健康経営
健康経営 2024/06/14

プレゼンティーイズムは小さな不調の積み重ね~企業にとっては大きな損失~

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

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出勤はしているものの体調が悪く、生産性が低下している状態を『プレゼンティーイズム』といいます。例えば、出勤はしているものの、「花粉症」や「片頭痛」などの体調不良で業務に集中できない状態が続けば、労働の生産性は低下し、結果的に企業の損失につながります。さらに、労働災害の発生、不祥事の発生、人材の損失など、『プレゼンティーイズム』を放置してしまうと、企業として深刻な事態を招く危険もあります。

今回は「プレゼンティーイズムとは」という基礎的な部分から、健康経営で取り組むべきプレゼンティーイズム対策について解説します。

<目次>
■仕事の効率を下げる「プレゼンティーイズム」とは
■休むほどではない不調で、生産性は低下、医療費は上昇
■プレゼンティーイズムの労働損失額は見えにくい
■プレゼンティーイズムの健康関連総コストは医療費より大きい
■小さな不調、疾患の積み重ねが深刻な事態を招く
■プレゼンティーイズム改善のために健康経営を
■コラボヘルスとの相乗効果で、プレゼンティーイズムを改善
■健康経営は医療費抑制にもつながる

仕事の効率を下げる「プレゼンティーイズム」とは

なんらかの病気によって仕事を休む状態(遅刻、早退、欠勤、休職など)を「アブセンティーイズム」といいます。これに対して、出勤はしているものの体調が悪く、生産性が低下している状態をプレゼンティーイズムといいます。

体調が良くない原因としては、以下のような状態が考えられます。
・慢性疲労
・花粉症をはじめとするアレルギー症
・腰痛
・片頭痛
・生活習慣病
・うつ病
・女性特有の疾患 等

休むほどではない不調で、生産性は低下、医療費は上昇

1 花粉症の場合

花粉症は、仕事を休むほどの大きな病気ではありませんが、目のかゆみ、鼻詰まり、くしゃみなどで業務に集中できず、罹患者にとってはつらい状態です。アレルギーの出る花粉の種類によっては罹患期間も長くなり、不調が数か月続きます。

花粉症は、国民病といわれるほど罹患者数が多いので、多くの企業が花粉症患者のプレゼンティーイズムに悩むことになります。
医療費も、国、企業、個人の大きな負担になります。花粉症を含むアレルギー性鼻炎にかかる医療費を見てみると、保険診療で、令和元年度(2019年度)時点で約3,600億円(診察等の医療費約 1,900億円 、内服薬約 1,700億円)、市販薬で、令和4年(2022年)時点で約400 億円と推計されています(※1)。

※1 厚生労働省 花粉症対策の全体像「花粉症に関する関係閣僚会議決定」
https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001118341.pdf

2 片頭痛の場合

片頭痛は、その名の通り、頭の片側に痛みが表れることが多い頭痛です。痛みの強さも軽いものから激しいものまでさまざまで、吐き気などの症状を伴うこともあります。会社を休むほどではない痛みの場合は、痛みを我慢しながら仕事をすることになるので、プレゼンティーイズムに陥ります。

3 女性特有の疾患・症状の場合

近年は女性の社会進出に伴い、女性の労働者数が増えています。その結果、女性特有の疾患や症状にも配慮が必要になっています。

例えば、月経随伴症状、更年期障害などは、症状の出方に個人差が大きく、欠勤するほどではないが体調が悪いという状態になると、プレゼンティーイズムになります。

経済産業省の「女性特有の健康課題による経済損失の資産と健康経営の必要性」(令和6年2月)の資料を見ると、月経随伴症状に伴うパフォーマンスの低下によって生じる社会全体の経済損失は約4,500億円、また更年期症状の場合は約5,600億円と試算されています。そのほか、婦人科のがんや不妊治療などをあわせると、その損失は約3.4兆円にもなります。(※2)

※2 経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/jyosei_keizaisonshitsu.pdf


このように、プレゼンティーイズムは、労働の生産性を低下させ、結果的に企業の損失につながります。そのため、社員・従業員のパフォーマンスを高めるためには、プレゼンティーイズムへの対応が必要となります。

ティーペックが会社員1,000名に「社員の健康に関する調査」を実施した『社員の約4人に1人が心身の不調で仕事のパフォーマンスが落ちている?!』 記事を読む >>

プレゼンティーイズムの労働損失額は見えにくい

プレゼンティーイズムによって、企業には労働生産性の低下による経済損失(労働損失)が発生しています。しかし、その損失額は見えにくいのが現状です。

アブセンティーイズムの場合、例えば「欠勤日数×1日当たり報酬」という計算で、労働生産性の低下を損失額として数値化することができます。しかし、プレゼンティーイズムの場合、出勤しているので、健康な状態に比べてどのくらい労働生産性が下がっているのかを数値化するのは難しいのが現状です。

プレゼンティーイズムの健康関連総コストは医療費より大きい

それでも、プレゼンティーイズムの労働生産性を数値化する方法は幾つか考案されています。その中で、世界的に広く使われているのが、WHOが定義した「WHO-HPQ」という指標です。

