メンタルヘルス・ハラスメント
メンタルヘルス 2022/06/01

パワハラや職場環境の改善に役立つテクニックを解説!~ハラスメント防止、テレワークでのコミュニケーションに役立つ「アサーティブ・コミュニケーション」2~

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

ティーペック研修講師で、数多くの企業でアサーティブ研修を行う船見敏子さん(株式会社ハピネスワーキング代表)に、パワーハラスメント(以下、パワハラ)防止やダイバーシティ、心理的安全性の面から注目される、アサーティブ・コミュニケーションについてインタビューを行いました。前回は「アサーティブ研修が企業に必要とされる背景とは?」 についてお伺いしました。今回は、パワハラをする側とされる側、それぞれが使えるアサーティブ・コミュニケーションを紹介していただきました。

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<目次>
◆パワハラ防止に使える、アサーティブ・コミュニケーションのテクニック
◆パワハラを受けた側の望ましい対応や、役立つアサーティブ・コミュニケーション
◆アサーティブ・コミュニケーションを活用して職場環境を改善できた事例

パワハラ防止に使える、アサーティブ・コミュニケーションのテクニック

――――― パワハラをしがちな人というのは、アサーティブ・コミュニケーションでは「攻撃的なタイプ」に当てはまるのでしょうか。

そうですね。人を攻撃するような強い言葉を一方的に主張する「攻撃的なタイプ」の人は、「自分が絶対正しい」「自分の枠組みや価値観こそが王道である」と思い込んでいるため、パワハラ的な行為をしてしまいがちです。また、人は権力をもつと、相手の立場に立って考える力が低下するとも言われており、ベテランになると、経験を積んでいる分、そうした考えに陥りやすいので、折にふれて自分の言葉遣いをチェックしてください。

アサーティブ研修では、こうした攻撃的なタイプの人が取り入れると良いアサーティブ・コミュニケーションのテクニックを紹介しています。

「Iメッセージ」を使う

「Iメッセージ」とは、「私(I=アイ)」を主語にして伝える手法です。例えば相手からひどいことを言われた時、「そんなことを言うなんて、あなたは冷たいですね」と「あなた」を主語にして返してしまうと、相手の人格への非難になってしまいます。

人には防衛本能があるので、たとえ相手が「ひどいことを言って悪かった」と思っていたとしても、非難をされれば、仕返し(攻撃)をしてくる、もしくは心のシャッターを下ろし、今後は関わりを持とうとしなくなる可能性があります。

このように「あなた」を主語にしてネガティブなことを伝えると、コミュニケーションに障害が生じることになりかねないので、「私」を主語にして言い換えるのです。

その際、相手の言動によってどういう影響を受けたか、どういう気持ちになったかをストレートに伝えましょう。アサーティブ・コミュニケーションでは、自分の想いや考え、感情をオブラートに包んだりせず、ストレートに言うことが大事です。日本人はストレートにものを言うのが苦手で、「言わなくてもわかってくれるはず」と以心伝心を期待する人が多いですが、実際は言わなければ伝わりません。

このケースでは、「今のあなたの言葉を受けて、私はとても傷つきました。今後はこのようなことは言わないでほしいです」と伝えるのがIメッセージです。この言い方だと、相手を非難せずに自分の気持ちを伝えることができます。相手を尊重しながら自分の想いを伝えているので、相手も「ああ、申し訳ない」と素直に受け取ることができます。

また、相手の立場に立ってみてください。こんなふうに要望を率直に伝えてもらえると、人を傷つけないために自分はどうすればいいのかがよく理解できますよね。その理解が、行動変容につながるのです。これこそお互いを大切にするアサーティブ・コミュニケーションです。

相手の言い分をよく聴く

アサーティブ・コミュニケーションを実践するにあたって、「伝え方」以上に「聴き方」が大事です。

まず「相手の言い分を聴く」ということを意識してください。誰かの意見に賛同できない時に「いや、それは違うでしょう」といきなり反論してしまう人がいますが、これでは意見を言った人は傷つきます。一所懸命考えて言ったことを頭ごなしに否定されてしまうと、「この人には何を言っても無駄だ」と諦めて、考えることをやめてしまうかもしれないし、関係も悪くなります。

