セミナー
セミナーレポート 2022/06/14

ティーペック主催オンラインセミナー~健康経営で中長期的に成果を上げるために~

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

2022年4月21日、ティーペック株式会社では、オンラインセミナー「健康経営で中長期的に成果を上げるために~鍵は『従業員視点』での無形資源の蓄積~」を開催しました。

健康経営の推進において中心的な役割を担われている産業医科大学産業生態科学研究所 産業保健経営学教授の森晃爾先生をお招きし、健康経営の成果を上げるために必要なこと、そして健康経営が組織にもたらす効果などについて、お話いただきました。

本記事では、今回のセミナーの内容について詳しくレポートします。

≪目次≫
■健康経営とは、どういうものか
■健康経営の進め方
■健康経営で成果を上げるために重要なのは、組織のダイナミズムの活用
■健康経営で蓄積される無形資源とは
■健康経営のゴール
■まとめ

健康経営とは、どういうものか

日本の将来推計人口グラフ(平成24年1月推計)

今後、少子高齢化の急速な拡大が見込まれる状況において、どのように働き手を確保し、社会制度を維持していくかは大きな課題です。従業員の健康に対し、企業に投資をしてもらうことで、医療費の適正化を図り、働く人の活力をあげることで生産性を高めていこうという視点から、健康経営の推進が始まりました。

従業員の健康レベルの向上は、生産性の向上にもつながります。従業員が病気を患い、長期に休職したり、早期に退職したりすることによる損失を「アブセンティーイズム」、不調を抱えながら仕事に来ているため能率が上がらないといった損失は「プレゼンティーイズム」と呼びますが、健康経営によって、こういう状態を改善することができれば生産性は向上します。さらに健康経営による取り組みによって、活力を持って仕事に取り組む「ワーク・エンゲイジメント」が向上すれば、より企業の業績に直結することが期待されます。

健康経営で成果を上げた企業には、「従業員間のコミュニケーションが向上する」「従業員満足が向上し、顧客満足にもつながる」「人材確保が容易になる」といった付随効果もみられます。そして健康経営銘柄に指定された企業は、東証株価指数と比べ、高い株価パフォーマンスを示していることもわかっています。

ただ従業員が健康になったからいいのではなく、それが会社にとってどのような価値があるのかを確認し、広報活動やIR活動でステークホルダーに発信していくところまで含めて、健康経営なのです。

健康経営の進め方

続いて「健康経営の進め方」のポイントを紹介します。

ポイント1.疾病モデルとパフォーマンスモデル

健康経営に取り組むにあたって、まず考える必要があるのは「どのレベルの健康を目指すのか」ということです。

「疾病モデル」とは、病気にならないような健康をつくることが基本という考え方です。しかし「病気がない=健康」であるかといえばそうではないわけです。特に仕事上の健康というのは、前向きに、生き生きと仕事ができているようなポジティブな状態であると考えられます。そこで、業務遂行能力の高い健康をどう作っていくかというのが「パフォーマンスモデル」であり、健康経営で考えなければいけないモデルといえるでしょう。

ポイント2.健康経営のお城

例えば、長時間労働でいつ倒れてもおかしくないという状況の会社で、「いくらみんなで健康になろうね」とメッセージをだされても全く意味がありません。まずは企業の責任として、安全・健康配慮義務、そして疾病管理や疾病予防をしっかり行うという基盤を作った上で、ヘルスプロモーション、活力の向上と段階を上げていく必要があります。

健康経営の進め方

ポイント3.健康づくりの4つのアプローチ

健康経営には、大きく分けると4つのアプローチがあります。

1.ハイリスクアプローチ[ハイリスク者への健康指導と改善支援]
2.インディビジュアルアプローチ[一人ひとりの健康課題への評価と健康づくり支援] 例:ウェアラブルデバイス
3.ポピュレーションアプローチ[集団での健康づくりの取り組み] 例:食堂のメニュー改善、ウォークラリーイベント
4.ワークエンバイロメンタルアプローチ[健康的な職場環境を形成するための取り組み]

健康文化のある健全な職場で働いている人たちは結果的に健康的な行動をとることがわかっています。4のワークエンバイロメンタルアプローチは仕事環境を健全化することで健康づくりを促すアプローチです。

ポイント4.PDCA

健康経営においても、PDCAサイクルを回していくことが基本となりますが、多くの人が難しいというのは「評価」です。「何と比べて評価をするのか」「評価するためのデータはどこになるのか」、これを評価の段階で考えるから難しくなるわけです。

健康経営の進め方 PDCAの廻し方

まず目標設定の段階で、数値目標を立てる。そして活動の段階で達成できたかを判断するためにモニタリングのための計画を作成し、活動の段階でデータをとる。それを評価の段階で目標値と照らし合わせればいいのです。

健康経営で成果を上げるために重要なのは、組織のダイナミズムの活用

健康経営で成果を上げるためにどうすればいいのかを考えていきましょう。

実は、行動科学理論や行動経済学理論を応用したエビデンスのある同じようなプログラムを、複数の企業で取り入れたとしても、参加率、完了率、その後の取り組みへの持続率によって、成果に大きな差が出てくることがわかっています。つまりプログラムの中身以上に、組織による要因が大きいのではないかと考えられるわけです。

