メンタルヘルス・ハラスメント
ハラスメント 2022/07/22

2022年4月より中小企業も対象化となった「パワハラ防止法」について解説

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

今回は、ティーペックで人事・労務の相談業務を担当する舘野聡子さん(株式会社ISOCIA 代表取締役、特定社会保険労務士)に、2022年4月より中小企業も対象化となった「パワハラ防止法」について解説いただきました。企業が確認すべきチェックポイントや、組織としてできる準備についてお届けします。(以下、舘野さん執筆)

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<目次>
パワハラ防止法とは
雇用管理上の措置
組織としてできる準備

2022年4月より、新たに人事や総務の担当者となられた方も多くいらっしゃるのではないかと思います。2022年春の人事労務関係のトピックスの中で、多くの注目を浴びているトピックに「パワハラ防止法の中小企業への適用」が挙げられるのではないでしょうか。

人事・総務の担当者として、今後どのような対応を行っていかなければならないか、解説していきたいと思います。

パワハラ防止法とは

「パワハラ防止法」と一般に呼ばれている法律は、正式には「労働施策総合推進法」といいます。2019年に改正され、職場におけるパワーハラスメント(以下、パワハラ)に関する措置を講ずることと定められました。

<労働施策総合推進法(抄)>(雇用管理上の措置等) 第30条の2

この法改正では、職場におけるパワハラの定義が法律の条文に明記され、その上でパワハラについて防止措置を講ずることを、事業主に義務付けています。

「パワハラ防止法」と聞くと、パワハラをしてはならない、とパワハラ行為自体を禁止している法律との印象を持つ人もいるかもしれません。しかし実際は、職場でパワハラを防止するための事業主の義務が定められている法律なのです。

雇用管理上の措置

それでは、雇用管理上講ずべき措置とはどのような内容になるのでしょうか。条文には、何をすべきか詳しく書かれてはいません。詳細は、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」に記載してあります。

指針の内容と、十分に実施しているかチェックポイントを併せてみていきましょう。

【4.事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容(指針一部抜粋)】

(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

事業主は、職場におけるパワーハラスメントに関する方針の明確化、労働者に対するその方針の周知・啓発として次の措置を講じなければならない。(略)

イ)職場におけるパワーハラスメントの内容及び職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。(略)
ロ)職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。(略)

パワハラを行ってはならないこと、また行った者については厳正に対処する旨の方針を明確にしてそれを管理職も含む全員に伝えていますか?

全員が会社の方針を知っていることが重要です。社内報・社内イントラネット・研修等あらゆる手段を使い繰り返し伝えていきましょう。パワハラを行った者に対する処分を行うためには、就業規則に定め労働者に周知することが必要です。

(2)相談(苦情を含む。以下同じ)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

事業主は、労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として次の措置を講じなければならない。

イ)相談への対応のための窓口(以下、「相談窓口」という。)をあらかじめ定め、労働者に周知すること。(略)
ロ)イの相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、相談窓口においては、被害を受けた労働者が萎縮するなどして相談を躊躇する例もあること等を踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。(略)

労働者がパワハラに関する相談や苦情を申し出ることができるように「あらかじめ」相談窓口を定めることが必要です。相談窓口には、相談しやすい立場の人が選任されていることが重要ですがいかがでしょうか。

また、職場で働く全ての労働者が、パワハラに関して「相談方法、相談後の対応の流れ」を知っていますか?相談窓口の担当者は、いつパワハラの相談や苦情が入っても対応できる準備をしておく必要があります。

具体的には相談対応マニュアル等の整備、相談担当者向けの研修の受講などが挙げられます。相談する側も相談窓口担当者も双方が安心して対応できる仕組みづくりが求められています。

(3)職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

事業主は、職場におけるパワーハラスメントに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、次の措置を講じなければならない。

イ)事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。(略)
ロ)イにより、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者(以下「被害者」という。)に対する配慮のための措置を適正に行うこと。(略)
ハ)イにより、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと。(略)
二)改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講じること。(略)

