糖尿病と診断されたら放置は禁物! ~働きながら専門医のもとで治療を続けることがカギ~【医師監修】
こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
今回は「糖尿病」についてご紹介します。
病気療養をしながらの就労にはさまざまな課題があります。このうち糖尿病は、主に職場による通院への配慮によって治療が継続できれば、仕事との両立が可能な病気です。
しかし、健康診断などで糖尿病が疑われたものの、医療機関を受診していない方、定期的な受診ができずに治療を中断してしまう方が少なくないのが現状です。厚生労働省の「令和元年国民栄養・健康調査」によると、20~69歳の就労世代で糖尿病が強く疑われる人(*1)は、男性15.4%、女性6.2%で(※1)、このうち、糖尿病の治療を受けていない人(*2)は、男性18.1%、女性21.1%にのぼります(※1)。
*1 国民健康・栄養調査において、糖尿病が強く疑われる人:HbA1cの測定値があってHbA1c(NGSP)値が6.5%以上(平成23年まではHbA1c(JDS)値が6.1%以上、または糖尿病治療の有無に「有」と回答した人。厚生労働省の「令和元年国民栄養・健康調査」をもとにティーペック算出
*2 国民健康・栄養調査において、身体状況調査票の問診「現在糖尿病の治療の有無」(通院による定期的な検査や生活習慣の改善指導を含む)」に「無」と回答した人。厚生労働省の「令和元年国民栄養・健康調査」をもとにティーペック算出
さまざまな研究報告から、糖尿病患者さんの1年あたりの通院中断率は約5~8%とされています。受診中断の理由としては、「多忙」「交通の便が悪い」「病院が遠い」「経済的な理由」などが挙げられています(※2~5)。
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糖尿病の原因:9割以上が生活習慣に起因する2型糖尿病
糖尿病は、すい臓のβ細胞から分泌される「インスリン」というホルモンの不足、作用の低下により引き起こされる病気です。インスリンによる血糖を下げる作用が弱まると、血液中のブドウ糖濃度が慢性的に高くなります。
糖尿病は原因により大きく2つに分類されます。
●1型糖尿病
インスリンを作り出すβ細胞が壊れてしまう病気で、自己免疫疾患などが主な原因といわれています。若くして発症することが多く、急に症状が出て、糖尿病と診断されるケースがほとんどです。
●2型糖尿病
糖尿病のうち約9割を占めるのが、2型糖尿病です(※6)。中高年に多くみられ、遺伝的な影響、生活習慣などの要素が複合的に影響することがわかっています。インスリンが出にくい(インスリン分泌低下)、効きにくい体質(インスリン抵抗性)などにより、インスリンが作用しにくくなることで、血液中に含まれるブドウ糖の濃度(血糖値)が上昇します。
この2つの種類以外にも、ほかの病気や薬の影響、妊娠中に糖代謝異常が生じる妊娠糖尿病などがあります。
糖尿病の症状:自覚症状が出る頃には慢性的な高血糖状態に
糖尿病は症状が出にくく、健康診断などで血糖値が高いことを指摘されるまで、患者さんが気づかないケースも少なくありません。しかし、自覚症状がなくても次のような人は、糖尿病のリスクが高い状態にあります。
【糖尿病のリスクが高い人】
・家系に糖尿病の人がいる
・肥満
・高血圧
・脂質代謝異常症
・大血管疾患(心血管疾患や脳血管疾患など)
また、血糖値が高いにもかかわらず放置していると、慢性的な高血糖になります。それによって次のような症状が出てきます。
【高血糖が続くことによる自覚症状】
・喉が渇く(口渇)
・水分をよく摂る(多飲)
・尿の回数が増える(多尿)
・体重が減っていく(体重減少)
・疲れやすい
・意識障害
自覚症状が出るほど血糖値が高い状態が続くと、血糖コントロールは極めて悪くなります。重篤になると意識障害が起きて昏睡状態に陥り、生命に関わることもあるため、自覚症状がなくても、「血糖値が高い」と指摘されたら、早めに医療機関を受診しましょう。
糖尿病の診断方法:血液検査で血糖値とHbA1cを測定
糖尿病の診断には、血液検査による血糖値とHbA1cの値が用いられます。血糖値が血液中に含まれるブドウ糖の濃度であるのに対し、HbA1cは、赤血球に含まれるヘモグロビンにブドウ糖がどのくらいの割合で結合しているかをみるものです。血糖値が直前の食事の影響によって変動するのに対し、HbA1cは約2か月の血糖が反映されます(※7)。
血液検査による血糖値、HbA1cの基準値は次の通りです(※8)。
【血糖値】
・空腹時血糖値≧126mg/dL
・随時血糖値≧200mg/dL
・75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT:2時間値)≧200mg/dL
【HbA1c】
・HbA1c≧6.5%
※8 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2019 糖尿病診断の指針」より
http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
【血糖値とHbA1c両方が基準値以上】
血糖値(空腹時、随時、OGTT)のいずれかが基準値以上で、HbA1cも基準値以上であれば、糖尿病と診断されます。
【血糖値のみが高い糖尿病型】
血糖値とHbA1cのいずれかが基準値以上の場合を「糖尿病型」といいます。血糖値のみ基準値以上の糖尿病型でも、次の条件のうちひとつが当てはれば、糖尿病と診断されます。
・糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)
・確実な糖尿病網膜症がある
この条件に当てはまらない場合には再検査を行い、血糖値、HbA1cいずれかが糖尿病型であれば、糖尿病と診断されます。再検査で糖尿病型ではなかった場合も「糖尿病疑い」として定期的に血糖値やHbA1cの検査を行う必要があります。
【HbA1cのみ糖尿病型】
