メンタルヘルス・ハラスメント
メンタルヘルス 2024/03/18

メンタルヘルスにおける『ラインケア』の重要性

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

課長・部長などの職責にあたる管理監督者(=ライン)が主体となり、従業員の健康管理に取組むメンタルヘルス対策を「ラインケア」といいます。労働者が自身のメンタルヘルス不調のサインに気づけない場合も多く、管理職を中心に周囲の人が早期に変化に気づくことができれば、生産性の低下や休職・離職を未然に防止することができます。本記事では、ラインケアの重要性やラインケアの方法・研修についてお伝えします。(以下、ティーペックの研修講師・傳川さん執筆)

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<目次>
◆メンタルヘルスケアとは何か
◆メンタルヘルスケアの3つの段階
◆メンタルヘルスケア対策を怠るとどうなるか
◆ラインケアとは
◆ラインケアの目的・メリット
◆ラインケアの方法
◆ラインケア研修を実施
◆企業のメンタルヘルス対策にはラインケアが必要

メンタルヘルスケアとは何か

寒い日に風邪をひかないように暖かい服装で出かけたご経験がある方は多いでしょう。私たちは普段、からだの健康を維持するために生活の中であれこれ気を配ります。そして、からだの健康と同じように、こころの健康を維持するためにも様々な気配りが必要です。そのようなこころの健康を守るための配慮をメンタルヘルスケアといいます。職場においては、全ての働く人が健やかに生き生きと仕事ができるように、働く人自身だけでなく周りからも気を配ること、状態や状況に応じて必要な支援をすること、さらにそれが可能となる仕組みを作り、実践することを意味します。

メンタルヘルスケアの3つの段階

メンタルヘルスケアは全ての働く人に対して漏れなく行われる必要があります。「今現在、健やかに働いている人」、「勤務はしているが過剰なストレス状態にある人」、「ストレス関連疾患や精神障害の症状を呈している人及び罹患している人、回復期にある人」このような状態にある人全てを対象にするため、次の3つの段階にわけてメンタルヘルス対策を計画、実行します。

●一次予防:今現在、健やかに働いている人がその健康状態を維持し、メンタルヘルス不調の発生を未然に防ぐためのケア
●二次予防:勤務はしているが過剰なストレス状態にある人に早期に気づき、適切に対処して、こころの病気の発生や重症化、休職や退職を防ぐためのケア
●三次予防:ストレス関連疾患等、メンタルヘルス不調に陥り休職した人が職場復帰できるように支援をするケア。

メンタルヘルスケア対策を怠るとどうなるか

ストレス要因となる長時間労働やハラスメント、効率の悪い仕事の進め方などの職場環境を放置すると、従業員は十分に能力を発揮することが難しくなり、生産性が低下するとともに、職場全体の雰囲気にも影響しかねません。さらに、メンタルヘルス不調が原因で休職や退職をする従業員が発生すると、労働力損失やコスト増になるだけでなく、企業のイメージダウンにもつながります。このようにメンタルヘルスケア対策を怠ると大きなリスクに発展する可能性があるのです。

ラインケアとは

 では、本記事のテーマであるラインケアは、誰が何をどのように行うものなのでしょうか?この「誰が?」でメンタルヘルスケア対策を分類した考え方が4つのケアです。「労働者自身」「管理監督者」「事業場内産業保健スタッフ等」「事業場外資源」の4つの立場からメンタルヘルスケアを推進します。そして、このうち「管理監督者」が中心的な役割を果たすケアがラインケアです。ラインケアを中心に、4つのケアについて確認しましょう。

●ラインケア:課長・部長などの職責にあたる管理監督者(=ライン)が主体となり、従業員の健康管理に取組むメンタルヘルス対策。具体的には、部下の「いつもと違う」変化に早く気づく、部下からの相談に適切に対応する、メンタルヘルス不調の部下の職場復帰の支援を適切に行う等。(詳細は後述「ラインケアの方法」を参照)

●セルフケア:労働者自身によるケア。全ての労働者が教育研修・情報提供などを通じて、ストレスやメンタルヘルスについて理解を深め、ストレスに気づき、対処できるようにする。

●事業場内産業保健スタッフ等によるケア:事業場内の産業保健スタッフ等がセルフケアやラインケアが効果的に実施されるように、従業員や管理監督者に対し支援を行うとともに、メンタルヘルス対策の実施にあたり中心的な役割を果たす。

●事業場外資源によるケア:外部専門機関から情報・教育提供を受ける、ネットワークを形成する、職場復帰において専門的な支援を受ける等のケア。

ラインケアの目的・メリット

メンタルヘルス不調が発生する前には必ず何かしらのサインがあります。しかし、そのようなサインに労働者本人が気づけない場合も多々あります。そのため周囲からのアプローチが非常に重要です。そこで大きな役割を果たすのが管理職です。管理職を中心に周囲の人が早期に変化に気づくことができれば、メンタルヘルス不調に陥る前に対処できます。

さらに、管理職が部下のこころの健康に配慮するように努めると、職場全体の働く環境に対しても好影響があります。ラインケアを実践することにより、先に述べた従業員の生産性低下、労働損失、コスト増、企業イメージダウン等の発生を未然に防ぐというメリットがあります。

 また、管理職が部下の健康状態に配慮することは法的な義務でもあります。労働契約法第5条では「使用者(事業主)は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものである。」とあります。事業主は、従業員に対し、過度の労働や心理的負担をかけて社員の心身の健康を損なうことがないように注意する義務があり、これを「安全配慮義務」と言います。そして管理職は、部下を管理監督する権限を事業主から委譲されているため、安全配慮義務を実行する責任があるのです。

