喫煙とがんリスクについて【医師監修】

なぜタバコを吸うとがんリスクが高くなるのか?
タバコには多くの化学物質が含まれており、その中には、発がん性物質と呼ばれる物質が数十種類含まれています。
また細胞の核には、遺伝情報を表す「DNA」という物質があります。細胞が分裂する際には遺伝情報を複製する必要があり、今存在するDNAを見本にして新しいDNAを合成しますが、その際に間違いが起こることがあります。
通常は間違いを見つけて修正するしくみがあるのですが、発がん性物質があることによりこの間違いが起こりやすくなったり、間違いを修正するしくみが働かなくなったり、おかしな遺伝情報を持つ細胞ができてしまったりします。その中には、無秩序に増殖する能力を持つ細胞が生まれることがあり、これががん細胞となります。
タバコ以外に発がん性を持つ物質としては、ダイオキシン、アスベスト、放射線、紫外線などがあります。
喫煙でどんながんのリスクが高くなる?
発がん性物質はあらゆる細胞に入り込むので、理論上はあらゆるがんを引き起こし得ると言えますが、特にタバコの煙に接しやすい口腔・鼻・のど・肺のがんや、唾液に溶けた発がん性物質が通る食道・胃のがん、血液中に溶けた発がん性物質が高濃度で通過する臓器(血液、腎臓、膀胱、肝臓)のがん、その他細胞増殖が旺盛な臓器(膵臓・子宮・卵巣)のがんについて、リスクを高くすると判明しています。
日本の研究では、がんで亡くなる患者さんのうち、男性で40%、女性で5%はタバコが原因と考えられています。つまりこれらの人々は、タバコを吸っていなければがんで死ぬことはなかったのです。
喫煙で肺がんリスクはどれくらい高くなる?
タバコを吸わない人に比べて、タバコを吸う人は男性では4.5倍、女性では4.2倍肺がんになりやすいと言われています。(吸いはじめてからの年数×一日に吸う本数)が1,200を超えると、非喫煙者と比べて6.4倍肺がんになりやすいとされています。
肺がんで亡くなった方のうち、男性で70%、女性で20%はタバコが原因だと考えられています。
タバコをやめればがんのリスクを軽減できる?
タバコをやめて9年以内では、非喫煙者と比べて肺がんリスクが4倍以上だったものが、3倍程度に低下します。10~19年禁煙を続ければ、非喫煙者の1.8倍程度になります。20年禁煙を続ければ、肺がんや口腔がんのリスクは、非喫煙者と同レベルになります。
軽いタバコなら害はない?
ニコチンやタールの含有量が少ない、いわゆる「軽いタバコ」は、タバコの葉を加工してニコチンやタールを減らしているわけではなく、口にくわえるフィルターを加工し、より多くの空気と煙を混ぜることで、口に入る煙のニコチン・タールを減らす構造になっています。こういったタバコによって葉の燃え方が変化し、より多くの発がん性物質が発生したり、煙を肺の奥底まで吸い込みやすくなったりすることで、肺腺がんのリスクがかえって高くなるという報告があります。
タバコはご自身の健康を害するだけでなく、周りの方にとってもリスクになります。喫煙年数が長い方、1日の喫煙本数が多い方、喫煙開始年齢が若い方ほど、がんのリスクが高くなると言われています。ぜひ今日から禁煙を始めてみましょう。
<参考>
・国立がん研究センター「喫煙とがん」
http://ganjoho.jp/public/pre_scr/cause/smoking.html
・国立がん研究センター 予防研究グループ 多目的コホート研究「たばこと肺がんとの関係について」
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/254.html
※当記事の内容は、弊社運営のWebサイト『禁煙の教科書』に2017年10月26日に掲載された当時のものです。