メンタルヘルス・ハラスメント
ハラスメント 2026/10/06

カスタマーハラスメント・求職者等セクシュアルハラスメント対策ーー事業主に義務付けられる措置と実務対応のポイント

こんにちは。企業の健康経営(R)を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

令和8年10月1日、改正労働施策総合推進法および改正男女雇用機会均等法が施行され、職場におけるカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)と、求職者等に対するセクシュアルハラスメント(以下、求職者等セクハラ)を防止するための雇用管理上の措置が、すべての事業主に義務付けられます。二つの義務は同じ日に施行され、求められる措置の骨格もパワーハラスメント(以下、パワハラ)・セクシュアルハラスメント(以下、セクハラ)対策と一部共通しています。ただし、カスハラは行為者が顧客等という社外の者であること、求職者等セクハラは被害を受けるのが自社の労働者ではないということ、それぞれに固有の難しさを抱えています。
令和8年厚生労働省告示第51号・第52号として示された2つの指針に沿って、法令上求められる措置と実務上の留意点を整理します。

<目次>
■法改正で義務化される2つのハラスメント対策
■カスタマーハラスメント対策
■求職者等セクシュアルハラスメント対策
■共通する実務対応
■おわりに

法改正で義務化される2つのハラスメント対策

1 2つの義務化と根拠法

令和7年6月4日に成立し、同月11日に公布された改正法により、ハラスメント対策の対象範囲が広がりました。カスハラについては労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)に、求職者等セクハラについては男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)に、それぞれ防止措置の規定が置かれ、令和8年10月1日に施行されます。

セクハラについては、自社の労働者に対するものはすでに措置義務の対象でしたが、今回の改正で、求職者等に対するものが新たに加わりました。

2 「望ましい取り組み」から「義務」へ

いずれのハラスメントも、今回の改正まで手付かずだったわけではありません。カスハラはパワハラ防止指針、求職者等セクハラはセクハラ防止指針の中で、事業主が行うことが「望ましい取り組み」として位置付けられてきました。ただ、法律上の義務ではなかったため、取り組みが進まない事業主も少なくありませんでした。

今回の改正における実務上の意味は、この「望ましい」が「講じなければならない」に変わった点にあります。措置義務を果たしていない場合には、厚生労働大臣による助言、指導または勧告の対象となり、勧告に従わないときはその旨を公表されることがあります。

3 実態調査が示す発生状況

厚生労働省が令和5年度に実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和6年5月公表)は、2つのハラスメントの広がりを数字で示しています。

全国の企業・団体に勤務する20〜64歳の労働者8,000人を対象とした調査では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)を受けた経験がある人は10.8%でした。労働者のおよそ10人に1人という水準です。同じ調査でパワハラは19.3%、セクハラは6.3%ですから、カスハラはセクハラを上回る頻度で起きていることになります。しかも企業側の相談件数の推移を見ると、調査対象とした6種類のハラスメントのうち、カスハラだけが「増加している」の割合が「減少している」を上回りました。

求職者等セクハラは、さらに高い比率です。令和2〜4年度に卒業し、就職活動またはインターンシップを経験した1,000人への調査では、インターンシップ中にセクハラを一度以上受けたと答えた人が30.1%、インターンシップ以外の就職活動中に受けた人が31.9%に上りました。行為者は、インターンシップ中では「インターンシップ先で知り合った従業員」が47.4%、就職活動中では「大学のOB・OG訪問を通して知り合った従業員」が38.3%で、いずれも最多です。採用面接の場だけを想定した対策では足りないことが、この数字からうかがえます。

一方、企業側の取り組みは追い付いていません。同じ調査で、予防・解決のための取り組みを実施している企業は、カスハラで64.5%、求職者等セクハラで52.4%にとどまりました。パワハラの95.2%、セクハラの92.7%と比べると、大きな開きがあります。

