健康・予防・両立支援
みんなの健康情報 2022/06/29

睡眠の質が低下する原因とは?~睡眠と仕事のパフォーマンス【前編】~

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

従業員が「夜眠れない」「朝すっきり起きられず、疲れが残る」「日中眠くなってしまう」など、睡眠に関して何かしらの問題・悩みを抱えていると、仕事のパフォーマンスにも影響が出てきてしまいます。

今回は、ティーペックの研修講師を務めている傳川紀子さん(一般社団法人 コーポレートウェルネス研究会 代表理事、上級睡眠健康指導士)に『睡眠と仕事のパフォーマンス』について解説いただきました。前編は、働く人をとりまく睡眠の悩みとその原因、睡眠の質を高めるための企業での取り組み事例についてお届けします。(以下、傳川さん執筆)

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<目次>
1.働く人をとりまく睡眠の悩みとその原因
 1.1コロナ禍で睡眠の質が低下
 1.2睡眠の質を決めるもの
 1.3睡眠の質が低下している原因
2.睡眠の質を高めるには
 2.1企業での取り組み事例
 2.2睡眠教育の流れ

働く人をとりまく睡眠の悩みとその原因

1.1コロナ禍で睡眠の質が低下

コロナ禍以降、睡眠の質に不満を抱えている人が増えています。筆者の周囲でも「以前よりも寝つきが悪くなった」「熟睡感が得られない」「途中で目が覚めてしまう」等の声がよく聞かれます。よく眠れなかった次の日には集中力が低下したり、機嫌が悪くなったりしたという経験を持つ方も多いでしょう。さらに睡眠の質の低下が続くと、その影響は借金のように蓄積され、中長期的にはメンタル不調や生活習慣病、認知症のリスク増にもつながります。少々寝不足でも一日を何とかやり過ごすことはできますが、実は睡眠不足の影響は見過ごせないものです。

1.2睡眠の質を決めるもの

コロナ禍により、生活や仕事の仕方に様々な変化がありましたが、睡眠の質とどのような関係があるのでしょうか?それは、人はなぜ眠くなるのかを知ると、自ずと明らかになってきます。睡眠は2つのシステムでコントロールされています。一つは、「長く起きていて疲れると眠くなるシステム」、もう一つは「体内時計によって夜になると眠くなるシステム」です。前者を「睡眠圧」、後者を「体内リズム」と呼ぶことにしましょう。今の私達の生活の中には、この睡眠圧と体内リズムに悪影響を及ぼす要素がたくさんあります。

1.3睡眠の質が低下している原因

では、どのような生活習慣や仕事での変化が睡眠に影響しているのでしょうか?

〇在宅勤務

まず、一つ目は在宅勤務です。在宅勤務により運動不足になったことは多くの方が実感しているでしょう。運動不足は睡眠に大きく影響します。以前からデスクワーカーの運動不足は課題でしたが、今は「運動」以前に生活における活動量が激減しています。当然ながら身体は疲れないので十分に睡眠圧が高まらず、必然的に眠りは浅くなります。

体内リズムへの影響も様々なものがあります。仕事をする空間とリラックスする空間が同じになったことで、夕方から夜にかけてリラックスモードへの切り替えがスムーズにいかなかったり、ずっと室内にいるので、朝や昼間の太陽を十分に浴びることができず、睡眠を深くするホルモンが十分に分泌されなかったり等、様々です。

また、出勤と在宅勤務が1週間に混在している場合、出勤日は早起きし、在宅日はぎりぎりまでゆっくり眠るなど起床時間がバラバラになると体内リズムが乱れ、睡眠の不調を招きます。

〇オンライン化

そして、二つ目の変化がオンライン化です。一日中モニターに釘付けになり、眼や頭を酷使し続け、次から次へとオンラインミーティングで休む暇もない。結果、交感神経が優位な状態が続き、リラックスモードに切り替わりにくくなります。すると、疲労感はあっても頭は覚醒してなかなか寝付けなくなります。また、人とのコミュニケーションもオンラインで済むのは手軽ですが、エネルギーを消費しないため活動量は減り、睡眠圧が十分に高まりません。

このように、在宅勤務やオンライン化だけでも様々な睡眠システムへの影響があります。快眠を得るためには、基本的には「睡眠圧」「体内リズム」の2つの睡眠システムをスムーズに機能させるように生活習慣を改善すればよいのですが、実はこの睡眠システムをも凌駕してしまう第3の要素があります。それがストレスです。

〇ストレスの影響

ストレスは睡眠に大きく影響します。なぜなら、不安や恐怖を感じたり、期待感が高まって興奮したりすると、体のシステムは覚醒を維持するように働くからです。覚醒と睡眠は拮抗関係にありますので、そのような場合、睡眠の質は低下します。

「それほどストレスは感じていない」という方も、コロナ禍で生活や仕事の仕方が変わったことは十分ストレスになり得ます。さらに、管理職は部下の様子がわからない、新人は仕事の質問がしづらい等、今までにないストレスも発生しています。また、コロナ感染や世界情勢の動向など不安を感じる要素が多い昨今です。このような状況で、旅行や飲み会など今まで行っていたストレス発散ができなくなり、感情のコントロールがうまく行われなければ、睡眠に影響が現れることも当然と言えます。
 