パワハラの相談の申し出があった場合には、迅速かつ正確に事実を確認する必要があります。相談者の話を聴き、その後行為者や第三者にも事実確認を行います。このとき相談者寄りでも、行為者寄りでもなく、中立の立場で事実を確認し記録するスキルが必要となります。

当事者と関係が深い方など、中立の立場で相談を聴くことが難しい方が相談担当者になっている場合もあります。中立性やその他相談対応に不安がある場合には、部分的にでも外部のハラスメント対応の専門家の力を借りるなど、アドバイスを受けることをお勧めします。

(4)(1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置

(1)から(3)までの措置を講ずるに際しては、併せて次の措置を講じなければならない。

イ)職場におけるパワーハラスメントに係る相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応又は当該パワーハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること。(略)
ロ)(略)労働者が職場におけるパワーハラスメントに関し相談をしたこと若しくは事実関係の確認等の事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと又は調停の出頭の求めに応じたこと(略)を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。(略)

相談窓口での相談への対応や、事実確認を行う際に、当事者の情報が漏洩しないような対策を取っていますか?相談する側は、自分の意に反して相談した内容が漏れることや不利益な取扱いを受けることを心配しています。相談担当者は守秘義務があることや不利益取扱いをしないこと等を説明し、安心してもらうことが重要です。

情報の取扱いについては相談対応マニュアル等に定め、周知します。相談窓口の担当者がプライバシーを保護するために必要な研修を受けていることを社内に周知することも、相談者・相談窓口担当者の安心につながります。

組織としてできる準備

雇用管理上の措置を行っていくためには、十分な準備が必要です。実際にパワハラの相談が入ってから、迅速に対応するための準備をするのは現実的ではありません。

特に、「相談対応する際のマニュアル」「(マニュアルに基づいて)相談を聴くスキルを学ぶ研修」は、相談担当者の安心のために必要です。また、心身の不調を訴える相談者への対応や、対応に不安がある場合に相談ができる専門家と連携しておくことが、相談窓口の担当者の不安を軽減することにつながります。

また、効率的に会社のパワハラに対する姿勢や相談窓口について周知するための場として教育研修も活用しましょう。研修ではパワハラにとどまらず、セクハラやマタハラについても改めてその概要を周知し、予防することが重要だと伝えていきましょう。

<事務局より>以下より、従業員のハラスメント対策にお役立て頂ける資料をダウンロードしていただけます。ぜひご活用ください。

プロフィール

舘野聡子

オフィスブリーゼ 代表
株式会社 イソシア 代表取締役
舘野 聡子(たての さとこ)

同志社大学 法学部 法律学科卒業 労働法専攻 
筑波大学大学院人間総合科学研究科 生涯発達専攻 カウンセリングコース修了 カウンセリング修士
大学卒業後、民間企業・社労士事務所等に勤務後、ハラスメント中心のコンサルティング会社にて、相談員、問題解決のためのコンサルティング業務に従事。その後産業医事務所において事務長として産業保健領域での問題解決及び産業医・産業保健師のマネジメント等を行う。
2015年に独立後は、社労士として産業保健領域での規程(メンタルヘルスの休職・復職、健康情報の取扱、ストレスチェック実施、衛生委員会等)の作成と、ハラスメント・コンプライアンスの相談窓口の体制づくり及び運用等及び問題を生じさせないための教育研修を得意とし、数多く実施している。

【学歴】
同志社大学 法学部 法律学科
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 生涯発達専攻 カウンセリング修士
【保有資格等】
特定社会保険労務士 公認心理師 シニア産業カウンセラー 21世紀職業財団ハラスメント防止コンサルタント 
国家資格キャリアコンサルタント 経営倫理士  医療労務コンサルタント  メンタルヘルス法務主任者(第1期生) 
東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野 職場のメンタルヘルス専門家養成コース修了(第7期)
【所属学会】
産業保健法学会 日本産業ストレス学会 日本心理学会 産業組織心理学会

※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※当記事は2022年7月に作成されたものです。