コロナ禍でもテレワークができない、出社勤務従業員へのケア方法は?
コロナ禍においては、テレワークが普及する中でも、出社勤務をしなければいけない従業員のメンタルヘルスケアが大切です。人事担当者が行うべき、出社勤務者へのケア方法や対処法を社会保険労務士の山本喜一先生が解説します。
≪目次≫
◆テレワークができない出社勤務者へのケアの必要性
◆テレワークができない不公平感をぬぐうには?
◆人事担当者が、出社勤務の従業員に行うべきメンタルケアとは?
◆出社勤務者にメンタルヘルス不調者が出た場合の対処法
◆出社勤務者にも、在宅勤務者と同様に寄り添う姿勢が大切
テレワークができない出社勤務者へのケアの必要性
新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、幅広い業種にテレワークが普及しました。それに伴い、注目されているのがメンタルヘルス不調を訴える在宅勤務者の増加と、そのケアの必要性です。
一方、テレワークをしたくてもできない従業員の心身の状態、およびそのケアについては、あまり関心が向けられないことが多いでしょう。
実際には、テレワークができない出社勤務者も、これまでとは異なる環境下で大きなストレスを抱えている可能性があり、在宅勤務者と同様に丁寧なケアをする必要があるのです。
テレワークの導入が難しい業務
テレワークは、業務内容によって導入が難しい場合があります。ここでは、システムやツール等を導入しても、テレワークの導入が難しい業務を挙げてみましょう。
・物流業
物流を担うドライバーや、倉庫で荷物の仕分け作業にあたる従業員など、現場にいなければ業務が立ち行かない物流業では、テレワークの導入が実質的に不可能です。
・工場などの製造業
専門的かつ社外への持ち出しが不可能な機械を要する工場での仕事は、どうしても出社しなければ作業することができません。テレワークの導入が現実的ではない業務といえるでしょう。
・接客業
飲食店など、対面でのコミュニケーションを前提とする接客業も、テレワークの実施が困難です。レジ業務はAI化やセルフ化が進んでいますが、これは機械が人の作業を代替するものであり、テレワークとは主旨が異なります。
テレワークができない不公平感をぬぐうには?
同じ組織に属する従業員が、所属する部署や仕事内容によって出社勤務者と在宅勤務者に分かれた今、それぞれが異なる思いを抱えて仕事にあたっています。
出社勤務者と在宅勤務者は、お互いをどのように感じているのでしょうか。
<出社勤務者の思い>
・在宅勤務者は通勤時間がないのでうらやましい
・出社勤務者は、常に新型コロナウイルス感染症になる危険にさらされており、不公平だ
・在宅勤務者の勤務状況が把握できず、仕事が頼みにくい
・電話応対や来客応対をすべてこなさなければならず、自分のほうが仕事量は多いと感じる
<在宅勤務者の思い>
・仕事をしていないと思われている気がしてつらい
・周囲のスタッフと対面でコミュニケーションがとれる出社勤務者がうらやましい
・出社勤務者だけでコミュニティーができ、疎外されている気がする
・会社のほうが働く環境は整っており、在宅だと業務効率が悪いので不公平だ
自分とは異なる環境で働く従業員へのねたみややっかみ、不満といった感情は、対面で話す機会が少ないことでさらにマイナスの方向に振れやすいものです。ちょっとした不満が大きなわだかまりになれば、双方のメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性があるほか、いずれは職場内の人間関係のきしみにつながっていくでしょう。
人事担当者や上司にあたる管理監督者は、テレワークで対面する機会が少ない中でも、マネジメントに工夫を凝らして、すべての従業員を適切にケアしていく必要があります。
人事担当者が、出社勤務の従業員に行うべきメンタルケアとは?
