健康経営
健康経営 2022/08/22

【更新】健康経営銘柄と健康経営優良法人を通して見る健康経営推進の進捗と課題

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
今回は、「健康経営銘柄と健康経営優良法人を通して見る健康経営推進の進捗と課題」についてお伝えします。
*2022年8月22日に「健康経営優良法人2023」について追記いたしました。

健康経営とは、「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が期待できる」という基盤に立って、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することです。

健康経営の進捗と課題を知るため、健康経営に取り組む企業の中から「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」を選定・認定する顕彰制度に焦点を当てます。
※「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。

<目次>
■「健康経営銘柄」と「健康経営優良法人」
■顕彰制度による「見える化」と「健康経営度調査」の実施
■調査項目は毎年改良、新たに盛り込まれた3点とは
■健康経営の推進に向けて
■健康経営優良法人2023について(2022年8月22日追記)

「健康経営銘柄」と「健康経営優良法人」

2022年3月9日、経済産業省と東京証券取引所による「健康経営銘柄2022」と、日本健康会議による「健康経営優良法人2022」が発表されました。

第8回となる「健康経営銘柄2022」には、過去最多の32業種50社が選定されました(※1)。選定は、健康経営度が上位20%の上場企業から1業種1社を基本として行われ、ROE(自己資本利益率)、前年度回答状況、社外への情報開示の状況についても評価しています。また、各業種で最高順位の企業の平均より優れている企業も選定しています。

健康経営銘柄2022 選定企業1
健康経営銘柄2022 選定企業2
健康経営銘柄2022 選定企業3

一方、「健康経営優良法人2022」には、大規模法人部門で2,299法人、中小規模法人部門で1万2,255法人が認定されました。昨年度の認定数(大規模法人部門:1,801法人、中小規模法人部門:7,934法人)から大幅な増加が見られます。また、大規模法人部門では、特に優れた評価の上位500法人を「ホワイト500」、中小規模法人部門では、「ブライト500」として認定しています(※2)。

【出典】
※1 経済産業省 「健康経営銘柄2022」に50社を選定しました!」
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220309001/20220309001.html

※2 経済産業省 「健康経営優良法人2022」認定法人が決定しました!」
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220309002/20220309002.html

顕彰制度による「見える化」と「健康経営度調査」の実施

経済産業省では、2014年度から上場企業を対象に「健康経営銘柄」の選定を行ってきました。また、2016年度からは「健康経営優良法人認定制度」を創設しました。こうした顕彰制度によって健康経営に取り組む法人を「見える化」することにより、健康経営が社会的な評価を受けられる環境整備が進められてきました。

「健康経営銘柄」および「健康経営優良法人」の顕彰は、図表2のフローで行われています(※3)。

健康経営銘柄の選定フロー
健康経営優良法人の選定フロー

【出典】
※3 経済産業省 「健康経営優良法人の申請について」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin_shinsei.html

このフローの中で注目したいのは、「健康経営銘柄」と「健康経営優良法人(大規模法人部門)」において「健康経営度調査」(以下、調査という)が実施されている点です。調査は、法人の健康経営の取り組み状況と経年変化を分析するとともに、「健康経営銘柄」の選定および「健康経営優良法人(大規模法人部門)」の認定に関する基礎情報を得るために行われています。

調査内容は経済産業省のホームページに掲載されていますが、2021年度の「調査票目次」を見ると71設問があり、その中には認定要件に係る設問(回答によっては認定不適合の評価を受ける)や回答することが必須とされる設問(業種や従業員数などの基本情報のほか、健康経営に関する考え方・方針など)が含まれています(※4)。

なお、経済産業省は中小規模法人に対しても、「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」の認定の要件ではないものの、「健康経営を実践するにあたって何が重視されるのか、何からどのように取り組めば良いのかがわかります」と調査へ回答してみることを勧めています。

図表3 2021年度健康経営度調査票の目次

【出典】
※4 経済産業省 「経済産業省令和3年度健康経営度調査」P11
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/R3_kenkokeieidochosa_sample.pdf

調査項目は毎年改良、新たに盛り込まれた3点とは

調査項目は毎年改良が加えられており、2021年度の調査では、新たに(1)情報開示の促進、(2)業務パフォーマンスの評価・分析、(3)スコープの拡大、の3点が盛り込まれました(※5)。

(1)情報開示の促進として新たに加えられたのは、たとえば「図表3 2021年度健康経営度調査票の目次」のQ6「回答開示の可否」です。Q6の具体的な質問は、「当調査の評価結果および一部設問の回答内容について、経済産業省のウェブサイト等での公表を予定しています。貴法人の情報について公開してよろしいでしょうか」であり、「ホワイト500」に認定されるにはこれに同意することが必須条件とされています。健康経営に関する情報開示は、他の設問の中にも散見し、評価される方向性が見られます。

(2)業務パフォーマンスの評価・分析については、健康経営の実践によって従業員の業務パフォーマンスや企業経営にどのような効果があるのか、企業自らが評価・分析する設問が盛り込まれました。

