復職トラブルを回避するために必要なポイントや注意点を解説

メンタルヘルス不調によって休職した従業員が復職する際に、思わぬトラブルに発展することがあります。コロナ禍で休職者の増加が懸念される今だからこそ、復職トラブルを回避するために人事担当者が知っておくべきポイントや注意点を、社会保険労務士の山本喜一先生が解説します。
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≪目次≫
◆人事担当者が抱える復職トラブルとは?
◆メンタルヘルス不調による休職者を抱える事業所が増加しているからこそ、事業所全体でのケアが求められる
◆復職対応を行う4つのポイント
◆休職から復帰までの流れと、人事担当者が気をつけるべきこと
◆ポイントを押さえた休職者ケアでトラブル回避を
人事担当者が抱える復職トラブルとは?
メンタルヘルス不調によって休職した従業員が復職する際、スムーズに復職できず再び休職や退職に至ったり、休職者と事業所のあいだでトラブルに発展したりすることが珍しくありません。まずは、復職トラブルはどういったケースがあるのか、よくある事例を見ていきましょう。
復職のタイミングを急ぎすぎて、再び休職する
休職者本人は、周りに迷惑をかけていると焦ったり、少し療養したことで治ったと思ったりするため、早期に職場復帰したいと申し出ることが多くあります。しかし、通常業務ができるほど心身が回復しきっていない中、急いで復帰することで病状が悪化して、再休職する可能性があるのです。
復職が可能かどうかは、休職者の回復状況を主治医や産業医などに専門的見解をもらうほか、人事担当者など複数名の客観的な視点で判断する必要があります。
事業所側は、休職者が職場復帰したいと思った気持ちを聞き入れた上で、客観的に見た現在の状況を説明し、休職者自身の状況を理解してもらうことが大切です。休職者には、復職のタイミングを焦らず、しっかりと療養することが必要であることを認識してもらえるように伝えましょう。
復職後のフォローが足りずに再び休職してしまう
従業員が休職に至った理由を事業所側が把握せず、根本的な問題解決やケアを行わないまま休職者を復職させると、病状が再発して、再び休職することになりかねません。
プライベートな事情によって休職した場合、過度に踏み込むことはよくありませんが、事業所としては、休職に至った経緯を把握し、組織の人間関係や業務量が原因である場合、復職時には配属先を見直すことや仕事量のバランスを調整するといった配慮が求められます。
復職の目処が立たない従業員に退職を勧奨したところ、不当解雇として訴えられた
復職を前提として休職制度を適用しているとはいえ、何度も休職を繰り返すなど、復職の目処が立たない従業員の場合、事業所としてはどこかで線引きが必要です。
しかし、休職制度の説明や休職中のフォロー、退職勧奨の方法が従業員にとって納得できるものでない場合、対応が不当であるとして事業所が訴えられたり、窓口対応をした担当者が個人的な恨みを買ったりすることがあります。休職者の復帰判断の指標や、休職期間満了後も復帰できない場合の対応など、自社の休職規定を設け、休職前に丁寧に説明しておくことが重要です。
メンタルヘルス不調による休職者を抱える事業所が増加しているからこそ、事業所全体でのケアが求められる
厚生労働省の「令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタルヘルス不調によって連続で1ヵ月以上休業した労働者がいた事業所の割合は7.8%(平成30年調査6.7%)、メンタルヘルス不調による退職者がいた事業所の割合は3.7%(平成30年調査5.8%)でした。退職した労働者がいた事業所の割合は減ったものの、休業した労働者がいた事業所の割合は増加傾向にあります。
※出典:厚生労働省「令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)」
近年では、新型コロナウイルス感染症への不安や自粛疲れなどによって、かつてないほどストレスが溜まっているところに、リモートワークなどの働き方やコミュニケーションの取り方の変化で、孤独感や不安感が追い打ちをかけていることもメンタルヘルス不調の要因となっています。
環境の変化に対応できず、休職に至るケースも少なくありませんので、人事担当者や部下を抱える管理監督者は、従業員に対して細心のケアが必要です。

