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法律相談Q&A 2021/01/12

【法律相談Q&A】業務時間外や休日の業務指示、問題になる?

昨今、働き方の変化に伴い社員同士のコミュニケーションの取り方も多様化してきているのではないでしょうか。チャット型ツールやオンライン会議ツールなど、気軽に連絡が取りやすい環境下は、時に新たな労働問題を引き起こすことも…。本記事では、労働時間外の業務連絡に関する質問に、小笠原六川国際総合法律事務所代表弁護士の小笠原耕司先生がお答えくださった、健康経営情報誌『Cept』内の【法律相談Q&A】の記事をご紹介いたします。

※以下、『Cept第1号(2017年10月15日)』p14-15「法律相談Q&A」より転載。

【Q】業務時間外や休日にLINEで業務指示をすることに問題ないか?

当社では、部署間の業務連絡にLINEを使用しています。ある社員から、「上司が帰宅後の深夜や休日にまで業務指示のメッセージを送ってくるため、24時間心が休まらない」という相談を受けました。
業務時間外や休日にLINEやEメールで業務指示をすることは、労働法上、問題になりますか?当面、問題がなくても、なんらかの法的なリスクはありますか?ご教示ください。

【A】法定時間外労働となり割増賃金を支払わなければならないなどの問題に加え、今後は「私生活と労働の峻別」への配慮も必要

フランスの改正労働法で新たに保障された「アクセス遮断権」

フランスで2017年1月に施行された改正労働法では、新たに、従業員が休息時間や休暇の間に、職業上の情報通信機器(スマートフォン、インターネット、Eメール等)に接続されない権利として、「アクセス遮断権」(droita la deconnexion)が保障されました。
近年の情報通信技術の発達に伴って生じた職業生活と私生活の不均から従業員の私生活を確保しようとする動きであったため、日本でも新聞各紙が報じるなど注目されています。
もっとも、フランスの改正労働法でも、アクセス遮断権は正面から保障されたものではありません。使用者には、「従業員によるアクセス遮断権の行使方法」と「デジタルツールの利用規制」について交渉することが義務付けられただけであり、アクセス遮断権について従業員との間で協定を締結することまでは義務付けられてはおりません。また、義務違反に対して使用者に罰則もないため、アクセス遮断権の保障について不十分さも残す内容となっています。

とはいえ、デジタルツールへの過剰な接続がもたらす新たな労働における問題を解消する糸口となるものとして、注目をすべき法改正といえます。

就業規則で定めがあれば所定時間外及び休日の業務命令は問題ないが……

日本においては、現行法上、上記フランスの改正労働法で定められているようなアクセス遮断権は認められていません。したがって、就業規則上で所定時間外及び休日に業務命令することができる旨の定めがある場合に、会社は従業員に対して業務指示を行うことができます。

もっとも、労働基準法上、会社は1週間について40時間、1日について8時間を超えて従業員に対して労働させてはならないと定められています(労基法32条1項、2項)。
この法定労働時間を超えて従業員に労働をさせる場合には、従業員の過半数を組織する労働組合、それがない場合には、従業員の過半数を代表する者と労使協定(いわゆる36協定)を締結し、協定書を労働基準監督署に提出する必要があります(労基法36条1項)。また、労使協定を締結していても、法定休日や法定時間を超えて会社が従業員に労働をさせる場合には、労働基準法の所定の割増賃金を支払わなければなりません(労基法37条)。

本件について、上司から従業員への業務指示及びそれに従った従業員の業務が「使用者の指揮命令下に置かれたもの」である場合には、当該業務に要した時間は「労働時間」に該当します。
LINEやメールの内容にもよりますが、上司から時間外や休日に対応するような指示を内容とするような場合などは、労働時間となり、会社は従業員に対して割増賃金を支払わなければなりません。

また、周知のとおり長時間労働は従業員のメンタルヘルスに大きな影響を与えるといわれており、脳・心臓疾患の労災認定基準(平13・12・12基発1063号)においては、対象疾病の「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合には、業務と発症の関連性が強い」とされてます。

したがって、上司が勤務時間外や休日を問わず、LINEやメールで業務指示を出した結果、時間外労働が1か月で80時間を超えるような場合には、従業員が業務に起因した精神疾患を患ったと評価され、会社は安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を問われるおそれがあります。

日本でも私生活と労働を峻別する方向で法改正が進んでいる

繰り返しになりますが、日本においては、休日や時間外でのメール等による業務指示を直接制限する法規制はありません。
しかし、2017年3月に公表された「働き方改革実行計画」によると、長時間労働の是正に向けて、時間外労働の上限規制や勤務時間インターバル制度を導入する予定であるとされています。
日本においても、私生活と労働とを峻別して従業員の生活時間を確保しようとする方向で法改正が進んでいることを銘記すべきでしょう。

【サマリー】本記事のまとめ

◆就業規則に法定時間外や休日に業務指示をすることができる旨を定め、また、法定時間外労働に関する「36協定」を締結し労働基準監督署に提出している場合には、休日や業務時間外であってもLINEやEメールで業務指示をすること自体は、法律上問題ない。

◆しかしながら、上司からのLINEやEメール等での指示に従って従業員が業務を行い、それが「労働時間」と評価される場合には、会社は従業員に対し割増賃金を支払わなければならない。

◆また、長時間労働は従業員のメンタルヘルスに大きな影響を与え、うつ病や過労死の大きな要因となる。業務時間外のLINEでの業務指示のみが直接的な原因となるわけではないが、それが一つの要因となってメンタルヘルス不調を発症すれば、会社の安全配慮義務違反が問われ、損害賠償責任を負う可能性はある。

解説者のご紹介

小笠原 耕司 弁護士

小笠原六川国際総合法律事務所 代表
1984年、一橋大学法学部卒業。現在、小笠原六川国際総合法律事務所の代表弁護士を務める。講演やセミナー等でも活躍し、内容は企業・金融法務の実務に即したものから社員のメンタルヘルスや労務管理、人材面を主眼とした法律問題まで幅広い。著書は『安全配慮義務違反を防ぐためのEAP(従業員支援プログラム)導入のすすめ』(清文社)ほか多数。


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提供元:ティーペック株式会社発行 健康経営情報誌『Cept第1号(2017年10月15日)』p14-15「法律相談Q&A」

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※重要※
・当記事に掲載された情報は、転載元『Cept第1号』の記事が作成された当時のものです。

※当記事は、2020年12月に作成されたものです。
※当記事は、健康経営情報誌『Cept第1号』に掲載されたものを元に、一部編集したものです。