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インタビュー・座談会 2024/02/13

1型糖尿病でも「なんでもできる」、誰もが夢をあきらめない社会の実現へ[株式会社Family Design M代表取締役 岩田稔さん講演]

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。

2023年11月27日、ティーペックのヘルスカウンセラー、社員へのヘルスリテラシー向上を目的に開催している社内勉強会「ティーペックアカデミー」。第335回は、2021年のシーズンでプロ野球界を引退した元阪神タイガースの岩田稔さんをティーペック本社にお招きし、ご講演いただきました。
T-PECアカデミーは社内向けのセミナーですが、今回は1型糖尿病の正しい理解促進の想いからT-PEC Channel会員、わくわくT-PEC会員もご招待。約300名が参加しました。

岩田さんは、大阪桐蔭高校の2年生の時に1型糖尿病を発症。
その後、関西大学に進み、2006年に阪神タイガースに入団しました。1年目から1軍デビューを果たし、3年目にはローテーション入り。10勝をあげると、その翌年の2009年に行われた第2回ワールドベースボールクラシックの日本代表に選出され、中継ぎとして活躍、日本チームの2大会連続2度目の優勝に貢献しました。その後も活躍を続け、2021年シーズンをもって引退。阪神タイガース一筋16年の現役生活でした。

また2009年から1勝につき10万円を「1型糖尿病研究基金」に寄付するなど、1型糖尿病の根治そして患者さんへの支援活動を、選手活動とともに行ってきた岩田さん。

引退後は、株式会社Family Design Mを設立。
野球評論家、阪神コミュニティアンバサダーとして活躍するとともに、1型糖尿病の啓発活動に力を注いでいます。

<目次>
◆病を抱えながらのプロ野球での活躍「あきらめない気持ち」が未来を切り開いた
◆引退後の活動 1型糖尿病の子どもたちのサポート活動をライフワークに
◆質疑応答 ティーペックのヘルスカウンセラーからの質問
◆質疑応答の後は、社長からの謝辞 最後は、写真撮影と著書のプレゼントも

病を抱えながらのプロ野球での活躍 「あきらめない気持ち」が未来を切り開いた

岩田さんの講演はユーモアあふれる語り口でありながら、1型糖尿病の患者としての切実な想いが強く伝わってくるものでした。

高校2年生の冬に体調を崩し、病院で1型糖尿病と診断を受けた岩田さん。
「原因がはっきりしない、1度発症したら治らない病気。血糖を下げるためインスリンを、死ぬまで注射し続けないと、血糖がコントロールできないと先生から聞いた時には、本当に目の前が真っ暗になりました。でも、誰が悪いわけでもないし、受け入れないと前に進めない。」(岩田さん)

入院中、毎晩ユニフォーム姿でお見舞いに来てくれた大阪桐蔭高校・西谷浩一監督のエピソードは、聞いていて気持ちが温かくなりました。また入院してまもなく、主治医が岩田さんに差し出したメジャーリーガーで元巨人の投手であるビル・ガリクソン氏の著書にまつわるお話も印象的でした。

「本のタイトルが『ナイスコントロール』だったので野球の本だと思ったのですが、その本は1型糖尿病について書かれたものでした。『1型糖尿病でもジャイアンツでプレーできるのなら、僕だって』と考えるようになりました」(岩田さん)

高校卒業後に社会人野球チームへ進むことが内定していたのですが、高校3年の8月、突然その内定が取り消しに。1型糖尿病がその理由であることは明らかでした。すでに大学への推薦も難しい時期でしたが、西谷監督の尽力もあり関西大学へ進学。そこで、厳しい練習をしながら、どう血糖コントロールをするかを身につけたといいます。

そして大学生・社会人ドラフト希望枠で2006年、阪神に入団。
「入団会見で『僕はガリクソン投手のおかげで、野球をあきらめずに続けることができたので、今度は僕が1型糖尿病の希望の星になる』と言いました。後からすごいことを言ってしまったと思いましたが、自分の言葉を嘘にしたくないし、負けたくないので必死に頑張りました」(岩田さん)

タイガースで頑張ってきた話、WBCでの話も大変興味深い内容でしたが、1型糖尿病を抱えながら、プロ野球選手として活躍するのは難しい自己管理が求められ、並大抵の努力ではなかったと思います。

「現役も終わりの頃、若手の台頭もあり、先発で投げるチャンスも少なくなり、登板しても打たれて『また負けてるやん』とファンに言われることもあって、引退の2文字が頭をよぎる時があったんです。
そんな時期に1通のファンレターが。『勝ち負けはどうでもいいんです。1型糖尿病患者の私たちは、岩田選手が1軍のマウンドに立っているだけで救われるんです』という内容でした。『ああ、まだまだ頑張らなあかん』て、気持ちにさせてくれました。

