メンタルヘルス・ハラスメント
ハラスメント 2020/11/25

①運送会社編~事例動画で学ぶ!職場の「これってハラスメント?」~

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
今回は【事例動画で学ぶ!職場の「これってハラスメント?」運送会社編】をお届けします。

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2020年6月より、職場でのパワーハラスメント(以下、パワハラ)の防止を義務付ける 「パワハラ防止法」が施行され、企業はこれまで以上に対策が求められています。
しかし、パワハラに該当するかどうかの判断は非常に難しく、気づかないうちに加害者となってしまうケースも…。

本記事では、事例をもとに、小笠原国際総合法律事務所の代表弁護士、小笠原耕司先生に、パワハラに該当するかどうかを見極めるポイントについて解説していただきました。まずは下の動画をご視聴いただき、本文の解説へとお進みください。

≪目次≫
◆本事案の概要と判決
◆弁護士が解説!パワハラ要素とアドバイス
◆まとめ

本事案の概要と判決

事案

新入社員Xは、運送業者の正社員として採用され、伝票入力や電話対応、運輸業務全般を行っていた。
① Xは業務中のミスが多く、繰り返すこともあったため、上司Yから「なんでできないんだ。」「何度も同じことを言わせるな。」など、週2、3程度叱責を受けることがあった。
② 上司YはXに業務日誌を提出させ、「中継業務、工程を書け!」、「日誌はメモ用紙ではない!」、「書いている内容がまったくわからない!」等の注意指導のコメントを記入する一方、上司Yは進捗や成長を褒めたりすることはなかった。
③ 上司Yは、飲酒をして車を運転し、出勤をしたXに対し、そういった行為は解雇に当たるなどと言って強く叱責した。
(仙台地裁平成25年6月25日)

結論:パワハラは認められなかったが、安全配慮義務違反で会社は損害賠償義務を負うことに。

上司Yの上記行為については、違法なパワハラと評価すべき行為を行ったと認められないとしました。
ただし、Xは長時間労働かつ、肉体的・心理的負荷の大きい業務に従事しており、それが原因となって自殺をしています。これについて、会社の安全配慮義務(従業員の健康状態に留意し、過剰な時間外労働により心身に変調を来たすことがないように注意する義務)違反の事実が認められ、会社自体は、損害賠償義務を負うこととなりました。

パワハラによる請求額と認容額※

パワハラによる慰謝料の請求はなし。
原告は、会社及び上司Yに対し、死亡による逸失利益7,214万円、慰謝料3,000万円、弁護士費用1,020万円を請求。
認容額は、上司Yのパワハラについては請求棄却。会社に対しては、死亡による逸失利益4,679万円、慰謝料2,200万円を損害額として認めました。
※認容額とは:裁判所が判決で認めた金額のこと。

弁護士が解説!パワハラ要素とアドバイス

● パワハラの肯定要素

① 叱責行為について
上司YのXに対する上記のような叱責は、必ずしも適切であったとはいえないものであり、業務上の指導の相当性を欠くものとして、パワハラの肯定要素となります。

② 業務日誌の作成について
「中継業務、工程を書け!」、「日誌はメモ用紙ではない!」、「書いている内容がまったくわからない!」と厳しいコメントを記載し、他方でXを褒めるような内容のコメントを記載しなかったことは、業務上の指導としての相当性を欠き、パワハラの肯定要素となります。

③ 退職勧奨について
飲酒をして出勤したことについて、Xに対し「そういった行為は解雇に当たる。」などと言って強く叱責したことは、不適切であり業務上の指導としての相当性を欠き、パワハラの肯定要素に当たります。

● パワハラの否定要素

① 叱責行為について
・Xが何らかの業務上のミスをしたときに限られ、理由なく叱責することはないこと
・叱責する時間も5分ないし10分程度であったこと
・上司Yは全ての従業員に対して同様に業務上のミスがあれば叱責しており、Xに対してのみ特に厳しく叱責していたものではなかったこと
→ 叱責はXの業務上のミスに関係すること、時間も短く、他の従業員にも叱責をしていたという事実は、業務上の必要性・相当性を肯定できるものとして、パワハラの否定要素となります。

② 業務日誌の作成について
・本件業務日誌は新入社員としての成長を期待し、早く仕事を覚えてもらうため作成させたものであること
・本件業務日誌の記載内容をみると、本件業務日誌は実際に新入社員の成長に役立ったと考えられること
・上司Yはほとんどの記載に対しては確認印を押していたものであり、上記のように厳しいコメントを記載することはまれであったこと
→ 日誌の作成は業務に関連するものであり、実際に効果があったことは、業務上の必要性があり、上司が厳しいコメントをするのはまれであったことは、相当性を肯定できるもので、パワハラの否定要素となります。

③ 退職勧奨について
・Xの行為が解雇に当たるほどの極めて重大な問題であることを指摘したものであること
・飲酒をしたうえで車を運転して出勤したことは、運送会社としての社会的信用を大きく失墜させかねないものであること
→ Xの行ったことが大きな社会的非難に値するものである場合、業務上の指導としては相当な範囲を超えるものではなく、パワハラの否定要素となります。

ワンポイントアドバイス

本事例では、新入社員Xのみを集中して叱責していたのではなく、他の従業員にも必要があれば、業務上のミスを指摘していたという事情が考慮され、業務上の必要性が肯定されました。業務上の指導をする際には、部下に対する公平な運用が重要となります。 
業務上の指導を行う場合には、担当社員の業務と関連性があること、業績等の向上に役立つ内容の指導であることが、業務上の必要性・相当性を肯定するための重要な要素となります。

まとめ

パワハラかどうかの判断は難しいものですが、放置していると個人間の問題にとどまらず、会社全体に大きな損害を与える可能性があります。そのため、企業がすべきこととして、研修の実施や相談窓口の設置など、「予防」、「早期対応」、「事後対応」が重要となります。

<事務局より>以下より、従業員のハラスメント対策にお役立て頂ける資料をダウンロードしていただけます。ぜひご活用ください。

■小笠原 耕司 弁護士

小笠原国際総合法律事務所 代表
1984年、一橋大学法学部卒業。現在、小笠原国際総合法律事務所の代表弁護士を務める。講演やセミナー等でも活躍し、内容は企業・金融法務の実務に即したものから社員のメンタルヘルスや労務管理、人材面を主眼とした法律問題まで幅広い。著書は『安全配慮義務違反を防ぐためのEAP(従業員支援プログラム)導入のすすめ』(清文社)ほか多数。

※当記事は2020年11月に作成されたものです。(2022年4月更新、※記事内の一部文言、執筆者プロフィールを修正しました。)
※記事内に掲載中の動画は、2019年7月に作成されたものです。