健康経営
喫煙対策 2022/11/18

健康診断とタバコ【医師監修】

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

タバコは様々ながん、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの肺の病気だけではなく、血圧や脂質異常、血糖値、そして肥満などへも影響を及ぼします。今回は、タバコが危険因子となる病気の早期発見に役立つ健康診断のおもな検査項目と、その基準について解説します。

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<目次>
非感染性疾患(NCDs)予防に欠かせない禁煙
健康診断の役割とおもな検査項目
検査項目と喫煙による影響
おわりに

非感染性疾患(NCDs)予防に欠かせない禁煙

非感染性疾患とは、生活習慣が原因で発症する循環器疾患、がん、糖尿病、慢性呼吸器疾患など、感染症以外の病気をいいます。

WHO(世界保健機関)では、「非感染性疾患(Noncommunicable diseases:NCDs)によって毎年4,100万人が亡くなっており、それは世界全体の死亡者数の71%に相当」※1としています。日本においても非感染性疾患の予防は重要な課題であり、「脳卒中や心臓病その他の循環器病は、悪性新生物(がん)に次ぐ主要な死亡原因」※2です。

非感染性疾患による死亡の危険因子の上位2つが高血圧と喫煙で、次いで高血糖、高LDLコレステロールとなっています(図1)。

図1 2019年のわが国における危険因子に関連する非感染性疾患と外因による死亡数

2019年のわが国における危険因子に関連する非感染性疾患と外因による死亡数

出典:Nomura S, Sakamoto H, Ghaznavi C, Inoue M: Toward a third term of Health Japan 21 - implications from the rise in non-communicable disease burden and highly preventable risk factors. The Lancet Regional Health - Western Pacific 2022, 21.

データ作成参考: 厚生労働省 健康局健康課「21世紀の健康づくり運動全体としての評価」関連資料(令和4年2月28日 暫定版)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000903141.pdf

〇タバコによる身体への影響

喫煙は、高血圧、高血糖、脂質異常の原因としても知られており、動脈硬化を引き起こして心血管疾患の発症リスクを高めるだけでなく、がんや呼吸器疾患のリスクにもなります(図2)。WHOによると、タバコが原因で亡くなる人は毎年800万人以上にのぼり、そのうち700万人以上は自身が喫煙者とされています。また、約120万人は非喫煙者で、受動喫煙が原因といわれています※3。

私たちの身体に症状もなく忍び寄る生活習慣病の早期発見につながるのが、健康診断で、その喫煙の有無は問診の必須項目となっています。

図2 タバコによる身体への影響

喫煙がリスクを高める病気

健康診断の役割とおもな検査項目

喫煙が危険因子となる病気の早期発見に役立つ健康診断のおもな検査項目と、その基準について見てみましょう。

図3 健康診断検査結果

健康診断結果

出典:公益社団法人日本人間ドック学会 判定区分 2022年度版(2022年4月1日改定)
https://www.ningen-dock.jp/wp/wp-content/uploads/2013/09/2022hanteikubun.pdf

図3は健康診断の検査項目とその結果をまとめたものです。健康診断では、正常範囲を「A・異常なし」とし、その他異常を段階的に分類しています。

検査項目と喫煙による影響

次に、図3の検査項目がどのようなことを示しているのか、また、喫煙によってどのような影響を受けるのかを具体的に見ていきましょう。

【血圧】

血圧とは血液が血管を押す力で、血管内の圧力のことをいいます。この血管への圧力は、心臓が全身に血液を送るために生じるものです。血圧が高くなると、血管に負担がかかり、さまざまな病気の原因となります。

---喫煙による影響---
タバコの煙に含まれるニコチンは、身体を活発に働かせる交感神経を刺激するカテコールアミンという物質を血液の中に増やします。それによって血管が収縮することで血圧が上昇し、脈拍も速くなります。喫煙による一時的な血圧の上昇が血圧測定に影響するということで、健康診断前は喫煙を控えるように注意書きをしている医療機関もあります。また、長期的に血圧が高い状態が続くと血管の壁が傷ついて、動脈硬化を引き起こします。

【血糖値】

〇血糖値
血糖値とは、血液の中のブドウ糖の濃度のことをいいます。甘いものはもちろんのこと、ご飯やパン、麺類などの炭水化物を食べると血糖値が上昇しますが、すい臓からインスリンという物質が分泌されることで、上昇した血糖値が下がります。インスリン以外にも様々な物質が作用し、血糖値を正常範囲内に維持しています。図2の検査項目では、「空腹時血糖値」をあげています。空腹時血糖値は、10時間以上絶食したあとの血糖値で、前日の夕食後より何も食べず、朝食前に測定します。

