新しい働き方にあわせて睡眠の質をあげる方法~睡眠と仕事のパフォーマンス【後編】~
こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
ティーペックの研修講師を務めている傳川紀子さん(一般社団法人 コーポレートウェルネス研究会 代表理事、上級睡眠健康指導士)が解説する『睡眠と仕事のパフォーマンス』。
前編は、働く人をとりまく睡眠の悩みとその原因、睡眠の質を高めるための企業での取り組み事例について届けしました。後編は、睡眠時間の不足がもたらす様々なリスクや仕事のパフォーマンスへの影響、そして新しい働き方にあわせて睡眠の質を上げる方法についてお届けします。(以下、傳川さん執筆)
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<目次>
3.睡眠の価値を知ろう
3.1睡眠時間の不足がもたらす様々なリスク
3.2仕事のパフォーマンスへの影響
3.3睡眠の効果
4.睡眠を充実させるには?
4.1まずは睡眠時間の確保
4.2睡眠の質をあげるには
4.3それでも眠れない時は
5.変化をしなやかに乗り切ろう
3.1睡眠時間の不足がもたらす様々なリスク
人は睡眠不足の状態では、自分の眠気を正確に評価できません。*1)「短時間睡眠でも眠くないから私は大丈夫」と思っていても、知らないうちに健康、メンタル、仕事のパフォーマンスは大きな影響を受けています。本記事では、主に仕事のパフォーマンスと睡眠の関係について解説します。
3.2仕事のパフォーマンスへの影響
〇様々な脳機能の低下
睡眠の障害や不足によって、注意力、集中力、記憶、学習機能が低下します。*2*3*4)製造業では作業手順技能も重要な仕事のスキルですが、このような身体が覚える記憶も睡眠不足によって低下します。不十分な睡眠は、仕事のミスや事故を誘発する危険性や、技術の習得を遅らせる可能性があります。
また、睡眠不足の状態では、より簡単な仕事を選択する傾向があります。しかし、同じ人に睡眠を十分とってもらうと、より難しい仕事―問題解決能力や創造性が必要とされる仕事―を選ぶようになったという報告もあります。*5*6)もし、あなたが部下にもっと挑戦をしてほしいと思うのなら、まずは睡眠をしっかりとってもらいましょう。
〇感情面への影響
睡眠が不足すると感情抑制力や意欲が低下したり、抑うつ状態を引き起こしたりします。*7)また、睡眠不良の上司は攻撃的になり、部下に対して侮辱的にふるまうという研究結果もあります。*8)
さらに、メンタルケアにおいて部下の変化に気づくことは管理職の役割ですが、睡眠が十分でないと相手の表情を読み取る能力が鈍ってしまいます。*9)部下の変化に早めに気づくためにも睡眠は必要です。
〇モラルの低下
睡眠が不足するとモラルが低下し、嘘をついたり、自分のミスを他人のせいにしたりする傾向が高くなります。*10)コンプライアンス順守やチームワークを考える上でもメンバーの睡眠不足は見過ごせません。
3.3睡眠の効果
このように、睡眠が不足すると、仕事を遂行する上で必要なあらゆる能力が低下することがお分かりいただけたかと思います。逆に、睡眠を十分にとることで、これらの能力を全て存分に発揮することができます。
社内全体で一人ひとりの睡眠が充足すれば、生産性はあがり、創造的になり、意欲が増し、新たな挑戦を生むことでしょう。ハラスメントの発生を抑制し、メンタル不調に陥るリスクを下げ、ミスや事故、隠蔽の予防にもなります。結果として、個人の成功と企業の価値を上げることに寄与します。
4.1まずは睡眠時間の確保
では、睡眠を充実させるにはどうしたらよいのでしょうか?前述の睡眠の影響に関する研究のほとんどが「睡眠時間」の不足との関連です。忙しいビジネスパーソンは睡眠時間を増やすより質をあげる方に注力しがちですが、睡眠の価値を最認識し、優先順位を上げ、睡眠に必要な時間を確保しましょう。
(1)最低でも6時間の睡眠を
働く世代の26歳~64歳の推奨睡眠時間は7~9時間、許容睡眠時間は6~11時間です。*11)6時間以上眠ると、日中の眠気や疲労感を感じにくくなり、メンタル不調や風邪をひくリスクも軽減します。働く世代は最低でも6時間の睡眠は確保しましょう。*12)
(2)繁忙期でも平日2日はしっかり寝る
どうしても平日毎日6時間以上眠ることが難しい時は、土日の朝、ゆっくり眠ることに加えて、平日のうち2日は自分にとって適切な長さの睡眠をとりましょう。例えば、日曜とノー残業デーの水曜の夜は早めに就寝して睡眠時間を確保するなど工夫しましょう。*12)
(3)休日や在宅勤務日に多く眠る場合は2時間以内に
起床時間が2時間以上ずれると体内リズムの乱れに繋がります。休日や在宅勤務日に多く眠る場合は2時間以内におさめましょう。
4.2睡眠の質をあげるには
睡眠メカニズムがスムーズに働くような生活習慣を取り入れるとともに、ストレスマネジメントも意識しましょう。快眠とストレス軽減の両方を叶えるものが運動と食事です。これらを考慮した新しい働き方にあわせた快眠習慣をご紹介します。
(1)運動の時間を作る
新しい働き方で一番変革するべきことは運動の時間を作ることです。快眠にとって効果的な運動の仕方をご紹介します。
〇朝か昼にウォーキング
朝の光を浴びると体内時計がリセット。また、日中太陽の光を浴びると睡眠を深くするメラトニンの分泌が増えます。10分~30分のウォーキングを週に3回は実践しましょう。
〇仕事の合間
1時間に1回1分、軽くストレッチしましょう。緊張の蓄積を防ぎます。
〇夕方
汗をかくような運動をするベストタイミング。寝る4~5時間前に体温を上げることで睡眠が深くなります。ONからOFFへの切り替えにも最適です。
〇就寝前
寝る前の激しい運動は寝つきを悪くします。リラックスできるようなストレッチや呼吸法がおすすめです。
(2)光を味方につける
人は明るくなると覚醒し、暗くなると眠くなります。この当たり前の状態に生活をなるべく近づけましょう。
〇朝から昼
カーテンを開け室内を明るくしましょう。運動と合わせて外に出る機会も1日1回は作ります。
〇夜
