傷病休職中の給与や社会保険の扱いは?人事担当者であれば知っておきたいポイント
こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
今回は、人事担当者向けに、傷病休職中の給与の支払いや、職場復帰に向けての支援の仕方についてお届けします。解説は、ティーペックで人事・労務の相談業務を担当する舘野聡子さん(株式会社ISOCIA 代表取締役、特定社会保険労務士)です。(以下、舘野さん執筆)
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≪目次≫
◆1.傷病休職とは
◆2.傷病休職中の対応
◆3.職場復帰に向けての支援
◆4.スムーズな職場復帰支援のために
皆さまの職場でも「休職」をする方がいらっしゃると思います。特に注目を集めるのが、病気や怪我による傷病休職ではないでしょうか。傷病休職制度は、法に定めがないため、それぞれの職場で個別にルールを定めています。最近では、メンタルヘルス不調での傷病休職に該当する人が増加したことにより、傷病休職中の対応や職場復帰に向けての支援を求められる場面が増えてきています。
本稿では、改めて傷病休職とスムーズな職場復帰のために必要な職場の対応について整理します。本内容を職場における傷病休職の意味の再認識や、休職者への支援の参考にしていただければ幸いです。
1.傷病休職とは
傷病休職とは
まず、「休職」とは何かを整理しましょう。「休職」について、法律に定められた定義というものはありません。一般的には、「ある従業員について労務に従事されることが不能または不適当な事由が生じた場合に、使用者がその従業員に対し労働契約関係そのものは維持させながら労務への従事を免除することまたは禁止すること(菅野和夫著「労働法 第12版」弘文堂、2019年)と整理、理解されています。
「休職」には様々な種類が存在します。「傷病休職」の他、「事故欠勤休職(傷病以外の自己都合による欠勤)」、「起訴休職(刑事事件に関し起訴されたものを一定期間または判決確定までの期間休職とする)」、「出向休職(他社への出向期間中休職とする)」、「組合専従休職(専ら労働組合の業務に従事するために休職とする)」、などが主なものになります。
「傷病休職」は、「業務外の傷病が一定期間(3カ月~6カ月が普通)に及んだときに行われるもので、休職期間の長さは通常勤続年数や傷病の性質に応じて異なって定められる(前出 「労働法 第12版」弘文堂、2019)」ものとされています。一般的には、傷病休職期間中に、その原因となった傷病から回復し、就業が可能となった時点で休職期間は終了しますが、回復せずに休職期間が満了となった場合には、自然退職あるいは解雇となる制度です。
この制度があることにより、労働者は一定期間、職を失うことを心配せずに療養に専念することができます。使用者も療養の機会を提供することで労働者に戻ってきてもらうことができますし、制度があることが働く人の安心につながっています。
2.傷病休職中の対応
傷病休職中の待遇
一般的に傷病休職中は、労働を免除されている状態ですので、基本的に賃金が支払われることはありません(一定期間会社から補償がある場合もあります)。業務外の傷病の療養のために仕事ができないときは、健康保険から「傷病手当金」が支給されます。
傷病手当金の支給要件
①業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
②仕事に就くことができないこと
③連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
④休業した期間について給与の支払いがないこと
が要件です。
傷病手当金が支給される期間は、支給を開始した日から通算して1年6ヵ月です。仮に一時的に病状が良くなって出勤した場合など、その後再度休職し賃金が支払われない場合には、前後の期間が通算され、1年6ヵ月になるまで支払われます。
金額は1日あたり、支給開始日以前の継続した12ヵ月間の各月の標準月額を平均した額を30日で割り、3分の2を掛けた額になります。
傷病休職中の保険料その他
傷病休職期間中でも、社会保険料の個人負担分は免除にはなりません。休職者本人が個人負担分の保険料を会社に支払う必要があります。保険料額は休職に入った時点から変更は生じませんので、本人からどのような方法で支払ってもらうかを休職開始時に相談の上決めておく必要があります。住民税も特別徴収分も同様です。
傷病休職中の状況把握
傷病休職期間中も、定期的に職場の担当者から連絡をすることをお勧めします。傷病手当金や保険料の請求・納付などの事務的な連絡に加え、療養の状況を把握しておくとその後の職場復帰支援に役立ちます。ただし、休職のきっかけとなった傷病の原因が職場の人間関係等にあると考えられ、本人から「連絡してほしくない」との申出があった場合には、家族や主治医と連携してやり取りをすることもあり得ます。可能であれば傷病休職の開始時に連絡方法を決めておくとよいでしょう。
3.職場復帰に向けての支援
職場復帰支援の概要
傷病休職者の中でも、精神障害やメンタルヘルス不調を原因とする休職の場合、病状の評価が難しいこともあり、職場復帰のタイミングや支援をどのようにすれば良いか迷いが生じることも多いのではないでしょうか。国は「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(厚生労働省、独立行政法人労働者健康安全機構)を作成・公開して、職場における支援体制と支援方法を示しています。
手引きでは、休職開始時から、職場復帰、そして復帰後のフォローアップまでを5つのステップにわけ、それぞれのステップで行うべき対応を示しています。詳細は紙幅の関係で省略しますが、とりわけ注目すべき点として、休職開始時からすでに職場復帰支援が始まっているという点をあげたいと思います。
突然休職期間満了ギリギリになって職場復帰したいと申出があり、そのまま本人の希望通りに職場復帰させて良いか迷ったり、主治医の「復職が可能」という診断書を持参してきたが、どう見ても働ける状態に見えず、対応に困ったりということが生じています。これを避けるためには、あらかじめ職場における職場復帰までのプロセスを明確にすること、そして明確になったプロセスを休職開始時点で休職者に明示することが重要です。