カスタマーハラスメント対策

1 カスハラの定義

防止すべき対象があいまいなままでは、取り組みに漏れや無駄が生じます。まず、法令上の定義を確認します。
職場におけるカスハラとは、職場において行われる(1)顧客等の言動であって、(2)その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものをいい、(1)〜(3)の要素をすべて満たすものを指します(法第33条第1項)。


このうち職場とは、労働者が業務を遂行する場所です。通常働いているオフィスや店舗に限らず、取引先の事務所、打ち合わせに使う飲食店、顧客の自宅なども、そこで業務を行っていれば含まれます。労働者とは、正社員、契約社員、パートタイム労働者など、契約期間や労働時間にかかわらず事業主が雇用するすべての労働者です。派遣労働者も、派遣先が自ら雇用する労働者と同様に取り扱う必要があります。この二つの定義は他のハラスメントと同じです。

(1)顧客等とは、商品やサービスを購入した顧客、取引の相手方、駅・空港・病院・学校・福祉施設・公共施設などの利用者、その他その会社の事業に関係を有する者をいいます。ここで留意したいのは、これから顧客になる、取引をする、施設を利用する「可能性がある」者も含まれる点です。実際に購入していなくても、商品やサービスの内容を問い合わせてきた者や、取引前の交渉の担当者は顧客等に当たります。「可能性がある」とは可能性が高いという意味ではなく、指針は「施設の近隣住民」も例示しています。また、言動には、対面で行われるものだけでなく、電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれます。

では、(2)社会通念上許容される範囲を超えたものかどうかは、どのように判断するのでしょうか。指針によると、社会通念に照らして、顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、または手段や態様が相当でないものが該当します。「または」ですから、どちらか一方が範囲を超えていると判断されれば、カスハラに当たり得ます。言動の内容が範囲を超える典型例が図表1、手段や態様が範囲を超える典型例が図表2です。
ただし、図表1・図表2は限定列挙ではありません。個別の事案の状況によって判断が異なる場合もあります。

【出典】厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf

【出典】厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf

指針は、判断に当たって、言動の目的、言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性といった要素を総合的に考慮するよう求めています。顧客等の言動だけを切り取るのではなく、その言動に至った背景や経緯まで含めて見る必要があります。事業主または労働者側の不適切な対応が原因や背景になっている場合があることにも、指針は注意を促しています。

最後に(3)労働者の就業環境が害されるものとは、その言動により労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。判断基準は、他のハラスメントと同様の「平均的な労働者の感じ方」です。同様の状況でその言動を受けた場合に、社会一般の労働者が看過できない程度の支障が生じたと感じるかどうかという視点で判断します。

なお、言動の頻度や継続性は考慮要素ですが、強い身体的または精神的苦痛を与える態様の言動であれば、1回限りでも就業環境を害する場合があり得ることに留意が必要です。

以上の観点から該当性を判断するのは、まず会社です。顧客等からの苦情がすべてカスハラに当たるわけではなく、客観的に見て社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申し入れです。ただし、労働者から相談があった場合には、該当するか否か微妙なものも含めて幅広く相談に応じることが求められます。

2 法令上求められる雇用管理上の措置

事業主が講じなければならない措置は、図表3の通りです。カスハラに特有の措置には下線を引きました。10月1日からすべての事業主に求められる措置ですので、施行日前に準備しておくことが望まれます。

【出典】厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf

具体的に見ていきます。
(1)方針の明確化と周知・啓発は、社内報、パンフレット、社内ホームページなどによる広報が考えられます。トップメッセージとして職場に広く発信することも有効です。
カスハラは行為者が社外の者であり、会社との関係では相手側が優越的な立場に立ちやすいため、行為者へ直接働き掛けることが難しいという課題があります。だからこそ、毅然とした態度で対応し労働者を保護するという方針をあらかじめ明確にし、相手側に認識させておくことが、事案発生後に行動を起こす上で効いてきます。飲食店やスーパーマーケットのように店舗で顧客に接する業態では、店内への掲示も被害の防止に効果的です。

