健康経営
喫煙対策 2017/12/29

職場は建物内禁煙、敷地内禁煙、分煙、どれがよいの?

タバコを吸わない人が、他人のタバコの煙により健康被害を受ける受動喫煙。(参考「受動喫煙で健康被害増大!~吸わない人が苦しむタバコの影響について~」
近年では、従業員の健康を守るという観点から、受動喫煙対策に取組む企業が増えてきました。しかし、敷地内や建物内を全面的に禁煙にする企業から、職場の端に簡易的な喫煙スペースを設けるだけの企業まで、その取組みはさまざまです。ここでは、「従業員の受動喫煙の被害をなくす」という観点でどの取組みを検討するべきなのか、分煙と全面禁煙の特徴と課題をご紹介します。

分煙と全面禁煙

職場における受動喫煙対策としては、分煙と全面禁煙などがあります。その中でも厚生労働省が指針として定めているのは完全分煙と全面禁煙のみです。以下、それぞれの特徴と課題について説明します。

●分煙の方法

分煙とは言葉の通り、喫煙場所などを設けてタバコを吸える場所を限定することです。分煙は、以下のような方法が考えられます。

A:喫煙場所を完全に分割された空間とし、分煙機器によりタバコの煙が完全に流れ出ないようにする。
B:喫煙場所を設置し、分煙機器を用いてタバコの煙を軽減する。
C:喫煙場所を設置するが、分煙機器は使用しない。

以前は、B・Cのような分煙方法も検討されてきましたが、その後の研究などで喫煙場所からタバコの煙が漏れるので、受動喫煙対策としては不十分であることが明らかになりました。平成26年に厚労省が発表した『受動喫煙防止措置の効果を確認するための測定方法の例』では、Aのみが有効とされています。

「A:喫煙場所を完全に分割された空間とし、分煙機器によりタバコの煙が完全に流れ出ないようにする」の具体的な要件は、以下の通りです。

① 隙間が極めて少ないこと 喫煙のみのために利用される場所であること
② タバコの煙を屋外に排出できる排気装置が設置されていること
③ 出入口から喫煙室内に向かうスムーズな気流を確保していること(0.2m/s以上)

この要件では、職場内で喫煙室を設置する際、喫煙室から非喫煙場所へタバコの煙やにおいの流入を防止するため、その境界において、喫煙室に向かう0.2m/s以上の空気の流れを確保することを定めています。しかし実際に漏れを防ぐことは難しく、「喫煙室からのタバコ煙の漏洩を完全に防ぐことが困難である」と回答した事業所が29.7%もありました。このことからも、現時点では分煙で完璧な受動喫煙対策に取組むことは難しく、取組めている企業は少ないといえます。

●全面禁煙の方法

全面禁煙には、「建物内全面禁煙」と「敷地内全面禁煙」があります。「建物内全面禁煙」とは、室内の喫煙スペースを撤去してしまい、敷地内の屋外に喫煙所を設けることです。「敷地内全面禁煙」とは、敷地内の建物外も含めて禁煙にすることをいいます。「建物内全面禁煙」を導入することによって、建物内での受動喫煙を防ぐことができます。さらに、「敷地内全面禁煙」を導入することによって、喫煙者が喫煙場所でタバコを吸った後の衣服などについたにおいを非喫煙者が吸い込んでしまうことがなくなります。またタバコを吸う行為が難しくなるため、禁煙に踏み切る人が増えるといったメリットもあります。

敷地内禁煙・建物内禁煙を進める企業が増えてきている

平成27年6月から、労働安全衛生法という法律で受動喫煙防止対策が事業者の努力義務と定められました。事業所の規模にかかわらず、全ての事業所で受動喫煙の現状把握と分析を行い、衛生委員会などで具体的な対策を実施することが求められています。厚生労働省が実施した平成28年 労働安全衛生調査(実態調査)・事業所調査では、受動喫煙対策に取組んでいると回答した事業所85.8%のうち、敷地内全面禁煙が14.0%、建物内禁煙は39.3%もあることが明らかになりました。この数字から職場における敷地内禁煙・建物内禁煙がある程度、進んでいると言えるでしょう。

行政の方針

世界保健機関(WHO)は、喫煙が健康・社会・環境および経済に及ぼす悪影響から、現在および将来の世代を守ることを目的として策定した「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(たばこ規制枠組条約:FCTC)」を平成17年2月27日に発効しました。FCTCのガイドラインによれば、条約加盟国は公共の屋内全面禁煙を法律などで定めるよう求められています。日本もFCTCに加入しており、こうした流れを受けて厚生労働省は喫煙を制限する方法で動き出し始めています。

