健康・予防・両立支援
女性の健康 2024/01/31

働きざかりに増加 乳がんの基礎知識【医師監修】

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

女性のがんの中で罹患率が最も多い『乳がん』。働き続ける女性が増えているなかで、罹患しやすい年齢と重なることから、企業としても理解を深め、早期発見を促していくことが重要です。本記事を読んで、乳がんの基礎知識・検査・治療について学び、女性従業員のサポートにご活用ください。(以下、医師監修による記事です)

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≪目次≫
◆40歳以降で増加する乳がん
 ●働く女性の増加
 ●乳がんが増加する年代の健康問題
◆乳がんとは
 ●乳がんと女性ホルモン
◆乳がんの症状と検査
 ●乳がん検診
 ●乳がんの検査
◆乳がんの治療法

40歳以降で増加する乳がん

乳がんは、女性のがんのなかでもっとも罹患者数が多く、2019年に国内で乳がんと診断された人は約9万7,000人にのぼります※1。女性の乳がんの累積がん罹患リスク、つまり生涯で乳がんになる割合は11.2%で、9人に1人が一生涯に一度は乳がんになる計算となります※2。

年齢別にみると、乳がんは40歳以降から急激に上昇するのが特徴的で、70〜74歳がもっとも多くなります(図表1)※1。

図1 年齢階級別乳がん罹患率(2019年)【乳房】

【出典】国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a14

●働く女性の増加

総務省の『労働力調査(基本集計)』によると、2022年の女性の就業者数は3,024万人で、新型コロナウイルス感染症の影響で減少に転じた2020年を除き、10年間増加を続けています※3。

年齢別に推移をみると、1982年には大きなM字カーブとなっていた女性の就労率は、徐々にM字カーブが浅くなり、人生のライフステージが変わっても働き続ける女性の割合が高くなっていることがわかります(図表2)※4。

図表2 女性の年代別就労率の推移

図表2 女性の年代別就労率の推移

【出典】総務省「労働力調査(基本集計)表3 年平均結果 3-3年齢階級(5歳階級)別就業者数及び就業率」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

●乳がんが増加する年代の健康問題

図表2が示すように、2022年度は40歳を過ぎても約8割、50歳代までは7割以上の女性が仕事に就いています。一方で40歳以降、とくに閉経前後の女性には心身ともにさまざまな健康問題が生じやすく、乳がんの罹患が増える時期とも一致します。

乳がんとは

乳がんは乳房内の乳腺にできるがんで、乳管から発生することが多いものの、一部は母乳をつくる小葉(しょうよう)からも発生します。乳房には多くのリンパ管が通っており、そのほとんどが腋窩(えきか:脇の下)に集まっています(腋窩リンパ節)。

●乳がんと女性ホルモン

乳がんの発生には女性ホルモンのひとつであるエストロゲンがかかわっており、乳がんの発症年齢が閉経(50歳)前後に急激に増えることもその理由のひとつと考えられます。乳がんリスクを高める要因としては、初潮が早い、閉経が遅い、未産・出産年齢が遅い女性はエストロゲンの影響を受ける期間が長い、エストロゲンを含む経口避妊薬の使用や閉経後の長期間のホルモン補充療法があげられます。

このほか、閉経後の肥満や飲酒、喫煙などが乳がんリスクになることがわかっており、飲酒を控えたり、閉経後の肥満を避けたり、適切な運動を行うことで体重を管理することが予防につながります。また、BRCA1、BRCA2という遺伝子の変異を持つ人は、遺伝性乳がんを発症しやすくなります。遺伝性乳がんは一般的な乳がんよりも若い年齢で発症しやすいことから、家族に乳がんの人がいる人には年齢にかかわらず、遺伝性乳がんに関する情報提供を行うことが重要です。

乳がんの症状と検査

一般的な乳がんは、ほかのがんに比べて進行が比較的遅く、1cm程度の大きさになるには10年ほどかかるといわれています。症状としては、しこりが確認できることがあります。入浴時に手で触れる習慣をつけましょう。乳がんの早期発見には、乳房の変化を感じたときに早めに医療機関を受診することや40歳になったら2年に1回乳がん検診を受ける「ブレスト・アウェアネス」※が欠かせません。

しこりが1cmに満たない程度の場合はごく初期の乳がんの可能性がありますが、1cm程度にまで大きくなると、その後10か月程度で倍ほどの大きさになることがあり、2年間で4〜5cmほどになることがあります。

※ブレスト・アウェアネス:乳房を意識する生活習慣のこと

●乳がん検診

40歳以降の女性は2年に1回、乳がん検診を受けることが重要です。乳がん検診は、問診とマンモグラフィがあります。マンモグラフィによる乳がん検診は、がん検診による死亡率減少効果があり、検診を受けることによる不利益が少ないことがわかっています。

●乳がんの検査

(1)視触診
乳がんの検査で行うことのある項目が視触診です。厚生労働省の乳がん検診の指針には含まれていませんが、マンモグラフィと併せて実施されることがあります。乳がんでは、乳房にくぼみやただれが出たり、乳頭から血の混じった分泌液が出たり、乳房の形に左右差が出たりすることがあります。乳房や乳頭の変化の有無を視診で確認します。また、乳がんはしこりに外から触れることができる可能性のある数少ないがんのひとつです。しこりの有無を触診で確認するとともに、しこりがある場合にはその大きさや硬さ、位置などをみていきます。


