10月から利用できる「産後パパ育休」とは? ~改正育児・介護休業法の中身と狙い~

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
今回は、「2022年10月改正の育児・介護休業法」についてお伝えします。
<目次>
■少子化の進行が止まらない
■出生数が低下する理由
■伸び悩む男性の育児休業
■男性の育児休業取得を促すために
■柔軟に利用できる「産後パパ育休」とは
■個別周知・意向確認と職場環境の整備
■育児休業を取得したい人が希望通り取得できる社会に
少子化の進行が止まらない
厚生労働省によると、令和3年に生まれた子どもの数(出生数)は前年から約3万人減って81万1,604人となり、過去最少を更新しました*1。出生数が初めて90万人を下回り、「86万ショック」(86万5,234人)*2と騒がれたのが令和元年。それからわずか2年ほどの間で、はや80万人をも下回りそうな勢いで少子化が進んでいます。
子どもを持つ・持たないは個人の自由ですが、社会全体で見ると、少子化の進行は生産年齢人口や労働力人口の減少等を通じて、経済や社会保障などのさまざまな分野に大きな影響を及ぼします。そこで政府は、子どもが欲しいのに何らかの事情で持つことができない人に向けて、さまざまな支援策を講じています。その一つが、「産後パパ育休」(出生時育児休業)の創設などを盛り込んだ育児・介護休業法の改正です。
*1:厚生労働省令和3年人口動態統計月報年計(概数)【令和4年6月3日公表】
*2:厚生労働省令和元年人口動態統計月報年計(概数)【令和2年6月5日公表】
出生数が低下する理由
出生数が低下するのは、さまざまな理由があります。価値観の多様化、未婚者の増加や晩婚化の広がり、経済的な事情、夫婦共働きが増えた現代では仕事と育児の両立の難しさや負担感、あるいは夫が家事や育児を十分にせず、妻ばかりに負担が偏るといった理由もあると考えられます。新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く昨今においては、妊婦や新生児が感染するのを懸念して、妊娠を控える傾向も見られました。
ここで着目したいのは、男性(夫)の家事・育児への関わりと出生率との相関です。厚生労働省によると、夫の家事・育児に関わる時間が長ければ長いほど、出生率が高まる傾向にあるといいます。例えば、夫が休日に家事・育児をまったくしない家庭の第2子以降の出生割合(10.0%)と、家事・育児を6時間以上行う夫の家庭の第2子以降の出生割合(87.1%)は、実に8倍以上の差が生じています(図1)。
つまり、育児休業などを取得する男性を増やし、夫の家事・育児に関わる時間・機会を増やすことで、出生数を増やす効果が期待できるということです。

伸び悩む男性の育児休業
それでは、男性の家事・育児に関する取り組みは、どのような状況にあるのでしょうか。男性の育児休業取得率は12.65%で、年々上昇はしているものの、女性の取得率(81.6%)と比べると、大きく見劣りします*3。取得期間に関しても、女性の約9割(89.4%)が6ヵ月以上であるのに対し、男性は約7割(71.4%)が2週間未満であり、5日以内も36.3%を占めています*4。
男性の取得時期に関しては、女性の産後休業期間に当たる「出産後8週以内」が46.4%で最も多く、産後の妻が入院している期間や退院時、退院後の数日間に取得して、家事や育児を行うニーズが高いことがうかがえます*5。
一方で、育児休業などを取得したくても取得できなかった男性も、一定割合で存在しています。厚生労働省によると、育児休業制度の利用を希望していたが、利用できなかった男性正社員はおよそ4割(37.5%)*6。制度を利用できなかった理由としては、「収入を減らしたくなかったから」「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから」「会社や上司、職場の理解がなかったから」「自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから」などが特に男性に多い理由として挙げられています(図2)。
*3:厚生労働省令和2年度雇用均等基本調査【令和3年7月30日公表】
*4:厚生労働省平成30年度雇用均等基本調査【令和元年7月30日公表】
*5:厚生労働省委託事業「令和2年度仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(株式会社日本能率協会総合研究所)
*6:厚生労働省委託事業「平成30年度仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)