再度血糖値測定を含む血液検査を行い、血糖値が糖尿病型であれば糖尿病と診断されます。HbA1cのみが糖尿病型である、あるいは再検査で血糖値、HbA1cともに基準値の範囲内だった場合は、「糖尿病疑い」として定期的な検査を行います。
糖尿病と診断された場合には合併症の有無を調べます。糖尿病網膜症をみるための眼底検査、糖尿病腎症をみるための尿検査などです。必要に応じて頸動脈エコーやABI(ankle brachial index:足関節上腕血圧比)、冠動脈CT、頭部MRI、全身の動脈硬化がどの程度進んでいるかなどの検査を行うこともあります。
糖尿病の重大な合併症
糖尿病の3大合併症は神経障害、腎症、網膜症です。これらの合併症を防ぐには、血糖コントロールが重要であり、治療を継続することが大切です。
●糖尿病神経障害
高血糖が続くことで、感覚が鈍くなって痛みを感じにくくなる、しびれや痛みが出るのが神経障害です。その他にも、起立性低血圧や筋肉の萎縮、勃起障害を引き起こすことがあります。
足の低温やけどや細菌感染、潰瘍から足の壊疽が起こると切断を余儀なくされることがあり、定期的な足の観察やフットケアが推奨されています。
●糖尿病腎症
腎臓は血流が豊富で、糖尿病で血管が傷つけられると機能低下をきたしやすい臓器です。尿に少量アルブミンが混じるところから腎症がはじまり、腎機能が急激に低下して、透析導入となる可能性があり、糖尿病腎症は透析導入となる原因の1位です(※9)。
●糖尿病網膜症
糖尿病により、眼にも影響が及ぶことがあります。自覚症状がなく進行するため、糖尿病と診断されたら、定期的に眼底検査を行うことが大切です。突然の飛蚊症や急激な視力低下、硝子体出血を認める場合にも糖尿病網膜症の可能性があります。
また、糖尿病は動脈硬化を進行させる大きなリスクのひとつです。糖尿病の血糖コントロールは脳梗塞や狭心症、心筋梗塞といった動脈硬化による大血管症のリスクを抑えることにもつながります。
糖尿病は初期の段階では自覚症状がないため、治療を後回しにしてしまったり、自身の勝手な判断で治療を中断してしまったりするケースも少なくありません。しかし、そのことが原因で気づかない間に重大な合併症へと進行してしまう恐れもあるのです。「仕事が忙しい」などを理由に、病気を放置するのではなく、自覚症状が現れる前に専門医のもとで継続治療を受けることが重要です。
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執筆者
木村 眞樹子医師
医学部を卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。
妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、webメディアで発信も行っている。
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参考文献
・※1 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」
https://www.mhlw.go.jp/content/000710991.pdf
・※2 川井紘一『糖尿病治療を中断させない工夫(1)医歯薬出版株式会社 、プラクティス24巻2号、p.185-189、2007年
・※3 菅原薫ほか『当院における糖尿病治療継続援助対策とその評価 受診全糖尿病患者の通院状況と通院中断理由』一般社団法人 日本糖尿病学会、糖尿病,47、p.313-318、2004年
・※4 Kawahara R. et al.『Dropout of young non-insulin-dependent diabetics from diabetic care』 Diabetes research and clinical practice 24、 p.181-185、 1994年
・※5 Graber AL. et al.『 Dropout and relapse during diabetes care』 Diabetes Care, 15、p.1477-1483、 1992年
・※6 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病を改善するための運動」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-05-005.html
・※7 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-002.html
・※9 日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況 2020年末の慢性透析患者に関する集計」
https://docs.jsdt.or.jp/overview/index.html
・厚生労働省:事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/000492961.pdf
・「糖尿病受診中断対策包括ガイド」作成ワーキンググループ:糖尿病受診中断対策包括ガイド.厚生労働科学研究「患者データベースに基づく糖尿病の新規合併症マーカーの探索と均てん化に関する研究-合併症予防と受診中断抑止の視点から」(H25-循環器等(生習)―一般―016)
http://human-data.or.jp/wp/wp-content/uploads/2018/07/dm_jushinchudan_guide43_e.pdf
・日本産科婦人科学会:妊娠糖尿病
https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=3
・国立国際医療研究センター糖尿病情報センター:診断と検査
https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/030/index.html
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※当記事は2022年4月に作成されたものです。