特集
従業員への効果的な伝え方 2022/02/07

「ためしてガッテン」仕掛け人、北折Dに聞く! 食えないプレゼン・食いつくプレゼン ①やばいっす。「いいけどダメ」は、かなりダメ

健康演出アドバイザー
(元NHK「ためしてガッテン」専任ディレクター)
北折 一

NHKで21年間も続いた人気番組「ためしてガッテン」(その後も「ガッテン!」に変わり継続)の仕掛人・北折一さんが、ついに登場!あの「計るだけダイエット」の開発者でもある北折さんが、「社員さんの健康づくりのためにがんばってるけど、イマイチ響いてないみたい…」という皆さまのお悩みに、ズバリ!というかピシャリ!というか、一刀両断に!というか、…ガッツリ向き合って、「健康経営」に大切な秘策を教えてくれます。ちょい辛口(?)なので、気の弱い方は心してお読みくださいね。

≪目次≫
◆テレビ屋だから見えるもの
◆メッタキリオが来たぞ。
◆では、ボチボチ斬りましょーかね。
◆ナッジを学ばねば、と思う人にも。

テレビ屋だから見えるもの

はじめまして。…じゃない人もいらっしゃるかもしれませんね。健康づくりの分野では、20年ほど前から相当あちらこちらで講演や研修をさせていただいてますので、受講された方もおられるでしょう。じつはその経験を通じて、たくさん見ちゃいました。「あ、こりゃダメだ」ってのを、ホントたくさん。

はじめましての方には、先にお伝えしときますね。ぼく、全然こわくないですから。ダメなものやヤル気の無いものを見ると、メッタ斬りにしちゃうこともありますが、それは決して「習性上、反射的にやってしまう」ものではなく、「結果として何が起きればよいか」を、ぼくなりに深~く考えた上での行動ですから。たま~に、出血多量の方もありますけどね。
逆に、「初めて目が覚めました」という人が山ほどおられるのも、また事実。「10年間、産業保健師として自分なりにがんばったつもりだったけど、何にもしてなかったことに気づきました。医者でも専門職でもない人に、自分の人生をたった1日で変えられるとは思ってもみませんでした」……というお手紙をくださった方は、その後あれよあれよという間に「社員やせさせ名人」になってしまって、厚生労動省から表彰されちゃったりもしてます。

あの…おわかりですね。何年も眠ってた人を目覚めさせるには、やさしく揺り起こそうにも、全然ムリ。「王子様のキス」くらいにキョーレツなものじゃないとね。ぼくは王子様でなく単なる庶民なので、キスではなくメッタ斬りくらいしか方法が無いと言いますか…。いずれにしても、「長年それでOKだったもの」を「考え方そのもの」から変えていくには、ある程度のショック療法は必要ということです。

「長年それでOKだったものをいきなり変える必要があるのかどうか…」が、皆さんには大きなギモンかもしれません。申し訳ないですが、これについての答えは、「変えなきゃダメに決まってましょーが!!」です。どっぷりつかっちゃってた人には見えにくいでしょうけど、健康づくりに携わってる方々の作るチラシやポスター・通知文・けんぽ便り・健康教室のパワポ、そして保健指導そのものも、まあかなりな勢いで、「全然イマイチ」ばっかですからね。特に、「今までそれで問題が起きてないんだから、別にいいじゃないか」的な人がひとりでもいる職場では、自分たちで気づくことは難しいでしょう。仮に気づいた人がいても、結局変わらないままだと思います。前述の保健師さんも、実際に10年間も「自分としてはがんばってたのに、眠ってただけだった」わけで。中から見えないものは外の人が見るしかないですよね。だからこその、テレビ屋登場ってわけです。

で。次なるギモンは「なぜテレビ屋には見えるのか」。これは、簡単です。「食いつかせてナンボ」の仕事を、死ぬ思いでやり続けてきたからです。「食いつかなかったら即アウト」の世界で。
一般に皆さんのお仕事は、たとえば栄養教室を主催するとして、30人募集のところ7人しか来なかったとしても、「こーゆーのあんまり来ないんだよねー」ですんじゃったりしてませんか? そして次の機会もそんな感じで過ぎてゆく。番組制作は違います。そんなことになっちゃったら、どこかに消え入りたくなる気持ちを無理やり抑えて、次はどうするべきかを必死で考え、それでやってみてダメだったら転職か失踪を考えます。そーゆー人じゃないと良い仕事はできないし回ってこない。……という中で鍛えられてますからね。当然、「世間の人はどういうものに食いつき、どういうものには食いつかないか」を把握する努力と試行錯誤をめっちゃ続けてます。だから見えるのです。

