健康経営優良法人2024~今年度の健康経営の進捗と今後の方向性について
こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
2023年12月7日に、「第10回健康投資ワーキンググループ※」(以下、WGという)が開催されました。本記事では、WG事務局説明資料から、健康経営優良法人2024(2023年度)の回答・申請状況や、今年度の主な改訂ポイント、今後の方向性などの要点をピックアップしてお伝えします。
※健康投資ワーキンググループとは、健康投資の促進等について専門的な検討を行うために経済産業省によって設置された組織です。健康経営度調査や顕彰制度といった健康投資の促進等について議論が行われています。
貴社での健康経営の施策・取り組みの検討にお役立ていただける記事『健康経営で中長期的に成果を上げるために』を読む>>
≪目次≫
1.健康経営優良法人2024(2023年度)の進捗
2.10年の総括と今後について
3.各論
└3-1. 健康経営の可視化と質の向上
└3-2. 新たなマーケットの創出
└3-3. 健康経営の社会への浸透
1.健康経営優良法人2024(2023年度)の進捗
1-1. 健康経営優良法人2024(2023年度)の回答・申請件数
【大規模法人】
健康経営優良法人2024(2023年度、以下本文では2023年度という)の健康経営度調査の回答数は、前回から354件増加して3,523件となりました。そのうち、上場企業数は前回から76件増加の1,203件となり、上場企業全体の3割に到達しました。
図表1 健康経営度調査回答数、健康経営優良法人(大規模法人部門)認定状況の推移
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P3
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
【中小規模法人】
健康経営優良法人2024(中小規模法人部門)の申請数は、前回から2,915件増加して17,316件となりました。 そのうち、ブライト500の申請数は3,429件で、前年比で155件増加しました。
図表2 健康経営優良法人(中小規模法人部門)申請・認定状況の推移
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P4
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
1-2. 健康経営優良法人2024(2023年度)の回答状況
【大規模法人】情報開示の促進:特定健診・特定保健指導実施率の状況
特定健診実施率は、実施率90%以上の保険者が全体の7割程度を占めました。 また、特定保健指導実施率については、実施率50%未満の保険者が5割超(※共済組合は回答数が少ないため、参考値)となっています。 特定健診・特定保健指導の実施率を高めるためには、外部サービスの活用も含めた、さらなるコラボヘルス*の推進が求められます。
*コラボヘルス…保険者と事業者が積極的に連携し、明確な役割分担と良好な職場環境のもと、加入者の予防・健康づくりを効率的・効果的に実行することです。(出典元:厚生労働省「コラボヘルスを推進してください」
https://www.mhlw.go.jp/content/000753605.pdf
図表3 特定健診・特定保健指導実施率の状況
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P7
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
【大規模法人】情報開示の促進:労働安全衛生・業務パフォーマンスの開示状況
健康経営の推進の一環として、労働安全衛生について開示している法人は約4割となっています。また、アブセンティーイズム、プレゼンティーイズム、ワークエンゲイジメントといった業務パフォーマンスの指標を把握し、開示している法人は約3割にとどまっており、今後さらなる開示の充実が期待されます。
図表4 労働安全衛生・業務パフォーマンスの開示状況
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P8
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
【大規模法人】社会課題への対応:育児・介護と就業の両立支援
育児と就業の両立支援策については、「育児で利用できる法定以外の柔軟な勤務制度」(在宅勤務、転勤配慮、週休3日制など)と回答した企業は7割を超えますが、「育児支援制度の利用者に対してニーズや満足度等を聴取」している企業は約3割にとどまっています。
また、介護と就業の両立支援においても、「相談窓口を設置」している企業は5割を超える一方で、実態把握を行う企業は3割未満でした。
育児・介護ともに、利用者のニーズを聴き取るなど、実態に即した支援策を充実させていくことが望まれます。
なお、経済産業省では、企業における両立支援の取り組みを促進するため、介護発生による企業経営上の影響や企業実態に応じた両立支援の在り方を議論する検討会を設置しており、2023年度内をめどに、企業向けのガイドライン策定を行う予定です。
図表5 育児・介護と就業の両立支援
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P10
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
【大規模法人】健康経営の国際展開:海外従業員への対応
企業は、海外駐在員や現地法人で雇用されている社員の健康課題にも対応しなければいけません。
自社の健康経営推進方針に基づき、グローバルで健康経営に取り組んでいる企業は約4割となっています。 具体的には、グローバルの社員が参加できるイベントを実施してコミュニケーションの活性化につなげたり、現地の環境に合わせた疾病予防活動を行っている例が報告されました。例えば、サントリー食品インターナショナルでは、全世界共通のグローバルウォーキングイベントを開催したり、スズキ株式会社では、支社があるインドにおいて、蚊に刺されることによる疾病対策のためにモスキートネットを設置するなどの活動を行っています。
