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withコロナ 2021/08/31

コロナ下の子どものメンタルヘルスケア方法と注意点は?(医師監修)

新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために、子どもたちは外出や友達との遊びを制限され、メンタルヘルス不調が起きやすくなっています。保護者ができる子どものメンタルヘルスケア方法と注意点を、医師の渡邊宏行先生が解説します。

≪目次≫
◆コロナ下において、子どものメンタルヘルスケアが必要な理由
◆メンタルヘルスケアでは、いつもと違う子どもの言動を察知することが大切
◆子どものメンタルヘルスケアで親ができることは?
◆子どものメンタルヘルスケアを行う上での注意点
◆親も元気な状態で、子どものメンタルヘルスケアをしよう

コロナ下において、子どものメンタルヘルスケアが必要な理由

新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために、子どもたちは外出することや友達と遊ぶことを制限されたり、ずっとマスクを着けさせられたりするなど、さまざまな我慢をしいられ、不安な気持ちの中で毎日を過ごしています。

こうした状況では、子どもたちがストレスを抱え続けるため、メンタルヘルス不調が起きやすくなっているのです。メンタルヘルス不調は放っておくと、重症化することがあるため、早期に子どもたちの異変に気づき、正しくメンタルヘルスケアをして防ぐことが必要なのです。

メンタルヘルスケアでは、いつもと違う子どもの言動を察知することが大切

子どもがストレスを抱えている場合、いつもと違う言動がストレスサインとして現れることが多くあります。そのため、まずは普段の子どもの様子をよく観察することが大切です。ここでは、いつもとは違う子どもの言動に気づくためのポイントを、3つ見ていきましょう。

ポイント1 行動の変化

子どもの行動の変化として、イライラする、集中力がなくなる、家族に対して反抗的になるといったことがないかを観察しましょう。物にあたったり、家族との喧嘩が増えたり、集中力を発揮するのが難しくなって、宿題がちゃんとできなくなったりする子もいます。

ストレスサインと気づかずに、こうした言動を注意した場合、親に対して反抗し、言うことを聞かなくなることがあります。中高生なら反抗期と捉えることもできますが、小学生以下の子どもの強い反発は、時に親にとってはショックかもしれません。こうした場合は、ストレスサインかもしれないと考えることが大切です。

ポイント2 体の変化

体に現れやすい変化としては、まず体重の増減が挙げられます。食欲がなくて体重が落ちる、反対に食べ過ぎて太る、お菓子はたくさん食べるのに、食事はほとんど手をつけないという状態に陥る子もいるのです。

また、夜にきちんと睡眠がとれず、昼間にずっと眠たそうにしているケースもあります。睡眠リズムが崩れ、昼夜逆転に近い生活リズムになると、体調を崩す原因になるので注意が必要です。
時には、頭痛や腹痛、息苦しさを訴えるといった病気に近い症状が見られることもありますので、子どもの体の変化をよく観察しましょう。

ポイント3 表情の変化

ストレスを抱えると、子どもは表情に現れることが多くあります。いつもぼんやりしている、以前と比べて笑わなくなった、急に泣き出す、元気がなくて無表情、顔色が悪いといった兆候は、ストレスサインです。優しく見守りながら変化を見ていきましょう。

子どものメンタルヘルスケアで親ができることは?

では、上記のような変化が子どもに現れた場合、どういったメンタルヘルスケアを行えばいいのでしょうか。ここでは、具体的な対処法をご紹介しますので、ぜひお役立てください。

子どもが楽しく話せることや心配事を聞き、肯定的な言葉をかける

親が子どものメンタルヘルスケアを行う上で、子どもとコミュニケーションする時間を設けることが大切です。最近の出来事や楽しかったことなどを質問してみて、できるだけ話を聞くようにします。好きなゲームやアニメの話でも構いません。子どもが楽しく話せるような雰囲気を作ることに注力しましょう。

また、子どもがイライラしていたり、落ち込んでいたりしていたら、肯定的な言葉をかけてみてください。子どもの長所や何気ないことでもほめたり、過去のポジティブなエピソードを思い出して話したりすると、子どもは安心することがあります。

時には、新型コロナウイルス感染症についてなど、世の中で今、何が起きているのか、何が危ないのか、世界の人たちがどのように日々を過ごしているのかなどを話すことで、子どもが心配に思っていることを聞き出せることがあります。わからないことがあれば、いっしょにインターネットなどで調べるなど、ともに行動することも、子どもが前向きな気持ちになれる方法です。

規則正しい生活をサポートする

子どもといっしょに規則正しい生活をする努力をしましょう。まずは、朝食をきちんと食べ、夕食も同じ時間帯にいっしょに食べ、話をするようにします。昼食時に子どもが家にいるなら、朝食や夕食と同じように接します。

また、決まった時間に、入浴することや就寝することを習慣づけるのも、生活リズムを整えるのに役立ちます。夜にしっかりと睡眠をとり、朝にきちんと起きて太陽の光を浴びれば、体内時計も正しく動き出すはずです。

ストレッチや手遊びをいっしょに行う

時間があるときはストレッチや手遊びなど、体をいっしょに動かすこともリラックス効果があるのでおすすめです。家の近所を散歩するだけでも、多少なりとも運動不足が解消され、自然なコミュニケーションがとれるでしょう。

子どもが不安を感じる映像や情報を見たときに声をかける

テレビやラジオ、SNSを見ていると、新型コロナウイルス感染症のニュースや自然災害などの不安を感じる映像・情報が流れることがあります。そんなとき、慌てて情報を遮断すると子どもは不審に思ったり、状況がわからず、さらに不安になったりすることがあるのです。
子どもが不安を感じるような映像や情報を見たときには、子どもの様子を見ながら、「大丈夫だよ」と声をかけたり、状況を説明してフォローしたりするなど、子どもが安心感を抱けるように接しましょう。

