年 労働安全衛生調査(実態調査)」の結果によると「メンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した労働者又は退職した労働者」(令和3年11月1日から令和4年10月31日までの期間)のいた事業所の割合は13.3%で、令和3年度の調査結果10.1%より増えている状況です。(※4)
(※3)厚生労働省 「令和4年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001156170.pdf
(※4)厚生労働省 「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r03-46-50b.html
企業が実施すべきメンタルヘルス対策
企業は、産業医を活用した健康管理体制や医師へ相談しやすい環境の構築はもちろん、ストレスチェックを行うだけでなく、職場におけるさまざまな問題解決やストレス軽減策の実施を進めていく必要があります。大きく分類すると、主に2つの側面からアプローチすることになります。
●メンタルヘルスにかかわる問題を解決しやすくなる仕組みづくり
●メンタルヘルスにかかわる正しい情報提供
大きな組織では、社内に相談窓口を設置し、産業医との面談が気軽にできるような環境をつくりましょう。仕事に関する相談や対人関係・ハラスメントといった問題を解決できる組織・仕組みをつくることが大切です。
また各従業員が積極的にメンタルヘルスケアに取り組めるよう、基本的な情報提供を続ける必要があります。具体的には、ストレスチェックによってケアの必要性を自覚した従業員がセルフケアできるよう、その方法にアクセスしやすい情報網を用意しておくことが求められます。
管理監督者への情報提供も欠かせません。管理監督者は部下が相談しにきたり、休職・復職のケアをしたりする必要があるため、管理監督者によるメンタルヘルスケア(ラインケア)の正しい情報が得られる研修などを提供しましょう。
産業医による面談の重要性と効果
ここからは、産業医が行う面談の内容やその重要性、効果について解説します。
産業医面談の目的と対象者、面談の内容
産業医面談は、従業員の健康状態や疾病リスク、メンタルヘルス不調などを早期に発見・対処するために行います。面談は産業医と従業員の1対1形式で、ストレスチェックで高ストレスに該当した方などが対象者とされています。
以下に面談対象を紹介します。
●長時間労働者
●高ストレス者
●メンタルヘルス不調者
●健康診断結果に異常があった従業員
●休職もしくは復職希望者
●疾患を抱えながら働く従業員
面談の内容は各対象者の状態によって変わりますが、従業員の心身の状態判断とアドバイス、休職したときの生活指導や復職プラン作成、医学的観点からのアドバイスなどです。
従業員が面談を拒否した時の対処法
産業医面談の対象者が面談を拒否した場合は、企業側で強制することはできません。
こうした従業員に対しては、産業医面談を受けるメリットを丁寧に説明したり、従業員の考えに理解を示したりといった対応をしつつ、面談を受けてもらえるよう促すのも大切です。また守秘義務などについて説明し、面談内容が社内に伝わらない点を理解してもらい、従業員の持つ不安を解消するよう努めましょう。
産業医面談の効果
産業医面談の実施によって、従業員は心身の不調を早期に発見し対処することが可能になります。また事業者にとっては、メンタルヘルスに不調をきたす従業員を減らせるだけでなく、人材不足や生産性低下のリスクを抑えられるのがメリットといえます。
なお、産業医面談は従業員が希望しなければ実施できない仕組みです。面談内容の守秘義務や受けるメリットを周知するなど、企業風土から改善していくことが重要です。
産業医の活動と企業への効果
活動事例1_メンタルヘルスの情報提供により組織の意識向上へ
活動事例2_産業医面談の周知とイベント企画の提言により早期発見と予防が可能な環境へ
メンタルヘルス不調とメタボリックシンドロームが課題と感じている企業の実施事例です。今までは産業医面談がほとんど行われていなかったため、従業員への産業医の自己紹介や業務内容の紹介を行うことで産業医面談を周知でき、面談件数が増加しました。増加した面談の中で、睡眠障害や抑うつと思われる従業員に対して速やかな医療機関受診を指示することで、早期発見・対処が可能になりました。
メタボリックシンドロームに関しては、社内でウォーキングイベントを企画してもらうことを産業医から提言して実施しました。従業員の1/3程度が参加するようになり、満足度も高かったため、その後も定期開催する予定があります。
健康経営による企業価値向上
企業にとって産業医は、企業と従業員の間に立って職場環境や心身の健康に関するさまざまな問題をチェック・指導してくれる存在で、健全な組織運営、健康経営に欠かせません。
産業医の活動および組織との連携によって、従業員の心身に関する健康を守ることは次のような組織改善にもつながります。
●自社の人材不足の回避
●定着率の向上
●生産性の低下防止が期待できる
こうした組織の体質改善は、中長期的な企業価値の向上にも寄与します。
企業における産業医の役割とその重要性のまとめ
産業医は従業員の健康管理を担う医師で、健康診断の実施や結果に基づく指導だけでなく、ストレスチェックや職場の巡視、産業医面談による指導と事業者への提言など多岐にわたります。
事業者は、今回の記事を参考にしながら産業医との連携やメンタルヘルスケアについて検討してみてください。
<事務局より>以下より、従業員のメンタルヘルスの実態について解説している資料をダウンロードいただけます。ぜひご活用ください。
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【出典】
・厚生労働省「産業医の関係法令」
https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000qmvh-att/2r9852000000rytu.pdf
・厚生労働省 「独立行政法人 労働者健康安全機構『中小事業者の為に産業医ができること』」
https://www.mhlw.go.jp/content/000501079.pdf
・厚生労働省 「令和4年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001156170.pdf
・厚生労働省 「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/r03-46-50b.html
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監修者プロフィール
●名前
大西良佳
●科目
産業医、公衆衛生、ペインマネジメント、麻酔科、漢方内科、美容皮膚科
●所属学会・資格
公認心理師
産業医
麻酔科専門医
ペインクリニック専門医
公衆衛生修士
温泉療法医
緩和ケア研修修了
ICLSプロバイダー
●メディア出演実績
テレビ朝日「林修のレッスン!今でしょ」
宝島社
東京スポーツ新聞
小学館
※当記事は、2023年12月に作成されたものです。
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※本記事内で紹介されているサービスに関して、記事監修の医師は一切関与しておらず、またサービスの監修もしていません。