離職率を下げるには?会社が見直すべき10のポイント|離職率改善のカギは「企業のメンタルヘルス対策」と外部相談窓口(EAP)【専門家監修】
こんにちは。企業の健康経営(R)を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
「採用しても定着しない」「現場が疲弊している」「早期離職が増え、管理職も消耗している」こうした悩みを抱える企業は少なくありません。離職率の上昇は単なるコスト問題ではなく、組織の持続可能性を脅かす経営リスクです。厚生労働省「令和6年雇用動向調査」によると、2024年の離職率は14.2%であり、産業や企業規模によっては20%を超えるケースも珍しくありません。とくに宿泊業・飲食サービス業では一般労働者の離職率が18.1%に達しており、業界特有の課題が浮き彫りになっています(※1)。
本記事では、離職率を下げるために必要な10のポイントを解説します。まず離職率の正しい見方(計算方法・平均値・目安)を押さえ、次に原因特定の具体的な方法(アンケート・1on1・退職分析)を紹介します。そして施策を“運用”に落とし込む方法として、企業のメンタルヘルス対策と外部相談窓口(EAP)の活用を重点的に取り上げます。以下、専門家(産業医・公認心理師)監修による記事です。
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<目次>
◆離職率とは?
◆離職率が高い企業のリスク
◆離職が起きる“構造” ー 原因は1つではなく、連鎖する
◆離職率改善の出発点 ー 原因の把握と課題の見える化
◆離職率を下げる施策
◆モデルケース(想定例)の“型”で学ぶ
◆業界別の離職要因(介護/看護/IT/飲食/保育士)
◆効果測定(離職リスクを早期に捉えるPDCA)
◆Q&A
◆まとめ
離職率とは?
【離職率の定義と計算方法】
離職率とは、一定期間内に退職した従業員の割合を示す指標です。厚生労働省の「雇用動向調査」では、年初の常用労働者数に対する離職者数の割合として定義されています。計算式は「離職率=離職者数÷常用労働者数×100(%)」となります(※2)。
この計算式を用いる際、分母となる常用労働者数の基準日(年初か年度末か)と、計測期間(年度か暦年か)を明確にすることが重要です。自社で離職率を算出する場合は、基準を統一し、経年比較ができるようにしておくことが望ましいでしょう。
【「離職率 平均」をどう扱うか】
厚生労働省「令和6年雇用動向調査」によると、2024年の全産業平均の離職率は14.2%です。一般労働者に限ると11.5%、パートタイム労働者では21.4%となっています(※2)。
ただし、全社平均だけを見ても自社の課題は見えにくくなります。離職率は職種別、拠点別、入社後の経過月数(入社3ヶ月・6ヶ月・1年など)で細分化して管理することが重要です。たとえば営業職と事務職、東京本社と地方拠点では離職の傾向が大きく異なる可能性があります。
【定着率と早期離職率の関係/離職が起きやすい時期の見つけ方】
定着率は「一定期間後に在籍している従業員の割合」を指し、離職率と表裏の関係にあります。たとえば入社1年後の定着率が80%であれば、同期間の離職(早期離職)に該当する割合は20%と捉えられます。
早期離職を分析する際は、「同じ時期に入社・配属した人の集団」を単位に追跡する見方(コホート分析)が有効です。たとえば「2024年4月入社」を一つの集団として設定し、3ヶ月後・6ヶ月後・1年後の在籍状況や離職状況を確認すると、離職が集中しやすいタイミングや要因の当たりを付けやすくなります。
また、外部データとしては、厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」等で学卒者の離職傾向が示されており、自社の状況を相対化する材料として参照できます(※3)。
離職率が高い企業のリスク
【コスト(採用・教育・欠員)だけではない】
