健康経営と働き盛り層の身体活動
こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
スポーツ庁の調査によると、30代~50代で運動不足を「感じる」とする割合が約8割を超えています。運動不足は、心身の健康だけでなく、仕事の生産性の低下にもつながるため、企業にとっても重要な課題です。健康経営に取り組んでいる中で「従業員の運動不足に課題感を持っている」「運動促進のために企業としてできることは何か」などと、すでに検討や模索を始めている企業のご担当者様もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は「健康経営と働き盛り層の身体活動」をテーマに職場での健康づくり、運動や身体活動量を増やす取り組み方法についてお伝えします。
≪目次≫
◆30代~50代の働き盛り層の約8割が、運動不足を実感
◆日本人の平日の座位時間は世界20か国の中で最長
◆座りすぎは、2型糖尿病のリスクを高め、寿命にも影響を及ぼす
◆従業員の健康維持・増進のため、職場での運動・身体活動量を増やそう
◆職場での運動・身体活動量を増やすために
◆健康経営は、従業員と企業のために有益な経営手法
◆健康経営の取り組みは、労働災害防止にもつながる
◆健康経営で、従業員が安全に長く働ける環境をつくろう
30代~50代の働き盛り層の約8割が、運動不足を実感
健康経営とは、従業員の健康維持・増進を重視し、その実践を図ることで、生産性の向上と従業員の幸福、企業のイメージアップを目指す経営手法です。従業員の健康の維持・増進のためには、適切な食事と適度な運動が重要ですが、働き盛りと言われる30代から50代の男女は、普段どのくらい運動しているのでしょうか。
スポーツ庁では、スポーツの実施状況等に関する国民の意識を把握し、今後の施策の参考とすることを目的に、毎年、全国の18歳~79歳の男女40,000人を対象に「スポーツの実施状況等に関する世論調査」を行っています。令和5年3月24日に公表した「令和4年度スポーツの実施状況等に関する世論調査」によると、運動不足を「感じる」(「大いに感じる」+「ある程度感じる」)と答えた人は、全体の76.2%にも及んでいます(令和3年度は77.9%)。
性別で見ると、運動不足を「感じる」とする割合は、女性が男性より8.0ポイント高くなっています。また、年代別に見ると、30代~50代で運動不足を「感じる」とする割合が約8割を超えています。運動頻度別に見ると、直近1年の運動頻度「週1日未満」の人で、運動不足を「感じる」とする割合が91.9%と最も高くなっています。
この調査からは、30代~50代の働き盛り層の運動不足の実態がうかがえます。
図1 運動不足を感じる人の割合は、全体の76.2%
【出典】
※1 スポーツ庁「『令和4年度スポーツの実施状況等に関する世論調査』の結果を公表します」
https://www.mext.go.jp/sports/content/20230420-spt_kensport01-000028572-01.pdf
日本人の平日の座位時間は世界20か国の中で最長
近年はさまざまな研究から、座っている時間があまりに長いと、健康問題が生じることが知られています。日本人の座位時間は、外国と比較して長いのでしょうか。
厚生労働省の資料「座位行動」では、世界20か国における平日の座位時間を比較しています。座位とは、座っていたり横になっていたりする状態を指します。
図2の●印は各国の座位時間の中央値で、■は下から4分の1、▲は下から4分の3の位置に当たる人の座位時間をそれぞれ表しています。これを見ると、世界20か国の中で日本人の座位時間が一番長く、座りすぎのリスクが大きいことがわかります。
図2 世界20か国における平日の座位時間
【出典】
※2 厚生労働省「座位行動」資料
https://www.mhlw.go.jp/content/000656521.pdf
座りすぎは、2型糖尿病のリスクを高め、寿命にも影響を及ぼす
生活の中で、座っている時間が長い人は短い人に比べて寿命が短く、2型糖尿病罹患率が高いことも報告されています。
米国の研究では、普段運動しているかどうかにかかわらず、座りすぎていると2型糖尿病に罹患する危険度が高くなることが示されました。具体的には、1週間当たりのテレビ視聴時間が「40時間」の群では、「0~1時間」の群に比べて、2型糖尿病に罹患する危険度が1.70倍になっています(図3)。
また、「座りすぎと寿命」の関係を見たオーストラリアの研究では、1日の座位行動時間が「11時間」の群は、「0~1時間」の群に比べて、相対危険度が1.40倍になることが明らかになっています(図4)。
図3 座りすぎと2型糖尿病の関係
図4 座りすぎと寿命の関係
【図3・図4 出典】
※3 厚生労働省「座位行動」資料
https://www.mhlw.go.jp/content/000656521.pdf
従業員の健康維持・増進のため、職場での運動・身体活動量を増やそう
このように座位時間の長い日本人の健康維持のためには、座位時間を減らし、運動する機会を増やすことが重要です。運動をすると、体力や持久力がアップするとともに、生活習慣病の予防にも役立つことが、長年の研究でわかっています。また、体の柔軟性が高まり、筋力が維持されれば、けがなどのトラブルも少なくなります。
企業が従業員の健康を考える場合は、職場での働き方を工夫する必要があります。従業員が出勤していても何らかの不調で効率が上がらない状態を「プレゼンティーイズム」といいます。具体的には、慢性疲労、腰痛、頭痛や花粉症などの症状が挙げられます。こうした不快な症状があると本来の力が発揮できず本人も辛いうえに、労働生産性が低下するため、企業の損失にもつながってしまいます。
そこで、企業は健康経営の視点から、職場での健康づくり、運動や身体活動量を増やす取り組みを行うことが重要になります。
「プレゼンティーイズム対策によって健康経営のメリットを最大化する」記事の続きを読む >>
職場での運動・身体活動量を増やすために
職場での運動・身体活動量を増やすためには、以下のような方法が考えられます。
コストをかけずに簡単に実践できる例
●ラジオ体操など簡単な運動をする時間を勤務時間内に設ける
●エレベーターなどの使用を控え、階段の利用を奨励する
●最寄駅の一つ前の駅で降りて歩くことを奨励する
環境づくりや費用面で支援する例
●オフィスや会議室のデスクをハイスタンドタイプや昇降タイプに変える
