特集
withコロナ 2021/08/31

人事担当者が行うべき在宅勤務者へのメンタルヘルスケアとは?

新型コロナウイルス感染症の拡大防止により、一気に広がった在宅勤務。長引く在宅勤務では、メンタルヘルス不調になることがあります。人事担当者が在宅勤務者へ行うべきケアの方法や注意点を、社会保険労務士の山本喜一先生が解説します。

≪目次≫
◆在宅勤務で従業員がメンタルヘルス不調になる理由とは?
◆在宅勤務中のメンタルヘルス不調を防ぐために、人事担当者が行うべき対処法
◆メンタルヘルスケアを行う上で注意すべきポイント
◆普段から事業所の環境構築を行うことで、メンタルヘルスの不調を防ごう

在宅勤務で従業員がメンタルヘルス不調になる理由とは?

新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、2020年から多くの企業で在宅勤務が一気に広がりました。在宅勤務を取り入れた最初のうちは、「満員電車に乗らずに済む」「通勤時間がなくなって、朝ゆっくり過ごせるようになった」「一人だと仕事に集中できる」といったメリットを享受していた人も、在宅勤務が長引くにつれて、少しずつメンタルヘルス(心の健康状態)の不調を感じることがあるといわれています。
まずは、在宅勤務をする従業員のメンタルヘルス不調は、どのような理由で起こるのかを見ていきましょう。

人との関わりがなく、孤独感が強くなる

出社勤務時とは打って変わって、在宅勤務時は基本的に一人きりで仕事を行います。オンラインでの会議や打ち合わせがあったとしても、それ以外の時間は誰と話すわけでもなく、ただひたすら仕事に打ち込むものです。
出社勤務時のように、隣の人に気軽に相談する、書類を出しに行ったついでに会話するといった、何気ない人との関わりがないことで強い孤独を感じるようになり、メンタルヘルスのバランスを崩すことがあります。

テキストだけでは本心が読み取れず、否定されている気持ちになる

オンライン会議をするほどではない従業員同士の確認事項や上司からの指示は、メールやチャットツールを駆使している企業が多くあります。しかし、対面で話をすれば温もりや優しさが伝わる言葉が、文字になったとたんに冷たく感じられることはよくあるものです。
テキストコミュニケーションで、「責められているような感じがする」「否定されているような気持ちになる」と感じるうちに、だんだん自分に自信がなくなってふさぎこむこともあるでしょう。

仕事とプライベートの区切りをうまくつけられない

通勤がなく、自宅で業務をスタートできる在宅勤務は、仕事とプライベートの線引きがしづらい環境です。つい、ほかのことに気をとられて業務効率が落ちたり、反対に長時間働き続けてしまったりすることがあります。在宅勤務は、環境の変化がないために、仕事とプライベートのメリハリがつけづらく、メンタルヘルスの不調につながることがあるのです。

運動量が低下し、セロトニンの分泌が減る

自律神経のバランスを整え、メンタルヘルスを良好に保つには、適度に体を動かし、外に出て日光を浴びることによって分泌されるホルモン「セロトニン」が欠かせません。
ところが、在宅勤務の場合、通勤がない上にデスクワークなので、一日中家の中で座ったまま過ごすことが多くなります。在宅勤務で心が不安定になるのは、セロトニンが低下することも要因のひとつとして挙げられるでしょう。

コロナ禍による将来への不安感(コロナうつ)

コロナ禍の不況が、いずれ勤め先や自分の生活に影響が及ぶのではないかと、漠然とした不安を抱えている人は少なくありません。売上が落ち込んでいる業種ではなおさらでしょう。
勤め先から現状を聞かされるたびに不安でいっぱいになり、鬱屈とした感情を持て余すことがあります。在宅勤務では、こうした不安を相談したり、共有したりできる仕事仲間が身近にいないことで、マイナス思考から抜け出せなくなるおそれがあるのです。

