若手社員を守るには?メンタルヘルスの専門家が対処法や注意点を伝授
コロナ禍で働き方が一変した近年では、メンタルヘルス不調を抱える人が増えています。特に、若手社員への影響も大きく、大切な従業員を守るためには注意が必要です。社会保険労務士の山本喜一先生が、若手社員の傾向や対処法を紹介します。
≪目次≫
◆コロナ禍で若手社員が抱える悩みとは?
◆メンタルヘルスの専門家が教える、若手社員をフォローする際のポイント
◆若手社員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐには?
◆大切な若手社員を守るために、総合的な対策と環境づくりが重要
コロナ禍で若手社員が抱える悩みとは?
新型コロナウイルス感染症の拡大防止により、これまでの働き方が一変した近年では、メンタルヘルスに不調を抱える人が増えているといわれています。その中でも、コロナ禍において、入社した新卒社員や入社2年目などの若手社員は、不慣れな業務や社内の人間関係の希薄さによって、メンタルヘルスに与える影響が大きくなっています。
そもそも、新卒2年目くらいまでの若手社員は、仕事の責任が増していくプレッシャーに押しつぶされそうになったり、思いのほか仕事ができないことに落ち込んだりして、社会人として最初の壁にぶつかることが多いものです。こうした従来からの傾向に、拍車をかけているのがコロナ禍による働き方の変化です。
コロナ禍以前、新入社員は入社式で訓示を受けて会社の一員としての志を新たにし、座学や配属先での実践を通して業務を身につけるOJT(On the Job Training)を経て、上司や先輩とともに現場に出ていくのが一般的でした。
しかし、コロナ禍以降は、入社式や対面での研修すらできないまま自宅待機となり、そのままテレワークに突入したケースのほか、入社式や研修は対面でも、勤務形態は最初からテレワークでほとんど出社しないケースなど、働き方が一変しています。
テレワーク環境下で、若手社員はどのような悩みを抱えているのか、具体的な例を見ていきましょう。
質問がしづらい
オフィスでは、上司や先輩の様子を見ながら、「今、少しだけいいですか?」と声をかけて質問するなど、コミュニケーションが容易でしたが、テレワーク環境では一人ひとりの詳細な状況を把握することが難しくなっています。
そのため、気軽に声をかけづらい上、「いつでも連絡してと言われたのに上司が電話に出ない」「メールで質問したら、短い答えしか返ってこず、怒られているような気がする」といったコミュニケーション不全が起こり、だんだんと質問しづらくなることがあります。この状況が続くと、若手社員は一人で悩みや不安を抱え込むようになるので注意が必要です。
気軽にコミュニケーションがとれない
テレワーク環境下では、気軽にコミュニケーションがとれず、社内での人間関係が希薄なままになることも、若手社員をメンタルヘルス不調に追い込んでいる理由のひとつです。
チャットツールやメールを活用してコミュニケーションを図っている企業も多くありますが、あまり会ったことのない先輩や上司の場合は、気軽に連絡しづらいものです。そのため、新入社員が孤独を感じてしまうことが多くあります。
会社に貢献できているのか、期待値に見合った働き方ができているのかが不安
テレワークでは、会社全体の状況と、それに対するみずからの貢献度の把握が難しいため、若手社員が不安を抱えることがあります。ひたすら自分に課された業務をやり遂げ、アウトプットの質を高めることに専念する毎日では、自分の仕事が会社全体の売上や成果にどれだけ貢献できているのかがわかりません。
会社としての期待値やそれに対する現在の到達度が見えづらい場合、モチベーションを維持するのが極めて難しくなります。また、組織における自分の役割や将来像が見えないまま、ただ業務をこなす毎日が続けば、仕事の意義を見失いかねません。
間近でロールモデルを見られず、今後への不安が膨らむ
テレワークでは、先輩や上司など身近なロールモデルを直接見られないことで、若手社員がキャリアプランを描きづらくなる場合があります。「このまま、今の仕事を続けていていいのだろうか」「将来、どうなるのだろうか」といった漠然とした不安が膨らみ、メンタルヘルスの不調につながる可能性があるのです。
メンタルヘルスの専門家が教える、若手社員をフォローする際のポイント
これまでとは大きく異なる環境で働く若手社員を、人事担当者や管理監督者はどのようにフォローしていけばいいのでしょうか。続いては、若手社員をフォローする際に重要となる、4つのポイントをご紹介します。
「若手層」と「若手一人ひとりのパーソナリティ」に着目して特徴をつかむ
若手層のストレスの傾向をつかむには、ストレスチェック結果を事業場内の一定規模のグループごとに集計・分析した、集団分析の結果を参考にするようにしてください。
また、若手層個々の特徴にフォーカスして、理解に努めることも大切です。例えば、怒られ慣れていない若手社員が叱責を受けた場合、メンタル面でのダメージが大きく、気絶してしまうという事例もあります。管理監督者は、時代が変わってきていることを認識するほか、若手社員の得手不得手を踏まえて配属を考えたり、性格によってフォローの仕方を変えたりするようにしましょう。
ストレスチェックの集団分析とは?評価方法とメリットを解説
働く目的や仕事の意味を明確にする
仕事の目的が見えないことは、若手社員にとって大きなストレスです。
今、任せている仕事にどんな意味があるのか、会社の売上や本人の将来にどうつながっていくのか、丁寧に伝えましょう。
セルフケア力を強化させる
若手社員がメンタルヘルスの不調を抱えたとき、上司がちょっとした変化に気づいて声掛けするのが一般的な流れですが、テレワークでは発見が遅れる可能性があります。
若手社員には、みずからの状態を客観視して、心の健康を自分で管理できる「セルフケア力」の強化を推奨し、自主的な相談につなげてもらえるよう工夫しましょう。まずは、セルフケア研修などを受けることや、気軽に相談できる社内外の相談窓口の案内と周知することもおすすめです。
上司との信頼関係を構築する
職場環境や仕事内容、人間関係で悩む若手社員の中には、「こんなことを相談したら、評価が落ちるのではないか」「悪い噂が社内に広まってしまうのではないか」と心配して、相談に二の足を踏むケースがあります。
管理監督者は、若手社員とのコミュニケーションの頻度と密度を上げ、「この人なら信頼できる」という気持ちの醸成を促しましょう。特に、テレワーク中の若手社員には、オンラインでの1on1などを通じて、定期的に連絡をとることが大切です。
健康経営に役立つ1on1ミーティングの進め方とポイントを紹介
若手社員のメンタルヘルス不調を未然に防ぐには?