併せて、休職者の体調に関することは要配慮個人情報として、取り扱う人を明確にした上で、厳重に取り扱うことなどを取り決め、規定を作成し周知しておきましょう。これによって個人情報の取り扱いへの迷いや不安を払拭することができます。
職場復帰の判断
職場復帰の可否を決定する主体は使用者、会社です。休職は、「労務に従事させることが不能あるいは不適当な事由が生じた場合に、会社が主体となって労働義務を免除することまたは禁止すること」ですから、休職者の傷病が回復し、就業が可能な状態になっているかどうかを会社が確認し、職場復帰の可否の判断をすることが必要になります。
確認のためには、その人が傷病から回復し、就業が可能であるという客観的な情報が必要です。「職場復帰支援の手引き」では、主治医による職場復帰が可能という判断が記された診断書の提出を求める、とあります。ただし、主治医による判断は日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません(「手引き」より)。このため産業医等が精査した上で、とるべき対応に関する意見を取得します。
また、回復状況を客観的に判断するために、通勤時間帯に事業所まで通勤をしてみる通勤訓練、一定時間事業所で過ごして体力・集中力の回復状況を確認する試し出勤等を実施する場合もあります。これらの施策を実施するためには、あらかじめ実施の方法などを内規などに定めておきましょう。
「手引き」ではこれら収集した情報を基に、産業医や産業保健スタッフが中心となって職場復帰の可否を判断し、会社が最終決定をする流れが示されています。
判断は慎重に
傷病休職に関する労働トラブルで最も多いのが、職場復帰の判断です。前述したように休職期間満了までに、休職事由が消滅している(=傷病休職の場合、回復し就業可能となっている)かどうかが争点となっています。
傷病が良くなっていないにもかかわらず、休職期間満了前にどうしても職場復帰したいという意向で復帰を希望する人をそのまま受け入れてしまうと、再休職となる可能性も高く、パフォーマンスもあがらないまま勤務し続けるという状況を生み出してしまうことがあります。主治医とのコミュニケーションを十分にとり、客観的な情報をできる限り収集した上で判断しましょう。ここでは産業医など専門家の意見も重要です。
4.スムーズな職場復帰支援のために
傷病休職の職場復帰支援
傷病休職の職場復帰支援をスムーズに進めるためには、体制づくりと対応マニュアルの作成が欠かせません。
前述の職場復帰支援の手引きを参考に、
・職場復帰支援を中心となって進める担当者
・職場復帰支援のプロセス(休職開始~復帰後のフォローアップまで)
・主治医、産業医、社内の産業保健スタッフ、人事労務担当者、事業場外の専門家や資源との連携方法
・職場復帰の目安と支援方法
などを明記した「職場復帰支援プログラム」をマニュアルとして作成しましょう。
作成にあたっては、産業医の意見を聴き、衛生委員会で検討して全労働者に周知します。
こういったマニュアルがあることで、休職者も担当者も安心することができます。
傷病休職と職場復帰の支援について述べてきました。傷病休職の意味を理解した上で、職場復帰支援のために必要な体制づくり、対応を積み重ねていきましょう。
<事務局より>以下より、従業員の休職・復職対応に必要な対策について解説している資料をダウンロードいただけます。ぜひご活用ください。
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参考
・菅野和夫「法律学講座双書 労働法 第12版」弘文堂、2019
・厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000857062.pdf
・厚生労働省、独立行政法人労働者健康安全機構「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」
https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf
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プロフィール
舘野聡子
オフィスブリーゼ 代表
株式会社 イソシア 代表取締役
舘野 聡子(たての さとこ)
同志社大学 法学部 法律学科卒業 労働法専攻
筑波大学大学院人間総合科学研究科 生涯発達専攻 カウンセリングコース修了 カウンセリング修士
大学卒業後、民間企業・社労士事務所等に勤務後、ハラスメント中心のコンサルティング会社にて、相談員、問題解決のためのコンサルティング業務に従事。その後産業医事務所において事務長として産業保健領域での問題解決及び産業医・産業保健師のマネジメント等を行う。
2015年に独立後は、社労士として産業保健領域での規程(メンタルヘルスの休職・復職、健康情報の取り扱い、ストレスチェック実施、衛生委員会等)の作成と、ハラスメント・コンプライアンスの相談窓口の体制づくり及び運用等及び問題を生じさせないための教育研修を得意とし、数多く実施している。
【学歴】
同志社大学 法学部 法律学科
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 生涯発達専攻 カウンセリング修士
【保有資格等】
特定社会保険労務士 公認心理師 シニア産業カウンセラー 21世紀職業財団ハラスメント防止コンサルタント
国家資格キャリアコンサルタント 経営倫理士 医療労務コンサルタント メンタルヘルス法務主任者(第1期生)
東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野 職場のメンタルヘルス専門家養成コース修了(第7期)
【所属学会】
産業保健法学会 日本産業ストレス学会 日本心理学会 産業組織心理学会
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※当記事は2023年7月に作成されたものです。