離職率が高い企業が被るリスクは、採用コストや教育コストといった直接的な金銭面にとどまりません。より深刻なのは、組織全体に波及する間接的な影響です。
まず生産性の低下が挙げられます。退職者が出ると引継ぎ業務が発生し、その間は残った従業員の業務負荷が増加します。不慣れな担当者が業務を行うことで品質低下やミス、事故のリスクも高まります。顧客対応においても、担当者が頻繁に変わることで信頼関係の構築が困難になり、顧客満足度の低下につながりかねません。
次に組織リスクとして、ハラスメントの温存、管理職の疲弊、連鎖退職といった問題があります。離職率が高い職場では「問題がある上司」や「パワハラ体質」が見過ごされがちです。また、欠員補充のために管理職が現場業務に追われ、マネジメントに割く時間が減少します。さらに、一人の退職をきっかけに「自分も辞めよう」という心理が広がり、連鎖的な退職が発生するリスクもあります。
【簡易試算テンプレ】
離職による損失を可視化することで、経営層への説明がしやすくなります。以下の項目を自社の数値に置き換えて試算してみてください。
■採用コスト(1名あたり):求人広告費+人材紹介手数料+面接対応の人件費
■教育コスト(1名あたり):研修費用+OJT担当者の人件費×期間
■欠員期間の機会損失:欠員期間(月)×当該ポジションの粗利貢献額
■引継ぎコスト:引継ぎ対応者の人件費×引継ぎ期間
離職は採用・教育コストに加え、生産性低下や引継ぎ負担などの間接コストも発生します。自社の前提(採用単価、育成期間、欠員期間など)で試算し、経営層に説明できる形にすることが重要です。
離職が起きる"構造" ー 原因は1つではなく、連鎖する
【離職理由の整理】
厚生労働省「令和6年雇用動向調査」によると、転職入職者が前職を辞めた理由として多いのは、男性では「その他の個人的理由」20.2%、「その他の理由(出向等を含む)」13.5%を除くと、「定年・契約期間の満了」(14.1%)、「給料等収入が少なかった」(10.1%)の順です。女性では「その他の個人的理由」24.3%を除くと、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」(12.8%)、「職場の人間関係が好ましくなかった」(11.7%)が上位を占めています(※1)。
離職理由は大きく「待遇」「労働条件」「人間関係」「将来の不安」「両立(育児・介護)」などに整理できます。ただし、これらは単独で発生するのではなく、複合的に絡み合っていることがほとんどです。
【本質は「制度」ではなく「体験(Employee Experience)」の連続】
離職の本質的な原因は、単一の制度や条件ではなく、従業員が入社してから退職を決意するまでの「体験の連続」にあります。入社前の期待と現実のギャップ、配属先での人間関係、評価への納得感、成長実感の有無、ライフイベントとの両立の困難さ、そして心身の疲労など、これらが積み重なって離職という結果につながります。
たとえば、下記のようなケースです。
[1]入社時に聞いていた仕事内容と実際の業務が異なる(期待値ギャップ)
[2]上司との関係がうまくいかない(人間関係)
[3]成果を出しても評価されない(評価不満)
[4]長時間労働で疲弊する(心身の負担)
[5]「もう限界」と退職を決意してしまう
このように、離職は複数の要因が連鎖的に重なって発生するため、一つの施策で大幅に改善することは難しいのです。だからこそ、従業員体験の各段階における課題を特定し、優先順位をつけて対処していくことが重要になります。
離職率改善の出発点 ー 原因の把握と課題の見える化
【まずは“施策”ではなく「現状把握と課題整理」】
離職率改善に取り組む際、多くの企業が「1on1を導入しよう」「評価制度を変えよう」といきなり目についた施策を実施してしまいます。しかし、原因を特定せずに施策を打つと、的外れな対策になるだけでなく、従業員の不信感を増やすことさえあります。「また上からの押しつけか」「形だけの1on1で何が変わるのか」といった反応を招きかねません。
まず取り組むべきは、現状把握と課題整理です。