ラインケアの方法

ラインケアは2つのアプローチで実施します。一つが「部下との関わり方」、もう一つが「職場環境等の改善を通じたストレスの軽減」です。

部下との関わり方

1)いつもと違う部下の様子に早く気づき、対応する
部下の変化に早く気づくためには、普段の様子を把握しておくことが必要です。日頃から部下に関心を持ち、表情や体調、服装、勤務上の様々な行動の様子を知っておきましょう。そして、いつもと違う様子に気づいたら、部下の話を聴く、産業医等の専門スタッフと連携する等の対応をします。

2)部下からの相談への対応
普段から部下からの相談に応じ、相談しやすい環境や雰囲気を整えましょう。そのような心掛けは、働きやすい環境をつくるだけでなく、部下のこころの健康状態や人間関係を把握することにつながり、健康問題の早期発見・適切な対応を可能にします。

3)メンタルヘルス不調の部下の職場復帰への支援
数か月にわたって休職した部下は、多くの不安を抱えながら復職しています。
そのような復職者の気持ちを受け止め、適切な支援をしていくことが大切です。

職場環境等の改善を通じたストレスの軽減

職場の照明や温度などの物理環境、会議の仕方、仕事の進め方などの職場環境もストレス要因となり得ます。まずは、このような働きにくさの改善から着手してもよいでしょう。また、作業量と責任ばかりが大きく、仕事のコントロールができなかったり、報酬が見合わなかったりすることもストレスが過重になる原因です。仕事の要求度と量に見合う裁量権や報酬になっているか検討することも必要です。
 
このような職場環境改善は、メンタルヘルスケアに関わる人全てに参加してもらい、計画的に行うことが大切です。従業員、管理職、事業場内産業保健スタッフ、事業場外専門家を巻き込み、職場環境のアセスメント、組織整備、計画立案、実行、評価のような流れで計画的に実施しましょう。

ラインケア研修を実施

研修内容

厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、ラインによるケアを促進するため、管理監督者に対して、次に掲げる項目等を内容とする教育研修、情報提供を行うものとする、と述べられています。

1)メンタルヘルスケアに関する事業場の方針
2)職場でメンタルヘルスケアを行う意義
3)ストレス及びメンタルヘルスケアに関する基礎知識
4)管理監督者の役割及び心の健康問題に対する正しい態度
5)職場環境等の評価及び改善の方法
6)労働者からの相談対応(話の聴き方、情報提供及び助言の方法等)
7)心の健康問題により休業した者の職場復帰への支援の方法
8)事業場内産業保健スタッフ等との連携及びこれを通じた事業場外資源との連携の方法
9)セルフケアの方法
10)事業場内の相談先及び事業場外資源に関する情報
11)健康情報を含む労働者の個人情報の保護等

【出典】
厚生労働省 独立行政法人 労働者健康安全機構「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」
https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf

ティーペックのラインケア研修

ティーペックのラインケア研修では、参加型で身に付くプログラムをご提供します。民間企業の人事業務などを経験した実績豊富な講師が、現場での実践に向け、レベルやご要望に応じて対応します。

<研修テーマ例>
・ストレスチェックの理解と分析結果の読み方
・世の中の現状とメンタルヘルス対応の意義
・職業性ストレスモデルから対応を考える
・管理職の役割<みる-きく-つなぐ>
・職場のメンタルヘルス対応
・傾聴のポイント
・休職・復職にあたり配慮すべきこと など

*ティーペックの各種研修について、詳細はお気軽にお問い合わせください。

企業のメンタルヘルス対策にはラインケアが必要

このように4つのケアの中でも、ラインケアは企業のメンタルヘルス対策において中核とも言える役割を果たします。管理職の気づきと対応は従業員のメンタルヘルス不調を防ぐために非常に重要です。さらに、産業保健スタッフ、事業場外資源によるケアもラインケアが機能して初めてその効果を発揮します。管理監督者がメンタルヘルスに関する理解を深め、その役割を自覚し、実行していくためにも適切な教育研修を行いましょう。

また、管理職自身がメンタルヘルス不調に陥らないようにすることも重要です。管理職に対してもセルフケア研修を実施すると共に、社内・社外の相談窓口を設置したり、ストレスチェックの結果を活用して職場環境の改善をしたりするなどサポート体制を整え、企業の課題として積極的にメンタルヘルス対策を行いましょう。

<事務局より>以下より、従業員のメンタルヘルスの実態について解説している資料をダウンロードいただけます。ぜひご活用ください。

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参考

・厚生労動省 世界メンタルヘルスデー2023「メンタルヘルスとは」
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/mental_health_day/amh.html

・厚生労働省 独立行政法人 労働者健康安全機構「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」
https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf

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≪プロフィール≫

一般社団法人コーポレートウェルネス研究会 代表理事 傳川紀子

中学校の英語教諭を務めたのち、関東学院大学にて建築工学を専攻し建築構造設計に従事。
ハードワークにより崩してしまった体調を戻すことをきっかけに、心と身体の健康について国内と米国で15年以上に渡って学ぶ。約10年間延べ50,000人以上を対象としたボディコンディショニングの指導経験を持つ他、個人や若手経営者向けの睡眠、瞑想の講座も数多く提供。身体を整えることでパフォーマンスを上げることを得意とする。

2019年に一般社団法人コーポレートウェルネス研究会を設立。“幸せに働く人を増やす”ことを理念として、主に法人向けにメンタルヘルス、睡眠、運動など心身の健康に関する研修プログラムや教材の作成、提供を行っている。

【保有資格】
・産業カウンセラー
・上級睡眠健康指導士
・骨盤調整体操インストラクター(b-i スタイリスト)
・米国チョプラセンター認定瞑想&ヨガインストラクター
・ホリスティックヘルスコーチ(The Institute for Integrative Nutrition認定)


※当記事は2024年2月に作成されたものです
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

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