(2)の「対処の内容」は、労働者の状況等の実態に応じて各社が定めるものです。指針が例示しているのは図表4の取り組みですが、ここでも限定列挙ではないことに留意してください。

【出典】厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf

対処の内容を定める際に押さえておきたいのは、カスハラが発生したその場で、管理監督者等がただちに適切な対応を行う必要がある場合がある、という点です。事後の相談対応だけでなく、現場での初動を含めて設計する必要があります。

(3)(4)の相談体制の整備は、他のハラスメントとおおむね同様です。ただしカスハラでは、図表4のように管理監督者等の関与が必要になるケースがあるため、相談担当者として労働者の上司に当たる管理監督者等を定めることも考えられます。その場合は、その管理監督者等自身が相談できる窓口を別に設けることも検討します。なお、他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置することも認められています。

(5)事実関係の迅速かつ正確な確認については、管理監督者等がその場で確認して対応するほか、必要に応じて周囲の労働者から聴取したり、録音・録画等の客観的な証拠を確認したりする方法が考えられます。
録音・録画を行う場合も、記録を確認する場合も、個人情報の保護に関する法律等を順守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱う必要があります。取得した個人情報を事実関係の確認に使用するのであれば、利用目的としてその旨をできる限り特定し、本人に通知または公表しなければなりません。
必要かつ可能な場合には、行為者から事実関係を聴取することも考えられます。行為者が取引先の従業員等であれば、その会社に事実関係の確認への協力を求めることもできます。

(6)被害者への配慮の措置は、図表4の対処の内容に基づいて速やかに行います。行為者に対応する担当者の変更や複数人での対応、被害者と行為者を引き離すための配置転換、管理監督者または事業場内産業保健スタッフ等によるメンタルヘルス不調への相談対応などが考えられます。犯罪に該当し得る言動については、併せて警察へ通報します。

(7)再発防止では、方針と対処の内容を改めて周知するとともに、カスハラの原因や背景となった商品・サービス・接客等の問題や、顧客等とのコミュニケーション不足の改善を図ります。事案の内容や対応経緯を記録し、個人情報の取り扱いに留意して関係部門に共有することも有効です。事実が確認できなかった場合も、同様の措置を講じます。

(8)は、パワハラ・セクハラ対策の経験だけで準備を進めると抜け落ちやすい項目です。特に悪質と考えられるカスハラへの対処の方針をあらかじめ定めて労働者に周知し、その対処を実行できる体制を整えることまでが義務とされています。事案が起きてから対応を決めるのでは、要件を満たしません。対処の例は図表5の通りです。

【出典】厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf

業種・業態によって必要な対応は異なりますから、それぞれの状況に応じた方針を定めることが望まれます。同じ業種・業態の複数の事業主が一体となって取り組むことも効果的です。厚生労働省は業種別のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルを順次策定・公開しており、令和8年9月時点では、宅配業編とスーパーマーケット業編が公開されています。

(9)(10)は、他のハラスメントと同様です。相談者等のプライバシーを保護し、相談等を理由とした不利益な取り扱いをしない旨を定めて労働者に周知することが、相談しやすい環境づくりにつながります。なお、相談者等のプライバシーには、性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報も含まれます。

3 対策を講ずる際の留意点

カスハラ対策には、他のハラスメント対策にはない固有の制約があります。指針は、対策を講ずる際に、消費者法制により定められている消費者の権利や、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)における不当な差別的取り扱いの禁止・合理的配慮と環境整備の提供義務に留意するよう求めています。

障害のある人が、不当な差別的取り扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体は、カスハラには当たりません。事業者には、負担が過重でないときは、社会的障壁の除去について必要かつ合理的な配慮を行う義務があります。同法に基づく対応指針や、内閣府が公表する障害特性に応じた事例等も参考にしながら、顧客等との建設的対話を重ねる必要があります。