● 自社の離職はいつ、どの部署で、どのような属性の従業員に起きているのか
● 退職理由として何が挙げられているのか
こうした現状を可視化することが出発点となります。
【アンケート(サーベイ)の設計:失敗しない3原則】
従業員アンケートは現状把握の有効な手段ですが、設計を誤ると意味のないデータしか得られません。以下の3原則を守ることが重要です。
第一に「匿名性と守秘」です。回答内容が上司や人事に知られるのではないかという不安があると、本音で回答してもらえません。匿名性を担保し、個人が特定されない形で集計することを明示しましょう。
第二に「具体的な行動をイメージできる設問」です。「職場に満足していますか?」という漠然とした質問では、改善するためのアクションにつながりません。「どの場面でストレスを感じますか?」「業務の中で最も改善してほしいことは何ですか?」など、具体的な行動につながる設問を設計します。
第三に「回答後のフィードバック」です。アンケートを実施しても、その後何も変わらなければ「やりっぱなし」と受け取られ、次回以降の回答率が下がります。集計結果を従業員に共有し、どのような改善に取り組むかを明示することが不可欠です。
【退職者/在籍者ヒアリングの“聞き方”】
退職者へのヒアリング(いわゆるエグジットインタビュー)は、表面的な退職理由の奥にある「本当の不満」を探る貴重な機会です。ただし、退職者は「円満に辞めたい」という心理が働くため、本音を語らないことも多いです。
退職理由の奥にある「本当の不満」を引き出すには、「退職を考え始めた頃、業務や環境の中で特に負担が大きかった点はありましたか?」「そのとき、会社として改善できそうだと感じた点はありましたか?」「もし続ける前提で選べる選択肢があったとしたら、どんな支援や調整があればよかったと思いますか?」といった“改善に向けた振り返り”の聞き方にすると、回答者の心理的負担を下げながら情報を得やすくなります。なお「誰かに相談しましたか?しなかった理由は?」のような踏み込んだ質問は、状況によっては負担になり得るため、聞く場合は「差し支えない範囲で」と前置きし、回答を強制しない設計が望まれます。
在籍者へのヒアリングでは、「今の仕事で一番大変なことは何ですか?」「3年後もこの会社で働いているイメージはありますか?」といった質問から、潜在的な離職リスクを把握できます。
【1on1を“評価面談”にしない】
1on1ミーティングは、上司と部下のコミュニケーションを活性化する手段として普及していますが、運用を誤ると逆効果になります。典型的な失敗は、1on1を「評価面談」や「進捗確認」の場にしてしまうことです。
1on1は部下のための時間であり、部下が話したいことを話す場であるべきです。議題は部下が設定し、上司はあくまで傾聴とサポートに徹します。記録については、個人情報の取り扱いに十分配慮し、部下の同意なく人事評価に使用しないことを明確にしておく必要があります。
【見るべきデータ】
離職率改善のために最低限モニタリングすべきデータは以下の通りです。
● 早期離職率(入社3ヶ月・6ヶ月・1年)
● 部署別・管理職別の離職率
● 残業時間(月平均、80時間超過者の人数)
● 欠勤・遅刻の頻度
● 有給休暇の取得率
● 異動後の離職率
● 従業員サーベイのスコア推移
● 相談窓口の利用件数
これらのデータを定期的に確認し、異常値が出た場合には原因を調査する仕組みを構築しておくことが重要です。
離職率を下げる施策
コミュニケーション(心理的安全性・報連相の再設計)
離職理由の上位に「人間関係」が挙がることからもわかるように、職場のコミュニケーションは離職率に直結します。ただし、ここで重要なのは「雑談を増やせばいい」という単純な話ではないということです。
心理的安全性とは、チームの中で意見や懸念を表明したり、質問や提案をしたりしても、不利益や否定的な扱いを過度に心配せずにいられる状態を指します。心理的安全性を高めるには、管理職が発言を歓迎する姿勢を示すこと、疑問やミスが出たときに個人攻撃ではなく「事実の整理」と「再発防止」に焦点を当てること、発言機会を公平にすることなど、日常のコミュニケーション設計の積み重ねが重要です。