(2)マンモグラフィ

マンモグラフィは乳がん検診でも行われる検査で、X線を使い乳房組織を映す検査です。透明な板で乳房を圧迫し、薄く伸ばした状態で撮影します。痛みを感じる人もいますが、検査は短時間で終了します。
視触診では確認できない小さな病変や、乳がんでみられる乳腺組織内の微細な石灰化を映すことができます。ただし、乳腺の密度が高い人の場合、マンモグラフィで白く映る部分が多く、病変がわかりにくいことがあります。

(3)超音波検査

超音波検査は、乳房内の病変や性状、脇の下の腋窩リンパ節への転移などを調べるのに有効です。超音波を発生させる医療器具(超音波プローブ)を乳房の表面にあて、その反射の様子を画像として映し出すことができます。超音波検査では、乳がんの多くが黒く映し出されるため、乳腺の密度が高い人でも乳がんが確認できます。また、マンモグラフィではX線を使うため妊娠中に検査を行うことができないのに対し、超音波検査は妊娠中にも行うことができます。

(4)病理検査
マンモグラフィや超音波検査で乳がんの可能性が疑われた際に、診断を確定するために行う検査です。マンモグラフィや超音波、CTなど画像検査で病変がある場所を確認しながら病変の細胞や組織を採取し、顕微鏡で調べて診断を確定します。

(5)MRI・CT・骨シンチグラフィ
がんと診断された場合、治療法を検討するためにMRIやCT、骨シンチグラフィによる画像検査を行います。画像検査を組み合わせることで、がんの広がりや転移の有無などを調べることができます。

(6)腫瘍マーカー検査
採血検査でみることができる値です。腫瘍マーカーの数値をみてがんの有無や進行を確定することはできませんが、診断の補助や治療の効果をみるために行われます。乳がん特定の腫瘍マーカーはありませんが、CEAやCA15-3などが広く用いられます。

乳がんの治療法

乳がんの治療法には外科手術、放射線治療、薬物治療があります。乳がんの進行度(ステージ)によって治療の選択肢は異なりますが、切除可能な場合には外科手術によってがんを取りきるのが基本です。手術をする前に薬物治療でがんを小さくしてから切除したり、再発リスクを抑えるために手術後に薬物治療を行ったりと、治療を組み合わせることもあります。

(1)外科手術
手術には乳房部分切除術(乳房温存手術)と乳房全切除術があります。乳房部分切除術は、がんが早期の段階の選択肢で、乳房を残すことができる点がメリットです。この場合、手術後に放射線治療を行って再発を防ぐのが一般的です。乳房全切除術は、乳房内の離れた場所に複数のがんがある場合やがんが広範囲の場合など、部分切除でがんを取り切れない場合に行います。
また、術前の検査で乳房近くの腋窩リンパ節に転移があると診断された場合には腋窩リンパ節郭清(リンパ節の切除)を行うこともあります。

乳房切除を行った場合、乳房を再建する手術をすることがあります。切除と同時に行う一次再建と数か月〜数年後に乳房再建手術を行う二次再建があります。自分の腹部や背中などから採取した組織を使う方法や、シリコンなど人工物を用いる方法があります。乳房再建手術を受けることで乳房を失うことへの喪失感が軽減されたり、下着やパッドなどを使わずに済んだりするメリットがありますが、合併症のリスクもあるため、メリットとデメリットをよく理解し、納得したうえで決めることが大切です。

(2)放射線治療
乳房部分切除の後に行うもので、がんにX線を照射することで死滅させる治療法です。リンパ節転移がある場合、乳房全切除後行うことがあります。また、放射線治療はがんの進行う痛みの緩和を目的に行われることもあります。

(3)薬物治療
乳がんの薬物治療に使われるのは、主にホルモン療法薬、分子標的薬、細胞障害性抗がん薬、免疫チェックポイント阻害薬です。手術前にがんを小さくするために行う場合、がん手術後の再発防止のために行う場合があります。手術が困難な進行がんなどに対して症状緩和などを目的に行うこともあります。どの薬を使うかは患者さんのがんの性質によって異なります。

乳がんは治療方法だけでなく、手術によって乳房を切除した場合の乳房再建などの選択も必要となります。しかし、がんが進行するほどその選択肢は少なくなります。ブレスト・アウェアネスを心がけ、定期的な乳がん検診を受けることで早期発見に努めることが大切です。また、納得してがん治療を受けるために、セカンド・オピニオンの活用も検討しましょう。

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≪監修者プロフィール≫
木村 眞樹子 医師
東京女子医科大学医学部卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。
妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、webメディアで発信も行っている。
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<出典>
※1 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録」(全国がん登録)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a14
※2 国立がん研究センターがん情報サービス「グラフデータベース 年齢階級別罹患リスク」
https://gdb.ganjoho.jp/graph_db/gdb1?dataType=30
※3 総務省統計局「労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の要約 」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf
※4 総務省統計局「労働力調査(基本集計)表3 年平均結果 3-3年齢階級(5歳階級)別就業者数及び就業率」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

<参考文献>
・国立がん研究センターがん情報サービス「乳がん」
https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/index.html
・国立がん研究センターがん情報サービス「がん医療における遺伝子検査」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/genomic_medicine/gentest02.html
・国立がん研究センターがん情報サービス「用語集 再建手術」
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/saikenshujutsu.html
・東京都保健医療局『乳がんを早期発見するための「ブレスト・アウェアネス」』
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kensui/
・厚生労働科学研究成果データベース「乳がん検診の適切な情報提供に関する研究」
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/146328
・厚生労働省「胃がん・乳がん検診に関する指針の改正について」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000114067.pdf
・国立がん研究センターがん情報サービス「乳がん検査」
https://ganjoho.jp/public/cancer/breast/diagnosis.html

※当記事は、2024年1月に作成されたものです。
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事が全てのケースにおいて当てはまるわけではありません。