メンタルヘルス・ハラスメント
メンタルヘルス 2024/12/25

「令和6年版過労死等防止対策白書」~芸術・芸能分野の従事者に関する調査分析を初めて実施/フリーランス法施行でハラスメント対策強化~

こんにちは。企業の健康経営(R)を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

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2024年10月11日に「令和6年版過労死等防止対策白書」(令和5年度我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況)が閣議決定されました。今回の白書では、過労死等の防止のための調査研究を行う重点対象に追加された「芸術・芸能分野」の従事者(対象488人)に対するアンケート調査が初めて実施されています。

本記事では、白書の中で紹介されている各種調査結果について解説いたします。

《目次》
■精神障害の労災支給決定件数は過去最多の883件
■「芸術・芸能分野」の従事者に対するアンケート調査を実施
■「芸術・芸能分野」の従事者、1週間の拘束時間「60時間以上」が3割上回る
■「芸術・芸能分野」の従事者のうち、4割以上が1日の平均睡眠時間が「6時間未満」
■「芸術・芸能分野」の従事者の4割以上が「心が傷つくことを言われた」経験あり
■「脚本家・劇作家」は取引上のトラブル経験が多い
■うつ傾向・不安障害も「脚本家・劇作家」が高い
■11月に施行されたフリーランス法
■フリーランスに対するハラスメント

精神障害の労災支給決定件数は過去最多の883件

政府は10月11日、「令和6年版過労死等防止対策白書」(令和5年度我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況)を閣議決定しました。平成28年版以来、9回目の発行となる白書です。

白書によると、週労働時間40時間以上の雇用者のうち週労働時間60時間以上の雇用者は8.4%と、4年連続で10%を下回る結果となりました。しかし、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の目標として定められた5%以下には届いていません。業種別にみると「運輸業、郵便業」が18.5%と最も高く、次いで「宿泊業、飲食サービス業」で16.0%、「教育、学習支援業」で15.9%となっています。

週労働時間40時間以上の雇用者のうち週労働時間60時間以上の雇用者の割合を示したグラフです。

【出典】厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書(令和5年度 我が国における過労死等の概要及び政府が 過労死等の防止のために講じた施策の状況)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001314678.pdf

また、精神障害の労災支給決定件数は883件と過去最多となっており、メンタルヘルス対策の強化が一層必要とされています。厚生労働省では、2024年10月10日に「第7回 ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」が行われ、現在50人以上の事業場に年一回義務付けられているストレスチェックの実施について、今後、従業員50人未満の小規模事業所に対しても義務づける方針が決まりました。

『「ストレスチェック制度の新たな枠組み」~厚生労働省の検討会が、中間とりまとめ案を了承~』を読む >>

「芸術・芸能分野」の従事者に対するアンケート調査を実施

今回の白書では、過労死等の防止のための調査研究を行う重点対象に追加された「芸術・芸能分野」の従事者(対象488人)に対するアンケート調査を実施しています。芸術・芸能分野は、劇団等に所属しながら個人で働く者が多く、対象の約6割(304人、62.3%)をフリーランスが占めています。職種別の状況は図表1のとおりです。

調査によると、職種によっては、ハラスメントを受けた経験や取引上のトラブルを経験したことがある者が5割を超えており、喫緊の対策が求められる状況といえます。

一方、政府はフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)を令和6年11月1日から施行し、フリーランスとして働く者に業務を委託する事業者に対し、取引上の義務や禁止行為、ハラスメント対策に係る体制整備等を義務づけています。

図表1 芸術・芸能従事者の職種

芸術・芸能従事者の職種別の状況を示した表です。

【出典】厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書(令和5年度 我が国における過労死等の概要及び政府が 過労死等の防止のために講じた施策の状況)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001314678.pdf

「芸術・芸能分野」の従事者、1週間の拘束時間「60時間以上」が3割上回る

ここからは芸術・芸能分野の従事者の結果について、他の業種の結果とも比較しながら、詳しくみていきます。まずは、芸術・芸能分野の従事者の「拘束時間」に着目します。拘束時間とは、始業時刻から終業時刻までの時間で、労働時間(就業時間)と休憩時間その他の使用者(または業務発注者)に拘束されている時間の合計時間のことです。