報連相(報告・連絡・相談)についても、「何を、いつ、誰に」報告すべきかを明確にルール化することで、無駄なストレスを減らすことができます。「報告したのに聞いていないと言われた」「相談したら叱られた」といった経験が積み重なると、従業員は口を閉ざし、問題が水面下で進行することになります。
給与(報酬)ーー上げる前に“納得の設計”
給与を上げれば離職は減るかというと、必ずしもそうではありません。問題は金額そのものよりも「納得感」にあることが多いです。
● なぜこの給与なのか
● 何をすれば上がるのか
● 同業他社や同じ職種と比べて妥当なのか
これらが不透明だと、たとえ高給でも不満は残ります。
報酬制度を設計する際は、業界相場を調査したうえで、自社の等級と給与の対応関係、評価と昇給の連動ルールを明文化し、従業員に説明できる状態にしておくことが重要です。「頑張っても給与に反映されない」という不満は、制度が不明確であることに起因していることが多いのです。
福利厚生/ワークライフバランス(両立支援)
育児や介護と仕事の両立支援は、離職防止において重要な施策です。特に、育児休業からの復職時や介護が発生したタイミングなど、業務・生活の両面で負荷が集中しやすい局面では、事前の情報提供や相談導線、柔軟な働き方の選択肢を用意しておくことが求められます。
具体的には、時短勤務やフレックスタイムの柔軟な運用、在宅勤務の導入、突発的な休暇取得への理解などが挙げられます。制度があっても「使いづらい雰囲気」があれば意味がありません。制度利用者を批判しない、管理職が率先して制度を利用する、といった風土づくりも重要です。
1on1(形骸化しない頻度・テーマ)
1on1の効果を高めるには、頻度とテーマの設計が重要です。頻度は月1回以上、可能であれば隔週が理想的です。間隔が空きすぎると、小さな違和感や課題が見えにくくなります。
テーマは業務の状況確認“も”扱いつつ、進捗確認や評価の場に偏らないようにすることがポイントです。たとえば「最近困っていること」「進めやすくするために必要な支援」「今後やってみたいこと」「キャリアの方向性」などを中心に、本人が話したいテーマを優先します。プライベートに踏み込みすぎない配慮も含め、安心して話せる場であることを前提に運用します。
評価制度(不満の正体=不透明さ)
評価制度への不満は、多くの場合「評価基準がわからない」「評価の理由が説明されない」という不透明さに起因します。評価制度を設計・運用する際は、「何を頑張れば報われるか」を明文化し、全従業員に周知することが不可欠です。
評価面談では、評価結果だけでなく、その理由と次期の期待を具体的に伝えます。「Bという評価になりました」で終わるのではなく、「この点が良かった、この点は改善が必要、次期はこれを期待している」と丁寧にフィードバックすることで、納得感が生まれます。
教育(育成)/キャリア(成長実感)
「成長実感がない」という理由での離職は、特に若手に多く見られます。入社時のオンボーディング(業務や組織への適応支援)、メンター制度、研修や資格取得支援など、成長機会を提供する仕組みが求められます。
重要なのは、会社が用意した研修を受けさせるだけでなく、従業員自身が「こういうキャリアを歩みたい」という展望を持ち、そのために必要なスキルを身につけられる環境を整えることです。定期的なキャリア面談を通じて、中長期的な成長イメージを共有することが離職防止につながります。
環境(業務負荷・シフト・現場オペレーション)
業務量の偏り、非効率なオペレーション、古い設備や機器。こうした環境面の問題も離職の要因になります。「人が辞めるから忙しい、忙しいから人が辞める」という悪循環に陥っている職場は少なくありません。
属人化した業務を標準化・マニュアル化する、IT化・DXによって単純作業を効率化する、シフト管理を最適化して特定の人に負荷が集中しないようにするなど、現場オペレーションの改善が必要です。
