健康経営
健康経営 2021/01/18

健康投資管理会計とは?~森晃爾教授書き下ろし!知っておくべき健康経営のエッセンス1~

企業などが健康経営に取り組み、PDCAサイクルを廻し、スパイラルアップしていくために、知っておくべき健康経営のエッセンスを、産業保健経営学がご専門で、健康経営の推進に尽力される、産業医科大学教授の森晃爾先生に書き下ろしていただきました。全5回シリーズの第1回目は、「健康投資管理会計とは?」を届けします。
(以下、森晃爾先生執筆)


企業活動を可能な限り正確に記述する方法として会計という手法があります。財務会計が一般的であり、企業活動を金銭で表す方法です。しかし、企業活動には金銭化することが困難であったり、馴染まない活動も少なくありません。

最近の企業は、社会的課題の解決への貢献が求められるようになっており、財務会計では表現することが困難な活動を記述する要求が高まっています。この領域には、CSR会計や環境会計などがあり、取り組みやその成果を可能な限り金銭として表すことを目指しています。しかし、それが困難な場合には定量指標として、さらに必要に応じて定性指標として表現することになっています。健康投資管理会計もその一種であり、企業が行う従業員への健康投資を、会計手法を用いて表そうとするものです。
経済産業省は、2020年6月に健康投資管理会計ガイドラインを公表しました。

健康投資管理会計ガイドラインの目的

経済産業省はガイドライン策定の目的を、「健康経営をより継続的かつ効率的・効果的に実施するために必要な内部管理手法を示すとともに、取り組み状況について企業などが外部と対話する際の共通の考え方を提示するためのもの」としています。

内部的な目的で用いる場合には、あくまでもガイドラインをグッドプラクティスとして参考にして、各社独自の指標を用いて戦略立案、施策立案・実施、評価・改善といった流れを記述すればいいのですが、対外的な目的で用いる際、特に投資家との対話においては、可能な限り標準的な方法で記述することが必要になります。

健康投資管理会計は、

健康投資、健康投資効果、健康資源、企業価値、社会的価値

という5つの要素からなり、概ね次のような流れを想定し、健康経営を記述することを求めています。

①企業には健康経営の土台・基盤となる経営理念が存在し、その実現のために健康経営によって解決したい経営課題を明確にする。
②経営課題に繋がる従業員などの健康課題を明確にし、それに優先順位をつける。
③健康課題を解決するために、健康投資を戦略的に行う。
④健康投資の結果で得られる効果および蓄積する資源を評価する。
⑤評価結果をもとに、健康経営によって解決したい経営課題および従業員などの健康課題の解決状況を確認する。
⑥健康経営の取り組みによって発生する波及価値として、企業価値の向上と社会的価値の創造を想定し、モニタリングする。

健康経営の取り組みの流れを表した図・全体像

健康投資には費用として計上される人件費や外注費、減価償却費として計上される資産に対する投資があります。また、健康投資効果は「健康投資施策の取り組み状況に関する指標」、「従業員などの意識変容・行動変容に関する指標」、「健康関連の最終的な目標指標」で構成されます。健康投資管理会計の流れは、投資から効果までのフローに加えて、投資の結果、蓄積する健康資源を定義していることが一つの特徴です。健康資源には人的健康資源(ヘルスリテラシーと健康状態)、環境健康資源(有形資源と無形資源)が規定されています。

今後、健康投資管理会計を実施することによって、健康経営の取り組みがより戦略的になるとともに、企業内外においてこの共通の言語を利用して、コミュニケーションが深まることが期待されます。また、中小企業においては、精密な健康投資管理会計を作成することは困難であったり、必ずしも意味を持たないかもしれません。しかし、この流れでこれまでの取り組みを従業員の意見など質的に整理してみてはどうでしょうか。表現することで、いろいろなことが見えてくるでしょう。

※ 「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

【森晃爾教授書き下ろし!知っておくべき健康経営のエッセンス】
・シリーズ2 成果が上がる健康経営のポイント
https://t-pec.jp/work-work/article/193

・シリーズ3 健康投資の内容とその成果
https://t-pec.jp/work-work/article/194

・シリーズ4 健康資源-特に無形資源とは。そして、企業・社会的価値の創造
https://t-pec.jp/work-work/article/195

・シリーズ5 健康投資管理会計の運用と展開
https://t-pec.jp/work-work/article/196

森 晃爾(もり こうじ)教授 

産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学 教授
1992年~11年に外資系石油会社において産業医活動を実践した後、2003年から産業医科大学産業医実務研修センター所長、12年から現職。また、2005年~10年同大学副学長。健康・医療新産業協議会、同健康投資ワーキンググループ主査、健康経営度調査事業基準検討委員会座長等として健康経営の推進に関与している。

※産業医科大学は1978年に建学され、産業医学・産業保健学の分野で日本をリードする大学です。

※当記事は2020年12月に作成されたものです。