図表2はプレゼンティーイズムをWHO-HPQで評価した健康関連総コストの試算結果です。プレゼンティーイズムは、損失割合×総報酬年額(12か月+標準賞与)で計算されています。損失割合はWHO-HPQによる評価です。

これを見ると、プレゼンティーイズムの健康関連コストは医療費にかかる費用よりも大きく、健康関連総コスト全体の約80%を占めています。アブセンティーイズムの約20倍のコストというのも驚くべきことで、企業はプレゼンティーイズムへの対策が必要なことが分かります。

図表2 健康関連総コスト(3組織3,429件):WHO-HPQ+アブセンティーイズム

【出典】 経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック〜連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂版第1版)」P28
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei-guidebook2804.pdf

小さな不調、疾患の積み重ねが深刻な事態を招く

プレゼンティーイズムの状態を放置すると、業務への支障が起こり、生産性が低下します。さらに、労働災害の発生、不祥事の発生など、企業として深刻な事態を招く危険もあります。

また、プレゼンティーイズムが長期化し、アブセンティーイズムに移行すれば、企業活動の原動力である人材の損失につながります。さらに、医療費、傷病手当金、労災などのコストが発生します。

企業には、社員・従業員の安全や健康を配慮する義務(安全配慮義務)があります。この義務を怠ったために社員・従業員が損害を被った場合には、損害賠償責任を負うことになります。

もし、死亡事故など重大な労働災害が発生した場合には、多額の損害賠償金の支払い、社会的信頼の失墜など、企業の存続そのものが危機に陥る場合もあります。
このように、小さな不調を放置しておくと、それが疾患につながり、重症化し、企業の損失はどんどん大きくなります。そうなる前に、早めの対策を取ることが重要です。

プレゼンティーイズム改善のために健康経営を

社員・従業員を「人的資本」と考え、その健康に投資するという考え方が「健康経営」です。具体的には、プレゼンティーイズム、アブセンティーイズムを含めた健康課題に取り組み、その状態を改善するための取り組みを行うことが「健康経営」です。企業内の健康リスクが減少すれば、生産性が上がり、医療費、傷病手当金、労災などの健康関連総コストを縮減できます。
以下に、健康経営で取り組むべきプレゼンティーイズム対策の一例をご紹介します。

慢性疲労

慢性疲労の場合は、職場での長時間労働そのものが一因となります。長時間労働を是正するため、「ノー残業デーの設定」「年次有給休暇の取得の奨励」「就業時間中に休息を取りやすい仕組みをつくる」ことなどが重要です。

腰痛、頭痛

腰痛、頭痛対策には運動が有効です。ストレッチや簡単な体操などを朝礼や休憩時間などの決まった時間帯に職場で行うことで、運動を促すことができます。

メンタル疾患

メンタル疾患の予防には、ストレスチェックの推進や相談窓口の周知、関連する社内教育などが重要です。

心身ともに健康な状態であれば、本来の能力やパフォーマンスを十分に発揮できます。健康で働きやすい職場環境を整えることで、社員・従業員の「ワーク・エンゲイジメント」を高めることは、生産性の向上につながります。

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コラボヘルスとの相乗効果で、プレゼンティーイズムを改善

プレゼンティーイズム改善のためには「健康経営」に取り組むことが重要ですが、健康経営の推進に役立つのが「コラボヘルス」です。

コラボヘルスとは、健康保険組合などの保険者と企業が積極的に協力し合い、働く人とその家族の健康増進を効果的に行うことです。保険者が事業主の健康経営をサポートすることで、相乗効果が期待できます。

現在、国は、健康に関するデータを活用し、健康増進を図る「第3期データヘルス計画」を推進中です。これは、個人の健康診断の結果などを疾病予防や健康増進に有効に活用しようという計画です。保険者と企業が協働し、健康診断結果などから社員・従業員の健康課題を抽出することは、「健康課題の見える化」につながり、課題解決のための対策が取りやすくなります。

健康経営は医療費抑制にもつながる

プレゼンティーイズムの健康関連総コストは医療費よりも大きいというデータを示しましたが、プレゼンティーイズムを放置すれば、病気、けがなどにつながります。
プレゼンティーイズム対策を早めに行えば、体調を崩す社員・従業員が減り、医療機関の受診が減ることから、医療費や薬代が減ります。この結果、企業が負担する医療費も抑制できます。

医療費を含む社会保障費は、企業にとって大きな拠出になります。健康経営に取り組み、社員・従業員の健康を促進し、プレゼンティーイズムを解消して、誰もが生き生きと働ける労働環境をつくりましょう。健康経営は、企業の経営基盤強化につながります。

原稿・社会保険研究所Copyright

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【出典】
※1 厚生労働省 花粉症対策の全体像「花粉症に関する関係閣僚会議決定」
https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001118341.pdf

※2 経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/jyosei_keizaisonshitsu.pdf

経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック〜連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂版第1版)」P28
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkokeiei-guidebook2804.pdf

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※当記事は、2024年5月に作成されたものです。
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

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