また、各業法によりサービス提供の義務等が定められている場合や、サービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合があることにも留意が必要です。「毅然とした対応」が、そのままサービス提供の拒否につながるわけではない、ということです。

4 他の事業主への協力

自社の労働者が、取引先の労働者にカスハラを行う側になることもあります。事業主は、他の事業主から事実関係の確認等の措置の実施に必要な協力を求められた場合には、これに応ずるよう努めなければなりません(法第33条第3項)。協力を求められたことを理由に、その事業主との契約を解除するなどの不利益な取り扱いを行うことは望ましくないとされています。求めに応じて事実関係の確認を行う際は、協力した労働者に不利益な取り扱いを行わない旨を定めて周知することも望まれます。

求職者等セクシュアルハラスメント対策

1 求職者等セクハラの定義

求職者等に対するセクシュアルハラスメントとは、求職者等による求職活動等において行われる、事業主が雇用する労働者による性的な言動により、求職者等の求職活動等が阻害されることをいいます(均等法第13条第1項)。
労働者に対するセクハラとの最大の違いは、被害を受けるのが自社の労働者ではない点にあります。相手は選考の途中にいる求職者であり、立場の非対称は極めて大きい。声を上げれば選考に不利になるのではないかという懸念から、被害を受けても何も言えない構図が生まれやすいのです。
対象となる範囲は、図表6の通りです。

【出典】厚生労働省「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第52号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662589.pdf

「求職者等」には、求人に応募する求職者本人だけでなく、事業主の実施する労働者の採用に資する活動に参加する者や、教育実習・看護実習その他の実習を受ける者が含まれます。「求職活動等」も、採用面接に限りません。就職説明会への参加、自社の労働者への訪問(いわゆるOB・OG訪問)、インターンシップへの参加、教育実習や看護実習の受講が例示されており、SNS等のオンラインを介したものやオンライン上で行われるものも含まれます。労働者が通常就業している場所で行われるものに限られない点も明示されました。実態調査で行為者として最も多く挙がったのがOB・OG訪問やインターンシップ先の従業員であったことを踏まえると、この範囲の広さは実務上重要です。

「性的な言動」は、性的な内容の発言と性的な行動を指します。前者には性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布することなどが、後者には性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布することなどが含まれます。なお、同性に対するものも対象に含まれ、被害を受けた者の性的指向またはジェンダーアイデンティティにかかわらず、指針の対象となります。

指針は、典型的な例として次のようなものを挙げています。少人数の説明会で労働者が求職者等の身体に触ったため、求職者等が苦痛に感じて求職活動等の意欲が低下している。インターンシップで、労働者が性的な冗談やからかいを意図的かつ継続的に行ったため、インターンシップ中の活動が手に付かない。面接中に面接官から性的な事実に関する質問を受け、求職活動の意欲が低下している。求職者等が労働者への訪問を行った際に性的な関係を求められ、意欲が低下しているーーなどです。
いずれの例も、「求職活動等が阻害され、看過できない程度の支障が生じる」という結果に着目していることが分かります。行為者に加害の意図があったかどうかは、判断の分かれ目ではありません。

2 法令上求められる雇用管理上の措置

事業主が講じなければならない措置は、図表7の通りです。方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、そしてこれらと併せて講ずべき措置という四本の柱は、労働者に対するセクハラ対策と同じ構成です。

【出典】厚生労働省「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第52号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662589.pdf

セクハラ対策の経験があれば、多くは既存の仕組みを広げることで対応できます。ただし、次の3点は求職者等セクハラに固有の要素であり、既存の仕組みの延長では埋まりません。

第一に、周知の相手方に求職者等が加わります。方針の周知・啓発は労働者に対して行うのが基本ですが、相談窓口は求職者等に周知しなければなりません。パンフレットやホームページなど、応募を検討している段階の人が見られる場所への掲載が必要です。プライバシー保護の措置を講じている旨も、労働者と求職者等の双方に周知します。

