健康経営
喫煙対策 2018/05/28

就業時間外も社員に禁煙を強制できる? ~タバコ休憩、休憩時間中、通勤時間、私生活上の禁煙~

昨今では、就業時間のみならず休憩時間も含めて、全面的に喫煙を禁止する会社も出てきました。このように社員を禁煙させることは、違法にはならないのでしょうか?
今回は、休憩時間も含めて禁止するケース、就業時間外も含めて全社員に禁煙を要請するケースについて弁護士の岡本光樹先生に伺いました。

なお、就業時間中の禁煙、及び、喫煙者の不採用については、前回記事をご覧ください。
https://t-pec.jp/work-work/article/222

【質問】休憩時間中や通勤時間中や私生活上においてまで社員に禁煙させるのは違法ではないのでしょうか?

1 労働時間中の「タバコ休憩」

就業時間中の喫煙離席の禁止については、前回解説しました。(参照: https://t-pec.jp/work-work/article/222)「タバコ休憩」等と呼ばれることがありますが、大抵の場合、労基法上の「休憩時間」ではなく、「労働時間」中の離席です。
職務専念義務に照らして、労働時間中の喫煙の禁止は、必要性及び合理性が認められる場合が多いと考えられます。

2 法律上の「休憩時間」

労働基準法では、労働時間が6時間を超え8時間以内につき45分間、労働時間8時間を超える場合につき1時間の「休憩時間」を与えなければならないこととされています(労働基準法34条1項)。
この「休憩時間」は、「一斉付与の原則」や「自由利用の原則」が定められています(同条2項・3項)。

3 具体的な検討

休憩時間、通勤時間、私生活上の喫煙禁止について、以下、具体的に検討します。

(1)企業の敷地内 休憩時間中又は通勤時間中

労働者は、休憩時間中、労働から解放されて、休憩時間を自由に利用することができますが、事業場内での秩序維持義務まで免除される訳ではありません。最高裁判例においても、労働者は、使用者の企業施設管理権や企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れないと判示されています(最高裁昭和52年12月13日判決・電電公社目黒電報電話局事件。休憩時間中の事業場内におけるビラ配布行為を制限する就業規則の合理性を認め、懲戒戒告処分を有効とした)。
また、通達においても、「休憩時間の利用について事業場の規律保持上必要な制限を加へることは休憩の目的を害さない限り差し支へないこと。」とされています(昭和22年9月13日・発基第17号・法第三四条関係(三))

以上を踏まえて、休憩時間中や通勤時間中であっても、企業の敷地内においては、使用者の施設管理権及び企業秩序維持権限に服し、敷地内禁煙とされていれば、それに従う義務があると考えられます。

(2)休憩時間中又は出勤時間中の敷地外における喫煙 サードハンドスモークによる業務への支障

敷地外には使用者の施設管理権は及びませんが、上記最高裁判例は、「また、従業員は労働契約上企業秩序を維持するための規律に従うべき義務があり、休憩中は労務提供とそれに直接附随する職場規律に基づく制約は受けないが、右以外の企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れない。」と判示しており、労働者は、休憩時間中もやはり使用者の企業秩序維持権限に服し、喫煙規制に従う義務があると考えられます。
もっとも、その必要性や合理性は、前記1「労働時間中」や上記(1)「企業の敷地内」に比べて、厳格に判断されると考えられます。

この点、ファミリーレストランの某大手企業A社が、本社従業員の通勤路での歩きタバコや会社周辺のコンビニ前などでの喫煙を禁止した(ただし、罰則は設けない)という報道がありました。
これに対して、インターネット上で、「労働時間外における喫煙行為を『禁止』まですることは行き過ぎた制約と考えます」「禁煙の『推奨』を超えて、職場外における喫煙を『禁止』まですることは、たとえその違反に対して制裁を伴わないものであったとしても、社員の私生活への過度な介入と評価される可能性があります」という弁護士の見解もあります。
また、インターネット上で、「勤務時間外にまで喫煙を禁止することは、不可能」と述べる弁護士も見られます。

しかし、これらの弁護士見解は、妥当でないと考えます。
上記及び後述の最高裁判例によれば、労働時間外だからといって、企業秩序維持権限が及ばない訳ではありません。労働時間中や敷地内に比べれば、労働者の人格や自由に対する配慮が一層要請されますが、必要かつ合理的なものである限り、企業秩序による規制が及びます。
要するに、労働時間外だから規制は不可能といった短絡的な考え方は、判例に照らして誤っており、個別具体的に、規制の必要性・合理性を検討し、それ次第で、規制が正当化される場合もあるというべきです。