じつは皆さんの作品、NHKのダメな番組とそっくりだったりもするのです。「正しくきちんと伝えなきゃ」だけでやっちゃうもんだから、クソおもしろくもない。NHKのどこがどうダメかを徹底的にチェックしてたら、自動的に「ためしてガッテン」はNHK史上初の高視聴率長寿番組になっちゃったというワケ(今は残念なことになってますが)。
そうした中で身につけてきた「特殊能力」は、ほかのことにも応用が効くはずだと考えていたぼくと、「健康づくり」のお仕事をされている方々の需要が一致したために、全国でたくさん研修をおこなってきたのですが、新コロのせいでそれもままならなくなりましてね。そこに目をつけたのが、ティーペックさんだったというわけです。時間の余裕ができたなら、「わくわくT-PEC」でイマイチな健康教室等のチラシの、添削をやらないかと。

メッタキリオが来たぞ。

長い前置きはこの辺で終わるとして。ズバリ言います。イマイチなものを、イマイチと知りながら続けるのは、悪です。迷惑です。そう思わなかったら、アウトです。プロとして失格です。
だって、社員の健康のためにやってるんですよ。法律で決まってるとかなんとかじゃなく、社員がしっかり働けるためのプロとして雇われてるわけですから、ちゃんとできなかったら、それは会社に貢献していない=お給料をもらう資格が無いってこと。何か間違ってますか? ぼくは、そーゆーの「メッタ斬り」にしますから。

たとえばプロスポーツのチームで選手がケガばっかしてたら、トレーニングコーチは次のシーズンも契約してもらえるでしょうかって話。なぜか、企業の人事とか健康部門の人たちは、ヤル気があってしっかり実績を上げてる人もいる一方で、そうでない人も同じように給料もらい続けてますよね。……たぶん、「ウチの上司のことだよそれ!」と思った人少なからず、ですね。 
      
ここは編集部から削除してほしいと言われそうですが、ぼくのいたNHKには、職員の健康を真剣に考える人は、ぼくの知る限りゼロでした。皆無。かなりしつこく確認したので間違いありません。事実なので削除の必要も無いと考えます。証拠をお見せしましょう。これはNHKの社員食堂に置いてあった卓上メモです。

どうでしょう、このヤル気の無さ。これを全文読んだ職員は、おそらく1名でしょう。というより、3行以上読んだ人もほぼいないでしょう、ぼくを除いて。もちろん、国のお墨付きなので、間違ったことは書いてありません。この指針に従えば、それは健全で健康的な食事のあり方であると言えましょう。でも、だ~~~れも読まないものを、社員の憩いの場に並べ立てて、それで仕事した気になるって、何なんですのって話じゃないですか。これを読んで、「お、なるほどそうか!よーし、今晩からは調理方法が偏らないように頑張るぞ!」と思う職員がただの1名でもいると思ったんでしょうか。むしろ単なる嫌がらせレベルですね。(もちろんそのことは、これを置いた人に直接指摘をし、どこがどうダメかを解説した上で、「ダメな例」として使わせていただくことの承認も得ています。快諾していただいてますよ。世の管理栄養士の役に立つならば、と。)

その後、NHKでは総医長も管理栄養士も替わり、食堂の卓上メモも随分と変わりました。「●●先生のメタボ指南」とかいうタイトルで医師が自分で書いてましたが、これが輪をかけてひどい。あまりのひどさに、何枚かこっそり持ち帰っちゃったほどです。そこまでひどい会社はそうそうないかもしれませんが、まあ五十歩百歩。イマイチなものを放置するのは悪なので、斬らせていただきます。ズバズバズタズタに。ホントはこわくない人なのに心を鬼にして斬るために、メッタキリオという名の「別キャラ」で担当させていただきます。

では、ボチボチ斬りましょーかね。

さしあたって今回は、3点ご用意しました。

はい、3つとも「いい感じ」でよろしくないですね。13代目石川五エ門の斬鉄剣も、うずうずしちゃうようなできばえです。ちょっと見てみましょーか。
じつはぼく、すでに皆さんにある大事なものを配布し終えています。その大事なものとは何なのか。見た後にお伝えしますね。

では①から。ある会社の健康教室のお知らせです。気持ちはわからんでもないです。「糖尿病・高血圧」というネガティブな文言を避けて、やさしくソフトに…。しかも、ただのお説教教室になりがちなところ、グループワークや体験コーナーまで準備して、「制限しましょう」ではなく「豊かな食生活」を目指す。でも、なんか「う~ん」な感じがしちゃいますよね。

②は、検査でよろしくない数値が出た人に、病院での受診を勧める際に同封したものでしょう。カラフルで目を引きやすく、検査に引っかかった人が知っておくべきことが、イラスト入りでコンパクトにまとまってます。糖尿病の怖さについては、ちゃんと知っといてもらわないとね。甘く見ると後々大変なことになりますからね。…が、やっぱりこれも、よくできてはいるもののなんだか「う~ん」って感じではありますよね。

