喫煙とCOPDについて【医師監修】

COPDとはどんな病気か
COPDとはChronic Obstructive Pulmonary Diseaseの略で 、慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)という病気のことです。
「閉塞性」とは、吸い込んだ空気をスムーズに吐き出せない状態です。健康診断で行われる「息を思いっきり吸い込んで勢いよく吐く」という検査(スパイロメトリー、呼吸機能検査)をすると、通常であれば吸った空気の70%以上を一秒間で吐き出すことができるのですが、COPDでは肺胞という小さな袋の壁が壊されて伸び切ったゴムのようになってしまったり、空気の出口が狭く硬くなったりして、吐く息の勢いがなくなります。
他にこのような閉塞性障害を示す病気には「喘息(ぜんそく)」があります。
喘息では、吐く息の出口に当たる気管支が狭くなるために勢いよく息を吐けなくなっています。
COPDをさらに細かく分けると、肺気腫・慢性気管支炎といった病気が含まれます。
肺気腫とは、体を動かしたときの息切れや息苦しさ、咳や痰が起こる病気です。肺は肺胞という小さい部屋がたくさん集まったような構造をしており、そのために多くの細胞が同時に空気に触れられるようになっているのですが、この肺胞の壁が炎症によって壊されてしまい、空気に接することができる面積が減ってしまいます。また伸び切った風船のように肺の弾力がなくなるため、うまく縮むことが難しくなり、息を吐ききることができず、したがって新しい空気を吸い込むことも難しくなります。
慢性気管支炎とは、咳と痰が一年のうち3か月以上、ほぼ毎日続く状態が、2年以上続いていて、他の病気(肺がんや結核など)ではないと分かっている場合に診断されます。空気の通り道の壁に炎症が起き、粘液がたくさん分泌される状態です。進行すると気道の壁が狭く硬くなり、「閉塞性」の状態になり、息苦しさが出てきます。
厚生労働省の平成26年患者調査によると、日本のCOPD総患者数は約26万人、そのうち三分の二は男性とされています。しかしこれは氷山の一角であり、診断や治療を受けていない患者が500万人以上いると推測されています。また厚生労働省の平成27年人口動態統計によると、年間15,000人がCOPDのために命を落としています。
最大の原因は喫煙?
COPDは高齢の男性に多く、また肺気腫はほぼ100%が喫煙者です。
喫煙をするとマクロファージや好中球といった免疫系の細胞が肺に集まり、タンパク質を壊す物質をばらまき始めます。すると肺胞の壁が壊され、酸素を血液中に取り込めなくなり、呼吸困難感(息苦しさ)が生じます。これが肺気腫の大きな原因となっています。
慢性気管支炎も、喫煙が原因となります。喫煙により、痰を外に送り出すための線毛という構造がうまく働かなくなります。すると痰がたまり、咳が何か月も出るようになるのです。
壊れた肺は元には戻らない?
一旦破壊された肺胞は元に戻りません。特効薬的な薬はなく、これ以上悪化させないことと、息苦しくなったら酸素を吸う(在宅酸素療法)ということになります(ただし、在宅酸素療法をしている人が全員COPDであるということではありません)。
また感染症にかかるとそれが治りにくく、重症化すると肺炎を起こしやすくなり、命を落とすこともあります。
COPDの病状が進むと、息苦しさはひどくなり、食事をするのも息切れして大変という状態になります。患者は息切れで窒息するのではないかとの恐怖感が強く、浅く早いパニック呼吸になり、さらに息苦しくなるという悪循環になります。
COPDにより肺が酸素を取り込む機能が落ちて、血液中の酸素が減ると、肺の血管は縮みがちになり、肺に血液を送り込んでいる心臓にも負担がかかります。こういった状態を肺高血圧症・肺性心と呼び、治すのが難しい状態です。
診断と治療方法は?
肺が膨れ上がり、痰が溜まっている様子をレントゲンで観察します。血液検査では特有の所見は見られません。
COPDの治療法は対症療法でしかなく、一旦壊れた肺は元に戻りません。
治療としては、気道を広げて呼吸をしやすくし、痰を取る吸入薬や内服薬が使用されます。また、残された呼吸機能を活用し、活動レベルを保つために、呼吸リハビリテーションが行われます。呼吸訓練の一つに、頬を膨らませて空気をため、口をすぼめて息を吐くというものがあります。
このようにすることで空気の出口の圧を保ち、肺胞が急につぶれないようにすることで吐き出しやすくする効果があります。COPDの患者は無意識のうちにこの「口すぼめ呼吸」をしていることがあり、頬をふくらませて口をすぼめる様子から、英語ではCOPD患者のことを「puffer(フグ)」と呼んだりします。COPD患者は息苦しさから運動量や食事量が減り、四肢や呼吸を助ける筋肉が痩せていき、より心肺機能が低下するという悪循環に陥りますので、筋力を落とさないトレーニングを行う必要もあります。
インフルエンザや肺炎球菌の予防接種をすることで、感染症を防ぐことも重要です。
COPDはがんほどのインパクトはありませんが、呼吸をしても肺が酸素を取りこめなくなり、じわじわと呼吸困難に苦しめられ、死に近づいていく苦しい病気です。喫煙(受動喫煙を含む)はCOPDの最大の原因と言われており、予防にも治療にも禁煙は必須です。
<参考>
・厚生労働省 平成26年患者調査
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/14/dl/05.pdf
・厚生労働省 平成27年人口動態統計
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei15/dl/11_h7.pdf
・厚生労働省「今後の慢性閉塞性肺疾患(COPD)の予防・早期発見のあり方について(報告書)」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000z99y-att/2r9852000000z9bf.pdf
※当記事の内容は、弊社運営のWebサイト『禁煙の教科書』に2017年10月26日に掲載された当時のものです。