図表6 海外従業員への対応
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P13
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
【大規模法人】社会課題への対応:生産性低下防止のための取り組み
生産性低下防止のための取り組みとしては、「花粉症」や「眼精疲労」等への対応が挙げられます。
「空気清浄機の設置」など、職場での花粉症対策を行っていると回答した企業は約5割、また「眼精疲労」については、「眼精疲労に配慮した照明や加湿器の設置等」、「眼精疲労に配慮したディスプレイ等職場で使用する機器の整備」で、それぞれ4割を超えました。
図表7 生産性低下防止のための取組
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P14
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
【中小規模法人】社会課題への対応:育児・介護と就業の両立支援
中小規模部門においても、育児・介護ともに主に柔軟な勤務制度と社内周知等の取り組みが中心となっています。ただし、 育児で約19%、介護で約28%が「いずれも特に行っていない」と回答しており、育児・介護と就業の両立支援の取り組みがより一層望まれます。
図表8 育児・介護と就業の両立支援
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P11
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
2.10年の総括と今後について
10年の変遷(1) 健康経営施策の変遷
2014年度に健康経営度調査が開始されて以降、コラボヘルス、「働き方改革関連法」の施行といった従業員への健康維持・増進に関連する施策が増加しています。
また、経済産業省は、2020年6月に従業員を無形資産と捉えた「健康投資管理会計ガイドライン」を公表しました。管理会計の手法を用いて、適切な経営判断やPDCAサイクルの下で健康経営を効率的・効果的に実施することが期待されています。
図表9 健康経営施策の変遷
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P16
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
10年の変遷(2) 健康経営度調査票改訂の変遷
健康経営度調査票は、より効果的な健康経営につなげるべく、毎年改訂を行っています。 評価に使用する4つの側面(「経営理念・方針」「組織・体制」「制度・施策実行」「評価・改善」)に関する設問構成は、初年度では「制度・施策実行」に関する設問数が7割を占めましたが、2023年度では5割に減少しました。他方で、「経営理念・方針」、「評価・改善」の割合は倍増しています。
図表10 健康経営度調査票改定の変遷
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P17
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
10年の変遷(3) 健康経営に関するメディア露出数
毎年度3月の健康経営銘柄選定・健康経営優良法人認定時に、メディア露出が突出して増加しています。 2016年度の健康経営優良法人認定以降、メディア露出が拡大し、健康経営が一定程度浸透してきたことがわかります。
10年の変遷(4) 健康経営に関する検索人気度
2014年4月から2023年現在までのGoogleトレンド検索人気度(日本国内)において、「健康経営」および関連する「女性活躍」、「人的資本」と比較すると、 2018年後半から他ワードと比較して「健康経営」がトップとなっており、地道に伸びてきています。
10年の変遷(5) 過去10年の回答結果の推移(有給休暇取得率)
健康経営度調査開始以降、年次有給休暇取得率の向上が顕著になっています。「2022年就労条件総合調査」によると、有給休暇取得率は約6割(58.3%)ですが、回答法人の有休取得率は63.9%と高い割合を示しています。さらに、ホワイト500認定法人では約80%に上るなど、取り組みが進んでいます。
10年の変遷(6) 過去10年の回答結果の推移(喫煙率)
喫煙率について、回答企業全体、ホワイト500ともに年々低下しています。 「国民生活基礎調査」における就業者の喫煙率を、ホワイト500男女構成比、および回答全体の男女構成比にてそれぞれ調整した就業者の喫煙率と比較したところ、回答法人全体の喫煙率が低く、ホワイト500ではその差がより顕著に表れています。
10年の変遷(7) 健康経営度調査回答法人内訳及び離脱率の推移
健康経営度調査への新規回答法人数は直近3年間で約17%、継続回答は約80%で推移しており、前年度は回答していたが当該年度は未回答になった法人数(離脱率)は年々減少しています。初年度から昨年度までの9年連続回答は176法人で約4割(初年度回答法人数に対して)ですが、継続回答率は年々高まっています(新規上場、合併等考慮せず)。
図表11 健康経営度調査票改定の変遷
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P23
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
健康経営の目指すべき姿
健康経営の目指すべき姿として示された図表12は、第9回健康投資WG(2023年7月18日) で公表された資料の再掲です。この中の(1)健康経営の可視化と質向上、(2)新たなマーケットの創出、(3)健康経営社会への浸透・定着の3項目は、WGの目下の継続的議論の対象です。
図表12 健康経営の目指すべき姿
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P24