〇HbA1c
ヘモグロビンエーワンシーと読みます。血液の赤い成分(赤血球)のヘモグロビンに結合しているブドウ糖です。過去1~2ヶ月間の平均の血糖値を反映します。

---喫煙による影響---
血圧の上昇に関与するカテコールアミンは、血糖値にも影響します。喫煙によりカテコールアミンが血液の中に増えると、血糖値が上がるだけでなく、血糖値を下げるインスリンの作用が低下します。また、その状態が長く続くと、血糖値を下げるために過剰にインスリンを分泌し続け、最終的にインスリンを分泌する機能が低下してしまいます。そのため、喫煙者は非喫煙者に比べて糖尿病になりやすいといわれています。また、血糖値が高い状態が続くと、血管の壁にダメージを与え、動脈硬化が進行します。

【脂質(血清脂質)】

「脂質」とは血清脂質のことで、中性脂肪やコレステロールなどがあります。脂肪と聞くと、悪い印象をもつ方も多いと思いますが、身体の健康を保つ上で重要な役割があります。

〇中性脂肪
私たちの身体は、活動するために血液の中の糖分をエネルギー源としています。その糖分が不足すると、エネルギーの貯蔵庫の役割を担う中性脂肪がエネルギー源として活用されます。しかし、食べすぎなどで過剰に摂取した糖質はエネルギーとして活用されず、皮下や内臓に中性脂肪として蓄えられます。中性脂肪は身体を寒さから守ったり、内臓を衝撃から守ったりする重要な役目も担っていますが、中性脂肪を必要以上に溜め込んでしまうと、肥満症になるばかりでなく、善玉コレステロールが減り、悪玉コレステロールが増えて脂質異常症になります。

〇コレステロール
コレステロールは、私たちの身体をつくる細胞の膜や身体の働きを調整する物質(ホルモン)などを作るために必要です。血液によって全身に運ばれ、余分なコレステロールは肝臓に貯蔵されます。コレステロールは善玉と悪玉があり、それぞれ役割が違います。

HDLコレステロールとLDLコレステロール

---喫煙による影響---
タバコは、中性脂肪やLDLコレステロールの合成を促し、HDLコレステロールの減少を促すことが分かっています。血液中の脂質のバランスが崩れると、高血圧などで血管の壁にできた小さな傷にコレステロールなどが蓄積して、動脈硬化を促したり、血管の内側が狭くなったり、詰まってしまうことがあります。

血管(サラサラ血液とドロドロ血液)

〇その他
喫煙が発症のリスクになることがわかっているがんも多く、呼吸器疾患では、特に慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者の90%は喫煙者といわれています※4。健康診断では問診による喫煙歴をもとに、医師の診察が行われます。

おわりに

健康診断は定期的に受けることで、自覚する症状がなくても身体の状態を知ることができ、病気の早期発見や健康管理にも活用できます。
喫煙者は非喫煙者に比べ、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患となるリスクが2~3倍になるといわれており、がんや呼吸器疾患などの病気の危険因子としても見直すべき重要な生活習慣の1つです。
健康診断を受けた際は、受けっぱなしではなく、自分の生活習慣を見直すきっかけとしてみませんか。また、健康診断の結果で気になる項目や、指摘を受けた項目があった場合は、放置をせずに必ず精密検査を受けるようにしましょう。

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記事監修
医師名:成田亜希子
東京都出身、弘前大学医学部卒。
国立医療科学院や結核研究所で研修を積み、保健所勤務経験から感染症、医療行政に詳しい。
日本内科学会、日本公衆衛生学会、日本感染症学会、日本結核病学会、日本健康教育学会所属。
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<引用・参考文献>
※1 World Health Organization:Noncommunicable diseases
https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/noncommunicable-diseases
(2022年9月5日閲覧)
※2 厚生労働省:非感染性疾患対策に資する循環器病の診療情報の活用の在り方について
https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/000526843.pdf
※3  公益社団法人日本WHO協会「ファクトシート:たばこ」
https://japan-who.or.jp/factsheets/factsheets_type/tobacco/
(2022年9月5日閲覧)
※4 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/manseiheisokuseihaishikkan/shindan.html
(2022年9月5日閲覧)

※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※当記事は、弊社運営のWebサイト『禁煙の教科書』に2019年8月8日に掲載されたものを元に、2022年11月、データやイラストを更新しました。

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