自社の喫煙対策は十分?加熱式タバコはOK?誤解しがちな喫煙対策の真実
「喫煙室を設置すれば受動喫煙や三次喫煙対策は十分なの?」「加熱式タバコについてはどう対応すべきか?」「自社の喫煙環境はどのレベルか?」など、喫煙対策を推進する担当者が意外に知らないことや誤解しやすいポイントについて産業医科大学の大和 浩先生にお答えいただきました。
質問1:換気設備を設けた喫煙室であれば受動喫煙・三次喫煙は防げますか?
回答
喫煙室や空気清浄機では、受動喫煙・三次喫煙による被害は完全には防げません。
解説
世界保健機関(WHO)は、「空気清浄機や喫煙室などの設備機器の対策では受動喫煙を防止できない」「100%屋内を禁煙化する以外に手段はない」と結論付けています。
私達の調査でも、喫煙室からタバコの煙が漏れる原因は以下の3つであることが証明されています。
① ドアの押し開きによって煙が押し出される。
② 退出する喫煙者の後ろに出来る空気の渦により煙が持ち出される。
③ 肺内に残っている煙が禁煙の場所で吐き出される。
受動喫煙を防止するためには、屋内に喫煙室を設けない屋内全面禁煙が必要です。
喫煙室利用者の受動喫煙について
また、喫煙室の中は非常に劣悪な環境であることが多く、私達の調査では微小粒子状物質(PM2.5)濃度が1立方メートルあたり3,000マイクログラムを超えていた場合もありました。喫煙者自身にとっても、自分と他人の煙をもう一度吸わされる環境の悪い喫煙室を使用するよりも、屋外の開放空間の方がまだマシです。
ちなみに、空気清浄機を使用しても効果はありません。とある喫煙室の空気清浄機を粉じん計で測定したところ、フィルターを交換した翌日でも3割、11日目には7割、14週間後には9割も粉じんが漏れており、集じん効果は急速に低下していました。また、ガス状物質はフィルターを素通りしますから、中の空気をかきまわしているだけでした。
三次喫煙について
喫煙室を使用することは「三次喫煙」という新たな問題の原因になります。閉鎖空間で喫煙すると、洋服や毛髪に大量のタバコの粒子(ヤニ)が付着します。付着したヤニから発がん性物質を含むガス状成分、タバコ臭が発生する現象が「三次喫煙」です。気管支喘息(ぜんそく)や化学物質過敏症の患者さんでは発作を誘発し、健常な人にとっても不愉快なにおいですから快適な職場づくりの妨げとなります。ちなみに、口腔粘膜に付着するヤニによる三次喫煙(タバコ臭い口臭)も問題となりますので、勤務の合間の喫煙を禁止するだけでなく、勤務日は朝から吸わずに出勤する対策も必要です。
受動喫煙を防止するためには屋内完全禁煙が必要です。また、屋内全面禁煙は衣服や毛髪に付着したヤニが原因となる三次喫煙の軽減にも役立ちます。
屋内全面禁煙にした場合は、屋外喫煙場所は出入り口から極力遠ざけるなどの措置が必要です。屋外であっても喫煙コーナーの風下25メートルでは受動喫煙の曝露が発生しますので、最近は敷地内禁煙、かつ、勤務時間中の喫煙禁止を実施する事業場が増えてきました。吸いにくい環境にすることは喫煙者への禁煙のきっかけ作りにつながります。
質問2:加熱式タバコを使用すれば受動喫煙が防げますか?
回答
加熱式タバコには受動喫煙・三次喫煙の被害がないとはいえません。
少なくとも、加熱式タバコが室内空気を汚染することは間違いありません。
解説
ヒトは1回の呼吸で約500mlの空気を吸い込みます。ヒトの呼吸器には、解剖学的死腔(口腔~気管・気管支の約150ml)と呼ばれ、呼吸に関与しない約150mlの空間が存在します。解剖学的死腔までしか吸い込まれなかった吸気は、次に息を吐くときにそのまま呼出されます。
厚生労働省が2018年1月30日に発表した資料では、加熱式タバコにはニコチン以外に発がん性のあるアルデヒド類が含まれていることが示されています。つまり、屋内で加熱式タバコを使用するとニコチンや発がん性物質等によって空気が汚染される、つまり、受動喫煙に相当する二次曝露が発生するのです。特に、タバコの葉を200~300℃に加熱する製品である製品Aと製品Bを使用すると、タバコ特有の臭いが屋内に拡がることからも分かります。アルコール系の有機溶剤を40~50℃で霧化した後にタバコの粉末を通過させる製品Cは、においは軽いですが解剖学的死腔までしか吸引されなかった物質が呼気に吐き出される現象は同じです。しかし、においが軽い、ということは有害物質に曝露されていることに気がつかないので、逆に危険であることを意味します。
加熱式タバコの屋内での使用は一切禁止すべきです。
質問3:職場の受動喫煙対策の環境がどこまでできているかはどのようにチェックすれば良いでしょうか。チェックリストがあれば教えてください。
回答
健康経営度調査の受動喫煙に関する項目を参考にして下さい。
(※経済産業省 平成29年度 健康経営度調査より抜粋)
解説
健康経営度調査による健康経営優良法人2018(大規模法人部門)および健康経営銘柄の認定基準(2017年8月30日)として、対策が良好な順番に公開されています。
① 敷地内禁煙
② 建物内禁煙
③ 喫煙室
④ 喫煙コーナー
⑤ 制限なし
質問1でも解説したように喫煙室では漏れが防止できませんので、最低限でも屋内禁煙が必要です。屋外であっても風下25メートルで粉じん計で感知できるレベルの受動喫煙が発生することも分かっています。受動喫煙を完全に防止するためには敷地内禁煙以外にありません。④以下は論外です。
受動喫煙の完全防止、そして、健康経営優良法人として認定されるためにも、評価が最も高い敷地内禁煙を目指しましょう。
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産業医科大学 産業生態科学研究所 健康開発科学研究室 教授
大和 浩(やまと ひろし)先生
1960年4月生まれ、3男2女
資格:医学博士、労働衛生コンサルタント、日本産業衛生学会認定指導医
趣味:喫煙対策、運動、ヨット
<職務経歴>
昭和61年、産業医大卒。
呼吸器内科(6年間)を経て、労働衛生工学研究室にてアスベスト代替繊維の生体影響、効果的で安価な作業環境改善(解剖学実習室のホルムアルデヒド対策等)、職域の喫煙対策、社会全体の受動喫煙対策(医歯学部と大学病院の敷地内禁煙、地方自治体の建物内禁煙、JRの特急や新幹線、タクシーの禁煙化、サービス産業従業員の受動喫煙)の調査と評価について研究。
平成18年より現職。多忙な勤労者が運動習慣を獲得・維持できる職場環境の整備と指導方法の改善、その効果について研究。
現在、喫煙者の健康のために、喫煙しにくい環境づくり=建物内・敷地内禁煙+就業時間中の喫煙禁止を広めるべく、全国の自治体と企業に情報を提供中。
喫煙対策HP:http://www.tobacco-control.jp/
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※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
※当記事の内容は、弊社運営のWebサイト『禁煙の教科書』に2018年4月17日に掲載された当時のものです。