早期離職(オンボーディング)対策
入社後3ヶ月・6ヶ月の早期離職を防ぐには、オンボーディングの質が鍵を握ります。新入社員が「この会社で頑張ろう」と思えるか、「思っていたのと違う」と失望するかは、入社直後の体験に大きく左右されます。
30日・60日・90日の節目で「期待値の調整」を行うことが有効です。入社前に聞いていたことと実際の業務にギャップがあれば早期に解消し、困っていることがあれば相談できる窓口を明示します。メンターやOJT担当者を配置し、「放置されている」と感じさせないことが重要です。
企業のメンタルヘルス対策
【なぜメンタルヘルスが離職率に直結するのか】
離職の直前には、多くの場合「不調→孤立→パフォーマンス低下→叱責や自己否定→退職決意」というプロセスが存在します。心身の不調を早期に発見し、適切にケアできる体制があれば、離職に至る前に介入することが可能です。
厚生労働省の調査では、仕事や職業生活に関して強い不安・悩み・ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者は約7割と報告されています(※4)。メンタルヘルス対策は一部の従業員だけの問題ではなく、組織全体のリスクマネジメントとして捉える必要があります。
【公的に推奨されるメンタルヘルス対策:一次〜三次予防+4つのケア】
厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、メンタルヘルス対策を「一次予防」「二次予防」「三次予防」と「4つのケア」の枠組みで整理しています(※5)。
一次予防はメンタルヘルス不調の未然防止であり、ストレスの原因となる職場環境の改善やストレスチェック、セルフケア教育が該当します。二次予防はメンタルヘルス不調の早期発見・早期対応であり、相談窓口の整備が含まれます。三次予防は休職者の職場復帰支援と再発防止です。
4つのケアとは、「セルフケア」「ラインによるケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」です。セルフケアは従業員自身がストレスに気づき対処すること、ラインによるケアは管理監督者が部下の状態を把握し支援すること、事業場内産業保健スタッフ等によるケアは産業医や保健師、人事労務担当者が連携して行うケア、事業場外資源によるケアは外部の専門機関(EAP等)を活用したケアを指します。
【メンタルヘルス不調を“本人の問題”にしない(制度×現場運用)】
メンタルヘルス対策で最も重要なのは、不調を「本人の弱さ」の問題にせず、組織として対応することです。そのためには制度設計と現場運用の両面からのアプローチが必要です。
管理職教育においては、
● 部下の変化に気づくためのポイント(遅刻・欠勤の増加、表情の変化、ミスの増加など)
● 声かけの仕方:「大丈夫か?」だけで終わらせない具体的な対応
● 上司がしてはいけない対応(「根性が足りない」「みんな同じ条件で頑張っている」と叱責してしまうなど)
● 部下に普段と異なる様子や気になる変化を感じた際のエスカレーション先を明確にしておくこと
が重要です。
ストレスチェックについては、実施するだけで終わりにせず、集団分析の結果を職場環境改善につなげることが求められます。高ストレス者が多い部署には、業務量の見直しや人員配置の検討など具体的な対策を講じます。
個人情報の取り扱いについては、相談内容や健康情報が本人の同意なく上司や人事に共有されないことを明確にし、従業員が安心して相談できる環境を整えることが、相談窓口の利用率を左右します。
外部相談窓口・カウンセリング
【外部相談窓口(EAP等)が効く理由】
外部相談窓口(EAP:Employee Assistance Program)が効果的な理由は、社内では相談しづらい悩みを把握しやすくなる点にあります。上司との関係、ハラスメント、家庭の事情など、社内窓口には話しにくいテーマでも、第三者である外部機関であれば相談しやすい場合があります。
