企業に求められるパワハラ防止対策とは ~労働施策総合推進法(パワハラ防止法)~

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
2020年6月に施行された改正労働施策総合推進法により、企業はこれまで以上にパワハラの防止対策が求められています。みなさんの企業でも、防止研修を行ったり、相談窓口を設置したりなど、さまざまな体制づくりを推進されているのではないでしょうか。
しかし、都道府県労働局等に設置された相談窓口に寄せられる職場のいじめ・嫌がらせに関する相談はここ10年増加。令和3年の調査では、仕事による強いストレスが原因で精神障害を発病し、労災認定されたケースについて、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けたこと」が原因のトップとなりました。
ハラスメントのない職場とするために、企業はどう対策をしたらよいのでしょうか。この点について詳しくお届けします。
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<目次>
◆パワハラ防止措置が中小企業も義務化
◆パワハラ防止は企業の重要課題
◆職場の「いじめ・嫌がらせ」が10年連続最多
◆精神障害の労災認定も「パワハラ」がトップ
◆パワハラと適正な業務指導の線引き
◆在宅勤務中なら自宅も「職場」に
◆上司と部下以外の関係も「優越的な関係」があり得る
◆パワハラの代表的な言動は6類型で確認
◆雇用関係のない派遣労働者も対象に
◆ハラスメントのない職場とするために
パワハラ防止措置が中小企業も義務化
労働施策総合推進法(旧雇用対策法)が改正され、令和2年6月から職場のパワーハラスメント(パワハラ)を防止するための措置の実施が大企業に義務付けられました。令和4年4月には、それまで努力義務とされていた中小企業にも義務化されています。
企業は職場のパワハラを防止し、また発生してしまった場合には適切に対応できるよう、「労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」(法第30条の2第1項)とされています。具体的には、図表1の10項目の措置を実施する必要があります(※1)。


【出典】
※1 令和2年厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」よりティーペックが作成
パワハラ防止は企業の重要課題
図表1の措置は、すでに義務化されているセクシュアルハラスメント等の防止に関する措置と同様の内容であり、法令違反にならないように形式的に整備すること自体は、それほど難しいものではありません。
相談対応に関しては、相談内容を丁寧に聞き取るとともに、プライバシーの確保や秘密保持、さらには中立的な立場での事実確認など、さまざまなスキルが要求されますが、社内に適当な人材がいない場合、弁護士や社会保険労務士といった専門家、あるいはメンタルヘルス、健康相談、ハラスメントなど相談窓口の代行を専門に行っている企業などに委託し、外部に相談窓口を置く方法も可能です。
ただ、パワハラはいったん発生してしまうと、企業にとってプラスになることは何一つありません。当事者のみならず周囲の従業員を巻き込んで、職場秩序や業務遂行に多大な悪影響を及ぼすことが厚生労働省の実態調査などから分かっています(図表2、※2)。

また、企業側がパワハラに直接加担していなくても、裁判によって企業の法的責任が問われる可能性もあります(図表3、※3)。裁判となれば、その対応に多くの負担を要するとともに、企業イメージや社会的評価への影響も避けられません。

こうしたさまざまな影響を考慮すると、パワハラの防止対策は企業にとって極めて重要であり、法令に関係なく、しっかりと取り組むべき課題であると考えられます。
職場の「いじめ・嫌がらせ」が10年連続最多
とはいえ、これまで従業員のパワハラが問題とされなかった企業にとって、パワハラの防止対策といわれても、さほど緊急性、重要性を感じないかもしれません。実際に、社内の風通しが良く、パワハラとは無縁の企業もあると思われます。
ただ、世間一般の状況を見ていくと、そうでもありません。厚生労働省が毎年度公表している調査によると、都道府県労働局等に設置された相談窓口に寄せられた個別労働紛争に関する相談のうち、最も多いのは「いじめ・嫌がらせ」に関する相談で、令和3年度の件数は8万6,034件に上ることが分かりました。前年度(7万9,190件)から8.6%増加し、10年連続で最も多い相談内容になっています(図表4、※4)。
職場の「いじめ・嫌がらせ」がすべてパワハラに該当するわけではありませんが、職場で発生したいじめ・嫌がらせの背景に職務上の地位などに基づく「優越的な関係」があれば、パワハラに該当する可能性が高いと考えられます。

精神障害の労災認定も「パワハラ」がトップ
また、精神障害の労災認定にもパワハラが大きな影響を及ぼしています。仕事による強いストレスが原因で精神障害を発病し、労災認定されたケースについて、その原因となる出来事別に支給決定件数を見ていくと、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」ことがトップになっています。職場のいじめ・嫌がらせを含めて、令和3年度の支給決定件数(629件)の約3割を占めている状況です(図表5)。中には従業員の人命に関わる事態に追い込まれたケースもあり、取り返しのつかない損失を被る前に、適切な対策が欠かせません。