復職対応を行う4つのポイント
前述した復職のトラブル事例を踏まえて、人事担当者が休職者の復職対応をスムーズに行うためには、4つの重要なポイントがあります。各ポイントについて、詳しく見ていきましょう。
1 休職制度を就業規則に明記する
そもそも、労働基準法や労働契約法に休職に関する規定はありません。そのため、休職制度の内容はもちろん、就業規則の中に休職制度を設けるかどうかは事業所の判断に委ねられています。
休職制度を設ける際には、復職についても組織として明確な方針を定め、記載しておくことが大切です。休職制度の中でも特に、下記の2点は就業規則に記載しておきましょう。
・休職期間や回数、休職期間満了後の対応
休職制度は、やむをえない事情で就労できなくなった従業員を一定期間守るものですが、事業所としてはどこかで線引きが必要です。休職できる期間や休職を取得できる回数のほか、休職期間を満了しても復職できない場合の対応については、後々不満や禍根を残さないよう、就業規則としてはっきり定めておきましょう。
・復職の可否は復職判定委員会が判断すること
復職判定委員会は、人事担当者や産業医、産業保健スタッフ、社労士、直属の上司など、社内外のスタッフで構成され、さまざまな視点から休職者の就労の現実性について検討します。復職判定委員会を立ち上げることによって、休職者の窓口担当者のみが責任を負わずに済み、就労能力を適切に判断できるといったメリットがあります。コロナ禍で休職者の増加が懸念される今、復職判定委員会の必要性は高まっているでしょう。
2 休職中の連絡対応をルール化する
コロナ禍で、休職者の上司にあたる管理監督者や人事担当者がテレワークになり、休職者から連絡しづらくなったり、社内の連携不足で、休職者への定期的な連絡が滞ったりする可能性が考えられます。休職した従業員が不安を抱かないよう、休職者との連絡窓口や連絡の頻度のほか、連絡方法といったルールを下記のように設定し、共有しておくといいでしょう。
・連絡の頻度
休職者への連絡は、頻繁すぎても、少なすぎても良くありません。「社会保険料の支払いのタイミングで連絡する」「病院を受診したら休職者から一報してもらう」など、関連する動きに合わせて連絡するタイミングを設けることがおすすめです。
・連絡窓口
メンタルヘルス不調が起きている従業員は、たくさんの人に対応することが難しい場合があります。休職者との連絡窓口は、人事担当者など1人に集約しましょう。
また、休職者は精神的に孤独だったり、復職できるかなどの不安を感じていたりすることがあります。業務上のやり取りだけではなく、気軽に相談してほしいと声をかけたり、社内の人に相談しにくい場合は外部の相談窓口を利用できたりすることを伝えておくのもおすすめです。
・連絡方法
休職者への連絡方法は電話に限定せず、オンラインツールやメールなどを活用します。休職者は、療養中に突然電話が鳴ることに不安や恐怖を感じる場合がありますので、メールを送信しておいて体調の良いときに返信してもらうなどのやり方でもいいでしょう。

3 関係者の情報連携を徹底する
メンタルヘルス不調による休職者は、突発的なことに対応しにくい傾向があります。休職者の直属の上司や人事担当者は、ルール外のタイミングで連絡したり、連絡が重複したりするなどのミスで休職者を刺激することがないよう、関係者同士で情報連携を徹底しましょう。
4 休職者の周りの従業員へのケアも必要
休職者がいる部署などでは、周りの従業員に、少なからず業務の負担がかかっていることがあります。この負担を放置しておくと、周りの従業員が休職者および組織の対応に対して不満を持つようになり、新たな問題につながる可能性があるのです。
人事担当者や管理監督者は、休職者の周囲の従業員に対してもケアが必要といえるでしょう。コロナ禍で従業員一人ひとりと直接対面する機会が少ない場合は、オンラインの1on1や面談を設け、仕事上の困り事や不満・不安を吸い上げて、早めに対処することが肝心です。
また、メンタルヘルスの不調に陥らないよう、従業員みずからが予防や対処ができるようにセルフケア研修を取り入れることも大切です。休職者の周りの従業員の中には、休職者に対するネガティブな感情を社内で相談することに引け目を感じ、不満を溜め込んでしまうことがあります。こうした場合を防ぐために、社外の相談窓口の必要性が高まっており、その案内や周知も必要といえるでしょう。
休職から復帰までの流れと、人事担当者が気をつけるべきこと
続いては、休職から復帰までの流れを解説します。各プロセスにおいて人事担当者が留意すべき点も、併せて見ていきましょう。
1. 従業員の不調に気づき、ラインケアで適切なサポートにつなげる
スムーズな復職を実現するには、従業員の不調に気づいてから休職に至るまでの対応が重要です。
従業員がメンタルヘルスに不調をきたしていると感じたら、病気の可能性(疾病性)よりも「仕事をする上で何に困っているか」(事例性)に注目し、状況を把握しましょう。
事例性とは、「遅刻・早退・欠勤が多い」「業務上のミスが多い」「社内外で対人トラブルを起こす」といった客観的に明らかな問題です。直属の上司など、ラインケアを担当する管理監督者は、面談などを通して「心配している」「周囲が困っている」といった事実を伝え、改善できる点を探ります。
その上で、何らかの病的な原因が介在していると判断したら、産業医や産業保健スタッフにつなげ、医療機関の受診へと道筋をつけていきます。