親子カウンセリングを利用する

子どもの不安感がとても強く見える場合は、子どもが通う学校のカウンセラーに相談してみることもおすすめです。なお、スクールカウンセラーは児童や生徒だけではなく、保護者からの相談も受けつけています。
もし、「子どもが学校に行けなくなった」「友達と遊べなくなった」「親もメンタルヘルスの面で疲れている」という症状が強い場合は、心療内科や精神科の親子カウンセリングを利用しましょう。

心療内科や精神科に相談するのは、ハードルが高いと感じるかもしれません。しかし、メンタルヘルスのプロのカウンセリングを受けると、これまで気づかなかったような思いを引き出してくれるため、子どもも親も心が軽くなることが期待できます。

子どものメンタルヘルスケアを行う上での注意点

最後に、子どものメンタルヘルスケアを行う上での注意点を紹介します。大事なポイントとなりますので、ぜひ意識して、メンタルヘルスケアに役立ててください。

保護者自身のメンタルヘルスケアも必要

保護者自身が、新型コロナウイルス感染症の影響や経済状況などで心身ともにダメージを受け、不安を感じたり、イライラしたりしている場合は、その感情が子どもにも伝わります。子どもに元気がなく、イライラしているのは、もしかしたら保護者の感情がうつっているだけかもしれません。

日々のストレスのほかに、コロナ下では、我慢をしいられる生活が続いているため、保護者自身もメンタルヘルス不調になることがあります。不調を感じたら、早い段階で周りの誰かに話を聞いてもらう、気晴らしをしてみる、心理系の専門家のカウンセリングを受けるなどのケアを行いましょう。

子どもを安心させる環境づくりができるかどうか

コロナ下では、親がテレワークのためにリビングに仕事のスペースを作ることになり、子どもたちがくつろげるスペースがなくなったなどという家庭もあります。家族がずっと家にいるようになったら、ささいなことでも喧嘩するといったケースも少なくありません。

親同士や家庭内の雰囲気がとげとげしくなると、どうしても子どもに悪影響が及んでしまうのです。さまざまな問題はあるけれど、家族の仲は良い、家族といると楽しいという雰囲気を作ることが子どもにとっては安心感につながります。

親ががんばりすぎないこと

子どものメンタルヘルス不調を予防するために、がんばりすぎて保護者が一人で悩みを抱え込んでしまうことがあります。メンタルヘルスケアは、すべてを完璧に行う必要はありません。基本的な考え方を押さえて、保護者が元気な状態で子どもと接することが大切です。
社会情勢の不安を、子どもは敏感に感じ取っています。同じように、親の不安な様子は子どもにも伝わりますので、がんばりすぎている場合は、肩の力を抜くことから始めてみてください。

子どもと話す、遊ぶ、いっしょに何か作業するなど、自分も楽しみながら子どもと毎日を過ごすように意識してみましょう。親として大切なのは、必要なときに子どもの近くにいて、見守ってあげることです。

一方的に子どもに心配事をぶつけない

子どもを守りたいがゆえに、メンタルヘルス不調が出ていないか執拗に質問したり、心配していることを一方的に伝えたりすると、子どもは重荷に感じてしまいます。親に本音が語れなくなったり、距離をとりたくなったりする場合がありますので、注意しましょう。
子どもとも適度な距離を保って、お互いに楽しい時間を過ごせるように心掛けることが大切です。

親も元気な状態で、子どものメンタルヘルスケアをしよう

コロナ下の子どもたちは、外出することや友達と遊ぶことも制限が設けられており、我慢をしいられています。四六時中、着けることを推奨されるマスクは息苦しく、そのような状態の中ではストレスを抱え、メンタルヘルスに不調が起こるリスクが高まるのです。
大切な子どもを守るには、いつもの言動との違いを観察し、異変に早く気づいて、正しくケアをすることが大切です。また、保護者自身も子どもとのやりとりがうまくいかない場合は、がんばりすぎたり、一人で悩みを抱え込んだりするのではなく、適切にカウンセリングを受けるといった対策をしましょう。


<監修者プロフィール>
渡邊 宏行 医師

【専門分野】
産業医、精神科全般
【略歴】
日本精神神経学会、日本プライマリ・ケア連合学会、医師+(いしぷらす)所属。
信州大学医学部卒業後、大学附属病院、クリニック等を経て総合病院勤務。産業医活動に重点を置き、現在、嘱託産業医として活動中。システム開発、ゲーム開発、保険などのオフィス現場から製造、食品、薬剤等の工場や建設・物流、医療・介護施設など、業界は多岐にわたり、これまで70社以上の企業を担当。

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参考
・国立研究開発法人 国立成育医療研究センター「新型コロナウイルスと子どものストレスについて」
https://www.ncchd.go.jp/news/2020/20200410.html
・文部科学省 「保護者用 子供の心のケアのために」
https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/__icsFiles/afieldfile/2015/03/06/1355565_01.pdf
・国立研究開発法人 国立成育医療研究センター「新型コロナウイルスに負けないために リラクゼーション編」
https://www.ncchd.go.jp/news/2020/6faff78c4550746f93e6425d8b4d572773f4bb77.pdf
・国立研究開発法人 国立成育医療研究センター「新型コロナウイルスに負けないために セルフケア編」
https://www.ncchd.go.jp/news/2020/0acf48f6afa2b9af77e971502f2091248666607b.pdf
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※当記事は2021年8月に作成されたものです。