特集
医療のかかり方 2021/08/31

上手な医療のかかり方と遠隔健康医療相談の活用法を解説(医師監修)

厚生労働省では、上手な医療のかかり方の必要性を促進する活動が活発化しています。医療のかかり方を見直す必要性や上手に医療にかかる上でのポイントのほか、遠隔健康医療相談の活用法を医師の渡邊宏行先生が解説します。

≪目次≫
◆医療のかかり方の見直しが必要な理由とは?
◆なぜ医療費が増えているのか?
◆上手に医療にかかるポイントとは?
◆医療と上手に付き合っていくことが、医療費削減や医師の過重労働削減につながる

医療のかかり方の見直しが必要な理由とは?

厚生労働省では、2018年頃から「上手な医療のかかり方」の必要性を促進する活動を行うなど、医療のかかり方を見直そうとする動きが活発化しています。では、なぜ医療のかかり方を見直す必要があるのでしょうか。まずは、その背景からご説明します。

健康保険組合や国の財政、医療保険を支える世代の費用負担が増える

日本では、病院や診療所で診察、投薬、治療を受けても、医療保険制度が適用される場合は、患者が医療費を全額負担することはありません。医療保険制度では、患者の自己負担費用と医療保険制度による保険料収入のほか、国・地方自治体の公費によって医療費がまかなわれているため、患者は医療にかかるお金を一部負担するだけで済んでいるのです。
しかし、このような医療保険の仕組みは、少子高齢化になった現代において、医療保険・公費負担医療分の医療費が、年々増加傾向にあることから社会問題となっています。

厚生労働省の「令和元年度 医療費の動向」(2020年8月)によると、2019年度の医療保険・公費負担医療分の医療費は、過去最高の43.6兆円で、前年度に比べ約1兆円増加しました。(※)
※出典:厚生労働省『「令和元年度 医療費の動向」を公表します』

2018年時点の試算ですが、2040年には医療保険・公費負担医療分の医療費が66.7兆円に達するという経済財政諮問会議での政府推計もあります。(※)
※出典:内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)―概要―」平成30年5月21日

医療保険・公費負担医療分の医療費が増加すると、健康保険組合やその運営企業、さらにはそれを支える現役世代の人々に重い負担がのしかかる上に、国の財政も圧迫するのです。
こうした医療費増加を抑えるには、医療にかかることを控えるのではなく、正しく医療を受けることが効果的といわれています。そのために、医療のかかり方を見直す動きが活発化しているのです。

急病人が後回しにされる可能性がある

医療のかかり方を見直す理由として、適切な医療のかかり方をしていないと、緊急で行うべき処置が後回しにされる可能性があることも挙げられます。
平日や夜間の時間外診療は、急病や重症などの緊急性の高い救急搬送患者のために設置されているものです。しかし、症状の軽い人が、「日中は仕事があるから」といった理由で、夜間の救急外来を利用すると、病院側が症状の軽い患者の対応に追われ、急病や重症患者のためのリソースが割かれてしまうのです。

医療のかかり方を見直すのは、こうした医療に関する国民一人ひとりのリテラシーを向上させることも意味しています。

なぜ医療費が増えているのか?

医療保険・公費負担医療分の医療費が増加している背景には、いくつかの理由があります。ここでは、その理由を詳しく見ていきましょう。

高齢者の増加

内閣府の「令和3年版高齢社会白書(概要版)」(2021年)によると、現在の日本では、総人口に占める65歳以上の人口の割合は28.8%で、超高齢社会となっています。(※)
※出典:内閣府「令和3年版高齢社会白書(全体版)」

高齢になるほど医療を必要とする機会が増えるのは当然ですが、高齢者数自体が増えることでトータルの医療費が増加しているのです。

なお、2022年には、日本での第一次ベビーブームだった団塊の世代に該当する、1947年に生まれた人が75歳を迎えるため、後期高齢者のゾーンが厚くなります。こうした超高齢社会の影響が、医療保険・公費負担医療分の医療費の増加に反映されているのです。