また、早期相談によって問題が深刻化する前に対処できるため、休職や退職に至るケースを減らすことができます。相談者の視点では「誰かに話を聞いてもらえた」という体験自体がストレス軽減につながり、問題解決への糸口が見えやすくなります。
<事務局より>
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【導入だけで終わる会社/使われる会社の違い】
外部相談窓口を導入しても「誰も使わない」という企業と、積極的に活用されている企業があります。その違いは以下の4点に集約されます。
認知:そもそも従業員が相談窓口の存在を知っているか。入社時の説明だけでなく、定期的にリマインドすることが必要です。
安心:相談内容が会社に知られないか。守秘義務が徹底されていることを繰り返し伝えます。
具体:どんな時に、どう使えばいいのか。「こんな悩みでも相談OK」という具体例を示します。
後押し:上司が部下に相談窓口の利用を促しているか。「困ったら相談窓口を使っていいよ」と伝えることで心理的ハードルが下がります。
モデルケース(想定例)の"型"で学ぶ
※以下はモデルケース(想定例)です。実在企業の事例ではございません。
【型1:早期離職に対してオンボーディングと相談導線を整える】
入社直後は、業務の不明点や人間関係の不安があっても「誰に・どう相談すればよいか」が分からず、抱え込んでしまうことがあります。
この場合は、入社後一定期間のオンボーディングを体系化し、メンター面談を定期化するなど「相談先が最初から見えている状態」を作ることが有効です。あわせて外部相談窓口の利用方法を入社時に案内し、利用のハードルを下げると、問題が小さいうちに相談につながりやすくなります。
【型2:現場系(介護・飲食など)で離職が続く場合にシフトと心理的負荷の手当てを組み合わせる】
現場系の職場では、慢性的な人手不足やシフトの不規則さ、身体的負担に加えて、対人対応による精神的負荷が重なることで、離職が起こりやすくなることがあります。本人の意思だけで改善しづらい要因が多く、「休みが取りにくい」「生活リズムが崩れる」「現場でつらい出来事があっても吐き出せない」といった状態が続くと、疲弊が蓄積しがちです。
この場合の打ち手は、
●(1)勤務設計(シフト)
●(2)身体的負担
●(3)心理的負担
をセットで扱うことです。
たとえば、シフト作成を属人化させず、希望や制約を反映しやすい運用(仕組み・ルール)に整えることで、特定の人に夜勤や負担が偏る状況を避けやすくなります。業務面では、作業手順の見直しや補助機器の導入、動線改善などで、日々の負担を下げられることがあります。
また、対人対応やクレーム対応など、心理的負荷がかかる出来事はゼロにできません。そこで、チームで振り返る場(短時間でもよい)や、管理職が状態を確認して支援につなげるラインケアを整え、抱え込ませない運用を作ることが重要です。
加えて、社内では言いづらい悩みも扱えるように、外部相談窓口など第三者の支援につながる導線を用意しておくと、早期のケアにつながりやすくなります。
業界別の離職要因(介護/看護/IT/飲食/保育士)
【介護:身体負荷・シフト・感情労働】
介護業界の離職要因は、身体的負担(腰痛など)、不規則なシフト、利用者やその家族からの感情的な要求への対応などが挙げられます。対策としては、介護機器の導入による身体負担軽減、シフトの適正化、感情労働に対するメンタルケア(相談窓口の整備、定期的な振り返りの場)が有効です。
【看護:夜勤/急性期ストレス】
看護業界では、夜勤による生活リズムの負担、急性期医療に伴う緊張感、重い場面に対応することによる心理的負荷などが離職要因になり得ます。休養設計(夜勤後の休息時間の確保)、チームでの振り返り(デブリーフィング)、管理職によるラインケアの徹底が求められます。
【IT:燃え尽き・評価/裁量】
IT業界では、長時間労働によるバーンアウト(燃え尽き)のリスク、成果と評価のミスマッチ、裁量の不足などが離職理由として挙げられます。プロジェクト単位での負荷管理、目標と評価基準の明確化、自律的に働ける環境づくり、心理的安全性の高いチーム運営が対策となります。