白書によると、拘束時間が1週間あたり「60時間以上」と回答した芸術・芸能分野の従事者は3割を超えています(35.2%)。中でも、技術スタッフ(46.2%)や舞台監督・制作関係・演出関係(40.7%)は4割を超えており、特に拘束時間が長くなっています(図表2参照)。

単純な比較はできませんが、拘束時間よりも狭義の「労働時間」を全業種の従事者と比較しても、1週間あたり「60時間以上」と回答した就業者は5.5%にとどまっており(図表3参照)、芸術・芸能分野の従事者は他の業種より拘束時間が長い状況にあるといえそうです。

図表2 芸術・芸能分野の従事者の拘束時間

芸術・芸能分野の従事者の拘束時間を示したグラフです。

【出典】厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書(令和5年度 我が国における過労死等の概要及び政府が 過労死等の防止のために講じた施策の状況)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001314678.pdf


図表3 1週間あたりの実労働時間数(業種別)

【出典】厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書(令和5年度 我が国における過労死等の概要及び政府が 過労死等の防止のために講じた施策の状況)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001314678.pdf

「芸術・芸能分野」の従事者のうち、4割以上が1日の平均睡眠時間が「6時間未満」

拘束時間が長い職種にある者は、一般的に睡眠時間が短くなる傾向にあります。芸術・芸能分野の従事者も同様で、4割以上(41.2%)の者が1日の平均睡眠時間が「6時間未満」だと回答しています。「5時間未満」も1割超(12.7%)に及びます(図表4参照)。

特に拘束時間が長かった技術スタッフは、5割以上(53.1%)が1日の平均睡眠時間が「6時間未満」と回答しました。「5時間未満」も約2割(19.4%)です。このほか、芸術・芸能分野のその他の職種にある者も、41.7%が「6時間未満」、16.7%が「5時間未満」と回答しています。

図表4 1日の平均的な睡眠時間

【出典】厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書(令和5年度 我が国における過労死等の概要及び政府が 過労死等の防止のために講じた施策の状況)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001314678.pdf

「芸術・芸能分野」の従事者の4割以上が「心が傷つくことを言われた」経験あり

他方、職場におけるハラスメント経験に関する調査によると、芸術・芸能分野の従事者の4割以上(42.0%)が「仕事の関係者に、心が傷つくことを言われた」経験があると回答しています。「仕事の関係者から殴られた、蹴られた、叩かれた、または怒鳴られた」経験があるとの回答も2割以上(22.3%)に達しました(図表5参照)。

職種別では、「仕事の関係者に、心が傷つくことを言われた」のは、脚本家・劇作家(52.6%)が最も多く、「仕事の関係者から殴られた、蹴られた、叩かれた、または怒鳴られた」のは舞台監督・制作関係・演出関係(34.8%)が最も多く回答しています。

図表5 職場におけるハラスメント経験

芸術・芸能分野における、職場におけるハラスメント経験を示したグラフです。

【出典】厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書(令和5年度 我が国における過労死等の概要及び政府が 過労死等の防止のために講じた施策の状況)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001314678.pdf

「脚本家・劇作家」は取引上のトラブル経験が多い

取引上のトラブルの経験に関しては、以下の4点を調査しています(図表6参照)。
●仕事を受ける前に提示された報酬額どおりに支払われなかった
●仕事を受ける前に報酬額が提示されない
●発注取り消しを急に言われることがある
●無理のある納期を迫られた

図表6 取引上のトラブルの経験

【出典】厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書(令和5年度 我が国における過労死等の概要及び政府が 過労死等の防止のために講じた施策の状況)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001314678.pdf

仕事を受ける前に提示された報酬額どおりに支払われなかったのは、全体では2割程度(19.5%)ですが、職種別では脚本家・劇作家が突出して高く、52.6%と半数を超えています。

仕事を受ける前に報酬額が提示されないのは、全体的に5割前後の水準となっており、職種別ではやはり脚本家・劇作家が高く、約8割(78.9%)が「提示されない」と回答しています。
急な発注取り消しも、全体では4割弱(35.5%)ですが、脚本家・劇作家は約6割(57.9%)となっており、無理のある納期も脚本家・劇作家(47.4%)を筆頭に、3~4割の者が「求められたことがある」と回答しています。

