受動喫煙対策を採用に明示することが義務化!背景は?具体的な対策は?

2018年に成立した改正健康増進法の施行に合わせ、厚生労働省は職業安定法施行規則の一部を改正し、受動喫煙対策について、募集や求人申込みの際に明示する義務を課すことを定めています。
今回の法改正のポイントは?人事担当者には具体的にどのような対策が求められるのか? 岡本総合法律事務所の岡本光樹弁護士に伺いました。
【質問】今回の職業安定法施行規則改正の背景やポイントを教えてください。
厚生労働省は、2019年5月10日に職業安定法施行規則を改正し、同規則第4条の2第3項九号に「就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項」が追加されました。
これにより、従業員の募集を行う者は、どのような受動喫煙対策を講じているかについて、募集や求人申込みの際に明示する義務が課されることとなります。その施行日は、2020年4月1日からです。
2018年7月に健康増進法の改正が成立しましたが、その審議時から、今回の措置が予定されていました。改正健康増進法の全面施行日も2020年4月1日からですので、施行日は同じとなっています。
なお、今回の改正は、職業安定法第5条の3の労働条件等明示についてであり、従業員の募集や求人申込みの際に明示すべき事項についてです。
労働条件の明示には、労働基準法第15条及び同法施行規則第5条に規定される労働契約の締結の際のものもありますが、今回、そちらは改正となっていません。従業員になろうとする者等を保護する法の趣旨からすれば、企業としては、労働契約の締結の際にも、就業の場所における受動喫煙防止措置を明示することが望ましいでしょう。
【質問】具体的にどのような対策が求められるのでしょうか。
労働政策審議会の資料に、「職業安定法上の労働条件明示例」が示されています。
たとえば、官庁・学校・病院等の第一種施設で屋外喫煙場所を設置した場合には「敷地内禁煙(喫煙場所あり)」、事業所・飲食店等の第二種施設で喫煙専用室を設置した場合には「屋内原則禁煙(喫煙室あり)」、既存特定飲食提供施設やタバコ販売店等で特に受動喫煙防止措置を講じていない場合には「屋内喫煙可」、第二種施設であるホテル・旅館で宿泊室内等を適用除外とした場合には、「屋内原則禁煙(喫煙可の宿泊室あり)」という記載例を示しています。
こうした記載例も参考としつつ、従業員になろうとする者のために、事業者はさらに具体的に就業場所の受動喫煙に関する情報を提示することが望ましいといえます。
労働者を受動喫煙から保護する観点からは、事業者は就業場所をできるだけ敷地内禁煙とすることが望ましく、そうできない場合には、労働者に不測の事態を生じさせたり、トラブルを招来したりしないように、受動喫煙を生じるおそれに関して具体的な情報を事前に明示すべきです。
まとめ
受動喫煙対策は労働者にとっても大きな関心事です。
今回の改正を機に、改めて社内の喫煙環境や受動喫煙対策を見直して明示することは、優秀な人材獲得につながるでしょう。
《参考》
・厚生労働省「2019年3月27日 第139回労働政策審議会職業安定分科会資料」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04207.html
・厚生労働省「健康増進法の一部を改正する法律(2018.7.25公布)審議時資料 資料No.3-2 従業員に対する受動喫煙対策について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000494163.pdf
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岡本総合法律事務所
弁護士 岡本 光樹(おかもと・こうき)先生

2005年東京大学法学部卒業、2006年に弁護士登録。
森・濱田松本法律事務所にて、ファイナンス、M&A、一般企業法務、労働事件等に取り組んだ後、2008年に小笠原国際総合法律事務所に移籍。倒産案件・企業再生案件、会社法訴訟案件、労働法務・労使紛争(使用者側・労働者側いずれも受任。裁判・仮処分・労働審判・あっせん)、労災行政訴訟事件等を多数担当。
2011年9月に岡本総合法律事務所を開業。上場会社の社外監査役、中小企業の顧問等務めつつ、個人の法律相談や訴訟も受任。
2017年7月に東京都議会議員に就任。
公益活動として第二東京弁護士会 人権擁護委員会 副委員長、及び、同委員会 受動喫煙防止部会 部会長を務める。
日本禁煙学会理事。
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※当記事の内容は、弊社運営のWebサイト『禁煙の教科書』に2019年11月11日に掲載された当時のものです。