健康経営
健康経営 2025/07/15

企業がおさえておくべき、プレコンセプションケアの基礎知識~企業にとっての重要性や、導入しやすいアプローチとは?~

企業がおさえておくべき、プレコンセプションケアの基礎知識ー産業医の長井聡里先生インタビュー記事

こんにちは。企業の健康経営(R)を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

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少子化や多様な働き方が進む現代社会で、今注目されているのが「プレコンセプションケア」です。将来の妊娠に備えた健康管理を意味し、妊娠前から男女が自身の健康に向き合うことで、より健全な妊娠・出産のチャンスを増やし、次世代の子どもたちのよりよい健康につなげる取り組みです。企業にとっても、健康経営を支える重要な視点となりつつあります。

今回は、母性健康管理に長年携わってきた産業医の長井聡里先生に、企業がプレコンセプションケアに取り組む意義や具体的なアプローチ、根付かせるためのポイントを伺いました。

目次
●企業がおさえておくべき、プレコンセプションケアの基礎知識
●“家族セットで”考える。企業にとってのプレコンセプションケアの意義
●企業で導入しやすいプレコンセプションケアへのアプローチ
●プレコンセプションケアを根付かせるために

企業がおさえておくべき、プレコンセプションケアの基礎知識

―企業が取り組むべきプレコンセプションケアとは、どのようなことかを教えてください。

プレコンセプションケア*とは「将来の妊娠のための準備」を意味します。私は長年、企業における母性健康管理に取り組んできましたが、以前なら企業での研修会では必ず「不妊に悩む部下にはどう配慮してあげればよいのか」という質問が出てきました。現在ではようやく、国は不妊治療の保険適用拡大や助成金制度を整備し、企業側も不妊治療と仕事の両立を支援する環境づくりに取り組み始めています。

このような流れをふまえると、妊娠中や出産後の健康管理だけでなく、その前の段階からケアを始めることが重要になります。つまり、プレコンセプションケアは、妊娠に伴う合併症や不妊リスクを減らすための事前準備ともいえます。妊娠前からケアすれば健康な状態で働き続けてもらえるため、企業として労働生産性を維持できることにもつながります。

*令和6年度の健康経営度調査票の中では、プレコンセプションケアについて「男女ともに性や妊娠に関する正しい知識を身に付け、健康管理を行うよう促すこと」として定義が記載されています。

―プレコンセプションケアは、若い世代の不妊予防という側面もあるのですね。

その通りです。現在では、夫婦の4~5組に1組が不妊治療を経験しています。「まだ子どもはいらない」と考えていた方が、ある年齢で妊娠を望んだ際に、思うようにいかないケースも少なくありません。若いうちから適切な知識を得られれば、「仕事も大切にしつつ、妊娠・出産も視野に入れたい」など、自分らしい選択がしやすくなります。従業員の多様な選択を企業として支えるには、プレコンセプションケアを含む正確な情報提供が第一歩です。

“家族セットで” 考える。企業にとってのプレコンセプションケアの意義

―プレコンセプションケアを企業が取り組む意義についてお聞かせください。

企業がプレコンセプションケアに取り組む意義は、主に3つあります。まず、女性社員のキャリアと将来の妊娠・出産を両立できる環境を守ること。2つ目に、男性社員や次世代の健康も含めた“家族セットで”の視点を持つこと。そして3つ目に、企業の労働生産性とエンゲージメントの向上です。

特に重要なのは、“家族セットで”の視点です。妊娠・出産はどうしても女性の問題と考えがちですが、パートナーもどこかの企業で働いていますよね。その場合、女性に健康上の問題が生じれば、男性社員の勤怠にも影響します。つまり、一企業の問題ではなく、カップルがともに元気に働けることが両方の企業にとって重要なのです。

―従来の考え方と現代ではどのような変化がありますか?

以前は、男性社員の妻はほぼ専業主婦という前提で、「奥さんの体調は家庭の問題」として片付けられていました。しかし現在は共働き世帯が主流となり、どちらかの健康問題が家計全体を揺るがす可能性があります。例えば、妊娠障害や早産などで仕事を続けられなくなった場合は、夫の働き方も変わって企業内での活動にも影響が及ぶでしょう。夫婦で共倒れにならないためにも、「うちの企業もお宅の企業も、みんなで頑張らないといけない」という意識が求められています。

―性別に関係なく、全従業員にとってプレコンセプションケアに取り組むことは重要なのですね。

そうですね。プレコンセプションケアは、決して女性だけの問題ではありません。若い男性社員の中には、将来的には家族を持つことを想定している方も少なくないでしょう。現在は男性の育児休暇取得が推進されていますが、実は育児は妊娠前から始まっています。というのも、生まれてくる子どもの健康は両親の健康状態とも密接に関わりがあるのです。もし、子どもの健康面に配慮が必要になると、男性社員の仕事のパフォーマンスにも影響が出る可能性があります。企業は、「自社の男性社員が家族のことで悩んでいるなら、どうサポートできるか」を考える必要があるのです。パートナーの健康が男性社員の仕事の質や心理状態に大きく影響するという視点は、今後ますます重要になるでしょう。

―一方、プレコンセプションケアが従業員にもたらすメリットは何ですか?

