成果が上がる健康経営のポイント~森晃爾教授書き下ろし!知っておくべき健康経営のエッセンス2~
産業保健経営学がご専門で、健康経営の推進に尽力される、産業医科大学教授の森晃爾先生書き下ろしシリーズの第2回目は、健康経営に取り組まれるご担当者様であれば誰でも気になる、「成果が上がる健康経営のポイント」をお届けします。
(以下、森晃爾先生執筆)
せっかく健康投資を行うのであれば、是非とも成果を上げたいところです。むしろ成果が上がらなければ健康経営の取り組みも長続きしないはずです。
健康経営の成果を上げる条件
それでは、健康経営の成果を上げるためには、どのような条件を満たせばいいのでしょうか。少なくとも、以下の条件が必要ではないかと考えています。
①解決すべき課題が明らかになっている。
②課題解決に対する有効性が確かめられたプログラムが適切な方法で提供されている。
③多くの従業員がプログラムに参加し、取り組みにコミットしている。
④課題解決の過程および結果について、適切な指標で評価されている。
⑤評価結果に基づき、プログラムが継続的に改善されている。
これらの5つの条件は、書いてみると当たり前のことのように思われます。しかし、これらの条件が確実に揃っている取り組みは意外と多くないのです。これらの条件を満たすためには、予め企画段階でこれらの条件を盛り込み、意識してプロセスを踏むことが重要です。ここでは、5つの条件のうち、③と④について説明したいと思います。
多くの従業員がプログラムに参加し、取り組みにコミットしている
ヨーロッパで行われたある研究において、同じプログラムを様々な企業に提供したところ、従業員の参加率が0.07%~100%と極めて大きな差があったことが報告されています。このような差を生み出す背景として、プログラムの充実度や参加のためのインセンティブよりも、経営層のコミットメント、事業への統合、経営者・管理職などの各層のリーダーシップといった要因の影響が大きいことが分かっています。すなわち健康経営では、専門スタッフを確保して、充実したプログラムを提供するといった金銭的投資だけでなく、健康経営の方針を宣言した経営トップがリーダーシップを発揮するとともに、管理職が事業の一環として従業員の健康づくりを支援できるような環境を作るといった取り組みを行うことが、成果に結び付けるために大変重要です。
健康経営度調査の質問では、健康経営方針の明文化、経営レベルの会議での議題化、経営トップ自らの取り組み、管理職に対する取り組み、職場の健康経営推進担当者の設置といった項目が相当し、令和2年版ではこれらの質問が強化されました。つまり、成果が上がる健康経営の仕組みを持つ企業を高く評価していこうとする意図の表れです。
課題解決の過程および結果について、適切な指標で評価されている
課題解決の過程や結果については、しばしばどのように評価していいか分からないとの声を聞きますが、健康経営で求めている評価は比較的容易です。
評価には、「優劣をつけるための評価」「有意性を検定するための評価」「目標の達成状況を確認するための評価」などがあります。
健康経営では、継続的改善に繋がる目標の達成状況の評価を目的とします。このタイプの評価では、予め施策の目的にあった評価指標と目標値からなる目標を決め、評価指標のモニタリング方法を企画に盛り込んでおくことによって、目標値の達成の成否が簡単にできます。むしろ難しいのは、それぞれの企業においてどのような評価指標を選ぶかです。
健康投資管理会計ガイドラインで最初に作成することが求められている戦略マップは、健康課題が健康投資によって解決する道筋を想定するためのツールで、このマップをもとに健康投資効果の指標を検討するとよいでしょう。
出典:経済産業省「『経済康投資管理会計ガイドライン』を策定しました」(2020年6月12日)
https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200612001/20200612001.html
また、シリーズ1でもご紹介したとおり、「健康投資施策の取り組み状況に関する指標」、「従業員などの意識変容・行動変容に関する指標」、「健康関連の最終的な目標指標」の3つの段階の指標が用意されています。
それぞれ「アウトプット評価」「パフォーマンス評価」「アウトカム評価」に相当します。
これらの指標から、重要性や測定可能性などを勘案して、実際の評価に使用する評価指標を選ぶことをお勧めします。そして、目標が達成されればより高い目標を設定したり新たな課題に挑戦したりする、達成できなければ原因を検討して改善を図るという⑤の条件に進めば、間違いなく成果の向上に繋がります。
※ 「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
【森晃爾教授書き下ろし!知っておくべき健康経営のエッセンス】
・シリーズ1 健康投資管理会計とは?
https://t-pec.jp/work-work/article/192
・シリーズ3 健康投資の内容とその成果
https://t-pec.jp/work-work/article/194
・シリーズ4 健康資源-特に無形資源とは。そして、企業・社会的価値の創造
https://t-pec.jp/work-work/article/195
・シリーズ5 健康投資管理会計の運用と展開
https://t-pec.jp/work-work/article/196
森 晃爾(もり こうじ)教授
産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学 教授
1992年~11年に外資系石油会社において産業医活動を実践した後、2003年から産業医科大学産業医実務研修センター所長、12年から現職。また、2005年~10年同大学副学長。健康・医療新産業協議会、同健康投資ワーキンググループ主査、健康経営度調査事業基準検討委員会座長等として健康経営の推進に関与している。
※産業医科大学は1978年に建学され、産業医学・産業保健学の分野で日本をリードする大学です。
※当記事は2020年12月に作成されたものです。