医学の進歩による、医療技術や新薬の高度化

医学の進歩によって、検査機器や治療機器などの新しい医療技術や新薬が登場していますが、それらを導入・採用するためには多くのコストがかかるため、治療費や薬代が上がります。
そもそも、画期的な新薬の開発には巨額の費用がかかるため、薬価(国が決める薬の価格)が高額になるのは致し方ない部分もあります。

しかし、高価な薬にも医療保険は適用されるほか、高額な医療費を支払った際に払い戻しができる高額療養費制度も利用できるため、患者の負担額は抑えられる一方、医療保険・公費負担医療分が負担する医療費は、さらなる増加が見込まれるのです。

生活習慣病の患者が増えている

高血圧症や糖尿病などの生活習慣病は、長期間にわたって治療薬を服用し続けることが多い病気です。薬を長期間飲み続けたとしても、医療費がとてつもなく高額になるというわけではありません。
しかし、生活習慣病の場合は、患者数の多さが問題になっており、その影響が医療費増加につながっているといえるでしょう。

上手に医療にかかるポイントとは?

上手に医療機関を利用するには、どういった点に気をつければいいのでしょうか。厚生労働省のウェブサイト「上手な医療のかかり方.jp」をもとに、5つのポイントをご紹介します。

ポイント1 気軽に相談できる、かかりつけ医を持つ

上手に医療にかかる上では、身近なクリニックなどの医師である「かかりつけ医」を持つことが重要です。日本医師会では、かかりつけ医を「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義しています。(※)
※出典:日本医師会「かかりつけ医を持ちましょう」

かかりつけ医を持っていれば、日常的な診療はもちろん、健康について心配事があったときも、気軽に相談することができます。また、同じ医師に診てもらうことで、患者の体質やアレルギー、生活習慣のほか、これまでの病状なども把握されやすくなるのです。
万一、専門的な検査や高度な治療が必要なときは、かかりつけ医に、症状に合った大きな病院の紹介状(診療情報提供書)を書いてもらうことができ、スムーズかつ適切につないでもらえます。

緊急時を除き、紹介状がないまま、いきなり大きな病院を受診すると、診察料のほかに5,000円以上の特別料金が上乗せされます。特別料金は自己負担となりますので、注意が必要です。
また、大きな病院では、クリニックなどでは行わない、高度な医療や重篤な患者の対応を行うように役割分担をしているので、軽い症状や本来の専門分野とは異なる症状の患者の対応に時間を費やすと、担うべき役割に支障が出るのです。その結果、医療費にも無駄が生じることになります。

なお、体の不調を感じても、自己判断で受診を控えたり先延ばしにしたりすると、その間に病状が進行してしまうことがあるため、かかりつけ医を持ち、適切な診療を受けることが大切です。
このように、かかりつけ医がいるクリニックなどと大きな病院の役割分担を知り、まずはかかりつけ医に診てもらうようにしましょう。

ポイント2 コンビニ受診・はしご受診をやめる

休日・夜間に緊急性の少ない軽症患者が救急外来を受診する「コンビニ受診」や、最初に受診した病院での治療が終わらないうちに、別の病院で最初から同じ病気の診察を受ける「はしご受診」は、患者自身が支払う費用が割高になります。それだけではなく、医師の負担を大きくすることになり、結果的に医療費増加にもつながりますので控えましょう。
なお、はしご受診は、主治医から紹介状や検査データを提供してもらって、ほかの病院を受診するセカンドオピニオンとは異なります。

ポイント3 ジェネリック医薬品を活用する

ジェネリック医薬品は、新薬(先発医薬品)と同様の有効成分を含む薬のことで、厚生労働省の承認を受け、国の基準や法律にもとづいて製造販売されています。
ジェネリック医薬品は、新薬に比べて安価になっているため、医療費を抑えるのに役立ちます。医師の判断のもと、オリジナルの薬でなくても良いと考えるなら、選択することが可能です。

