健康経営
喫煙対策 2019/03/26

Dr.まゆみの喫煙対策室-企業で進めるタバコ対策- タバコの煙が漏れ出る喫煙室を放置せず、従業員の健康を支えよう!

喫煙対策を進めたいけれど、なかなかスムーズに進まない…。そんな悩みを抱えている企業のご担当者の方も多いのではないでしょうか。企業の喫煙対策について、日本初の「禁煙外来」を開設し、禁煙外来や禁煙教室、Webプログラム等を通して2万人以上を禁煙成功に導いた阿部眞弓先生にご執筆いただきました。
今回は、阿部先生がある企業の産業医を担当されていた時に、喫煙室外に漏れるタバコの煙に注目し、喫煙者の方にも納得してもらった上で、全面禁煙に成功したケースをご紹介します。

企業でタバコ対策を進めるとき、喫煙者が納得してくれない、と悩む担当者の方もいらっしゃることでしょう。
今回は、喫煙対策を順調に進めることができた、ある会社をご紹介します。
この会社の社長さんは禁煙推進に理解を示していましたが、本社ビルでは喫煙する社員に気を遣い、なかなか喫煙対策が実行できずにいました。また、本社はビルのテナントだったので、喫煙所は自社があるフロア内に設けていました。
私が産業医になったとき、職場巡視で受動喫煙についての課題を指摘しました。事務室は、勤務時間帯は常時、複数の女性従業員がパソコンに向かって仕事をしていました。喫煙室と事務室は、距離にして数メートルの廊下で隔てられ、喫煙室はドアが閉まっています。しかし、事務室に入った途端、タバコ臭が感じられ、特に入り口近辺には強いタバコ臭が漂っていました。従業員に聞き取りをすると、喫煙室に人が集まりやすいランチ後などの時間帯は、事務室にタバコの煙が流れ込み、のどが痛くなったり、鼻づまりがおきることもあるとのこと。また、営業職は時間に関わりなく、営業から戻るたびに一服するので、臭くなる時間が読めない、という状況。さらに、もともとは頭痛がなかったのに、この事務室に配置された途端、頭痛持ちになってしまったという女性もいました。いずれにせよ、受動喫煙曝露による影響が強く疑われる事態です。

どのように喫煙対策を進めたか

私は、この喫煙室外に漏れ出ているタバコ臭に着目し、改善指示を出しました。もともとこの会社では、衛生委員会がしっかり機能しており、時期的に受動喫煙対策を推進しなければならない、と考えていたようでした。担当者は早速、漏れ出ない喫煙室(または喫煙室廃止)を目指して動き出しました。
喫煙者は「吸う権利があるはずだよね」と、職場の禁煙化に同意しないことが多いものです。というのも、喫煙者はニコチン依存のため、小一時間もするとニコチン切れに陥ります。このとき、血液中のニコチン濃度は極端に下がっており、「吸いたい」と強く感じます。急ぎニコチン濃度を上げないと、怒りっぽくなったり、イライラしたり、仕事に集中できなくなるなどの不快な状態が続きます。そこで喫煙者は、何とかしてニコチンを補給しようとします。このタイミングでタバコを吸うと、一気に血液中のニコチン濃度が上昇するので、禁断症状がなくなり楽になります。そして、喫煙者は一定の時間ごとにニコチン補給のための喫煙を行い、定期的に吸い続け、常時、喫煙に頼ってしまうようになってしまうのです。

法律により受動喫煙の防止は義務づけられている

会社は、従業員を受動喫煙から守る義務を負っています。
平成27年6月1日施行の改正労働安全衛生法(安衛法)の受動喫煙防止対策の規定によると、「事業者は労働者の受動喫煙を防止するため、当該事業者および事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるように努める」ことが求められています。なお、「受動喫煙」とは、「室内またはこれに準ずる環境において、他人のタバコの煙を吸わされることをいう」と定義されています。企業は、従業員を汚染環境で作業をさせることはあってはならないことであり、法律でも、職域での受動喫煙の防止が義務付けられたのです。まず、この会社は、法律により受動喫煙を講じる必要があることを、社内報などで広く周知することから始めました。

さまざまな観点から検討した結果、全面禁煙に成功

さらに、喫煙者が納得できるように、喫煙室からのタバコの煙の漏れを測定したり、換気を強力にした際、設備投資にいくらかかるのか見積もりを取るなど、さまざまな観点から、喫煙室を継続するための方法も検討したのです。その結果、いずれの方法でも費用が掛かりすぎ、その上、タバコの煙の漏洩を防げないということが判明し、とうとう全面禁煙にすることができました。
今は、喫煙者が外部で吸ったときにも、3次喫煙を防ぐために、2分間以上は外で深呼吸をしてから建物に入る、などが周知され、会社内にタバコの煙を持ち込まない努力もなされています。その後この会社は、事務室で勤務するかたの体調も回復し、あわせて喫煙者数もだいぶ減ったとのことです。
従業員が作業環境で受動喫煙を受け、体調を崩すような事態にならないように、法律も後押ししてくれています。今こそ、会社は職場の禁煙を推進し、すべての従業員が安全な作業環境で仕事に従事できるように、しっかり対応していかねばならないのです。

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プロフィール:
阿部眞弓(あべ・まゆみ)
東京北医療センター
健康管理センター長代理・禁煙外来

東北大学医学部卒業後、東京女子医科大学呼吸器内科勤務。1994年、東京女子医科大学病院に日本初の「禁煙外来」を開設。日本の禁煙指導の草分け的存在。2019年3月まで、東京女子医科大学病院にて「禁煙外来」を担当。『卒煙ネット』『禁煙Webクリニック』などのWeb禁煙プログラム、任天堂DSソフト『もしも!?禁煙するなら・・・』『らくらく禁煙アプリWii』などを監修。著書に「女の子のための禁煙BOOK」「『禁煙』科の医者が書いた7日でやめる本」「99%禁煙できる本」、漫画家伊藤 三巳華氏との共著「禁煙はじめました」など。 日本内科学会認定医・日本人間ドック学会認定医、日本呼吸器学会認定専門医・指導医。 NPO法人禁煙ネット理事長。専門領域:禁煙指導、予防医学、内科学。
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※当記事の内容は、弊社運営のWebサイト『禁煙の教科書』に2019年3月26日に掲載された当時のものです。