うつ傾向・不安障害も「脚本家・劇作家」が高い

芸術・芸能分野の従事者のうつ傾向・不安の状況に関しては、約3割(30.5%)が「うつ・不安障害の疑い」もしくは「重度のうつ・不安障害の疑い」があるとの調査結果になっています。職種別では、特に脚本家・劇作家(52.6%)、芸術・芸能分野のその他の職種(36.1%)などが高くなっています(図表7参照)。


図表7 うつ傾向・不安障害の疑い

職種別のうつ傾向・不安障害の疑いを示したグラフです。(芸術・芸能分野調査)

【出典】厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書(令和5年度 我が国における過労死等の概要及び政府が 過労死等の防止のために講じた施策の状況)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001314678.pdf

11月に施行されたフリーランス法

令和6年11月に施行されたフリーランス法は、業務委託の相手方である事業者であって、従業員を使用しない者をフリーランス(特定受託事業者)と定義し、取引の適正化と就業環境の整備という2つの観点から、発注事業者(特定業務委託事業者)が守るべき義務と禁止行為を定めています。違反には罰則があり、事業者名を公表される場合もあります。フリーランス専用の申出窓口(オンラインなど)も設置されており、申出があった場合は、行政機関が事実を調査し、違反がある場合には是正するよう措置が講じられます。

具体的に、フリーランスに業務を委託する発注事業者に求められる義務と禁止行為は、次のとおりです(図表8参照)。

図表8 フリーランスに業務を委託する発注事業者に求められる義務と禁止行為

フリーランスに業務を委託する発注事業者に求められる義務と禁止行為を示した図です。

【出典】
厚生労働省、公正取引委員会ほか「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 (フリーランス・事業者間取引適正化等法)リーフレット」
https://www.mhlw.go.jp/content/001261528.pdf

フリーランスに対するハラスメント

これまで職場のハラスメント対策は、もっぱら会社等に雇用される労働者が保護の対象でしたが、11月のフリーランス法の施行に伴い、業務を委託する発注事業者に関しては、フリーランスに対しても同様にハラスメント対策に係る体制整備等が求められます(図表9参照)。

ハラスメント対策に係る体制整備の図です。

【出典】
厚生労働省、公正取引委員会ほか『特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 (フリーランス・事業者間取引適正化等法)パンフレット「ここからはじまるフリーランス・事業者間取引適正化等法」』
https://www.mhlw.go.jp/content/001329767.pdf


白書の調査では、芸術・芸能分野の従事者の約6割をフリーランスが占めています。
図表5によると、「仕事の関係者に、心が傷つくことを言われた」「仕事の関係者から殴られた、蹴られた、叩かれた、または怒鳴られた」など、ハラスメントが疑われる事案が多く見受けられます。ハラスメントは、相手がどのような形態で働いていたとしても、決して許される行為ではありません。

また、取引に関しても、図表6のとおり、「仕事を受ける前に提示された報酬額どおりに支払われなかった」「仕事を受ける前に報酬額が提示されない」「発注取り消しを急に言われることがある」「無理のある納期を迫られた」といった事案が少なからず発生しており、いずれもフリーランス法の違反が疑われ得る状況が推測されます。

フリーランスに業務を委託する発注事業者においては、今後、こうした行為の是正・改善が法律上でも求められることになります。

原稿・社会保険研究所Copyright

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<出典・参考文献>
・厚生労働省「令和6年版 過労死等防止対策白書(令和5年度 我が国における過労死等の概要及び政府が 過労死等の防止のために講じた施策の状況)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001314678.pdf

・厚生労働省、公正取引委員会ほか「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 (フリーランス・事業者間取引適正化等法)リーフレット」
https://www.mhlw.go.jp/content/001261528.pdf

・厚生労働省、公正取引委員会ほか『特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 (フリーランス・事業者間取引適正化等法)パンフレット「ここからはじまるフリーランス・事業者間取引適正化等法」』
https://www.mhlw.go.jp/content/001329767.pdf

・厚生労働省「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html

・公正取引委員会「フリーランスの取引適正化に向けた公正取引委員会の取組」
https://www.jftc.go.jp/fllaw_limited.html

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※当記事は2024年12月時点で作成したものです。
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

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