メンタルヘルス・ハラスメント
メンタルヘルス 2022/06/08

テレワークでのコミュニケーションの質を高める方法~ハラスメント防止、テレワークでのコミュニケーションに役立つ「アサーティブ・コミュニケーション」3~

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

ティーペック研修講師で、数多くの企業でアサーティブ研修を行う船見敏子さん(株式会社ハピネスワーキング代表)に、パワーハラスメント(以下、パワハラ)やダイバーシティ、心理的安全性の面から注目される、アサーティブ・コミュニケーションについてインタビューを行いました。今回は、今後もますます増えていくテレワークの場で、すぐに使えるアサーティブ・コミュニケーションを教えていただきました。

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<目次>
◆テレワークのコミュニケーション不足は、質で補う
◆すぐに実践できる テレワークで役立つアサーティブ・コミュニケーション
◆あらゆる場面で効果を発揮する、アサーティブ・コミュニケーション

テレワークのコミュニケーション不足は、質で補う

――――― ここ数年で一気にテレワークが進みましたが、以前よりもコミュニケーションをとるのが難しくなったと感じています。

テレワーク化により、対面でのコミュニケーションが減り、ビデオ会議システムやメール、チャットといったツールを利用した非対面でのコミュニケーションが増えました。

ビデオ会議システムを使うことで、画面越しでも顔を合わせて話すことはできます。しかし対面コミュニケーションの代わりになるわけではありません。例えば「雑談」。対面でも雑談が苦手な人が増えていますが、ビデオ会議システムではさらにハードルが高くなるので、表面的な付き合いはできても、ある程度深く付き合って相手の人となりを知ることは、今後ますます難しくなると感じています。

また、ビデオ会議では一度にひとりしか話すことができないため、会話量が減る傾向があります。対面だったら言えるようなことも画面越しだと言えずに言葉を飲み込んでしまう人も多いのではないでしょうか。こうしてテレワークで減ったコミュニケーションの量をどう補うのか。それはコミュニケーションの質を上げることだと思います。回数や時間が減った分、オンラインであっても質の良いコミュニケーションをとっていくことが大事です。

――――― テレワークにおいて、質の良いコミュニケーションをするためにはどういうスキルが求められますか。

これまでアサーティブ・コミュニケーションの手法として、相手の枠組みを知るための「聴くスキル」と、自分の考えや主張を、相手を傷つけずに「伝えるスキル」の2つについて話してきましたが、テレワークでは、メール、チャットといった文字によるコミュニケーションが増えることから「書くスキル」を3つ目に加えてください。

「聴く・伝える・書く」この3つのスキルが今後ますます重要になってきます。

すぐに実践できる テレワークで役立つアサーティブ・コミュニケーション

――――― 「書くスキル」というのは、アサーティブ・コミュニケーションを活用したものでしょうか。

はい。メールやチャットで言いにくいことを伝える時に役立つ3ステップがあるので紹介します。

<文章で言いにくいことを伝える3ステップ>

ステップ1:現在の状況を説明
ステップ2:そのことによって起きている問題を説明、自分への影響を伝える
ステップ3:相手への要望をIメッセージで伝える(できれば要望は、実現可能な、自分と相手の双方に都合がいい内容で)

では、具体的な事例に当てはめていきます。

(事例1)管理職から若手社員へ:部下が締め切り、約束を守らないので困っている

ステップ1:現在の状況を説明

締め切りは今日までだけど、まだ終わっていないですよね。前にも何回か同じことがありましたが、覚えていますか?

