【何がNG?】上司と部下のコミュニケーションを円滑にする3つのポイント【専門家が解説】
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こんにちは。企業の健康経営(R)を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
心理的安全性のある組織づくりにおいて、チーム間の良好なコミュニケーションが必要不可欠です。今回、上司・部下のそれぞれの立場から普段のコミュニケーションを円滑にするポイントを、ティーペック研修講師で、特定社会保険労務士・精神保健福祉士の宮原 麻衣子講師に解説いただきました。(以下、宮原講師執筆)
≪目次≫
1.上司と部下の関係が良好であることのメリット
2.上司と部下のコミュニケーションがうまくいかない原因
3.職場での日常的なコミュニケーションで意識すべきポイント
4.企業が実施できる具体的なサポート施策
5.まとめ
働き方や価値観が多様化する現代において、多くの職場で上司と部下のコミュニケーション課題が顕在化しています。
「部下にどう接すれば良いか分からない」と悩む上司と、上司に対する話しづらさや価値観の違いを感じる部下が増えており、双方のコミュニケーションのズレが組織の発展を阻害する要因となっています。
本記事では、上司と部下のコミュニケーション課題を解決する具体的なポイントをご紹介します。
1.上司と部下の関係が良好であることのメリット
コミュニケーションコスト(コミュニケーションに必要な時間や労力)を無駄だと考える人も少なくありませんが、職場における上司と部下の良好な関係性は組織の心理的安全性(自分の考え等を安心して発言できる状態)を高め、個人と組織双方に好影響をもたらします。
○ 個人への影響
ERG理論(※)によると、人間は「生存欲求(Existence)」「関係欲求(Relatedness)」「成長欲求(Growth)」を抱いています。上司と部下の良好な関係によって心理的安全性が高まると、互いの考えを積極的に伝え合うことができ、成長欲求(自己成長を求める欲求)が満たされます。
※クレイトン・アルダファーによって提唱された人間の欲求に関する理論
また「令和5年 雇用動向調査(厚生労働省)」を見ると「職場の人間関係が好ましくなかった」ことで退職を選択した人が多いことが分かります。関係欲求(他者との良好な関係)が満たされることは仕事を続ける大きな要因となっているのです。
○ 組織への影響
心理的安全性が確保されると、組織全体の士気が向上します。また、社員個々のワーク・エンゲージメント(仕事に対する意欲や熱意、仕事への没頭の度合い)が向上することで離職率低下や生産性向上といった組織に対する好影響がもたらされます。
2.上司と部下のコミュニケーションがうまくいかない原因
○ 働き方の多様化と世代間ギャップ
時代の流れとともに働き方も働く意識も変化しています。
リモートワークの普及でコミュニケーション機会が減少し、「顔の見えない関係」に苦慮する職場が増えています。また、かつて「24時間戦えますか」と昼夜問わず働くことが良しとされた時代から、現在は「静かな退職(退職しないものの熱心な勤務姿勢を捨て最低限の職務だけを果たす働き方)」が増加する時代となっています。これらの要素は、コミュニケーションの量と質に悪影響を与えます。
○ 心理的安全性の誤解
心理的安全性の意味を「誰も厳しいことを言わない甘い職場環境」と誤解している方も少なくありません。この誤解により管理職が必要な指導を控え、コミュニケーションの行き違いだけでなく「労働環境は過酷ではないが成長が見込めずモチベーションが下がる」といういわゆる「ゆるブラック企業」の増加にも繋がっています。
○ なんちゃって1on1
部下の成長に効果的とされる1on1(上司と部下が1対1で行う面談)を導入する企業が増えていますが、その重要性が理解されず形骸化してしまうケースも多く見られます。
上司が「時間がないからとりあえず」、部下が「なんのためになるんだろう」と感じる表面的な1on1は両者にとって時間の無駄となり、かえってお互いの精神的な距離を広げる可能性があります。
○ トキシックリーダーと影響されやすい部下
組織の心理的安全性を損なう存在として「トキシックリーダー(毒のある上司)」と「影響されやすい部下」が挙げられます。
◆トキシックリーダーの5つのタイプ
・支配コントロール型
┗マイクロマネジメント、部下の欠点を批判、人の意見を聞かない
・攻撃・威圧型
┗人格否定、怒鳴る、恐怖で従わせる
・搾取・横取り型
┗責任転嫁、功績を独り占め、自己利益を最優先
・分断・操作型
┗部下同士を競わせる、派閥を作る、情報操作、透明性欠如
・無関心・放置型
┗部下への無関心、共感しない、サポート放棄、一貫性のなさ
トキシックリーダーの5つのタイプ
このようなトキシックリーダーのもとに影響されやすい部下(組織への従属姿勢が強い/指示待ちで自分の意見を持たない/組織に対して無関心)が配属されると、良好な関係性の構築が阻害されます。
3.職場での日常的なコミュニケーションで意識すべきポイント
【上司が意識するポイント】
○ サーバントリーダーシップ
トキシックリーダーの対極にあるのがサーバントリーダーで、上司は部下を「指導」ではなく「支援」して成長を促すという考え方です。
サーバントリーダーは部下に対する共感と理解の姿勢を持ち、失敗をいかに成長の機会とするか、部下自身の考えを尊重しながら導きます。親身な傾聴的態度により部下は「自分に関心を持ってくれている」と感じ、本音を話すことができます。
(NGワード)
「そこまで話さなくていいから、要点だけ言って」「失敗は許されない、できて当たり前」
○ MUSTとWILLのすり合わせ
組織が部下に求める姿(MUST)を明確化し、同時に部下自身の意思や希望(WILL)を引き出すことで両者の接点を見つけ、重点的に支援することで部下のワーク・エンゲージメントを向上させます。
(NGワード)
「会社の方針だから黙って頑張れ」「やりたいことよりやるべきこと」
○ 日常的なフィードバック
効果的な1on1だけでなく、日常的なフィードバックも大切です。普段から積極的にコミュニケーションを取り、タイムリーかつ具体的に、部下の行動や結果に焦点を当ててフィードバックを行いましょう。単に「良かった」「悪かった」では相手に伝わりませんし、人格を否定する言動も相手の心理的安全性を低下させます。