第二に、求職活動等に関するルールをあらかじめ明確化し、労働者と求職者等の双方に周知・啓発することが求められます。指針は、面談の時間および場所の指定、実施体制、やりとりに用いるSNSの種類の指定などを例示しています。OB・OG訪問や社員面談が、個人のSNSでつながったまま夜の飲食店で行われるーー実態調査の数字が示すのは、まさにこの空白地帯です。ルールを定めて研修等で労働者に周知し、面談等の留意事項を求職者等にも広報することが、発生そのものを減らす最も直接的な手段になります。

第三に、相談窓口の設計です。指針は、求職者等が人事担当者への相談をためらうことも想定されることから、相談窓口の担当者として人事担当者以外の者を指定することも考えられる、としています。選考の合否を握る部門が相談窓口を兼ねていては、求職者等は相談することができません。

事後対応は、事実関係の確認、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止という流れになります。行為者は自社の労働者ですから、就業規則等の懲戒規定に基づく対処が可能です。行為者に対する措置が明示的に義務付けられている点は、行為者が社外にいるカスハラとの大きな違いです。なお、事実が確認できなかった場合も、再発防止に向けた措置は講じます。

3 求職者等セクハラに特有の留意点

指針は、義務ではないものの行うことが望ましい取り組みとして、教育機関との連携を挙げています。求職活動等を行う大学生や専門学校生が所属する教育機関が設置する相談窓口の担当者等から情報提供があった場合には、連携して適切な対応を行うことが望ましいとされました。被害を受けた求職者等が最初に相談するのは、多くの場合、応募先の企業ではなく大学のキャリアセンターや家族・友人です。学校側からの連絡を受ける経路をあらかじめ想定しておく意味は、小さくありません。

また指針は、求職活動等における「パワハラに類する行為」「妊娠、出産等に関するハラスメントに類する行為」「育児休業等に関するハラスメントに類する行為」にも言及しています。求職者等は労働者ではないため、パワハラ防止措置そのものの対象にはなりません。しかし事業主は、労働者の求職者等に対する言動に必要な注意を払うよう配慮し、方針の明確化を行う際にはこれらについても同様の方針を併せて示すことが望ましいとされています。

この文脈で、求職者等の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動や、本人の了解を得ずに機微な個人情報を暴露すること(アウティング)、開示を強要または禁止することについても、必要に応じて適切な対応を行うよう努めることが望ましいとされました。
さらに、顧客や取引の相手方、施設の利用者などによる求職者等へのセクハラやカスハラに類する相談があった場合にも、必要に応じて適切な対応を行うよう努めることが望ましいとされています。インターンシップ生が顧客から被害を受けるといった場面が想定されます。

共通する実務対応

1 措置の共通点と相違点

二つの義務を、別々の作業として進める必要はありません。方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、プライバシー保護と不利益取り扱いの禁止という骨格は共通しており、既存のパワハラ・セクハラ対策の枠組みに組み込むことができます。整理すると、図表8の通りです。

【出典】厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf

厚生労働省「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第52号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662589.pdf

違いが生じるのは、被害を受ける者と行為者がそれぞれどこにいるか、という点です。カスハラは被害者が自社の労働者で行為者は社外、求職者等セクハラは被害者が社外で行為者は自社の労働者。この非対称が、方針や相談窓口の周知先、行為者への措置の可否を分けています。
例えば、就業規則の懲戒規定で対応できるのは求職者等セクハラだけです。逆に、出入り禁止や商品の販売・サービスの提供の停止といった抑止措置が問題になるのはカスハラだけです。相談窓口をひとつにまとめる場合でも、この違いを踏まえて対応フローを分岐させておく必要があります。

