アサーティブ研修が企業に必要とされる背景とは?~ハラスメント防止、テレワークでのコミュニケーションに役立つ「アサーティブ・コミュニケーション」1~
こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
なかなか減らないパワーハラスメント(以下、パワハラ)、テレワークの増加で難しくなった社内コミュニケーション。こうした問題を解消する方法として、現在、注目されているのがアサーティブ・コミュニケーションです。最近では、ダイバーシティや心理的安全性の向上といった面からも注目されています。
今回は、ティーペック研修講師で、数多くの企業でアサーティブ研修を行う船見敏子さん(株式会社ハピネスワーキング代表)に、アサーティブ・コミュニケーションとはどういうものなのか、企業研修としてアサーション・トレーニングが必要とされる背景について、お話をうかがいました。
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<目次>
◆今、話題のアサーティブ・コミュニケーションとは?
◆企業研修としてアサーション・トレーニングが必要とされる背景
今、話題のアサーティブ・コミュニケーションとは?
――――― アサーティブ・コミュニケーションとはどういうものか教えてください。
アサーション(assertion)とは英語で「自己主張」を意味する言葉ですが、最近注目されているアサーティブ・コミュニケーションは一方的な自己主張ということではありません。相手のことも、自分のことも大事にしながら、自分の感情や考え、要求などを伝えていくことです。
「それはコミュニケーションの基本では?」と思うかもしれませんが、多くの人は、コミュニケーションをとろうとすると、「相手を大事にする」という当たり前のことが頭から飛んでしまい、「自分のことをわかってもらわなきゃ」「言いたいことを伝えなきゃ」という想いで頭がいっぱいになってしまいます。そして、自分が言いたいことを一方的にまくし立ててしまいがちになります。中には、パワハラととらえられてしまうようなコミュニケーションになるケースもあります。一方で、全く逆のタイプ、つまり言いたいことが言えずに我慢してしまう人もいます。
コミュニケーションにおいて、人は大きく3つのタイプに分かれます。
1. 攻撃的なタイプ
……相手を攻撃するような強い言葉を使い、一方的に自分の言いたいことだけを主張してしまうタイプ。
こういうコミュニケーションを続けていると、相手から怖がられて、関わってもらえなくなり、人間関係が崩壊する危険性があります。自分自身も、言いすぎてしまったことを後悔します。
2. 受身的なタイプ
……言いたいことが言えなくて我慢してしまうタイプ。日本人に多い。
自己主張をせずに相手の言いなりになっていると、一見うまくいっているように見えるのですが、『私がこれだけ我慢をしているのに、なぜ気づかないんだ』と心に強い不満をためている人が多いです。ある日不満が限界を超えて、爆発してしまうことも。うつ病といったメンタルの病気、または体の不調を抱える可能性も高まります。
3. アサーティブタイプ
……相手を慮って、自分の感情や考え、要求などを伝えることができるタイプ。
――――― 一般的に1.の攻撃的なタイプや2.の受身的なタイプの人が多いように感じます。
人は皆、自分の価値観を通して物事を判断しています。その人が発する言葉は、自分の枠組み、つまり価値観の中から出ているものなのです。そして人はそれぞれ異なる枠組み、価値観を持っています。同じ物事を目にしていても、人それぞれで感じ方が違うのはそのためです。
こうした理屈も皆さん、頭の中ではわかっているのですが、いざコミュニケーションを取るときには忘れて、自分の枠組みで話してしまうし、自分の枠組みで聴いてしまい、「相手の言っていることをわかったつもり」になってしまっている人が多いのです。
アサーションが「自己主張」という意味なので、アサーティブ・コミュニケーションは「伝え方」のスキルだと理解している人が多いのですが、実は伝え方だけではなく、相手の言い分を聴き、相手の枠組みや価値観を理解するという「聴き方」の側面もあるのです。相手の枠組みを理解した上で、伝えたいことを、相手を傷つけないように、慮りながら伝えていくのがアサーティブ・コミュニケーションであり、これが双方向で行われることが望ましいといえます。
企業研修としてアサーション・トレーニングが必要とされる背景
――――― アサーティブ・コミュニケーションが生まれたのはどういった経緯からでしょう。
アサーティブ・コミュニケーションが生まれたのはアメリカです。1950年代に対人関係が苦手な人を対象にした手法として開発されました。その後、1960年代、70年代には公民権運動、女性解放運動が起こりましたが、それまで差別の対象とされてきた有色人種や女性が声を上げる際、アサーティブ・コミュニケーションが活用されたという歴史があります。人権回復に有効な手段として、アメリカにおいて広まりをみせました。
アメリカではよく知られているアサーティブ・コミュニケーションですが、日本では約40年の歳月をかけ、少しずつ知られるようになってきました。
――――― 船見さんは、多くの企業で「アサーション研修(アサーション・トレーニング)」をなさっていますが、どのような目的で依頼されることが多いですか?
圧倒的に多いのは、パワハラ防止を目的にしたものです。次に多いのがダイバーシティ。「いろいろな個性や考え方を大事にするために、アサーティブ・コミュニケーションを知って、実践するのが良い」という理由から依頼を受けます。
ここのところ増えてきているのが「心理的安全性の確保」という目的です。どのような意見を言っても馬鹿にされたり、見下されたりせず、全ての人が受け止めてくれる安全な環境であることが、チームのメンバー間で共有されている状態を「心理的安全性が確保されている」といいます。
「心理的安全性」という言葉が注目されたのは、グーグルが2012年から2015年にかけて行った「生産性の高いチームに関する調査」で、「心理的安全性が確保されているチームは生産性が高い」と発表したことがきっかけでした。日本でも経営者や人事に携わる人を中心に関心が高まり、2020年には「心理的安全性のつくりかた」(日本能率協会マネジメントセンター)という書籍が発行されて話題を集めました。
少しずつ変化はしてきているものの、日本には未だに忖度文化があります。しかし、言いたいことがあっても言えないような状況を無くしたいという動きが広がってきているのは確かです。
パワハラとまでは言わないけれど、意見をすぐ否定されてしまったり、反映されないことが続いてしまったりすれば、生産性も落ちてしまいますし、ストレスチェックの「活気」や「働きがい」といった項目にも影響がでてしまいます。
全ての人がアサーティブ・コミュニケーションを実践できるようになれば、心理的安全性も高まり、結果として生産性が上がるのではといった期待もあると思われます。
次回、「パワハラや職場環境の改善に役立つテクニックを解説!」に続く >>
プロフィール
船見敏子
株式会社ハピネスワーキング代表取締役。
公認心理師、1級キャリア・コンサルティング技能士。
企業、組織でメンタルヘルス・コンサルティング、従業員カウンセリング、研修などを実施し、「幸せに働く」「幸福経営」のサポートを行う。著書に『幸せなチームのリーダーがしていること』、『課長のほめ方の教科書』、『「聴く力」磨けば人生うまくいく!』など。
※当記事は2022年5月に作成されたものです
※当記事内のインタビューは、2022年3月に行われたものです。