(NGワード)
「もっと頑張って」「やる気あるの?」「責任感のない性格に問題がある」
【部下が意識するポイント】
○ フィードバックの受け方
部下側も、上司からのフィードバックを建設的に受け止め、成長に繋げることが重要です。
(1)受容:感情的な反応を抑制し、学習機会として捉える
(2)確認と質問:不明点を残さず、判断根拠や考え方を具体的に質問する
(3)感謝:成長の機会が与えられたことに感謝する
(4)内省:自分の考え方や行動を振り返り、改善に努める
(NGワード)
「〇〇だったから仕方ありません」「分かりました(実際は理解、納得していない)」「でも結果は出ています」「・・・(無反応)」
○ チンゲンサイよりホウレンソウ
「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」は社会人のスキルとして知られていますが、近年「チンゲンサイ(沈黙する・限界まで言わない・最後まで我慢)」というビジネス用語も知られるようになりました。他者からの評価を恐れて問題を1人で抱え込む「チンゲンサイ」状態を避け、自らの成長のために積極的なホウレンソウを意識しましょう。
(NGワード)
「大丈夫です」「実はよく分からなかったんです」「もう無理です」
【上司と部下それぞれが意識するポイント】
○ 対話の溝を埋める
積極的にコミュニケーションを取っても、互いの理解や関係性が深まらないことがあります。そのとき意識すべきは「対話の溝」です。人それぞれ異なる価値観や過去の経験を有しており、同じ事柄でもお互いの考えや見えている景色が異なる場合があります。自分が見る景色だけでなく、相手が見ている景色にも意識を向け、異なる視点を理解する努力が必要です。
(NGワード)
「Z世代は理解できない」「自分たちの時代はこうだった」「どうせ話しても分からない」
○ 雑談
昨今、リモートワーク中心だった企業が出社日を増やすという動きが見られますが、この背景には社員同士が顔を合わせることで生まれるイノベーションや心理的安全性の向上への期待があります。雑談は創造的発想の促進だけでなく、ワーク・エンゲージメント強化や社員の離職率低下の効果があると言われています。業務に支障のないタイミングで、まずは朝の挨拶にひとこと添えることから試してみて下さい。ただし一方的な話を避けプライバシーにも配慮し、苦痛にならない雑談の「質」を重視しましょう。
(NGワード)
「雑談してください(強制)」「彼氏いるの?(プライベートの詮索)」「仕事がしんどい、上司に不満(愚痴や悪口しか言わない)」
○ 自己開示と承認
コミュニケーションは双方向に行われるものですから、相手の話を聞くだけでなく自分の考えや感情を自己開示することも大切です。自分自身の経験や価値観を含めて相手に伝える意識を持ちましょう。
また、互いの成果を積極的に承認し、その取り組みを認める姿勢を示すことも重要です。これは部下に対してだけでなく、上司に対しても意識すべきことです。
(NGワード)
「言いたいことは分かるでしょ」「察してほしい」「できて当然」「結果が出ないと褒められない」
4.企業が実施できる具体的なサポート施策
○ 研修の実施
良好なコミュニケーションにはスキルが必要であるため、管理職向け、一般社員向けのコミュニケーション研修は非常に有効です。コミュニケーションのコツを体験するワークを取り入れた研修を実施すると、理解度も高まるでしょう。
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○ 相談窓口の設置
誰もが気軽に相談できる窓口を設けることは、職場の人間関係やコミュニケーションに悩む人にとって非常に有効です。
特に昨今、管理職が担う重責から「管理職は罰ゲーム」という言葉も生まれており、部下のマネジメントに悩む管理職の心理的サポートとして積極的に相談窓口を利用してもらうと良いでしょう。
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5.まとめ
上司と部下の良好なコミュニケーションに模範回答はなく、取り組みの即効性もありません。
「理解しようとして聞け、答えようとして聞くな(スティーブン・R・コヴィー)」という言葉がありますが、自分が次に何を話すか、どう答えるかにばかり意識を向けると相手の真意や感情を深く理解できません。
相手が何を思い、どんな気持ちで仕事に向き合っているのかに根気よく心を向ける姿勢こそ、信頼関係構築の鍵となります。
相互理解によるコミュニケーション課題の解決を、組織の持続的な発展の礎としましょう。
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<出典・参考文献>
・厚生労働省「令和5年 雇用動向調査結果の概要 3.転職入職者の状況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/24-2/dl/kekka_gaiyo-03.pdf
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執筆者プロフィール
野嶋社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士/精神保健福祉士
宮原 麻衣子(みやはら まいこ)
2003年、メンタルヘルスの専門家である精神保健福祉士資格を取得し、精神科医療機関等で勤務。
2015年に社会保険労務士登録、2017年に特定社会保険労務士となり、労働社会保険関係法に関する企業へのコンサルティング業務を担う。
また精神保健福祉士養成の専門学校にて後進の育成に携わるほか、労務管理全般やストレスマネジメント等に関する研修講師、インターネット記事や専門誌の執筆を行う。
健康経営エキスパートアドバイザー、両立支援コーディネーター、ストレスチェック実施者。
※当記事は、2025年8月に作成されたものです。
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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