男性の育児休業取得を促すために
男性の育児休業の取得状況・取得希望やその背景等を踏まえると、まずは育児休業制度を利用したいのに利用できない男性を減らしていくことが、男性の家事・育児時間を増やす近道になると思われます。
また、これまでの男性の取得時期の傾向を見ると、子の出生後8週間以内が約5割(46.4%)を占めていることから、改正育児・介護休業法は、こうした時期を対象に男性が柔軟に利用しやすい新たな育児休業制度(産後パパ育休)を設けるほか、育児休業の申し出をしやすい環境整備を会社側に求めるなど、男性の取得を促す改正を主眼としています。主な改正事項および施行時期は以下の通りです(図3)。


柔軟に利用できる「産後パパ育休」とは
令和4年10月から利用できる産後パパ育休(出生時育児休業)制度は、現行(改正前)の育児休業に比べて「柔軟に利用しやすい」というのが特長です。具体的にどのように「利用しやすい」制度設計となっているのか、ポイントを確認していきます。
まず産後パパ育休を取得するには、現行の育児休業と同様に会社に取得の申出をする必要がありますが、その申出期限は現行の育児休業(休業開始日の原則1ヵ月前)より短い原則2週間前*7とされています。1ヵ月先の仕事の予定や家庭の状況が見通せず、なかなか育児休業の取得に踏み切れなかった人も、2週間前であれば状況がある程度はっきりし、取得しやすくなると思われます。
2回まで分割して取得できるのも大きなポイントです。上限日数(28日間)の範囲内であれば、1日からでも取得できるので、例えば出産予定日後の1週間と妻の退院後1週間など、ニーズに合わせて自由に休業期間を設定することができます。ただ、取得時期については初回の申出時に2回分の期間を指定する必要があります。
会社で労使協定を締結するなど、一定の要件を満たせば、休業期間中に就業することができるというのも、利用しやすさの一つです。現行の育児休業も臨時的・一時的な事情がある場合に限り、休業期間中に就業することが可能ですが、あくまで臨時的な取扱いで、あらかじめ就業日を決めるようなことはできません(改正後の育児休業も同様)。産後パパ育休では、休業期間中に就業日もしくは就業時間をあらかじめ設けることが可能になりますので、仕事との調整が容易になり、仕事を理由に取得を諦めていた人も、利用しやすくなります。
ただ、産後パパ育休の就業日数等は、休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分までという上限があります。また、雇用保険の出生時育児休業給付金や社会保険料の免除にも別途、就業日数等の要件がありますので、その点は留意が必要です。
*7:会社が雇用環境の整備などについて法を上回る取り組みを行い、労使協定で定めている場合は、申出期限を原則1ヵ月前とすることもできます。
個別周知・意向確認と職場環境の整備
男性が育児休業制度を利用したくても利用できなかった理由に「職場の雰囲気」や「会社や上司の理解がない」が挙げられていることから、改正育児・介護休業法は、こうした制度の利用を阻害する職場環境の改善を促す改正も盛り込んでいます。
すでに令和4年4月から施行されている個別周知・意向確認の義務化は、育児休業を取得したいと考えている労働者(主に男性労働者)が、職場の雰囲気や制度をよく知らない等の理由で利用をためらうようなことを防ぐのが目的です。したがって、会社側には、育児休業等の制度の内容や、利用する場合の申出先や期限、休業期間中の収入(雇用保険の育児休業給付等や社会保険料の免除対象となるための要件など)や休業期間中の就業の扱い(産後パパ育休の場合)などについて、丁寧に説明することが求められます。
また、同じく4月から義務化された雇用環境の整備に関しても、会社側は労働者が希望する期間、育児休業等を取得できるよう配慮するとともに、図3にある措置をできる限り多く実施し、育児休業等を取得しやすい職場環境とすることが望まれます。
育児休業を取得したい人が希望通り取得できる社会に
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参考:
・厚生労働省「令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai21/index.html
・厚生労働省「令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai19/index.html
・厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r02.html
・厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-30r.html
・厚生労働省 厚生労働省委託事業「令和2年度仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(株式会社日本能率協会総合研究所)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000791052.pdf
・厚生労働省 厚生労働省委託事業「平成30年度仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000534370.pdf
・厚生労働省「育児・介護休業法の改正について ~男性の育児休業取得促進等~」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851662.pdf
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※当記事は2022年8月に作成されたものです
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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