テレワークができず、出社勤務をしている従業員にメンタルヘルス不調者が出るのを防ぐために、人事担当者はどのようにケアをすればいいのでしょうか。
続いては、出社勤務者に対して、人事担当者が行うべきメンタルケアを詳しくご紹介します。
評価や勤怠などの制度を見直す
人事担当者が最初に取り組むべきことは、制度面の見直しです。在宅勤務という新しい勤務形態が加わったことを踏まえて、働き方によって差が出ないよう、評価制度や勤怠管理の方法を整えましょう。例えば、出社勤務者に時差出勤を認める、在宅勤務者は裁量労働制(職種が限られます)の成果主義とするなどの方法が考えられます。
また、制度の変更後は、どのような点が変更になったのか、変更したことによって従業員はどのような恩恵を受けることができるのか、新たな制度を具体的に周知し、全従業員に公平性を実感してもらうことが大切です。
社員同士のコミュニケーションの機会を増やす
在宅勤務者の帰属意識を高め、出社勤務者との意識の差を埋めるため、オンラインを活用してコミュニケーションを活性化させましょう。具体的には下記のような方法がおすすめです。
・従業員同士が参加できる、オンラインのランチ会や飲み会を開催する
・全従業員が視聴できるセミナーを開催する
・ビジネス用のコミュニケーションツールを導入し、従業員同士が気軽に連絡できる仕組みを作る
従業員のストレスレベルに注意する
従業員のメンタルケアを行うには、人事担当者だけでなく、部下を直接指導する管理監督者の配慮も必要です。人事担当者および管理監督者は、普段から従業員の言動、人間関係に気を配り、ストレスレベルが上昇するサインを察知しましょう。
ポイントは、いつもと違う仕事の様子や言動を気にかけることです。例えば、いつもと違うサインには、下記のようなことが挙げられます。
・アウトプットのクオリティが下がった
アウトプットのクオリティは、部下の仕事を確認する立場の管理監督者が気づきやすいポイントです。能力は十分あるのに資料の質が低下している、誤字脱字が多い、メールの返信にやけに時間がかかる、残業や休日出勤が増えているのに仕事の成果が上がらないといったことが続くようであれば要注意です。
こうした従業員の言動の変化に気づいたら、1on1や面談などを行って、困ってないか現状をヒアリングしたり、心配している気持ちを伝えたりしましょう。
・言動や身だしなみへの意識がこれまでと明らかに違う
遅刻や欠勤が増えた、周りの人とあまり話をしなくなった、服装や髪の毛が乱れているなど、これまでと違う言動や外見への意識低下も、メンタルヘルス不調のサインとなることがあります。
管理監督者は、部下を叱ったり否定したりするのではなく、話を聞く時間をすみやかに取りましょう。
産業医への相談のハードルを下げておく
「従業員が自分のメンタルヘルス不調を認めない」または「相談したことを社内に知られないか不安」といったことから、産業医への相談を躊躇する従業員は少なくありません。
機会があればいつでも産業医に相談をして構わないこと、健康な人がより良い状態で仕事をするために産業医を利用して良いこと、プライバシーには十分な配慮がなされており、誰かに情報を共有する必要がある場合も必ず本人の同意の上で行われることなどを、従業員に周知しておくことが大切です。大きなメンタルヘルス不調につながる前に、自主的に相談できる雰囲気を作っておきましょう。
セルフケアやラインケアなどの研修を行う
厚生労働省が策定した「職場における心の健康づくり」において、メンタルヘルスケアでは「セルフケア」「ラインケア」「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」の4つが継続的かつ計画的に行われることが重要であるとしています。4つのケアの詳細は、下記のとおりです。
・セルフケア
セルフケアとは、従業員自身で行うケアのこと。ストレスやメンタルヘルスへの正しい理解にもとづき、ストレスに早く気づいて予防対処をします。
・ラインケア
管理監督者が部下に対して行うケアのことを、ラインケアといいます。部下の変調を把握し、職場環境の把握と改善など適切な対応をとり、部下からの相談に応えて対応します。
・事業場内産業保健スタッフ等によるケア
企業の産業医や他の産業保健スタッフ、人事労務管理スタッフが行うケアには、従業員や管理監督者の支援のほか、メンタルヘルス対策の企画立案があります。
・事業場外資源によるケア
企業以外の専門的な機関や専門家に支援を受けることもできます。
まずは、従業員自身および管理監督者が不調の兆しをつかむことができるよう、セルフケアやラインケアの研修を行うことをおすすめします。
企業以外の外部窓口とネットワークを構築しておく
メンタルヘルスに不安を感じる従業員は、上司である管理監督者や産業医などに相談することで社内に悩みが広がってしまうのではないかと恐れる場合があります。
