健康・予防・両立支援
健診・二次健診 2023/05/29

職域のがん検診

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

がん患者の約3割は就労世代(15歳~65歳)で罹患しています。特に近年ではAYA世代(Adolescent&Young Adult<思春期・若年成人、15~39歳>)のがん患者が増えており、国立がん研究センターがん対策情報センターによると、年間約2万人のAYA世代の人が、新たにがんと診断されているといいます。

働く女性や高齢労働者の増加を考えると、職場におけるがん患者は今後も増えることが予想されます。そのため、がん対策は企業にとっては欠かせない経営課題です。

この課題に、企業はどう向きあえばいいのでしょうか。今回は「職域のがん検診」をテーマにお伝えします。

<目次>
日本のがん対策は、「がん対策推進基本計画」に基づいて推進
AYA世代のがん対策充実へ
コロナ禍で、がん検診受診者が減少
職域におけるがん検診の重要性
がん対策は重要な経営課題
企業は治療と就労の両立支援に取り組むことが不可欠

日本のがん対策は、「がん対策推進基本計画」に基づいて推進

日本のがん対策は、「がん対策推進基本計画」に基づいて実施されています。2006年6月に「がん対策基本法」が成立し、翌年6月に「第1期がん対策推進基本計画」が閣議決定されました。その後、2012年に第2期、2018年に第3期の計画が策定され、このたび2023年3月に、「第4期がん対策推進基本計画」が閣議決定されました(図表1)。

第4期がん対策推進基本計画は、2023年度から2028年度までの6年間を実行期間としており、全体目標として、「誰もががんとともに自分らしく生きられるよう、全ての国民でがんの克服を目指す。」を掲げています。また、全体目標の下に置かれた分野別目標には、第3期基本計画と同様に、「1.がん予防」、「2.がん医療」、「3.がんとの共生」のほか、「4.これらを支える基盤」が掲げられています。そして、この基盤の整備には、「患者・市民参画の推進」や「デジタル化の推進」などの項目が新たに盛り込まれました。

第4期では、がん検診受診率の目標を第3期の50%から60%に引き上げており、今後は企業や健康保険組合等が実施する職域のがん検診のさらなる推進が求められているといえます。

第4期がん対策推進基本計画の概要-1
第4期がん対策推進基本計画の概要-2

【出典】
厚生労働省「がん対策推進基本計画の概要(第4期)<令和5年3月> 」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001077544.pdf

AYA世代のがん対策充実へ

近年、AYA世代(Adolescent&Young Adult<思春期・若年成人、15~39歳>)のがん患者が増えています。国立がん研究センターがん対策情報センターによると、年間約2万人のAYA世代の人が、新たにがんと診断されているといいます。

そこで、第4期がん対策推進基本計画では、これまで同項目として扱われていた「小児・AYA世代のがん対策」と「高齢者のがん対策」を別項目とし、小児・AYA世代のがん対策をさらに充実させるための事項も盛り込まれました。教育、就労、長期フォローアップ等の支援を行うことで、がん患者がライフステージごとに抱える問題に対し、適切な支援を受けられることを目指すとしています。

【出典】
厚生労働省「がん対策推進基本計画(第4期)<令和5年3月>」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001077564.pdf

コロナ禍で、がん検診受診者が減少

公益財団法人日本対がん協会の支部を対象にした調査によると、国内で感染拡大が始まった2020年のがん検診受診者数は、コロナ前に比べて27.4%減少しました。2021年は2020年の受診者数に比べて23.5%増となりましたが、2019年の受診者数と比べると10.3%下回っており、コロナ禍の影響が続いていることが分かります(図表2)。 

2019~2020年 がん検診受診者数の増減

【出典】
公益財団法人日本対がん協会 2022年4月4日お知らせ
https://www.jcancer.jp/news/12832

また、厚生労働省の資料「新型コロナウイルス感染症によるがん検診及びがん診療などへの影響」によると、2020年度のがん検診・がん診療受診者数減少の要因として、以下の4点が挙がっています。

【がん検診・がん診療受診者数減少の要因 (2020年度)】

1.緊急事態宣言に伴う政府や専門学会の通知
2.がん検診実施者(市区町村・保険者・事業主)による実施延期・中止
3.感染の恐れによる検診および医療の受診控え
4.がん検診実施機関・医療機関のキャパシティー減少

【出典】
厚生労働省「第37回がん検診のあり方に関する検討会」資料1
「新型コロナウイルス感染症によるがん検診及びがん診療などへの影響(2021年度評価)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001046961.pdf