たとえば、Q69「従業員の生産性や組織の活性度等について」では、アブセンティーイズム(傷病による欠勤)やプレゼンティーイズム(出勤はしているものの、健康上の問題によって完全な業務パフォーマンスが出せない状況)、ワークエンゲイジメント(仕事に関するポジティブで充実した心理状態)といった業務パフォーマンスに関する指標をどのように測定しているかについて回答を求めています。

これらの設問は、回答必須ではありますが、認定要件として評価の対象ではなく、2021年度調査では指標の測定手法等の実態把握のために設けられました。現在は、これらの指標を使った健康経営推進の研究のためにデータを蓄積している段階ですが、将来的にはそれらの指標を使って健康経営を深化させていこうという方向性が示されているわけです。

(3)スコープの拡大とは、健康経営を推進する範囲を自社だけでなく、サプライチェーンや社会全体にも広げる動きを促進することを意味しています。たとえば、Q23は「サプライチェーンにおいて取引先の取り組みの支援(健康経営のノウハウ提供や共同実施等)を行っていますか」と質問し、取引先の健康経営の取り組みへの支援とそれを公表していることが認定要件になっています。

また、Q24には、「国際的にSDGsやESG投資への対応が加速する中、社会全体の『健康』に対する貢献に関して、 企業活動や商品・サービスを通じて人々の健康増進に寄与していますか」という質問が回答必須で追加されました。このQ24は認定要件として評価の対象ではないものの、将来的には回答必須かつ認定要件とされていく方向にあると見られます。

【出典】
※5 経済産業省 「第4回 健康投資ワーキンググループ」資料P4 
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/004.html

健康経営の推進に向けて

「健康経営銘柄」は、調査の評価結果として「総合評価(偏差値)」で示される「健康経営度」が上位の上場企業から、原則として1業種1社(一定の基準を満たせば、例外的に同一業種でも複数企業が選定される)」という厳しい審査があり、選定される企業数は限られます。

にもかかわらず、「健康経営銘柄2022」は32業種に対して32社ではなく50社(電気機器、情報・通信業、化学等で複数企業が認定)が選定されました(図表1)。選定は2015年から始まり、最初は22社でした。それから7年でほぼ全業種(32/33業種)で選定されるようになったのは、上場企業が業種の区別なく健康経営を積極的に推進したからです。

 「健康経営優良法人」も、認定が始まってわずか6年で大規模法人部門と中小規模法人部門合わせて 1万4,554(2,299+12,255)法人に達したのは、やはり健康経営の重要性の認識が急速に広がっている証と見られます(図表5・6)。

令和3年度 健康経営度調査の結果

【出典】
※6 経済産業省 「健康・医療新産業協議会 第5回健康投資WG 事務局説明資料」P2
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/005_02_00.pdf

健康経営優良法人2022(中小規模法人部門)の申請・認定状況

【出典】
※7 経済産業省 「健康・医療新産業協議会 第5回健康投資WG 事務局説明資料」P5
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/005_02_00.pdf

もっとも、健康経営優良法人(大規模法人部門)」は、大規模法人(母数1万社以上)の20%を超えたと見られますが、「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」(母数300万社以上)は、1%未満にすぎません。

大規模法人が健康経営に取り組むことはもはや当然視され、健康経営の中身をどのように深化させていくかのフェーズに入っていると見られます。中小規模法人については、健康経営への理解を広め、経営者の意識を高めていくことに主眼を置く啓発的時代がまだ続いているといえます。中小企業の中には従業員数の多い企業も家族経営の零細企業もあり、それぞれの規模・形態に最適な健康経営をさらにきめ細かく追究することが必要なのかもしれません。

原稿・社会保険研究所Copyright

■健康経営優良法人2023について(2022年8月22日追記)

2022年7月26日に「第6回 健康投資ワーキンググループ」が行われ、「健康経営優良法人2023」に関する運営について、これまでは国が運営していましたが(シンクタンクに委託)、民間運営を見据えて、今年度から補助事業者として日本経済新聞社を選定しました。

また、上記の民間運営化による認定法人向けのサービス向上のため、今年度より、申請料金を導入することを発表しています。(大規模法人部門:税込88,000円、中小規模法人部門:税込16,500円)

*詳細についてはこちら→「ACTION!健康経営(日本経済新聞社)」
https://www.kenko-keiei.jp/

***************
参考:
・経済産業省 「健康経営銘柄2022」に50社を選定しました!」
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220309001/20220309001.html

・経済産業省 「健康経営優良法人2022」認定法人が決定しました!」
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220309002/20220309002.html

・経済産業省 「健康経営優良法人の申請について」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin_shinsei.html

・経済産業省 「経済産業省令和3年度健康経営度調査」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/R3_kenkokeieidochosa_sample.pdf

・経済産業省 「第4回 健康投資ワーキンググループ」 
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/004.html

・経済産業省 「健康・医療新産業協議会 第5回健康投資WG 事務局説明資料」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/005_02_00.pdf

***************

※当記事は2022年8月に作成されたものです
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

関連記事

健康経営の記事一覧は、こちら