このようなことから、働く人の睡眠改善は、睡眠システムがうまく働くような生活を心がけると共に、ストレスマネジメントを行うことも重要なポイントです。

睡眠の質を高めるには

2.1企業での取り組み事例

人事ご担当者、健康推進ご担当者の中には、「睡眠不足や睡眠の質が低下している従業員がいるのが気になる」「眠れない人のケアはどうしたらよいのかわからない」というお悩みを持つ方もいらっしゃるでしょう。

社内の睡眠向上を図るには、まずは、経営者や担当役員が「睡眠を大切にする」という意思表示をし、組織として取り組むことが必要です。長時間労働を改善するなど従業員の睡眠時間を確保し、睡眠を大切にする風土の醸成を行うことと、従業員一人ひとりの行動変容を促すこと、この両輪で進めましょう。

従業員への働きかけは一次予防、二次予防の二つのステップで考えます。一次予防として全従業員向けに広く啓蒙活動や情報提供、基本的な教育を行うこと、そして二次予防として、睡眠に強い不調を抱えている従業員をはじめ、高ストレス者や生活習慣病のリスクが高い従業員に対して産業保健スタッフや専門家と共に睡眠習慣への介入を行います。

実際に、健康経営銘柄2021、2022に選定された企業のうち、睡眠への取り組みを社内で進め成果を上げている事例をご紹介します。

●化学 K社

夜寝る前のリラックス習慣が睡眠の質や生産性に及ぼす影響に着目。オンラインセミナー等を通し生活リズムを整えるためのヘルスケアやリラックス習慣の推進を行ったところ、参加者の自覚的な睡眠の質と労働パフォーマンスが向上し、セルフケアへの意識も高まった。

●情報通信業 S社

「肩こり・腰痛」「睡眠」のセルフケアセミナーを実施。肩こり・腰痛セミナーには500名、睡眠セミナーには2,000名以上が参加し、9割以上の参加者がセミナーの内容を活用したと回答。

●電気機器 C社

2007年より継続的に睡眠キャンペーンを実施。睡眠に関する基礎知識や、年代別などの特徴に応じた啓発、情報発信や様々な環境整備をすすめている。働き方改革と合わせて、総実労働時間が減少したことも影響し、「睡眠による休養がとれている」と答えた従業員が12年間で13%増加。また、二次予防でメタボ社員に介入指導を行ったところ、「睡眠の質の改善」や「仕事への集中力が高まる効果」が見られ、メタボ割合が約3割減少した。

(他社事例参考文献)
・経済産業省「健康経営銘柄2022選定企業紹介レポート」をもとに著者作成
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/meigara2022_report.pdf
・経済産業省「健康経営銘柄2021選定企業紹介レポート」をもとに著者作成
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/set_meigara_report2021.pdf

2.2睡眠教育の流れ

では、一次予防として全社員向けに睡眠教育や情報提供を行いたい場合、どのような流れで進めればよいのでしょうか?一つの提案として、次のような流れで情報提供をすると、自分事として取り入れやすくなります。ご参考にしていただければと思います。

睡眠の価値を知る→セルフチェック→快眠法→フォロー&セルフチェック

セルフチェックで広く用いられている方法が「アテネ不眠尺度」です。簡単な方法ですが、自分の睡眠を客観的に見ることができます。(http://norikotsuta.secret.jp/AIS.pdf
まずはご自身の快眠度をチェックしてみてください。意外な結果がわかるかもしれません。

後編では、「睡眠の価値を知る」「快眠法」についてお伝えします。

後編、「新しい働き方にあわせて睡眠の質をあげる方法」を読む>>

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参考
・経済産業省「健康経営銘柄2022選定企業紹介レポート」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/meigara2022_report.pdf

・経済産業省「健康経営銘柄2021選定企業紹介レポート」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/set_meigara_report2021.pdf
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プロフィール

傳川紀子

一般社団法人 コーポレートウェルネス研究会 代表理事

約10年間に渡って延べ50,000人以上を対象に、ボディコンディショニング指導や若手経営者への瞑想指導を行う。身体を整えることでパフォーマンスを上げる指導を得意とする。

県立新潟女子短期大学英文学科を卒業。
中学校の英語教諭を務めたのち、関東学院大学にて建築工学を専攻し建築構造設計に従事。
ハードワークにより崩してしまった体調を戻すことをきっかけに、古今東西の様々なボディワーク、心と身体の健康について、国内と米国で15年以上に渡って学ぶ。ボディワークを小林享氏に、瞑想をディーパック・チョプラ氏に師事。
2011年に睡眠のための運動や生活習慣を解説したDVD『Perfect Sleep DVD 5』シリーズを制作。また、仕事のパフォーマンスを上げるための体操やヨガのクラス、メンタルヘルスセミナーを企業にて開催。
2016年12月より“社員の健康と幸福が生産性向上の鍵である”を理念に掲げ、企業研修・コンサルティングをグローバルに展開している米国Thrive Global社にファシリテーターとして参加。
2019年3月に一般社団法人コーポレートウェルネス研究会を立ち上げ、主に法人向けにメンタルヘルス、睡眠、運動など心身の健康に関する研修プログラムや教材の作成、提供を行っている。

【保有資格】
・上級睡眠健康指導士
・産業カウンセラー
・骨盤調整体操インストラクター(b-i スタイリスト)
・米国チョプラセンター認定瞑想&ヨガインストラクター
・ホリスティックヘルスコーチ(The Institute for Integrative Nutrition認定)


※当記事は2022年6月に作成されたものです
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。