これを受けて、今までほとんど対策がとられてこなかった飲食店などが受動喫煙対策に動き出しています。喫煙対策をとらない飲食店では、成人前の学生を含めた従業員が受動喫煙の被害を受けてしまいます。飲食店の喫煙対策が進まない要因として、喫煙客が遠ざかることによる、売上げの減少への懸念が挙げられますが、某有名大手ファミリーレストランは、平成31年9月までに全国のすべての店舗を原則として禁煙とすることを発表しています。

三次喫煙のリスク

喫煙対策として分煙では不十分な理由としては、三次喫煙のリスクが挙げられます。喫煙後の室内の内装や喫煙者の髪の毛、衣服に付着したタバコの煙を吸ってしまうことを三次喫煙と呼びます。タバコ煙が消失した後にも残るタバコ煙による汚染、さらにタバコ煙の残存物質が室内などの化学物質と反応して揮発することで生じる発がん性物質による害も含みます。タバコ煙から排出されるニコチンや他の有害物質の大半は、空気中ではなく物の表面について揮発するため、換気扇を使用したり窓を開けたりして換気を行っても、三次喫煙のリスクを完全には排除できないのです。

「分煙でも喫煙被害を受けている」という従業員の意見が多数!

“分煙・全面禁煙”に対してどのように従業員が考えているか、全国20代~60代の会社員(非喫煙者)へのインターネット調査があります。調査で寄せられたコメントには、「分煙でも喫煙被害を受けている」という従業員の意見が多数ありました。コメントの中から、特に多かった、【煙が喫煙スペースから漏れている】【喫煙者は休憩時間が長すぎる】などのコメントを一部ご紹介します。
_________________________________________
・「喫煙所の出入りの際、煙、においが漏れてくる。煙い、臭い、においがつく」(公務員・教職員/女性)
・「喫煙による休憩時間が長すぎる。非喫煙者の労働時間が長くなるのはどうかしている。損した気持ちになった。」(製造業/男性)
・「上司に仕事のことを尋ねようと近づいた時、一服後だったらしく、ものすごいたばこ臭くて不快だった。」(通信/女性)
_________________________________________

喫煙で被害を受けているという回答は747件(単一回答)で全体の約50%でした。その中で、「業務中席を外すことで、業務が滞る」などの分煙では防ぎきれない経験をしたという回答は753件(複数回答可)、フリーコメントで229人から寄せられました。

※「タバコのにおいで、上司に仕事のことを尋ねる際不快!?」まだまだある、分煙では防ぎきれない従業員の喫煙被害はこちら
分煙か、建物内・敷地内全面禁煙か?従業員の反応を紹介
※その他非喫煙者の声はこちら
非喫煙者は喫煙者をどう思っている?職場でのリサーチ結果を大公開!

企業の持続的発展のためにも禁煙対策は不可欠

総合的に考えると、分煙よりも建物内・敷地内を全面禁煙にすることが望ましいといえるでしょう。最終的には敷地内全面禁煙にすることが理想的です。職場での喫煙対策は、企業の成長に関係してきます。経営的に何より重要な資産である従業員の健康を守ることに繋がるからです。そして、受動喫煙により健康が損なわれるような職場は、求職者からも避けられるようになってきます。全面禁煙を実施するためには、経営トップ層にその重要性を理解してもらうことが必要です。加えて、場合によっては就業規則にも喫煙に関する文言を追加するなど、全ての従業員から喫煙対策を理解・賛同を得るための制度・教育などが必要になってきます。

**********
参考
・厚生労働省 e-ヘルスネット「受動喫煙」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-02-005.html
・公共の場所における分煙のあり方検討会報告書(平成8年3月)
http://www.health-net.or.jp/tobacco/more/mr280200.html
・厚生労働省「労働安全衛生法の一部を改正する法律に基づく職場の受動喫煙防止対策の実施について(平成27年5月15日付け基安発0515第1号)」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000085286.pdf
・厚生労働省「平成28年 労働安全衛生調査(実態調査)・事業所調査」結果の概要
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h28-46-50_kekka-gaiyo01.pdf
・日本禁煙学会「タバコ規制枠組み条約 第4回締約国会議報告」
http://www.nosmoke55.jp/action/1011cop4.html
・厚生労働省 e-ヘルスネット「三次喫煙」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/tobacco/yt-057.html

※当記事の内容は、弊社運営のWebサイト『禁煙の教科書』に2017年12月29日に掲載された当時のものです。