若手社員がメンタルヘルス不調に陥るのを防ぐには、「セルフケア」「ラインケア」「専門家への相談」の3つが重要です。ここでは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
セルフケア
心のセルフケアは、若手社員自身が行うものです。セルフケア研修を受け、ストレスに関する基礎知識や上手な付き合い方を学んでおくことで、ちょっとしたメンタルヘルスの不調でも大きな問題につながることを理解できます。また、メンタルヘルスケアを正しく理解できていれば、早期に的確な対処をすることも可能です。
併せて、人事担当者は、メンタルヘルス不調になることや相談することに対して、ネガティブな印象がないことを従業員に周知することも大切です。
<セルフケアのポイント>
・ストレス反応とその要因を自分で理解する
・ストレス反応に気づいたら、レスト(Rest:休息、休養、睡眠)、レクリエーション(Recreation:運動や旅行のような趣味娯楽など)、リラックス(Relax:ストレッチや音楽を聴くなどのリラクゼーション)の3つのRを意識して発散する
・一人で悩まず、上司や専門家を頼る
ラインケア
ラインケアは、若手社員に対して管理監督者が行うケアのことです。
ラインケア研修を通じて、管理監督者がメンタルヘルス不調者を早期に発見できるようになったり、適切なサポートの方法を身につけたりすることで、部下が休職や離職に至る前に適切なケアが可能となります。
<ラインケアのポイント>
・管理監督者は、普段から部下の言動、人間関係、職場環境に気を配り、詳細を把握する
・特にテレワークの場合、部下が実家暮らしか、一人暮らしかで状況が異なるため、生活環境にも気を配る
・遅刻や早退が増えた、無断欠勤する、仕事の効率と成果が上がらない、服装が乱れているなど、いつもと違う変化に気づいて声掛けをする
・部下の話を傾聴し、状態が深刻であれば外部の専門家による相談窓口への相談をすすめたり、本人の同意を得て管理監督者が産業医や他の産業保健スタッフに相談したりする
産業医や社外の相談窓口など専門家に相談する
メンタルヘルスの不調が社内の人間関係や仕事内容に起因している場合、相談することを躊躇する従業員は少なくありません。結果として、悩みや不満、不安を一人で抱え込み、ストレスが増大する可能性があるため、人事担当者や管理監督者は、産業医や社外の相談窓口などの専門家とも連携しておくといいでしょう。
大切な若手社員を守るために、総合的な対策と環境づくりが重要
コロナ禍で働き方が一変し、希薄な人間関係の中で不慣れな業務に取り組む若手社員は少なくありません。
大切な若手社員が、メンタルヘルス不調によって休職や離職に追い込まれることがないよう、一人ひとりの状況に寄り添い、早期に問題の解決を図りましょう。
<監修者プロフィール>
山本 喜一
特定社会保険労務士、精神保健福祉士(ストレスチェック実施者)
【専門分野】
メンタルヘルス不調者対応、問題社員対応、労働基準監督署対応、IPO支援、評価制度
【略歴】
社会保険労務士法人 日本人事代表。
東京商船大学大学院修了 工学修士。財団法人日本品質保証機構へ入構し、計測部門と法務部門を経験。退職後、社会保険労務士法人日本人事を設立する。法務部門での経験を活かし、労務に関するトラブルへの対応および各種コンサルティングを主に行っている。
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出典・参考
・厚生労働省「職場における心の健康づくり」
https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf
・厚生労働省 こころの耳「第4回「ストレスの対処」ってどんなこと?」
https://kokoro.mhlw.go.jp/usagi/ug004/
・厚生労働省 こころの耳「e‐ラーニングで学ぶ 15分でわかるラインによるケア」
https://kokoro.mhlw.go.jp/linecare/data/e-learning.pdf
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※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※当記事は2021年8月に作成されたものです。