従業員の不安をぬぐうために、企業以外の専門的な外部窓口やネットワークを構築して、外部のメンタルヘルスの専門家によるケアが利用できることを従業員に周知しておきましょう。
ストレスチェックの頻度を上げる
労働安全衛生法では、50人以上の従業員が働く事業所では、従業員へのストレスチェックを毎年1回実施することを定めていますが、これはあくまでも最低限の義務としての頻度です。ストレスチェックの実施は、コストがかかるものですが、実施頻度を上げると従業員の変化をつかみやすいでしょう。
また、厚生労働省のウェブサイト「こころの耳」では、「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」にもとづいて作成されたストレスセルフチェック(※)が、ウェブサイト上で利用できます。ストレスセルフチェックの利用を定期的に案内し、従業員に自身のストレスレベルを定点観測して自覚させるのも有効です。
※厚生労働省「チェックリストなどのツール(働く方へ/ご家族の方へ)」
ストレスや気分をチェックできるアプリを活用して、従業員の精神状態を把握する
現在では、自分の感情やストレス、気分を記録・管理するスマートフォンのアプリがあります。こうしたアプリを従業員に紹介し、自分のストレスレベルに気を配ってもらうのもひとつの手です。
セルフケアアプリは無料のものが多く、空いた時間にタッチするだけで記録できるものもありますので、忙しい人でも負担なく利用できます。
出社勤務者にメンタルヘルス不調者が出た場合の対処法
十分にケアをしていても、出社勤務者にメンタルヘルス不調者が出ることはあります。最後に、人事担当者がメンタルヘルス不調になった出社勤務者に行うべき、ケアの方法を見ていきましょう。
産業医や他の産業保健スタッフに早めに相談する
従業員のいつもと違う言動や仕事のクオリティの裏には、メンタルヘルスの不調が隠れている可能性があります。普段から部下の様子に気を配っている管理監督者が、直感的に「何か変」だと感じたら、時間を取ってゆっくりと話を聞いた上で、産業医や他の産業保健スタッフへの相談をすすめてください。
部下の不調の原因が疾病性以外に、このまま働くことが難しい状況や働く上での配慮が必要だと判断されれば、産業医は必要に応じて精神科などの医療機関の受診など、より専門的かつ効果的なケアに結びつける必要があります。
業務量のバランスを調整する
長時間の残業や土日などの休日出勤のほか、業務量の集中などによる過度な心理的・身体的負担は、メンタルヘルス不調に結びつきやすくなります。
管理監督者は積極的に介入して、残業・休日出勤の禁止、出張の軽減、業務量の見直し・効率化、人員増強といった具体的な施策を実行しましょう。
出社勤務者にも、在宅勤務者と同様に寄り添う姿勢が大切
テレワークが進む中、これまでと違う働き方をしている在宅勤務者の孤立感や不安感に目が行きがちですが、出社勤務者もストレスを抱えています。出社勤務者と在宅勤務者が1つの組織内に混在している場合は、先入観にとらわれず、双方の従業員を平等にフォローするようにしましょう。
人事担当者は、勤務スタイルが違っても従業員同士がお互いを思いやりながら業務を遂行でき、万が一メンタルヘルスの不調を感じたときは率直に申告・相談できる社内の雰囲気を築いておくことが大切です。
<監修者プロフィール>
山本 喜一
特定社会保険労務士、精神保健福祉士(ストレスチェック実施者)
【専門分野】
メンタルヘルス不調者対応、問題社員対応、労働基準監督署対応、IPO支援、評価制度
【略歴】
社会保険労務士法人 日本人事代表。
東京商船大学大学院修了 工学修士。財団法人日本品質保証機構へ入構し、計測部門と法務部門を経験。退職後、社会保険労務士法人日本人事を設立する。法務部門での経験を活かし、労務に関するトラブルへの対応および各種コンサルティングを主に行っている。
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参考:
・厚生労働省「職場における心の健康づくり」
https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf
・厚生労働省「ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150709-1.pdf
・厚生労働省 こころの耳「チェックリストなどのツール(働く方へ/ご家族の方へ)」
https://kokoro.mhlw.go.jp/tool/tool-worker/
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※当記事は2021年8月に作成されたものです。