喫煙後45分間はエレベーター使用禁止!?喫煙ルールの背景や効果を解説
最近、喫煙後45分間エレベーターの使用禁止、敷地内立ち入り禁止などのルールを設ける喫煙対策が話題になっています。このようなルールを設ける背景や、受動喫煙・三次喫煙防止対策としての効果について、産業医科大学の大和先生より専門家のお立場から解説いただきました。
喫煙後、45分間ルールとは?
奈良県生駒市は5階建てで、地下駐車場の一角に喫煙コーナーがあります。2018年4月、「喫煙した職員は、その後45分間、エレベーターを使用してはならない」というルールが始まり、多くのメディアに紹介されました。生駒市の保健師が喫煙対策講習会で「喫煙後、45分間は呼気に有害物質が吐き出されている」ということを聞き、安全衛生委員会にこのルールを提案したところ、採用されたとのこと。
生駒市に先行し、2017年10月、北陸先端科学技術大学院大学でも「喫煙後45分間は敷地内に入ってはならない、駅前から大学への連絡バスに乗ってはいけない」という同様のルールが開始されていました。
「45分間」は産業医科大学が示した実験結果です。喫煙者の呼気に含まれる総揮発性有機化合物(Total Volatile Organic Compounds: TVOC)を以下のよう様に測定しました(TVOCは、シックハウス症候群の調査等で測定される指標)。
・タバコを吸う前のTVOCを測定
・屋外に出てタバコを1本喫煙
・その後の呼気のTVOCを5分おきに測定
実験の結果、呼気中のTVOC濃度が喫煙前の状態に戻るまで45分かかりました(10分後の息は吐き方が弱く値が低い)。喫煙する人は1時間に1本のタバコを吸うと仮定すると、喫煙者の呼気は1日中タバコ臭い、という客観的なデータが得られたので、実験は終了しました(測定に協力してくれた人の仕事の妨げになりますので)。
この現象は「残留たばこ成分」として、厚生労働省健康局長通知「受動喫煙防止対策の徹底について」(健発1029第5号、平成24年10月29日)に、自治体は啓発に努めるべきことが述べられています。口腔~気管・気管支の粘膜に付着したタールから揮発するガス状成分も残留たばこ成分であり、科学論文では”Third-hand smoke”、「三次喫煙」と定義されます。
喫煙直後の人は息がタバコ臭く、エレベーターに乗り合わせると、気管支喘息や化学物質過敏症の人は発作が起きます。ニオイに敏感な妊婦は吐き気を感じます。健常な人にとっても、多くの人が不愉快に感じています。
市役所のような公共施設は、過敏症がある人や妊婦や乳幼児のようなタバコに弱い人たちも手続きのために行かざるを得ない場所です。特に、エレベーターのような狭い閉鎖空間にタバコ臭を持ち込ませないことは、すべての人たちが安心・快適に施設を利用できるという観点から大切なことです。
奈良県は生駒市のルールをさらに発展させ、「喫煙した職員は、喫煙後の時間を問わずエレベーターを使用しないこと」と発表しました。勤務日は朝から吸えない、もしくは、エレベーターは使えないことになり、タバコをやめるきっかけになることでしょう。特に、高層ビルにある会社でこのルールが採用されれば、多くの喫煙者が禁煙せざるを得なくなることが期待できます。対策費用もかかりません。
タバコ臭い息で営業先を訪問することは取引先に悪印象を与えます。筆者の研究室では、タバコ臭い業者さんは部屋に入れません。その人が帰った後、部屋にタバコのニオイが残るからです。納品のサインや押印はすべて廊下で行います。そういうことを数回繰り返すと、用もないのにやって来て「先生、タバコをやめることが出来ました。タバコ臭いと指摘していただき、ありがとうございました」と嬉しそうに報告に来た人が数名います。
喫煙者に「あなたはタバコ臭いです」と指摘すること、そのような状態で職場に戻ることや営業先に行くことを会社として制限することは、強力な禁煙の動機付けになるのです。
その人のために、「タバコ臭いです」「三次喫煙ですよ」と声を掛けていきましょう。
※「上記は娘(寛子)のイラストです。小遣いをあげて著作権は買い取っております。
エレベーター内に掲示するなど啓発の目的でご自由にお使い下さい」(大和教授)
***********************
産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室 教授
大和 浩(やまと ひろし)先生
1960年4月生まれ、3男2女
資格:医学博士、労働衛生コンサルタント、日本産業衛生学会認定指導医
趣味:喫煙対策、運動、ヨット
<職務経歴>
昭和61年、産業医大卒。
呼吸器内科(6年間)を経て、労働衛生工学研究室にてアスベスト代替繊維の生体影響、効果的で安価な作業環境改善(解剖学実習室のホルムアルデヒド対策等)、職域の喫煙対策、社会全体の受動喫煙対策(医歯学部と大学病院の敷地内禁煙、地方自治体の建物内禁煙、JRの特急や新幹線、タクシーの禁煙化、サービス産業従業員の受動喫煙)の調査と評価について研究。
平成18年より現職。多忙な勤労者が運動習慣を獲得・維持できる職場環境の整備と指導方法の改善、その効果について研究。
現在、喫煙者の健康のために、喫煙しにくい環境づくり=建物内・敷地内禁煙+就業時間中の喫煙禁止を広めるべく、全国の自治体と企業に情報を提供中。
喫煙対策HP:http://www.tobacco-control.jp/
***********************
※当記事の内容は、弊社運営のWebサイト『禁煙の教科書』に2018年5月14日に掲載された当時のものです。