ポイント4 遠隔健康医療相談を利用する

遠隔健康医療相談は、医師や医療従事者とオンラインまたは電話で、健康や医療についての相談ができるサービスです。
医療機関が行っているものと、民間企業が保健師や看護師を起用して行っているものがあります。
厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(2019年改訂)では、遠隔健康医療相談について、医師が行う場合と医師以外が行う場合を分けて説明していますが、いずれの場合も診療や診断は行わず、あくまで「相談」の範囲にとどまると定義しています。

遠隔健康医療相談は相談の範囲とはいえ、診療を受ける前にひとまず対応できることが多いため、上手な医療のかかり方として有効な手段といえるでしょう。中には、夜間休日や緊急時の対応のほか、「直接病院に行く前に相談したい」「かかりつけ医以外の医師や看護師などの意見を聞きたい」「対面では相談しづらいが話を聞きたい」といったニーズにも応えてくれるものもあります。

オンラインだからといって、必ずしもインターネットの環境が整っていて、映像と音声が必要というわけではありません。例えば、遠隔健康医療相談には、夜間や休日に子どもが急に熱を出したり、嘔吐したりした場合に小児科医師や看護師に相談できる「子ども医療電話相談(#8000)」、救急車を呼んだほうがいいのか判断を医師や看護師などからアドバイスをもらえる「救急安心センター事業(#7119)」などがあります。

上記の電話相談のほかにも、専用のアプリから24時間365日いつでも医師に相談ができるものや、メールまたはチャットで利用できるものもあります。新型コロナウイルス感染症の拡大防止のためにも、遠隔健康医療相談は有効です。
すぐに受診するべきか迷ったり、健康について気になることがあったりするときには、こうしたサービスを積極的に利用するのもいいでしょう。

なお、生活習慣病などの慢性疾患で、継続して医療機関にかかる場合は、診療の一部をオンライン診療にすることがあります。

ポイント5 日頃から健康に気をつける

日頃から健康に気をつけて、病気にかからないようにすれば、理想的な日々の生活を送ることができる上、医療費の削減にもつながります。
体調の変化があれば、かかりつけ医に相談したり、電話やオンラインでの遠隔健康医療相談のサービスを利用したりするなど、病状を早めに発見することや予防方法を聞くことも大切でしょう。

医療と上手に付き合っていくことが、医療費削減や医師の過重労働削減につながる

超高齢社会の現代においては、一人ひとりの国民が医療と上手に付き合っていくことが求められます。医療のかかり方を見直すことは、医療費の抑制につながり、医師や医療従事者のリソースを逼迫させずに、急病や重症患者の対応ができるようになるのです。
安心して医療を受けられるように、できることから始めてみてはいかがでしょうか。


<監修者プロフィール>
渡邊 宏行 医師 

【専門分野】
産業医、精神科全般
【略歴】
日本精神神経学会、日本プライマリ・ケア連合学会、医師+(いしぷらす)所属。
信州大学医学部卒業後、大学附属病院、クリニック等を経て総合病院勤務。産業医活動に重点を置き、現在、嘱託産業医として活動中。システム開発、ゲーム開発、保険などのオフィス現場から製造、食品、薬剤等の工場や建設・物流、医療・介護施設など、業界は多岐にわたり、これまで70社以上の企業を担当。

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出典・参考
・厚生労働省「上手な医療のかかり方.jp」
https://kakarikata.mhlw.go.jp/
・厚生労働省『「令和元年度 医療費の動向」を公表します』
https://www.mhlw.go.jp/topics/medias/year/19/dl/iryouhi_data.pdf
・内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)―概要―」平成30年5月21日
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2018/0521/shiryo_04-1.pdf
・内閣府「令和3年版高齢社会白書(全体版)」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf
・日本医師会「かかりつけ医を持ちましょう」
https://www.med.or.jp/people/kakari/
・厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」
https://www.mhlw.go.jp/content/000534254.pdf
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※当記事は2021年8月に作成されたものです。