僕は1型糖尿病になっていなかったら、もっと弱い人間だったと思います。ハンデとかよく言われますけれど、病気を受け入れて、前に進むことで精神的に強い人間になっていくことができたんです」(岩田さん)

引退後の活動 1型糖尿病の子どもたちのサポート活動をライフワークに

2021年に引退してからは、現役の時には忙しくてできなかった分を取り返すように、熱心に1型糖尿病の活動をしている岩田さん。

「昨日も1型糖尿病の野球少年たちに会いに行ったのですが、病気が原因でいじめられるなど、悩みを抱えている子どもたちがたくさんいるんです。そういうことがないように、しっかり1型糖尿病の認知活動をしていかなければいけないなと、講演活動のほか、1型糖尿病の勉強会や、交流会を開催しています。

<参考>1型糖尿病の認知拡大・啓発活動
https://mifdm.com/project/(株式会社Family Design Mホームページ)

勉強会では、子ども達に食べた分の炭水化物量から、打つべきインスリンの量を計算する『カーボカウント』を教えたのですが、同じ病気の子達で集まって、注射を打って血糖を測定しているうちに、それまで他の人の前では注射が打てなかったけれど、それ以来、打てるようになったお子さんがいました。
大きな一歩を踏み出せて、僕のやるべきことを実感しました。また親御さんたちも、同じ病気の子どもを持つ中で生まれる不安や気持ちを共有したり、悩み事にアドバイスをしたりと、大変有意義な時間を過ごしているようでした」(岩田さん)

今後の活動について
「1型糖尿病は、まだ治らない病気ではありますが、患者さんが何もあきらめることなく、楽しい生活が送れるような世の中にするために、世間の偏見を無くすために、正しい知識をみなさんに伝えていきたいです。そして、僕のように病気があってもやりたいことができることも、多くの人にわかってもらえたらうれしいです」と熱い言葉で講演を締めくくった岩田さん。素晴らしいお話を頂戴しました。

質疑応答 ティーペックのヘルスカウンセラーからの質問

講演の後、質問を受ける時間を設けてくれた岩田さん。ティーペックのヘルスカウンセラーからいろいろな質問があり、時間の許す限り丁寧に答えてくれました。
Q.職場や周囲の人に1型糖尿病であることを知られたくないという悩みを多く受けるのですが……

A.
「日本の1型糖尿病の患者数は10〜14万人いますが、糖尿病全体の5%に過ぎないため、一般の人は糖尿病というと95%を占める2型糖尿病のイメージを持つ人が多く、『生活がぐうたらしているから』という偏見を持つ人も多いのが実情です。1型と2型の違いもそうですが、『糖尿病』という病名はイメージも悪く、症状を正しく表してもいません。今は、呼称変更が話題にのぼっていますが、国は、誤解を与えないような名前をつけて、誤解や偏見を生まない啓発をしっかり行っていくべきです」

Q.アドレナリンの作用で、試合中、高血圧になってしまったという話を耳にしたのですが、食事で気をつけていることや周りのこういうサポートが欲しいということはありますか?

A.
「アドレナリンが出ると、インスリンが全く効かなくなるんです。そして試合が終わって落ち着いた時に、血糖値がドーンと下がるということもあるので、高血糖だからといって、補正を入れ過ぎてしまうと良くありません。僕も試合の立ち上がりに打たれてしまうのは、たいていこの高血糖でした。いろいろ自分の体で試してみたのですが、対策としては、直前の食事をうどんにしてちょっと低血糖気味で試合に入るようにしていました。

血糖コントロールは楽しみながらやるとおもしろいものなので、子ども達にも『ゲーム感覚でやった方がいいよ』とアドバイスしています」

質疑応答の後は、社長からの謝辞 最後は、写真撮影と著書のプレゼントも

質疑応答に続いて、鼠家社長から岩田さんへのお礼の言葉がありました。

最後には会場にいる参加者全員に、サイン入りの著書「消えそうで消えないペン」のプレゼントを岩田さんが直々に手渡してくれて、写真撮影にも心よく応じてくれました。

お忙しい中、本当にありがとうございました。

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記事・取材:医療ライター 瀬田尚子


※当記事は2024年1月時点T-PEC Channel(https://t-pec.jp/ch/article/847)で作成されたものを元に、データやイラスト、一部文章を修正したものです。
※当記事は、2024年1月に作成されたものです。
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※当記事内の勉強会は、2023年11月に行われたものです。
※当記事は個人の体験談に基づくものです。