【飲食:ピーク負荷・人手不足】
飲食業界は、離職率が最も高い業界の一つです。ピーク時の極端な忙しさ、慢性的な人手不足、立ち仕事による身体的疲労が主な要因です。ピーク時間帯の人員配置最適化、マニュアル整備によるオペレーション効率化、休憩時間の確保、定着した従業員へのインセンティブ設計が有効です。
【保育士:人間関係・業務負担】
保育士の離職要因は、「職場の人間関係」が最も多く、次いで「仕事量が多い」、「給料が安い」、「健康上の理由(体力面を含む)」が続きます(※6)。対策としては、現場内のコミュニケーション設計や相談体制の整備に加え、業務量の平準化・分担、処遇改善、体力面も含めた健康支援(休憩確保や勤務負担の調整など)をセットで進めることが重要です。
各業界に共通するのは、現場の心理的・身体的負荷を正しく把握し、ケアの仕組みを構築することです。外部相談窓口の活用は、どの業界においても有効な施策といえます。
<事務局より>
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効果測定(離職リスクを早期に捉えるPDCA)
【見る指標(離職率だけに頼らない)】
離職率は「結果として現れる指標」であり、数値が動いてから原因を探ると、対策の設計や浸透に時間がかかることがあります。そこで、離職率に加えて「離職につながりやすい変化(先行指標)」もあわせてモニタリングし、早めに手当てできる状態を作ることが重要です。
先行指標の例として、早期離職率(入社3ヶ月・6ヶ月・1年)、異動後離職の傾向、欠勤・遅刻の増加、有給休暇取得状況、残業時間、従業員サーベイスコア、相談窓口の利用状況などがあります。これらに変化が見られた場合は、離職率が上がる前の段階で支援策や運用改善を検討しやすくなります。
【改善が続く会社の共通点】
離職率改善に成功している企業に共通するのは、「現場で回る運用」があることです。制度を作っただけで終わりにせず、現場の管理職がその運用に関与し、PDCAを回しています。
具体的には、管理職が部下の状態を把握する仕組みがある(1on1、声かけ)、部下に普段と異なる様子や気になる変化を感知した際のエスカレーションルートが明確、人事部門が現場の声を定期的に吸い上げている、施策の効果を測定し、うまくいかなければ修正するというサイクルが機能している、といった特徴があります。
Q&A
Q:離職率を下げるには、最初に何から着手すべき?
A:まず現状把握から始めてください。離職者の退職理由、離職が多い部署や時期、在籍者の満足度などを可視化し、自社の離職パターンを特定することが出発点です。原因がわからないまま施策を打っても効果は限定的です。
Q:離職率の目安(平均)と、自社の適正値はどう考える?
A:2024年の全産業平均は14.2%、一般労働者は11.5%です。ただし業界によって大きく異なり、宿泊業・飲食サービス業は18.1%(一般労働者)と高めです。自社の適正値は、過去のトレンドや同業他社との比較、採用コストとのバランスから判断します。
Q:離職率の計算方法は?(定義は統一すべき?)
A:「離職者数÷常用労働者数×100」が基本です。分母の基準日(年初か年度末か)や計測期間(年度か暦年か)を社内で統一し、経年比較できるようにすることが重要です。
Q:早期離職(入社3ヶ月・6ヶ月)だけが高い場合の対策は?
A:オンボーディングの質を見直します。入社前の期待と現実のギャップを解消する、メンターを配置する、30日・60日・90日の節目でフォローアップ面談を実施する、相談窓口を周知するといった対策が有効です。
Q:離職率改善のアンケートは何を聞けばいい?(やりっぱなし回避)
A:「どの場面でストレスを感じるか」「業務で最も改善してほしいことは何か」など、具体的な行動につながる設問を設計します。結果は従業員に共有し、改善策を明示することで「やりっぱなし」を防ぎます。
Q:1on1をやっているにもかかわらず離職が減らないのはなぜ?