2. 業務遂行が難しい場合や病状悪化のリスクがある場合は休職を開始し、休職中のケアがスタート
基本的には、休職する従業員から主治医の診断書が提出されてから、休職を開始します。一方、該当の従業員が出社していることによって業務上の問題が大きすぎる場合や、その従業員が業務を続けることで症状が悪化する可能性がある場合のほか、自傷他害のおそれがある場合等は、安全配慮義務や職場秩序の維持の観点から、本人の意思とは関係なく、会社が休職命令を発する必要があります。
このとき、人事担当者は休職者に対して、就業規則に定められた休職期間や回数、復職判断、復職できない場合の対応、社会保険料の支払いが必要であることについて説明し、同意を得なくてはなりません。休職する従業員の状態によっては、休職者の家族に同席してもらうことも検討が必要です。
また、休職中の社内への連絡や相談窓口、社外相談窓口のほか、精神科での通院治療にかかる医療費負担が軽減される「自立支援医療」といった制度についても伝えておくといいでしょう。
さらに、休職者に日々の生活リズムを記す「生活記録表」を、記入してもらうよう提案するのもおすすめです。生活記録表は、休職者が生活を見直すきっかけになるほか、職場復帰を客観的に判断するひとつの材料としても有効です。
3. 主治医による職場復帰の判断
休職者の主治医が、職場復帰の可能性を判断します。ただし、主治医は日常生活レベルができるかで判断する傾向があるため、職務遂行能力という点では必ずしも復調しているとは限りません。
最近では、コロナ禍によるリモートワークだから、出社せずに仕事ができるといって、休職者が焦って復職し、すぐに再休職してしまうことがあります。主治医だけでなく、休職者の業務を把握して調整できる担当者がいる復職判定委員会、もしくは産業医や事業場内産業保健スタッフ、管理監督者が連携して復職を判断するようにしましょう。

4. 復帰の判断および職場復帰支援プランの作成
休職者の意思と主治医の診断のほか、復職判定委員会、もしくは産業医や事業場内産業保健スタッフ、管理監督者が連携して、休職者の生活記録表の状況などの情報から総合的に判断し、復帰可否を決定します。
復職が決まれば、業務内容、業務量、管理監督者や産業保健スタッフによるフォローの仕方、主治医との連携の方法などを盛り込んだ職場復帰支援プランを作成しましょう。
5. 最終的な職場復帰の決定
復帰の判断および職場復帰支援プランにもとづき、事業所が最終的な決定を下します。
なお、最終決定の前に、下記のような「試し出勤」を実施すると、休職していた従業員の不安を緩和する効果が期待できます。
<試し出勤の例>
・模擬出勤:勤務時間と同じ時間帯に図書館やカフェで作業をして過ごす
・通勤訓練:通勤と同じ経路をたどり、職場付近で過ごしてから帰宅する
・試し出勤:一定期間、本来の職場に継続的に出勤してみる
試し出勤以外にも、専門施設で職場復帰に向けたリハビリにあたるリワーク(return to work)プログラムを受けてもらうこともひとつの手です。また、リワークプログラムではなく、リモートワークから復帰させる場合、管理者の目が届かないため、主治医の意見を尊重しつつ、慎重に復職を判断する必要があります。
6. 職場復帰後のフォローアップ
休職者の職場復帰直後は業務負荷を軽減し、従業員の状態に合わせて、段階的に業務量を調整しましょう。また、メンタルヘルス不調が再発していないか管理監督者や産業医と定期的に面談を行うことや、休職者が社内で気まずくならないよう、周りの従業員の業務負荷を調整することも大切です。
ポイントを押さえた休職者ケアでトラブル回避を
コロナ禍のような非常時は、誰もが不安や恐怖などによってストレスが溜まっている上に、働き方や職場でのコミュニケーションの取り方の変化などが追い打ちをかけていることも、メンタルヘルス不調の要因となっています。こうした中、休職してしまう従業員を抱える事業所は増えており、その復職への支援は急務です。人事担当者としては、ポイントを押さえた休職制度と復帰支援の仕組みを構築し、産業保健スタッフや事業場外資源などと連携して、従業員を適切にサポートすることが復職トラブル回避につながります。
産業医やその他の産業保健スタッフ、社労士などとも連携しながら、自社の取り組みを見直しておきましょう。
<事務局より>以下より、従業員の休職・復職対応に必要な対策について解説している資料をダウンロードいただけます。ぜひご活用ください。
<監修者プロフィール>
山本 喜一
特定社会保険労務士、精神保健福祉士(ストレスチェック実施者)
【専門分野】
メンタルヘルス不調者対応、問題社員対応、労働基準監督署対応、IPO支援、評価制度
【略歴】
社会保険労務士法人日本人事代表。
東京商船大学大学院修了、工学修士。財団法人日本品質保証機構へ入構し、計測部門と法務部門を経験。退職後、社会保険労務士法人日本人事を設立する。法務部門での経験を活かし、労務に関するトラブルへの対応および各種コンサルティングを主に行っている。
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出典・参考
・厚生労働省「令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r02-46-50_kekka-gaiyo01.pdf
・厚生労働省「自立支援医療制度の概要」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jiritsu/gaiyo.html
・厚生労働省「改定 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引」
https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf
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※当記事は2021年8月に作成されたものです。