例えば、奈良県生駒市では、喫煙した職員は「45分間、エレベーター利用禁止」とする受動喫煙対策を今年(2018年)4月1日から導入したとのことです。喫煙後の息に含まれる有害な成分を周囲の人が吸い込む(三次喫煙・サードハンドスモーク)のを防ぐ目的で、喫煙者の喫煙後の息(呼気)に含まれる「総揮発性有機化合物」(Total VOC)の濃度が通常レベルまで減るには45分かかるという産業医科大学などによる研究の結果を踏まえ、この45分間という時間を決めたとのことです。
また、北陸先端科学技術大学院大学(石川県)では、昨年(2017年)10月1日より敷地内全面禁煙とし、さらに喫煙してから45分間は敷地内への立ち入りを禁じたとのことです。学生のみならず、職員も対象です。
このように、喫煙後も呼気(息)から有害な成分が出続け、他者に迷惑や苦痛を及ぼすことを踏まえれば、休憩時間中に「他の労働者の休息を妨げてはならない」こと、また、休憩後の勤務時間に「他の職員がその注意力を職務に集中することを妨げるおそれ」があることを理由に、休憩時間中の喫煙についても禁止することが正当とされる場合もあると考えます。

アルコール飲酒の場合ですと、出勤前や休憩時間といった労働時間外に企業秩序維持権限が及ばないといった主張は通用しません。当然、後続の勤務時間における悪影響や支障を考えます。
タバコ喫煙に関しても、後続する勤務時間における他者への悪影響や業務への支障を考慮すべきです。

(3)私生活上の喫煙行為と企業秩序及び企業の社会的評価

従業員の職場外における私生活上の言動については、上記(2)「休憩時間中又は出勤時間中の敷地外における喫煙」に比べて、より一層、労働者の人格や自由に対する配慮が要請されますが、かと言って、使用者の企業秩序維持権限が一切及ばない訳ではありません。
判例によれば、従業員の職務遂行に関係のない職場外の行為であっても、企業秩序に直接関連するもの及び企業の社会的評価を毀損するおそれのあるものは、企業秩序による規制の対象となる旨判示されています(最高裁昭和49年2月28日判決・国鉄中国支社事件、懲戒免職有効。最高裁昭和58年9月8日判決・関西電力事件、譴責処分有効。)

次のような場合には、企業秩序を乱すおそれ、あるいは、企業の社会的評価を毀損するおそれがあり、使用者が喫煙を制限し得ると考えられます。
たとえば、
・終業時刻後に、得意先等を接待して行う飲食会・宴会や従業員同士で行う懇親会・宴会等(いずれも原則として労働時間でないと解されています。)において、受動喫煙を生じさせる態様で喫煙する場合
・休憩時間中又は通勤中に、勤務先企業が容易に特定されるような態様で、路上喫煙禁止条例に違反して喫煙し、勤務先企業の社会的評価を毀損するおそれがあるような場合
・健康や医療への貢献を標榜している企業において、制服や社員証を着用したまま、社外で喫煙し、取引先や第三者からの苦情が当該企業に寄せられているような場合

他方で、特に必要性や合理性なく、特に企業秩序を乱すおそれがないにもかかわらず、従業員の休日の私生活上の喫煙を禁止するような場合は、行き過ぎた拘束として、命令や規則が無効・違法となる可能性があります。

4 まとめ

喫煙者を採用しない自由はあるが(参照: https://t-pec.jp/work-work/article/222)、既雇用の喫煙者従業員に禁煙させることは法的に難しいと言われることがあります。
しかし、労働時間外は喫煙規制が不可能といった短絡的・表層的な考え方は、最高裁判例に照らして誤っています。
労働時間、休憩時間、通勤時間、会社関連の宴会、休日など、それぞれの場面について、いずれも個別具体的に、喫煙規制の必要性・合理性を検討する必要があります。
企業秩序との関連性の程度、他方、従業員の職場外の私的側面の強弱といった連続的な要素に照らして検討する必要があり、一律の線引きで外形的に決まるものではありません。
喫煙規制の必要性・合理性に関する個別具体的な内容(サードハンドスモーク防止や企業の社会的評価など)や当該企業の実情(会社の目的や方針等)や喫煙者労働者への配慮(周知期間・周知方法、禁煙支援、過去の取組み経緯など)によって、正当化される規制内容や懲戒処分は異なり得ます。

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参考
・「喫煙後45分間はエレベーター使用禁止!?喫煙ルールの背景や効果を解説」
https://t-pec.jp/work-work/article/225
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岡本総合法律事務所 
弁護士 岡本 光樹(おかもと・こうき)先生

2005年東京大学法学部卒業、2006年に弁護士登録。
森・濱田松本法律事務所にて、ファイナンス、M&A、一般企業法務、労働事件等に取り組んだ後、2008年に小笠原国際総合法律事務所に移籍。倒産案件・企業再生案件、会社法訴訟案件、労働法務・労使紛争(使用者側・労働者側いずれも受任。裁判・仮処分・労働審判・あっせん)、労災行政訴訟事件等を多数担当。
2011年9月に岡本総合法律事務所を開業。上場会社の社外監査役、中小企業の顧問等務めつつ、個人の法律相談や訴訟も受任。
2017年7月に東京都議会議員に就任。
公益活動として第二東京弁護士会 人権擁護委員会 副委員長、及び、同委員会 受動喫煙防止部会 部会長を務める。
日本禁煙学会理事。
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※当記事の内容は、弊社運営のWebサイト『禁煙の教科書』に2018年5月28日に掲載された当時のものです。

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