A:1on1が「評価面談」や「進捗確認」の場になっていないか確認してください。部下が話したいことを話せる場になっているか、上司が傾聴できているか、1on1の目的と運用方法を再設計する必要があるかもしれません。
Q:給与を上げれば離職は止まる?(止まらないケースは?)
A:給与だけでは止まらないケースが多いです。問題は金額よりも「納得感」にあることが多く、評価基準の不透明さ、昇給ルールの不明確さが不満の原因になっています。報酬制度の透明化と併せて対策することが必要です。
Q:評価制度の不満を減らすコツは?
A:「何を頑張れば報われるか」を明文化し、全従業員に周知します。評価面談では結果だけでなく理由と今後の期待を具体的に伝えます。評価者によるばらつきを減らすための評価者研修も有効です。
Q:心理的安全性を高める"具体策"は?
A:管理職が「わからないことは聞いてほしい」と繰り返し伝える、ミスを責めず原因と対策を一緒に考える、会議で発言しやすい雰囲気をつくる、「振り返りミーティング」で困りごとを気軽に共有できる場を設ける、といった日常的な行動の積み重ねが重要です。
Q:メンタルヘルス対策は何をやればいい?(一次〜三次予防)
A:一次予防(未然防止)としてセルフケア教育、ストレスチェックと職場環境改善、二次予防(早期発見)として相談窓口の整備、三次予防(復職支援)として休復職フローの整備と再発防止策を実施します。4つのケア(セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケア)を組み合わせて体系的に取り組みます。
Q:外部相談窓口(EAP等)はどう選ぶ?
A:相談対応の品質(資格を持った相談員がいるか)、対応時間(24時間対応か)、守秘義務の徹底、費用対効果、導入後のサポート体制などを比較検討します。導入後は認知率・利用率をモニタリングし、使われる仕組みにすることが重要です。
まとめ
離職率改善は「採用強化」より先に取り組むべき経営課題です。採用してもすぐに辞めてしまう状態では、いくら採用に投資しても効果は限定的になりやすいためです。
本記事で解説したように、離職率を下げるためには、まず原因を特定し、自社の離職パターンに合った施策を、優先順位をつけて実行することが重要です。施策は網羅すればよいというものではなく、自社の課題に合う順番で取り組むことが成果につながります。
特に、離職の手前にある"不調・孤立・摩擦"を早期に拾うためには、企業のメンタルヘルス対策(一次〜三次予防+4つのケア)を組織的に設計し、外部相談窓口(EAP)を有効に活用することが不可欠です。制度を作るだけでなく、現場で運用される仕組みにすることがポイントです。
離職率改善は一朝一夕には実現しませんが、正しい方向で継続的に取り組むことで、確実に成果は出ます。本記事が貴社の離職率改善の一助となれば幸いです。
<事務局より>
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出典
※1 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要(結果の概況PDF)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/dl/gaikyou.pdf
※2 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/index.html
※3 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00010.html
※4 厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)・個人調査ー仕事や職業生活における不安やストレスに関する事項」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r06-46-50_kekka-gaiyo02.pdf
※5 厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」
https://www.mhlw.go.jp/content/001579077.pdf
※6 東京都福祉局「令和4年度東京都保育士実態調査結果(報告書)」
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/
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◆監修者プロフィール
●名前
大西良佳
●科目
産業医、公衆衛生、ペインマネジメント、麻酔科、漢方内科、美容皮膚科
●所属学会・資格
公認心理師
産業医
麻酔科専門医
ペインクリニック専門医
公衆衛生修士
温泉療法医
緩和ケア研修修了
ICLSプロバイダー
●メディア出演実績
テレビ朝日「林修のレッスン!今でしょ」
宝島社
東京スポーツ新聞
小学館
日刊ゲンダイ
ライトハウスメディア
※当記事は、2026年2月に作成されたものです。
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※本記事内で紹介されているサービスに関して、記事監修の医師は関与しておらず、またサービスの監修もしていません。
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