会議や打ち合わせを立ったまま行うことで、座りすぎの防止になります。設備の入れ替えが大変という場合は、机上で使えるリフトアップデスクを使うなどの工夫をしてみるのも一案です。
●スポーツクラブ利用の費用を支援する
普段運動をしていない人が運動を始める場合、スポーツシューズやスポーツウェア等の費用をはじめ、スポーツクラブの利用料等がかかります。そこで、会社がスポーツクラブ利用の費用を支援することで、利用者の負担軽減につながります。
●ウォーキングイベント等を行う
ウォーキングは激しい運動ではないため、運動が苦手な方でも取り組みやすいというメリットがあります。また、ウォーキングイベント等を開催すると、従業員同士の交流が生まれ、コミュニケーションの活性化にもつながります。
地域貢献活動を行う例
●企業の地域社会貢献活動の一環として、地域の清掃活動等を行う
勤務時間中に地域の清掃活動等に参加することで、従業員が体を動かす機会になります。また、地域住民との交流をはじめ、地域活動に積極的な企業としてのアピールにもなります。
●企業として、夏祭りなどのイベントに参加する
夏祭りや地域の運動イベントなどに、企業として参加するのもいいでしょう。従業員が体を動かす動機付けになります。
さまざまな事業を利用する例
●「スポーツエールカンパニー」制度に申請する
スポーツ庁では、働き盛り世代のスポーツ実施を促進するため、従業員の健康増進のためにスポーツ活動に積極的に取り組む企業を「スポーツエールカンパニー」として認定しています。2023年度は、「スポーツエールカンパニー2023」として910社が認定されました。こうした制度を利用して、従業員がスポーツに親しむことのできる環境づくりを進めていくことも有効です。
●FUN+WALK PROJECTに参加する
スポーツ庁では、働く人たちのスポーツ参画を通じて国民の健康増進を図る官民連携プロジェクト「FUN+WALK PROJECT」に取り組んでいます。これは、普段の生活から気軽に取り入れることのできる「歩く」に「楽しい」を組み合わせて、自然に歩く習慣が身につくように考えられたプロジェクトです。こうしたものを利用するのもいいでしょう。
【出典】
※4 スポーツ庁 「『スポーツエールカンパニー2023』として910社を認定」
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/houdou/jsa_00125.html
※5 スポーツ庁 「FUN+WALK PROJECT」
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop05/list/1396542.htm
健康経営は、従業員と企業のために有益な経営手法
健康経営は、従業員の健康増進のメリットがクローズアップされがちですが、従業員と企業双方に大きなメリットをもたらす経営手法です。
従業員は、自分自身の健康が増進することで、仕事や生活にメリハリができます。仕事に対するモチベーションが高まり、仕事の効率も上がります。
企業は、従業員が健康であれば労働生産性が上がります。また、会社が従業員の健康を大切に考えていることが伝わることで、会社への信頼感が増し、仕事への意欲が上がります。健康経営を行うことで、会社の経営姿勢が社内にも社外に伝わり、社会的な評価も高まります。
さらに、健康保険組合などの保険者のメリットとしては、健康経営を行う企業が増えることでデータヘルス計画の実効性が上がり、安定的な事業運営を行うことができるようになります。
健康経営の取り組みは、労働災害防止にもつながる
健康経営は、労働災害防止にもつながります。これはリスクマネジメントを考える企業にとっては、大きなメリットといえます。
企業は、「労働安全衛生法」に基づいて、職場における労働者の安全と健康を確保することが義務付けられています。また、従業員が安全に働くことができるように、必要な措置をする「安全配慮義務」があります。
仕事が原因で従業員がけがをしたり病気になったりすると、企業は「安全配慮義務」違反を問われ、高額な損害賠償を請求される場合もあります。ですから、従業員の健康維持・増進に取り組み、事故や労働災害の発生を予防することは、事故や労働災害による損失を回避することになります。さらに、病気を予防することで、企業の保険料などの負担軽減にもつながります。
健康経営で、従業員が安全に長く働ける環境をつくろう
日本は少子高齢社会が進み、生産年齢人口が減少しています。そうした労働力不足の時代においては、人材の確保・定着に悩む中小企業も多くなっています。今後は、人材の確保・定着のための対策は重要になります。
そうした対策のためにも、健康経営は重要です。従業員に長く働いてもらうためには、従業員の健康づくりは欠かせません。企業は、今後の企業活動存続のためにも健康経営を行い、従業員が健康で安全に長く働くことができるよう、職場環境の整備に取り組む必要があるといえるでしょう。
原稿・社会保険研究所Copyright
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出典
・スポーツ庁「『令和4年度スポーツの実施状況等に関する世論調査』の結果を公表します」
https://www.mext.go.jp/sports/content/20230420-spt_kensport01-000028572-01.pdf
・厚生労働省「座位行動」資料
https://www.mhlw.go.jp/content/000656521.pdf
・スポーツ庁「『スポーツエールカンパニー2023』として910社を認定」
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/houdou/jsa_00125.html
・スポーツ庁「FUN+WALK PROJECT」
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop05/list/1396542.htm
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※当記事は2023年7月に作成されたものです。
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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