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
3.各論
3-1. 健康経営の可視化と質の向上
デジタル技術の活用可能性について
健康経営度調査においては、昨年度から保険者-事業主間の健診データの共有やマイナポータルとの連携を見据えた設問を設けています。先進的な企業においては、従業員に対してPHR(Personal Health Record)を活用した健康増進の取り組みを行い、自身の健康状態・生活習慣の可視化や職場以外も含めた健康への取り組みを支援しています。
このような取り組みは、従業員の健康意識の向上や行動変容がしやすい環境づくりに資するため、マイナンバーカードの健康保険証利用やマイナポータル活用等に加え、今後、健康経営度調査においてPHRの活用をどのように位置付けていくのかについて検討していくことが望まれます。
なお、PHRの活用には、データの標準化や個人情報保護、同意取得の在り方等のルールを整備していく必要性があります。こうした状況を踏まえ、2023年7月に多様な業種の事業者で構成されるPHRサービス事業協会が設立され、 PHR利活用に向けた事業環境整備に向けて動き始めています。
図表13 PHRを活用した健康経営の取り組み
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P26
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
3-2. 新たなマーケットの創出
健康経営企業と支援サービス選択の仕組みに向けた検討
多くの健康経営実践企業が、自社の健康課題に対し、エビデンスに基づき質の高いサービスを受容できる環境整備を求めています。今後、健康経営の推進に資するサービスとのマッチングのため、健康経営でニーズが高いメンタルヘルスやコンサルティングサービスの領域から、一定の評価軸に基づきサービスを選択できる仕組みづくりを行います。
サービス選択の仕組み(1)健康経営コンサルティング自己宣言制度
健康経営コンサルティング事業者が一定の基準を満たすことを自己宣言し、その事業者を可視化することで、コンサルティングサービスの品質の担保・向上を目指す仕組みを検討中です。具体的には、自己宣言事業者リストを健康経営ポータルサイト等で公開し、健康経営を実践する企業・団体のサービス選定のためのマッチングにも活用されることを想定しています。
図表14 健康経営コンサルティング自己宣言制度
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P32
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
サービス選択の仕組み(2)メンタルヘルス分野におけるサービスの可視化
2023年度、「職域における心の健康関連サービス」活用に向けた研究会を設置し、需要・供給・アカデミアの各立場から民間サービスの情報開示のあり方について検討を実施しました。サービス提供事業者側の品質や信頼性の確保(EAP(Employee Assistance Programs)、DMH(Digital Mental Health)両分野)と、雇用主側のニーズに合ったサービスの導入・活用の促進を目指します。
図表15 メンタルヘルス分野におけるサービスの可視化
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P33
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
3-3. 健康経営の社会への浸透
中小への普及拡大(1)(小規模法人への対応)
中小企業への認知が高まる一方で、従業員数の少なさや事業形態によっては、リソースが足りない等の理由から健康経営の実践が難しいという声もあります。少人数組織ほど経営者の理念が従業員に浸透しやすく、健康経営の効果も早期に出る可能性があり、最初の一歩を踏み出すきっかけ作りの観点から、一定数以下の規模の事業者にとっても取り組みが可能な設計にするために修正を検討することが課題となっています。
図表16 日本の法人全体・申請法人全体の規模別割合
【出典】
経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課
「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」P34
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
中小への普及拡大(2)(地域の支援者)
中小企業への健康経営の推進には、地域の支援者(自治体や金融機関等)の存在も重要です。こうした支援者らが効果的に連携することで、大きな成果を上げている地域も存在しています。地域の支援者がより一層健康経営を推進できるための環境整備を検討することが望まれます。
原稿・社会保険研究所Copyright
貴社での健康経営の施策・取り組みの検討にお役立ていただける記事『健康経営で中長期的に成果を上げるために』を読む>>
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参考
・経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課「健康・医療新産業協議会 第10回健康投資WG事務局説明資料」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/010_02_00.pdf
・厚生労働省「コラボヘルスを推進してください」
https://www.mhlw.go.jp/content/000753605.pdf
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※当記事は、2024年2月に作成されたものです。
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。