在宅勤務中のメンタルヘルス不調を防ぐために、人事担当者が行うべき対処法

在宅勤務には、「通勤にかかる時間が削減できる」「仕事に集中でき、生産性が高まる」「わずらわしい人間関係や終業後の付き合いがなくなる」などのメリットがある一方、前述したメンタルヘルス不調のようなデメリットが存在します。

メンタルヘルスの不調は早期に発見し、対応することが肝心です。長引くとメンタルヘルスの不調が悪化し、従業員の休職や退職の可能性が高まります。従業員自身、もしくは直属の上司や同僚がすみやかにメンタルヘルス不調に気づくことができるよう、人事担当者は、普段からメンタルヘルスのケア体制を構築しておくことが重要です。

また、ライフスタイルが多様化していく中では、従業員の身体的・精神的・社会的に健康な状態を指すウェルビーイング(Well-being)を向上させることが、厚生労働省の「雇用政策研究会報告書」(2019年)でも重要だといわれています。
では、在宅勤務者のウェルビーイングを向上させるには、どのような対処法が有効なのか、具体的な方法を見ていきましょう。

労働時間を管理する

在宅勤務者には、仕事とプライベートで場所や時間を区切るように伝えるとともに、勤務開始・休憩・勤務終了の報告を勤怠管理システムやチャットアプリで上げてもらうなどの方法で、勤務状況の可視化を図りましょう。
業種によっては、就業時間外はファイルサーバーへのアクセス権を切るなど、際限なく仕事を続けてしまう状況を物理的に防ぐのも有効です。ただし、緊急時には対策できるように、フォロー体制を組んでおくことも必要です。

在宅勤務に合わせた評価制度の見直し

在宅勤務の場合、勤務態度や仕事のプロセスが見えにくいため、勤務形態にフィットした評価制度を構築することをおすすめします。これまで、「プロセス」と「成果」を平等に見てきた場合、成果評価のバランスを高めるなどの工夫をしましょう。
評価制度では、チャットツールなどでのコミュニケーションのアクティブ性やその質を評価対象にすることもひとつの手ですが、従業員にとって納得感のある明確な指標を設ける必要があります。

管理監督者が部下を支援しやすい環境を作る

すべての管理監督者が、部下の状況に気づいて適切な支援を行えるよう、上司が部下に行うラインケアの研修プログラムを受講させるといった、メンタルヘルス教育を行いましょう。なお、従業員みずから行えるセルフケアの研修プログラムもおすすめです。
管理監督者は部下に対して、普段から相談していいこと、秘密を守ることなどを伝え、声をかけやすい雰囲気を作っておくことが大切です

事業場内産業保健スタッフによるケアの支援

産業医、衛生管理者、保健師、精神科医などが該当する事業場内産業保健スタッフは、セルフケアおよびラインケアが効率的に行われるよう、従業員と管理監督者を支援する役割を担っています。
事業場内産業保健スタッフに、職場環境について気づいた点を共有してもらう、メンタルヘルスの勉強会を開催してもらうなど、人事担当者は連携をとってメンタルヘルスケア体制を充実させましょう。

セルフケアの情報発信

適度な運動と栄養バランスのとれた食事は、メンタルヘルスを正常に維持するために必要です。人事担当者が中心となって、オンラインツールやメールで従業員に情報を定期的に発信し、気づきの機会を作ることも大切です。
例えば、会社負担で産地直送の野菜を配布する、フィットネスプログラムを提供するなど、福利厚生と絡めてもいいでしょう。

従業員同士のコミュニケーションの場を設ける

直接会う機会が減った従業員同士に、コミュニケーションの場を提供することも大切な役割です。オンラインランチ会やオンライン飲み会などの場を提供する、企画した部署に対して金銭的な補助をするなど、参加を促進する方法も同時に行いましょう。