アメリカの労働者や退職者の健康改善に取り組む「HERO」という団体の発表によると
・インセンティブは「プログラムへの参加率」にしか影響しない
・組織のサポートやリーダーシップによる支援は、「参加率」「医療コストの適正化」、そして「企業のサポートに対する従業員の認識」のすべてに影響している
・健康増進プログラムの内容は、どれにも影響がなかった
以上のことがわかりました。
つまり組織のダイナミズムの活用が一番大切という結果が出たのでした。

健康経営で成果を上げるために重要な、組織のダイナミズムの活用

トップのリーダーシップはもちろんですが、管理職のリーダーシップが極めて重要になってきます。多くの管理職が利益を上げる、もしくは会社が発展するという「事業のベクトル」と「健康管理のベクトル」は全く違う方向に向いていると認識している会社では、健康経営の成果はなかなか上がりません。この2つのベクトルをしっかり合わせていくことが管理職の役割で、それによってより大きな事業成果が生まれることを腹落ちしている管理職がどれだけ増えるかということに成果が左右されます。

健康経営度調査票の分析(2021年)によると、管理職へ健康経営に関する教育を行っている、または役員会の議題として取り上げている企業は従業員の健康教育参加率、栄養施策の参加率、予防接種の参加率が優位的に上がっています。一方で方針を立てただけ、もしくは常勤の産業医、産業看護職を雇っただけでは成果に結びつかなかったという結果が出ました。

組織的要因が健康プログラム参加率の向上に影響

役員会の議題、管理職への健康経営に関する教育が意味するのは、企業の限りある時間を健康づくりに割り当てようという行動ですから、組織的要因が影響を与えるのは明らかです。

健康経営で蓄積される無形資源とは

健康経営の取り組みを外部に発信していく上で、指標につかってほしいと考え、経済産業省では「健康投資会計ガイドライン」を作りました。経営課題とそれに関係する健康課題があって、健康投資をした結果、それらが解決するという流れが前提です。

健康投資会計ガイドライン 健康投資によってどのように効果を上げるか?

健康投資を続けていくと、単にフローとして効果が上がるだけではなく、その会社に蓄積する健康資源が出てきます。健康資源には、ヘルスリテラシーなど人にたまっていく「人的健康資源」のほかに、有形無形の「環境健康資源」があります。運動設備などは有形資源にあたりますが、「無形資源」もまた、たまっていくと考えられます。

健康経営の結果で生じる望ましい従業員の状況は、大きな健康資源といえるでしょう。

<健康経営の結果で生じる望ましい従業員の状況>

1.Work Engagement 従業員の内面 仕事に対する熱意・活力
2.Workplace Social Capital 上司や同僚との関係 信頼・互酬性・ネットワーク
3.Perceived Organizational Support 企業(組織)との関係 支援の実感、組織に対するコミットメント

1は人的健康資源にあたりますが、2、3は環境健康資源の「無形資源」にあたると考えられます。

ソーシャルキャピタルとは、人々の協調行動が活発化することにより社会の効率化を高めることができるという考え方のもとで、社会の信頼関係、規範、ネットワークといった社会組織の重要性を説く概念のことです。それを職場に応用したものが2の「Workplace Social Capital」です。「Workplace Social Capital」が備わっている職場の構成員は、健康指標が良好で、望ましい健康行動をとりやすいということがわかっています。

3の「Perceived Organizational Support(POS)」は、従業員が組織からのサポートを受けると、貸し借りのバランスを取るように、コミットして働くようになるという「社会的好感理論」に基づいて作られた概念です。

POSを高める選考要因と結果要因

POSを高めるために必要なのは第一に「公正性」、続いて「上司のサポート」、「組織の報酬の報酬労働条件」という順番になります。いかに公正な職場作っていくかということです。

そしてPOSが高いと、「組織へのコミットメント」「仕事の満足度などのポジティブな感情」「仕事への参画意識や成果」が上昇するという報告があります。またストレスや離職意識は低下します。

健康経営のゴール

健康経営で企業がなすべきことは、従業員に対して何かしらのプログラムを提供することではなく、従業員それぞれが自律的に健康行動をしていくような環境を作り、それを企業がサポートするということです。

働く人の健康が高まれば、その人のサスティナビリティも高まるし、そういう人材が企業に増えていくと企業のサスティナビリティも高まり、それが社会のサスティナビリティにつながっていきます。つまり健康経営の最終的なゴールは社会問題を解決することなのです。

健康経営 関連した3つのサスティナビリティ

いずれにしても組織的要因が健康経営の成果に大きくかかわります。一朝一夕でできるものではありませんが、一度できれば中長期的な効果が上がりますので、健康経営を正しく理解して取り組みを続けていただきたいと思います。

まとめ

健康経営の推進において、ただ施策の数を増やすのではなく、従業員が会社や上司に対してどのように感じているかという「従業員視点」が重要ということが、森先生のお話からよくわかりました。次回の健康経営優良法人2023の認定に向けて、このセミナーの内容を活かしていただければ幸いです。

※当記事は、2022年5月に作成されたものです。
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。