暖色の柔らかい照明か、スタンドなどの間接照明を利用しましょう。蛍光色の照明はメラトニンの分泌を抑制してしまいます。終業と同時に照明を暗くするとON→OFF切り替えにも有効です。
〇スマートフォンの視聴は寝る2時間前までに
どうしても見たい場合は、オレンジ色のブルーライトカット眼鏡を使用すれば、ほぼ完全にブルーライトをカットできます。
(3)食事でリズムを整える
通勤に使っていた時間を食事の準備にあてることは、有効な快眠法かつストレスマネジメントです。
〇朝食を食べる
朝食は体内時計をリセットする2番目に大きなスイッチです。熟睡感が得られない人は、朝食に睡眠物質の材料であるタンパク質とビタミンをしっかり摂りましょう。
〇栄養バランスのよい食事を心がける
体内時計の指令に従って、適切なタイミングで様々なホルモンや物質が分泌されます。その材料は食事から得られます。さらにストレス下ではより多くのホルモンを必要とします。体内リズムを整え、ストレスフルな状況を乗り切るためにも、バランスの良い食生活は大切です。
4.3それでも眠れない時は
自分でいろいろ実践しても、やはり眠れない。そんな時はぜひ相談をしてください。職場では言いづらかったり、専門的な知識を必要としたりする場合は、様々な相談窓口やサービスを利用することも検討してみましょう。ティーペックの24時間健康相談サービスでは、24時間365日専門のスタッフが相談に応じます。睡眠の相談だけでなく、体調の変化など健康に関する様々な相談に対応しています。
変化が多く、予期せぬことが起きる時代だからこそ、心身を健康に保ち、しなやかに対応していくことが必要です。その土台となるのが睡眠です。睡眠の価値をもう一度見出し、眠りを大切にしましょう。
<< 前編の記事「睡眠の質が低下する原因とは?」を読む
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参考:
1)Van Dongen et al: SLEEP 2003 / Belenky et al: J Sleep Res 2003
2)Gais S, et al: Learn Mem, 11:679-685,2006
3)Stickgold R: Sleep, 27:1443-1445,2004
4)Walker MP, et al: Neuron,35:205-211,2002
5)M. Engle-Friedman and S. Riela: Sleep and Hypnosis 6, no. 4 ,2004: 155-62
6)M. Engle-Friedman, S. Riela, R. Golan, et al: Journal of Sleep Research 12, no. 2 ,2003: 113-24.
7)Taylor DJ, et al: Sleep,28:1457-1464,2005
8)Barnes et al, Acad Manage J,2015
9)University of California, Berkeley: Science Daily, 2015
10) C. M. Barnes, J. Schaubroeck, M. Huth, and S. Ghumman: Organizational Behavior and Human Decision Processes 115, no. 3 ,2011: 169-180
11) アメリカ国立睡眠財団(NSF):National sleep Foundation's sleep time duration recommendations: methodology and results summary : Sleep health,2015
12) 厚生労働省、こころの耳「15分でわかる働く人の睡眠と健康」
参考文献:
・編集:田中秀樹,宮崎総一郎、『ストレスチェック時代の睡眠・生活リズム改善マニュアル』、全日本病院出版会、2020年
・編著:宮崎総一郎,佐藤尚武、『医療・看護・介護のための睡眠検定ハンドブック』、全日本病院出版会、2013年
・マシュー・ウォーカー、『睡眠こそ最強の解決策である』、SB Creative、2018年
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プロフィール
傳川紀子
一般社団法人 コーポレートウェルネス研究会 代表理事
約10年間に渡って延べ50,000人以上を対象に、ボディコンディショニング指導や若手経営者への瞑想指導を行う。身体を整えることでパフォーマンスを上げる指導を得意とする。
県立新潟女子短期大学英文学科を卒業。
中学校の英語教諭を務めたのち、関東学院大学にて建築工学を専攻し建築構造設計に従事。
ハードワークにより崩してしまった体調を戻すことをきっかけに、古今東西の様々なボディワーク、心と身体の健康について、国内と米国で15年以上に渡って学ぶ。ボディワークを小林享氏に、瞑想をディーパック・チョプラ氏に師事。
2011年に睡眠のための運動や生活習慣を解説したDVD『Perfect Sleep DVD 5』シリーズを制作。また、仕事のパフォーマンスを上げるための体操やヨガのクラス、メンタルヘルスセミナーを企業にて開催。
2016年12月より“社員の健康と幸福が生産性向上の鍵である”を理念に掲げ、企業研修・コンサルティングをグローバルに展開している米国Thrive Global社にファシリテーターとして参加。
2019年3月に一般社団法人コーポレートウェルネス研究会を立ち上げ、主に法人向けにメンタルヘルス、睡眠、運動など心身の健康に関する研修プログラムや教材の作成、提供を行っている。
【保有資格】
・上級睡眠健康指導士
・産業カウンセラー
・骨盤調整体操インストラクター(b-i スタイリスト)
・米国チョプラセンター認定瞑想&ヨガインストラクター
・ホリスティックヘルスコーチ(The Institute for Integrative Nutrition認定)
※当記事は2022年6月に作成されたものです
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。