パワハラと適正な業務指導の線引き
一方、企業が対策に取り組む上では、幾つか課題も散見されます。中でもよく指摘されるのが「ハラスメントかどうかの判断が難しい」ことで、厚生労働省の実態調査(※6)では6割以上の企業が課題に挙げています。特にパワハラに関しては、「適正な業務指導」との違いが必ずしも明確ではないため、パワハラと判断されるのを恐れて管理職が部下に業務指導を行うのをためらうような事態が懸念されています。
この点に関して同省は、職場のパワハラについて、図表6の①~③の要素をすべて満たす行為と法律で定義するとともに、「客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラに該当しない」ことを強調しています。さらに、パワハラに該当するか否かをより分かりやすく、明確にする観点から、パワハラの代表的な言動とされる6類型を示しています(図表7)。
【出典】
※6 厚生労働省 「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 主要点」

在宅勤務中なら自宅も「職場」に
上司と部下以外の関係も「優越的な関係」があり得る
同じく①「優越的な関係」とは、職場の上司と部下の関係など、職務上の地位の優越に基づく関係によって、行為に対して容易に抵抗または拒絶することができない場合が該当します。逆に部下から上司への行為、あるいは同僚同士の行為であっても、容易に抵抗または拒絶することができない背景があれば、「優越的な関係」に該当します。例えば、行為者側が集団である場合や、行為者が業務上必要な知識、経験等を有しており、協力を得なければ業務を円滑に遂行することが困難な場合などが該当すると考えられます。
パワハラの代表的な言動は6類型で確認
②「業務上必要かつ相当な範囲」とは、社会通念に照らし、総合的に判断されることになります。業務上明らかに必要性のない言動、業務の目的を大きく逸脱した言動、業務を遂行するための手段として不適当な言動、行為の回数や行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動などは、「業務上必要かつ相当な範囲」を超えたものと判断されることになりますが、その具体例が図表7に類型別で整理されています(※7)。
「担当者として知っておきたい!ハラスメントの定義と種類とは」を解説 >>
雇用関係のない派遣労働者も対象に
③「労働者」とは、正社員、パートタイム、嘱託、契約社員などの名称にかかわらず雇用されるすべての従業員を指します。職場で派遣労働者を受け入れている場合は、直接雇用関係のない派遣先の企業であっても、パワハラ防止の措置を講ずる対象の労働者に含まれます。また、「就業環境が害される」とは、その言動によって労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じたかどうかを判断します。



ハラスメントのない職場とするために
企業に法令上求められる措置は図表1の通りですが、一般に、従業員に過度な肉体的・精神的負荷を強いる職場環境や組織風土は、人間関係がギクシャクしやすくパワハラなどのハラスメントが起こりやすいと考えられます。過度な長時間労働の是正など、働き方改革を進めて職場環境を改善していくことがパワハラの防止につながります。
また、風通しの良い職場環境や人間関係を構築することもパワハラ防止に有効だとされています。定期的な面談やミーティングを開催するなど、従業員間のコミュニケーションを活性化するような取り組みが求められます。この他、ハラスメントを防止するための研修機会を設けることなども有効です。
一方で、パワハラ防止対策を企業に求める労働施策総合推進法は、従業員(労働者)に対してもパワハラに対する「関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる措置に協力するように努めなければならない」(法第30条の3第4項)などと、「労働者の責務」を定めています。パワハラなどのハラスメントがない職場をつくるには、職場環境を構成する従業員一人一人が意識を高め、他の従業員の心情に配慮した言動を行うことが重要であることは言うまでもありません。
したがって、パワハラ防止対策を実施する際は、企業側が労働組合や労働者の代表などにその目的や意義を伝え、十分に意見交換した上で行うとともに、従業員側も企業側が実施する措置に協力し、労使一体となって取り組みを進めることが望まれます。
原稿・社会保険研究所Copyright
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参考:
・厚生労働省 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)令和2年6月1日適用」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf
・厚生労働省 「『平成28年度 職場のパワーハラスメントに関する実態調査 主要点』平成29年4月28日公表」
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11208000-Roudoukijunkyoku-Kinroushaseikatsuka/0000163752.pdf
・厚生労働省「パワーハラスメント対策導入マニュアル 第4版」
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/pdf/pwhr2019_manual.pdf
・厚生労働省「令和3年度『個別労働紛争解決制度の施行状況』を公表します 」(令和4年7月1日公表)
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000959370.pdf
・厚生労働省「令和3年度『過労死等の労災補償状況』を公表します」(令和4年6月24日公表)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26394.html
・厚生労働省 「『令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 主要点』令和3年4月30日公表」
https://www.mhlw.go.jp/content/11910000/000775797.pdf
・厚生労働省「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=75008000&dataType=0&pageNo=1
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※当記事は2022年10月に作成されたものです
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