ステップ2:問題の説明、自分への影響を説明

あなたが締め切りを守らないと、私は心配になるし、ハラハラする。また、あなたが遅れることでチーム全体の仕事の流れが停滞してしまいます。

ステップ3:相手への要望をIメッセージで伝える

今後もし遅れそうだったら、必ず前もって連絡してほしいです。そうすれば私からもアイデアが出せるし、手伝うこともできるので。

(事例2)若手社員から管理職へ:今、任されている仕事の量が多すぎて、限界を超えてしまっている

ステップ1:現在の状況を説明

今、A~Eの案件を任されていますが、あまりに量が多いため、手が回らず困っています。

ステップ2:問題の説明、自分への影響を説明

その結果、残業時間が増え、睡眠時間も短くなり、体調へも影響が出ていて、私は辛く感じています。

ステップ3:相手への要望をIメッセージで伝える

今抱えているA~Eの案件のうち、A~Cについては責任を持って対応しますが、DとEについては、どなたか別の人に担当を変えてもらえると助かります。

――――― この3ステップを使えば、相手を傷つけることなく言いにくいことが簡潔に伝えられますね。この手法は書く時だけではなく、話す時にも使えますか。

話す時にも使えるのですが、書く時に比べて難しいので、伝えたい内容をシナリオとしてあらかじめ作っておくといいでしょう。そして自分ひとりで練習をしてから相手に伝えます。何回か実践して慣れてくると、シナリオを使わなくても言えるようになりますので、ぜひ試してみてください。

――――― テレワークの中でも、ビデオ会議システムだとうまくコミュニケーションがとれないという話をよく耳にします。コミュニケーションの質を高めるコツを教えてください。

まず私が気になっているのはリアクションです。誰かが話していても全く表情を変えない、うなずきもしない。そういう人がかなりいます。また年齢を重ねると顔のたるみも手伝って、普通にしていても怒っているように見えてしまいます。話し手が発言しやすい環境を作るには、まず笑顔、口角を意識して上げましょう。そしてうなずきや手を上げるといったリアクションを対面以上に積極的に。まずは見た目を整えることが大事です。

そしてチーム内の会議でありがちなのが、発言する人が固定しがちだということ。若手は対面の会議でも意見を言いにくいですが、ビデオ会議ではますます話しづらい様子が見受けられます。ファシリテーター役の人が、「〇〇さんはどうですか」と話をふって、いろいろな参加者が意見を言いやすい状況を作りましょう。そして誰かが意見を言ったら、否定せず、まずは受け止めることが大事です。

あらゆる場面で効果を発揮する、アサーティブ・コミュニケーション

――――― パワハラ防止はもちろん、アサーティブ・コミュニケーションが多岐に渡り役立つことがわかりました。最後に船見さんからこの記事を読んでいる皆さんにメッセージをお願いします。

私が初めてアサーティブ・コミュニケーションを学んだ時に、一番目から鱗が落ちたのは、言いにくいことこそ相手にストレートに伝えたほうが、関係性が良くなるということでした。

例えば、プライベートで恋人が電話をくれない時、「なぜ電話をくれないの?」と不満を訴えてもうまくいかないという話をよく聴きます。これをIメッセージで変換すると「あなたから電話がもらえなくて私はさみしい」となります。「さみしい」という素直な気持ちを相手に届けると、受け取った側も「さみしい思いをさせてごめん。これからは電話をするよ」と素直に受け答えをしてくれます。互いに素直な気持ちをやりとりすることができるのです。相手の行動が変わるきっかけになるだけでなく、関係性がグッと良好になります。本音のやりとりをしてこそ、人間関係は濃くなっていくものなのです。

プライベートはもちろん、職場の人間関係においても、信頼関係を築いていくのにアサーティブ・コミュニケーションは大変有効で、必ずあなたにとってプラスになります。今回紹介した内容はすぐに試せるものばかりなので、できるところから取り入れてみてください。

今後、新型コロナウイルスが終息したとしても、テレワークをゼロにして、コロナ以前の働き方に戻す企業は少ないと思います。中には、ほぼテレワークでOKという企業も増えていくでしょう。そうなると、テレワークで減ったコミュニケーションの量を補うために、今回お伝えしたような、「聴く・伝える・書く」といった、コミュニケーションの質を高めるスキルがますます重要となってくると思います。ぜひ多くの方にトレーニングを積んでいただければ幸いです。

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プロフィール

船見敏子

株式会社ハピネスワーキング代表取締役。
公認心理師、1級キャリア・コンサルティング技能士。
企業、組織でメンタルヘルス・コンサルティング、従業員カウンセリング、研修などを実施し、「幸せに働く」「幸福経営」のサポートを行う。著書に『幸せなチームのリーダーがしていること』、『課長のほめ方の教科書』、『「聴く力」磨けば人生うまくいく!』など。

※当記事は2022年6月に作成されたものです
※当記事内のインタビューは、2022年3月に行われたものです。