まず「あなたは〇〇という考えなのですね」「それも一理ありますね」と相手の言い分を受けとめ、その後に「私はこう思います」と伝えてください。

パワハラを受けた側の望ましい対応や、役立つアサーティブ・コミュニケーション

――――― 一方、パワハラを受けた側の望ましい対応や、役立つアサーティブ・コミュニケーションを教えてください。

パワハラを受けた人たちが「NO」と言えるようになっていくことも大事です。

「そういう言い方をされて私は傷つきました。ひどく落ち込んでしまいました」とアサーティブに伝えると、相手の行動変容を促すことができます。パワハラを受けると心にダメージを負うので、相手に直接メッセージを送ること自体が難しいと思います。口頭で伝えるのが難しいならメールや手紙でもいいのです。アサーティブに伝える勇気を持っていただきたいです。

というのも、日頃、パワハラを受けた人のカウンセリングを行っているのですが、泣き寝入りをしてしまう人が多いのが現状です。「関係者に動いてもらって解決する」または「ハラスメントの窓口に相談する」といった提案をしても、「大ごとにしたくないので、このままで」と答えるのです。

「行動を起こすともっとパワハラがエスカレートするかもしれない」「会社での立場が危うくなるかもしれない」こうした不安や恐怖から、そのように判断する気持ちは理解できます。ですから、できれば火種が小さいうちに対処することを勧めます。パワハラというのは、受けているほうが我慢し続けていると、エスカレートすることもあるのです。

中には、相手の言い分をしっかり聴き取ることができていないがゆえに攻撃されているケースもあります。自分の気持ちや要望を伝えるのと同時に、相手が自分に何を伝えようとしているのかをしっかり聴いてみてください。ただ言われっぱなしでいるのではなく、もし相手の言う内容がよくわからなければ「今、おっしゃったのはこういうことでしょうか?」と確認することをお勧めします。相手の言い分にしっかり耳を傾け、相手を慮りながら自分の想いを伝える。これもアサーティブ・コミュニケーションです。

それでも改善されなければ、ハラスメント窓口への相談などしかるべき対応をとっていきましょう。

アサーティブ・コミュニケーションを活用して職場環境を改善できた事例

――――― パワハラ以外で、アサーティブ・コミュニケーションを活用して職場環境を改善できた事例はありますか?

よく相談を受けるケースに「他部署のメンバーとの衝突」があります。同じ会社といってもそれぞれの部署に事情はありますが、それを無視することで生じるトラブルです。

先日、事務職の女性から「営業の人が午後3時くらいにやってきて、『明日お客さんに出すから、午後6時までに必要な資料をまとめておいて』と幾度となく言われて困っている」という相談を受けました。彼女は、他の仕事もあって大変な中、お客さんに迷惑をかけてはいけないと思い、なんとか対応していましたが「営業側はこちらの都合を考えていない」と、かなりイライラしている様子でした。

そこで解決策としてアサーティブ・コミュニケーションを活用した対応を提案しました。まずはどこまでなら受けられるかという「線引き」です。自分の中での線引きが曖昧になっているから、相手に振り回されている感じがしてイライラするのです。まずはこちらの線引きをはっきりさせて、ここまではできるけど、ここからはできないと主張することが重要だと伝えました

私の提案を受けて、彼女が「他にも仕事があるので、12時までに依頼されたものについては当日中に対応しますが、それ以降の場合は翌日になります」と営業の人に伝えたところ、もう無理難題を言ってこなくなったそうです。営業側も事務の人が迷惑しているということがわかっていなかったのかもしれません。「こんなの非常識でしょ」と心の中で思っているだけで、我慢してやりつづけていると、結果として自分を苦しめることになってしまいます。

カウンセリングにおいても、相談者が「こうするのが普通じゃないですか」「それって常識ですよね」と話すことがしばしばあります。しかし、自分の「普通」「常識」は万人の「普通」「常識」ではありません。だから「私はこう考えています」と、お互いに伝え合わないとうまくいかないのです。誰しも「普通はこうだよね」とパッと頭に浮かんでしまうものですが、一旦深呼吸をして冷静に考えてみる、そうした意識づけをしてほしいと思います。

次回、「テレワークでのコミュニケーションの質を高める方法」に続く>>

<< 1回目の記事「アサーティブ研修が企業に必要とされる背景とは?」を読む

プロフィール

船見敏子

株式会社ハピネスワーキング代表取締役。
公認心理師、1級キャリア・コンサルティング技能士。
企業、組織でメンタルヘルス・コンサルティング、従業員カウンセリング、研修などを実施し、「幸せに働く」「幸福経営」のサポートを行う。著書に『幸せなチームのリーダーがしていること』、『課長のほめ方の教科書』、『「聴く力」磨けば人生うまくいく!』など。

※当記事は2022年5月に作成されたものです
※当記事内のインタビューは、2022年3月に行われたものです。