③は、通知文です。やはり引っかかった人向けに、「ちゃんと病院に行って診察を受けてきなさい」と指示を出したもの。「味気ない」の極みと言えばその通りなのですが、「通知は通知なんだから、これ以上どーしよーもない」と言えば、それもまったくその通り。実際に受診してその結果を医務室に持ってくるかどうかは、「会社(上長)からの強制力がどれくらい強いか」にかかっていて、この通知文の出来不出来のせいだとは思えない。でも、それでも味気ないっちゃ味気ない……。

多くの方の感想は、「いやー確かに3つともイマイチだなあ」だと思います。ダメってわけではないのに、イマイチ。現時点では、それが「正解」です。

先ほどぼくは、「皆さんにある大事なものをお配りした」と言いましたね。それは、こうした「お知らせ」などを作る際に、どんなテクニック論よりも大事な「ある道具」です。その道具とは、「ねがめ」。あ、いや「めがね」です(わかりますね、記憶に残すためにワザと間違えてますよ)。

皆さんが「どれもイマイチだよな」と思った理由は、この連載のタイトルを見た瞬間から始まって、何度か「メッタ斬り」の文言を目にしているうちに、今から見るのは「ダメなものに決まってる」…という「先入観」を持ったからなのです。もしも別のタイミングで、ただ単に職場のメールボックスにこれが入っていたとしたら、どうでしょうか。すごく見慣れたレベルのものなので、「別に何とも思わなかった」でしょう。この記事を読み始めてわずか数分で、イマイチなものがイマイチに見えるようになったというワケです。偉大な第一歩。

ただ、ぼくからすればこれらはイマイチでもなんでもありません。「まったくダメレベル」です。むしろ、この3例のように、「一見ダメじゃない」ものや「けっこうちゃんとできてはいる」ものの方が、タチが悪いすね。つーか、この①のチラシで誰が来るっつんでしょーか!!他に何の娯楽もない時代に、ものすごく従順な人たちに声をかけて回れば、多少は参加者もいたでしょーけど…。②にしても、半強制なら多少は受診もするでしょうが、そうでなければこれを全社員に配ったところで、「よほどな人」以外はほぼ全員が、数秒で紙ゴミボックスに投入することでしょう。そんなものを作って配る人を、果たしてプロと呼べるでしょうか。近いうちに病気になりそうな人をみすみす取り逃がしておいて、「来ないのよねー」とか言ってて、お給料もらっちゃってていいんでしょーか。耳が痛いかもしれませんが、そーゆー話ですよね、実際。

ナッジを学ばねば、と思う人にも。

すみません、ここでちょっと、前言を撤回させていただきたいんですけど。先ほど「めがねを配った」と言いましたが、本当は皆さんがあらかじめ装着していた「ヘンなめがね」をはずした、ということなのです。「慣れ」という名の「ド近眼めがね」を、ね。ふつーの人はふつーに、これを見たら即座にゴミと判断する目を持っている。それと同じ目で見るために、そのおかしなド近眼めがねをはずすこと。このことにより、皆さんはスタートラインに立つことができたというワケなのです。

じつは、健康づくりや健康教育の分野で最近一大トレンドとなっている「ナッジ」もまったく同じこと。ふつーの人はどんな時にどんな判断や行動をするのか。それは、アタマで論理的に考える「理屈」とか「合理性」とはけっこうズレてることがわかってきたんですね。だからこそ不適切な行動をなかなかやめなかったり、絶対にやっておいた方がいいことをやらないままなのが人間なのだと。その研究がノーベル賞まで取っちゃったもんだから、厚労省がいきなり「やろうよやろうよ」と言い出してる状態こそが、昨今のナッジブームなのです。でも、考えてみりゃ当たり前の話なんですよね。だって、ふつーの人のふつーの行動なんだもん。学術研究の対象となったことが新しいだけで、上手に商売してる人は昔からやってる手法だし、高視聴率の番組を作るためにふつーに不可欠だったテクニックが、「ほぼほぼ全面的にナッジ」だったということです。

この連載(とりあえず3回)では、そのナッジ理論も踏まえた上で、より実践的な形で皆さんのお仕事のイマイチな部分…つーか全然ダメな部分を思いっきりブラッシュアップさせる方法論を伝えていきます。きょう皆さんは、とりあえず「相手はこれをどー見るのか」を想像する、心の目をゲットしました。次回からはこれの「どこがどうダメか」を細かく具体的に、徹底的に斬った上で、「じゃあどうすればいいのか」をガンガンお教えしていきます。先に言っておきますが、めっちゃよくなりますよ、皆さん。2~3時間教えただけで一撃で素晴らしい作品を作れるようになる人が、全国には山ほどおられます。そのためのメッタ斬りなんで、まあ多少の痛みはガマンしていただかないとね。よろしくで~す!!

※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※当記事は2022年1月に作成されたものです。