従業員にとってのメリットは、自分の働き方と人生設計を考える機会を得られることです。知識があれば、キャリアと妊娠・出産について、自分の人生を主体的に考えられるようになります。

転職が当たり前の時代の中、優秀な人材を確保したいと考えるなら「従業員の人生設計」と「企業がその従業員に期待すること」について、従業員と対話することが重要です。プレコンセプションケアを通じて、従業員はキャリアと家族計画を主体的に選択できるようになると考えます。

また、プレコンセプションケアには健康増進の意義があり、将来子どもを持つ予定がない方にとっても男女問わずメリットがあります。男性の場合、バランスのよい食事を心がけて適正体重をキープしたり過度の飲酒を控えたりすることは、メタボリックシンドロームの予防に効果的です。女性の場合は、更年期障害や閉経による骨密度の低下など、年齢による変化に対応できる体づくりにもなります。若い年齢からプレコンセプションケアに取り組むことで、ご自身の健康寿命の延伸にもつながるのです。

企業で導入しやすいプレコンセプションケアへのアプローチ

―企業がプレコンセプションケアに取り組む際、まず始めやすい施策はどのようなものでしょうか?

最も取り組みやすいのは、生涯を通じた女性の健康管理全般をテーマにしたセミナー開催です。これは女性に限らず、全従業員に向けて開催してほしいものです。また、2024年にこども家庭庁が5か年計画で推進している「プレコンサポーター(プレコンセプションケアを推進することを目的とし、自治体・企業・教育機関等において、性別を問わず、性や健康に関する正しい知識の普及を図り、健康管理を行うよう促す人材)」の育成も必要です。この役割には、産業保健スタッフが適していると私は考えています。プレコンセプションケアはプライバシーに関わる内容を扱うため、一般の人事担当者だけでは対応しきれない場面もあります。

例えば、婦人科系の疾患の場合、「上司に、病名は絶対に言わないでください」と言う従業員が少なからずおられます。産業保健スタッフがプレコンサポーターとして介入できれば、病名を伏せたままでも、必要な配慮を上司に伝えることができ、橋渡し役となれるのです。

ただし、中小企業の場合は産業保健スタッフがいないことも多いため、外部の相談機関との連携が必要です。今後は、自治体主体でプレコンセプションケアが進められる可能性もあると考えられます。そのためにも、地域の相談窓口と連携して従業員に「こんな情報があるから、行ってみては?」といったアプローチが効果的になるでしょう。

―妊娠や出産など、女性の健康に関する悩みは非常にデリケートなことでもあります。そのような配慮として、企業はどのような環境を整えればよいですか?

外部の相談窓口の活用を視野に入れるのがよいでしょう。その際、相談窓口から必要な際に適切な医療機関の情報提供をしてもらえるかが大切です。というのも、母性健康管理は幅広い領域であり、産婦人科医でも更年期や不妊治療など得意分野が異なります。場合によっては糖尿病や甲状腺疾患など内科的な問題を抱えている女性もいるため、多岐にわたる専門医とのネットワークを持つ医療機関との連携が理想的です。そのためには企業側も情報収集を行い、社員にとって適切な専門家を紹介できる環境づくりが望ましいと考えます。

私が関わっている女性労働協会は、厚生労働省の下で母性健康管理を長年推進してきましたが、今後はプレコンセプションケアにも主体的に取り組む流れができています。あるいはプレコンセプションケアに当初より取り組まれてきた家族計画協会でも企業向けセミナーに取り組まれています。このような団体との連携も有効です。

―プレコンセプションケアの一環として、女性の月経や健康管理に関する制度の見直しも必要になるのでしょうか?