メンタルヘルスケアを行う上で注意すべきポイント

在宅勤務者のメンタルヘルスケアを行う際には、いくつか注意点があります。効果的なケアにつなげる上では大切なポイントとなりますので、詳しく見ていきましょう。

部下とコンタクトの回数を多めにする

在宅勤務の場合、仕事のアウトプットだけで従業員同士や上司とのやりとりが終わることが多く、業務上の状況が見えなくなりがちです。管理監督者に対して、できれば毎日、何らかの形で部下とコンタクトをとり、様子の把握に努めるように促すことが大切です。

メンタルヘルス不調は後ろめたいものではないと、全従業員に周知しておく

メンタルヘルスに関しては、偏見が依然としてあることも事実です。そうした中、自分からメンタルヘルスの不調を社内で相談しづらいと感じたり、不調になっていることを自身で受け入れたくないと思ったりする人は多くいます。
人事担当者としては、社内で正しい認識が広まるよう、普段からメンタルヘルス不調は誰にでも起こりうるものであることや、早期にケアをすることが必要なことを周知しておくことが大切です。従業員の意識が変化することで、早期の相談からケアへとスムーズにつなぎやすくなります。

在宅勤務者だけでなく、出社勤務者のケアも行う

在宅勤務者と出社勤務者がいる事業所の場合は、在宅勤務者だけを特別扱いせず、出社勤務者が抱えている「在宅勤務したくてもできない」「出社しなければできない領域を、在宅勤務者に代わってカバーしている」といった状況にも目を向けて、平等にケアをしましょう。働き方によって差が出ないように、評価制度や勤怠管理などを整え、どういった配慮がなされているかを全従業員に伝えることも大切です。

また、在宅勤務者と出社勤務者は、お互いの勤務形態を理解しながらも、不満に思うことは少なくありません。小さな不満でも溜め込んでしまうと、メンタルヘルスの不調につながることがあります。不調を未然に防ぐためには、従業員が気軽に相談できる、社外の相談窓口などの活用がおすすめです。全従業員に対しては、社外の相談窓口の案内や周知も必要といえるでしょう。

コロナ禍でもテレワークができない、出社勤務従業員へ者のケアのケア方法は?

普段から事業所の環境構築を行うことで、メンタルヘルスの不調を防ごう

在宅勤務で生じた、または生じるおそれのあるメンタルヘルス不調をケアする上で重要なのは、制度の見直しとメンタルヘルス不調への正しい知識を共有するほか、もしものときに相談できる社内外の相談窓口を周知させることです。
メンタルヘルス不調を放っておくと、休職や退職につながることがあります。働き方が多様化していく中では、そこに見合う評価制度や就業規則といったルールの見直しが必要です。また、セルフケア研修やラインケア研修で従業員の意識を高めることで、メンタルヘルスへの正しい理解や不調の早期発見につながり、自分と一緒に働く仲間に少しでも異変を感じたら、すぐに相談できる社内外の相談窓口があることを多くの従業員に知ってもらいましょう。


<監修者プロフィール>
山本 喜一
特定社会保険労務士、精神保健福祉士(ストレスチェック実施者) 

【専門分野】
メンタルヘルス不調者対応、問題社員対応、労働基準監督署対応、IPO支援、評価制度
【略歴】
社会保険労務士法人 日本人事代表。
東京商船大学大学院修了 工学修士。財団法人日本品質保証機構へ入構し、計測部門と法務部門を経験。退職後、社会保険労務士法人日本人事を設立する。法務部門での経験を活かし、労務に関するトラブルへの対応および各種コンサルティングを主に行っている。

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出典
・厚生労働省「雇用政策研究会報告書」
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000532355.pdf
・厚生労働省 こころの耳「e-ラーニングで学ぶ15分でわかる事業場内産業保健スタッフ等によるケア」
https://kokoro.mhlw.go.jp/staffcare/assets/pdf/elearning.pdf
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※当記事は2021年8月に作成されたものです。