このように、コロナ禍はがん検診の受診にも大きな影響を及ぼしました。しかし、現在、各医療機関、検診機関は徹底したコロナ対策の下に対応しているため、安心してがん検診を受けることができます。がんは早期発見できれば治る可能性が高く、がん検診で多くの早期がんが見つかっています。がん検診を受けること、体の変化や気になる症状がある場合には医療機関を受診することが大切です。

職域におけるがん検診の重要性

職域におけるがん検診は、日本のがん対策において重要な役割を担っています。市区町村で実施されるがん検診は「健康増進法」に基づいて行われていますが、企業や健康保険組合等が実施する職域におけるがん検診には法的な根拠がなく、その多くは、保険者や事業者が福利厚生の一環として任意に実施しているものです。そのため、検査項目や対象年齢、検診の実施方法などもさまざまなのが実情です。そこで、厚生労働省は2018 年3月に「職域におけるがん検診に関するマニュアル」(以下、「マニュアル」という)を作成し、「職域におけるがん検診を効果的に行うための参考にしてほしい」としています。

マニュアルを参考に、正しいがん検診の実施を

マニュアルでは、がん検診の種類として、以下の5つを挙げています。
 1.胃がん検診
 2.子宮頸がん検診
 3.肺がん検診
 4.乳がん検診
 5.大腸がん検診

がん検診の種類1
がん検診の種類2

職域のがん検診の多くは、検診機関等に委託して実施されています。しかし、すべてを委託先に任せるのではなく、マニュアルに記載されている各検診の「精度管理のためのチェックリスト」なども参考にして、質の管理を行うことも重要です。

一例として、胃がん検診のためのチェックリストを以下に記載します(抜粋)。

精度管理のためのチェックリスト(抜粋1)
精度管理のためのチェックリスト(抜粋2)

【出典】
厚生労働省「職域におけるがん検診に関するマニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000204422.pdf

がん対策は重要な経営課題

 「がんは、珍しい病気ではなくなりました。日本人の半数が生涯に1度はがんにかかり、3 人に1 人ががんで亡くなっています。2018 年には、全国で約101万人が新たにがんと診断されたと推定されています。

がんは、高齢になるほどかかる人が増えていきます。しかし、実は就労世代(15 ~ 65 歳)でがんにかかる人も少なくなく、がん患者の約 3 割は 就労世代に発症しています。そのため、社員数数 千人の大企業では毎年のように何人かががんにかかって当たり前、数十人の中小企業でも誰がいつ がんにかかっても不思議ではありません。しかも、社会の高齢化に伴い、社員の高年齢化 は避けて通れません。また、30 代から 40 代で は女性の方が、がんにかかる割合は高くなっています。がん対策は、企業として欠かせない経営課題です。」

【出典】
国立がん研究センター『がんになっても安心して働ける職場づくりガイドブック中小企業編』
https://ganjoho.jp/public/qa_links/brochure/pdf/guidebook_sm.pdf

企業は治療と就労の両立支援に取り組むことが不可欠

前述のように、就労世代のがん患者は増加傾向にあると推測されますが、医療の進歩で、がんは治る病気、もしくはかなり長期にわたって安定した状態が期待できる病気になっています。そのため、今後はがんになっても治療を受けながら仕事を継続する人が増えていくでしょう。そのため、企業は治療と就労の両立支援に取り組むことが重要になります。

企業としても、業務に精通した人材を失うよりも、がんと診断されても安心して働ける環境を整える方が健全な経営につながります。「社員を大事にする会社」として社員のモチベーションを高めるためにも、治療と就労の両立支援に取り組むことが必要です。

原稿・社会保険研究所Copyright


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参考文献:

・厚生労働省「がん対策推進基本計画の概要(第4期)<令和5年3月> 」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001077544.pdf

・厚生労働省「がん対策推進基本計画(第4期)<令和5年3月>」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001077564.pdf

・公益財団法人日本対がん協会 2022年4月4日お知らせ
https://www.jcancer.jp/news/12832

・厚生労働省「第37回がん検診のあり方に関する検討会」資料1
「新型コロナウイルス感染症によるがん検診及びがん診療などへの影響(2021年度評価)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001046961.pdf

・厚生労働省「職域におけるがん検診に関するマニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000204422.pdf

・国立がん研究センター『がんになっても安心して働ける職場づくりガイドブック中小企業編』
https://ganjoho.jp/public/qa_links/brochure/pdf/guidebook_sm.pdf

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※当記事は2023年4月に作成されたものです
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

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