そうですね。これは私の持論ですが、特に生理休暇の見直しは重要と考えています。現在の生理休暇は戦後すぐにできた法律のままで、現代の女性の働き方に見合っていません。生理休暇制度が制定された当時の生理用品や衣服などの生活様式や社会が期待する母性の捉え方、女性の生涯の月経回数や医療事情も今とは違うのです。月経困難症の背景には子宮内膜症が潜んでいることもあり、放置すると不妊や卵巣がんのリスクも高まる可能性もあります。毎月の月経がある中で女性が働き続けるには、単に休むだけでなく医学的なサポートが必要なのです。

また、生理休暇を利用した取得情報は産業医や保健師に共有されず、健康管理の休暇として把握されていません。私は、法改正できるなら「健康支援日」として制度を再定義し、生理日だけでなくPMS(月経前症候群)や更年期障害、さらには子宮頸がん検診や乳がん検診にも活用できるよう望んでいます。

実際、企業の中には有給休暇の「有」を「You(あなた)」と読み替えた「YOU休」として生理休暇を取得しやすい名称に変更したり、男性も取得可能にしたりなど、法制度の枠を超えた先進的な取り組みを行う企業も出てきています。より広い視点で既存の制度を見直すのも、女性の健康を支える上での企業の役割として捉えてほしいですね。

プレコンセプションケアを企業文化として根付かせるために

―企業でプレコンセプションケアを根付かせるためのポイントはありますか?

プレコンセプションケアを根付かせるには、主に2つのポイントがあります。1つ目は、従業員が生涯にわたって「この会社で元気に働きたい」と思ってもらえるよう、入社時の社員教育がチャンスです。従来、「若い人は健康だ」という考えが前提でした。しかし、男女ともに個人の健康状態は、将来の家族形成や生まれてくる子どもにも影響することを伝える必要があります。プレコンセプションケアを単独の取り組みとしてではなく、「若年層の健康管理」という広い枠組みの中に自然に組み込むことが大切です。そうすれば、「今取り組むことに意義がある」というメッセージが伝わりやすくなります。

2つ目は、管理職の理解を得ることが不可欠です。例えば、男性管理職には「家族の視点」からのアプローチが効果的です。「自分の妻や娘がこの状況だったらどう感じるか」「自分の息子や娘が健康を害したり、不妊で悩んでいたらどうするか」といった具体的なイメージを示すことで、共感を得やすくなります。

一方、女性管理職の場合、仕事一筋で頑張ってきた世代の方の中には、「自分はここまでやってきたのだから、若い人たちも自分と同じように頑張れるはず」といった厳しめの見方を持つ方もいることを、理解しておく必要があります。管理職の理解があってこそ、「この会社では若者の健康に配慮している」というメッセージが浸透すると考えます。

―具体的な施策を導入する上で、注意点はありますか?

例えば、企業がAMH検査(卵巣予備能検査)の検査キットを従業員に配ったり、一律でAMH検査を受けさせたりすることについて、個人的には慎重な姿勢をとるべきだと考えています。検査の目的とその結果の解釈には専門家のサポートが不可欠であり、それらの連携なしに検査だけを提供するのは避けるべきです。AMH検査結果に翻弄され、産めない不安をあおるだけになりかねない可能性もあります。プレコンセプションケアを導入する際は「子どもを持つのが当然」という価値観を押し付けないように配慮しながら、正確な情報提供と適切なサポート体制を整えることが大切です。

―最後に、企業担当者にメッセージをお願いします。

プレコンセプションケアは、“従業員が生涯にわたって健康に働き続けるための支援”という視点が重要です。昔は、新入社員に将来の妊娠の話をしても全然響きませんでした。しかし、プレコンセプションケアという概念により、将来の健康や、将来生まれてくる子どもへの影響を、若い世代に伝えやすくなると感じています。企業と従業員が共に健康で働き続けるための職場づくりの一環として、企業の健康支援の一環として、プレコンセプションケアの導入を前向きにご検討いただければと思います。

<事務局より>
ティーペックでは「こころとからだの相談窓口」や「職場のヘルスリテラシー向上研修」など、充実の研修プログラムとサポート体制で働く女性の健康や企業の健康経営を支援します。

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プロフィール
長井 聡里(ながい さとり)

産業医 長井 聡里(ながい さとり)先生

株式会社JUMOKU代表取締役。1989年産業医科大学医学部卒業。大阪労災病院で産婦人科医として臨床経験を積み、1993年から民間企業にて産業医として従事する。1997年より厚生労働省委託の「働く女性の身体と心を考える委員会」の委員に従事。2013年包括的な産業保健サービスを提供する株式会社JUMOKUを設立。

≪執筆者プロフィール≫
ライター:みつはら まりこ
2022年ライターとして活動をスタート。社会福祉、SDGs、インテリアデザイン(ホテル・病院・福祉施設)、地方女性の働き方などをテーマに企画・執筆中。

※当記事は、2025年7月に作成されたものです。
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※当記事内のインタビューは、2025年4月に行われたものです。

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