2 施行日までに整えておくべきこと

最低限、次の五つは施行日までに終えておく必要があります。
第一に、方針の文書化です。カスハラには毅然とした態度で対応し労働者を保護する旨の方針と、求職者等セクハラを行ってはならない旨および行為者に厳正に対処する旨の方針を、就業規則その他の服務規律を定めた文書や社内規程に反映します。求職者等セクハラの行為者については、現行の懲戒規定の適用対象となることを明確化する方法でも差し支えありません。

第二に、カスハラの現場対応の手順と、特に悪質と考えられるものへの対処方針を定め、労働者に周知します。前述の通り、事前に定めて周知しておくことが義務の要件です。

第三に、相談窓口の設置と周知先の整理です。労働者向けの周知に加え、求職者等が目にする採用ページ、募集要項、インターンシップの案内などに相談窓口を掲載します。

第四に、求職活動等のルールの明確化です。面談の時間・場所、実施体制、使用するSNSの種類などを定め、労働者への研修と求職者等への広報の両方を行います。

第五に、研修です。方針や対処の手順を労働者に浸透させるには、文書の配布だけでは足りません。管理監督者を含む労働者を対象とした研修・講習の実施が、いずれの指針でも例として挙げられています。事業主自身(法人の場合はその役員)も責務の対象とされている点を踏まえ、役員向けの研修を組むことも考えられます。

3 国・事業主・労働者・顧客等の責務

改正法は、措置義務とは別に、関係者それぞれの責務を定めています。
カスハラについては、国が広報活動・啓発活動その他の措置を講ずること(労働施策総合推進法第34条第1項)、事業主が自社の労働者の関心と理解を深め、研修の実施その他の必要な配慮をすること(同条第2項)、事業主自身も関心と理解を深め、言動に必要な注意を払うこと(同条第3項)、労働者が関心と理解を深め、事業主の講ずる措置に協力すること(同条第4項)、顧客等が関心と理解を深め、労働者の就業環境を害することのないよう必要な注意を払うこと(同条第5項)が、いずれも努力義務として定められました。

求職者等セクハラについても、事業主の責務(均等法第14条第2項)と労働者の責務(同条第4項)が同様に置かれています。
これらは罰則を伴う義務ではありません。しかし、カスハラについて顧客等の責務が法律に明記された意味は小さくないでしょう。カスハラの防止は、事業主の雇用管理の問題であると同時に、社会全体で共有すべき課題として位置付けられた、ということです。

おわりに

期待していた商品やサービスではなかったとき、相手の対応に不満を感じること自体は、誰にでもあります。就職活動で出会った学生に、悪気なく踏み込みすぎた言葉を掛けてしまうこともあるでしょう。問題は、そのときに感情のまま行動してしまうと、相手に嫌な思いをさせるだけでなく、自分がハラスメントの「行為者」とされてしまうことです。それは、被害を受けた側にとってはもちろん、行為者とされる側にとっても不幸なことです。

今回の義務化は、事業主にとって負担の増加という側面を持ちます。しかし、カスハラに毅然と対応することは、労働者を守るだけでなく、正当な申し入れをしている大多数の顧客を守ることでもあります。求職者等セクハラの対策を示すことは、安心して応募できる会社であることの表明になります。人手不足が続く中で、それは採用の場面で確かな意味を持つはずです。
まずは2つの指針を手元に置き、自社の現状と照らし合わせるところから始めてください。施行日は、いずれも令和8年10月1日です。

原稿・社会保険研究所 Copyright

<事務局より>
2026年10月の法改正に伴い、ティーペックでは新サービス「カスタマーハラスメント相談サービス」と「就活ハラスメント相談サービス」の提供をスタートしました。詳細は以下をご確認ください。

■カスタマーハラスメント相談サービス
https://www.t-pec.co.jp/service/customer-harassment/

■就活ハラスメント相談サービス
https://www.t-pec.co.jp/service/shukatsu-harassment/

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<出典・参考文献>

・厚生労働省「令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書 (概要版)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11910000/001541313.pdf

・厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf

・厚生労働省「事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第52号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662589.pdf

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※当記事は2026年9月に作成されたものです。
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

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